紀貫之の和歌。貫之集9
紀貫之家集
已下據『歌仙歌集三』刊行年出版社校訂者等不明。
解題云如已下自撰の集ありしこと後拾遺集大鏡などにみえたれど今のは少なくとももとのまゝにはあらざるべし
貫之集第九
屏風の繪なるはなをよめる
さきそめしときよりのちはうちはへてよははるなれやいろのつねなる[古今]
よるのくもをさまりて月ゆくことおそしといふことをあるひとのよませたまふに
あまくものたなひけりとも見えぬよはゆくつきかけそのとけかりける
おふしかうちのみつねかつきあかきよるきたるによめる
かつみれとうとくもある哉つきかけのいたらぬさとも[はイ]あらしと思へは[古今]
いつみの國にあるあひたふちはらのたゝふさのあそんのやまとよりこえきておくれる
きみをおもひおきつの濱になくたつのたつねくれはそありとたにきく[古今]
とあるかへし
おきつ波たかしのはまのはまゝつのなにこそきみをまちわたりつれ[古今]
なにはにてよめる
なにはかたおふるたまもをかりそめのあまとそわれはなりぬへらなる[古今]
いきに見ゆるつきをよめる
ふたつなきものと思ふを[ひしイ]みなそこに山のはならていつるつきかけ[古今]
みをなけきてよめる
はるやいにし[いぬるイ]あきやはくらんおほつかなかけのくち木の[とイ]よをすくすみは[新勅撰]
かうふりたまはりてかゝのすけになりてみのゝすけにうつらんとまうすあひたにうちのおほせにてうたよませたまふにかきてたてまつる
ふるゆきやはなとさきてはたのめけんなとかわかみのなりかてにする
こしのかたなるひとにやる
おもひやるこしのしらやましらねともひとよもゆめにこえぬよそなき[古今]
あめふれはきたに[へイ]たなひくあまくもをきみによそへてなかめつるかな
しかのやまこえてやまの井にをんなの手あらひてみつをむすひてのむをみてよみてやれる
むすふてのしつくににこるやまのゐのあかてもきみ[ひとイ]にわかれぬる哉[古今]
すさく院のみかとの御ときやはたのみやにかものまつりのやうにまつりしたまはんとさためらるゝにたてまつる
松もおひてまたこけむすにいはしみつゆくすゑとほくつかへまつらん
いはしみつまつかけたかくかけみえてたゆへくもあらすよろつよまてに
くら人みなもとのさねたゝかもとにいひやる
千よとおもふきみかたよりにけふまちてつまむとおもひしわかなをそつむ
はなのちる木のもとにきてかへりなんとて
われはきていへへとゆくをちるはなはさきしえたにもかへらさりけり
みなもとのきんたゝのへんにひゝにたいめしけるにいかなる日にかありけんたいめせさりける時よみてたてまつる
たまほこのとほみちをこそひとはゆけなとかいまのまみぬはこひしき
九月九日たゝみねかもとより
をるきくのしつくをおほみわかゆといふ[てふイ]ぬれきぬをこそおいの身にきれ
とよみておくれたるかへし
つゆしけき[ふかきイ]きくをしをれるこゝろあらは千よのなきなの[はイ]たゝんとそ思ふ
ちくふしまにまうつるにもるやまといふ所にて
しらつゆもしくれもいたくもるやまはした葉のこらすもみちしにけり[古今]
むかしはせにまうつとてやとりしたりしひとのひさしうちよらていきたりけれはまさかになんひとのいへはありしといひいたしたりしかはそこなりし梅のはなををりているとて
ひとはいさこゝろもしらすふる里のはなそむかしのかににほひける[古今]
かへし
はなたにもおなしこゝろにさくものをうゑたるひとのこゝろしらなん
秋のたつひ殿上のぬしたちかはせうようしにいきて哥よむついてによめりし
かはかせのすゝしくもあるかうちよする波とともにや秋はたつらん[古今]
むかしひとのいへにさけのみあひけるに櫻のちるさかりにて人ゝはなをたいにしてうたよみしついてに
ちるうへにちりもまよふか櫻花かくしてそこその春もくれにし
はるうたあはせさせたまふにうたひとつたてまつれとおほせられしに
さくらちる木のしたかせはさむからてそらにしられぬゆきそふりける
延喜御時やまとうたしれるひとをめしてむかしいまのうたたてまつらせたまふよのふくるまてとかういふほとに仁壽殿のさくらの木にほとゝきすのなくをきこしめして四月六日のよなりけれはめつらしかりををかしからせたまひてめしいてゝよませたまふにたてまつる
こと夏はいかゝなきけんほとゝきすこよひはかりはあらしとそきく
おきかせかうたのかへし
さくらにはこゝろのみこそくるしけれあきてくらせるはるしなけれは
おきかせかもとにかきつはたにつけてやれる
きみかやとわかやとわけるかきつはたうつろはぬときみんひともかな
かへし
むつましみひと日[かこひイ]へたてぬかきつはたたかためにかはうつろひぬへき
とあるかへしまた
たゝちにてきみかこひ[えイ]けんかきつはたこゝ[かせイ]をほかにてうつろひぬへし
ありはらのもとかたかもとにおくれる
しらくものたなひきわたるくらはしのやまのまつともきみはしらすや
たゝみねかもとにおくれる
かひかねのまつにとしふるきみゆゑにわれはなけきとなりぬへらなり
みなもとのむねゆきのあそんのもとより
きみひとりとはぬからにやわかやとのみちもつゆけくなりぬへらなり
とあるかへしに
くさのつゆおきしもあへしあさなけにこゝろかよはぬときしなけれは
みつねか
まことなきものとおもひせはいつはりのなみたはかねておとささらまし
とあるかへし
をしからぬいのちなりせはよのなかのひとのいつはりになりもしなまし
きのくにゝくたりてかへりのほるみちにてにはかに馬のしぬへくわつらふところにみちゆく人ゝたちとまりて云ふやうこれはこゝにゐますかる神のしたまふならんとしころやしろもなくしるしもみえぬとうたてあるかみなりさきさきかうやうにわつらふ人ゝあるところなりいのりまうしたまへといふにみてくらもなけれはなにわさすへくもあらすたゝ手をかきあらひてひさまつきてかみゐますかりけもなきやまにむかひてそもそもなにのかみとかいふといへはありとほしのかみとなんまうすといひけれはこれをきゝてよみてたてまつるうたなりそのけにやうまのこゝちもやみにけり
かきくもりあやめもしらぬおほそらにありとほしをはおもふへしやは
なにはのたみのゝしまにてあめにあひて
あめによりたみのゝしまをきてみれはなにはかくれぬわかみなりけり[ものにそありけるイ][古今]
みなもとのとしのふのあそんのよひにおこせたるにいままうてこむとておそくいきにけれは
はる日すらわかまつひとのこんとたにいはすはあすも猶たのまゝし
とあるかへし
こしとおもふこゝろはなきをさくらはなちるとまかふにさはるなりけり
たなはたつとめてみつねかもとにてよめる
きみにあはてひとひふつかになりぬれはけさひこほしのこゝちこそすれ
とあるかへし
あひみすてひとひもきみにならはねはたなはたよりもわれそまされる[拾遺]
あくるとしの七月みつねかもとにおくれる
あさとあけてなかめやすらんたなはたのあかぬわかれのそらをこひつゝ
しはすのつもこりかたみをうらみてよめる
しもかれにみえこしうめはさきにけりはるにわかみはあはんとはすや[拾遺]
ぬはたまのわかくろかみにとしくれてかゝみのかけにふれるしらゆき[拾遺]
たかさこのみねのまつとやよのなかをまもるひとゝやわれはなりなん
けふみれはかゝみにゆきそふりにけるおいのしるへはふゆにさりける
京極のさいさうの中將のみもとに老ぬるよしをなけきてよみてたてまつれる
ふりそめてともまつゆきはぬは玉のわかくろかみのかはるなりけり[後撰]
かへし
くろかみのいろふりかはるしらゆきのまちいつるともはうとくそありける[後撰]
又かへし
くろかみとゆきとのなかのうきみれはともかゝみをもつらしとそ思ふ[後撰]
いろみえてゆきつもりぬるみのはてやつひにけぬへきやまひなるらん
おなし中將のもとにいたりてかれこれまつのもとにおりゐてさけなとのむついてに
かけにとてたちかくるれはから衣ぬれぬあめふるまつの聲哉[重出]
あるところにはるとあきといつれかまされるととはせたまひけるによみてたてまつりける
はるあきにおもひみたれてわきかねつときにつけつゝうつるこゝろは[拾遺]
みつねかもとより
くさも木もふけはかれぬるあきかせにさきのみまさるものおもひのはな
かへし
ことしけきこゝろよりさくものおもひの花のえたをはつらつゑにつく
はなををりてこれかれさすついてに
かさせとも花さくとやはたのまるゝ身のなりいつへき時しなけれは
承平五年十二月左衞門のかみとのゝをとこをんなたちのかうふりしもきたまふよとの
今まてにむかしのひとのあらませはもろともにこそゑみてみましか
とてたまへる御かへし
いにし[むかし]へをこふるこゝろのあるかうへにきみをけふみてまたそこひしき
三月つこもりのひいへうつりするに
我宿をはるのともにしわかるれははなは[もイ]したひてうつろひにけり
むねゆきの左[右イ]京大夫のもとよりひさしくあはぬことをいひて
よそにても思ふこゝろはかはらねとあひみぬときは戀しかりけり
とあるかへし
さくらちり卯のはなもまた[みなイ]さきぬれはこゝろさしにははるなつもなし
つかさならてなけくあひたに正月のころほひ坊城の左衞門のかみのもとに大とのによきさまにまうしたまへとまうしたてまつりたまへとてたてまつる
あさ日さすかたのやまかせいまたにもてのうら[ちイ]さむみこほりとかなん
かれはてぬうもれ木あるをはるはなほはなのゆかり[たよりイ]によくなとそ思ふ
かへし
うもれきのさかてすきにしえたにしもふりつむゆきをはなとこそみれ
あら玉のとしよりさきにふくかせははるともいはすこほりときけり
のふもと[ひろイ]かもとより
よのなかにたれかなたかきたらちをと我とかなかをひとはしらなん
かへし
われはいさ君かなのみそしらくものかゝるやまにもおとらさりけり
またかへし
やまにこそおとらさるらめきみかなはあまのかはまてなかれいにしを
よのなかなけきてありきもせすしてあるあひたに三月つこもりのひまさたゝのあそんのもとより
君こ[みイ]すてとしはくれけり[にきイ]たちかへりはるさへけふになりにける哉[後撰]
ともにこそ花をもみん[めイ]とまつひとのこぬものゆゑにをしきはるかな[後撰]
とあるかへし
きみにたにゆかてへぬれはふちのはなたそかれときもしらすそありける[後撰]
やへむくらこゝろのうちにふかけれは花みにゆかんいてたちもせす[後撰]
四月におなしひとのもとにやる
あはぬまにうめもさくらもすきぬる[にしイ]を卯のはなをさへやりつへきかな
かへし
ちりかはるはなこそすきめほとゝきすいまは來なかんこゑをたにきけ
みなもとのみやこかとしころとかきとなりにすみけるをほかへうつるときゝてやれる
あきはきのちるたにをしくあかなくにきみかうつろふきくそわひ[かなイ]しき
しきふのせうみむねのもとなつかにしなるとなりにすみはしめてかくちかとなりなることなといひおこせたるついてによみておくれる
梅の花にほひのちかくみえつるははるのとなりのちかきなりけり[拾遺]
とあるかへし
かたのみそはるにはありけるすむひとははなしさかねはなそやかひなし
うめもみなはるちかしとてさくものをまつときもなきわれやなになる[りイ]
おなしもとなつかもとより
こち風にこほりとけなはうくひすのたかきにうつるこゑえおつけなん
といへるかへし
いてつたふはなにもあらぬうくひすはたににのみこそなきわたりけれ
ちかとなりなるをとて正月三日もとなつかもとにいたりたるになかりけれはかくなんまうてきたるといひおきてかへりにたるつとめておくれる
とはゝとひとはすはさてもあるへきをものゝはしめにかへるへしやは
とあるかへしに
こゝろをしきみにとゝめてとしふれはかへるわかみはものならなくに
もつなつかほかにねてあかつきにかへりてかとたゝくをきゝて
よかれしていつくからくるほとゝきすまたあけぬより聲のしつらん
三條の内侍のかたゝかへにわたりてつとめてかへるあひたにものなといふについてむすふてのしつくににこるといふ哥はかりはいまさらにえよみたまはしなといひて車にのるほとによめる
いへなからわかるゝときはやまのゐのにこりしよりもわひしかりけり
六月にこのはのもみちたるをとりてうたよみてまさたゝのまさたゝのあそんのもとよりおくれる
あきこそあれなつの野へなるこのはにはつゆのこゝろのあさくもあるかな
とあるかへし
なつなかにあきをしらする[まちけるイ]紅葉ゝはいろはかりこそかはらさりけれ
あつよしの式部卿のむすめいせのこのはらにあるをすむところちかくありけるにをりてかめにさしたる花をおくるとてよめる
久しかれあたにちるなとさくらはなかめにさせれとうつろひにけり[拾遺]
かへし
千よふへきかめなるはなはさしなからとまらぬことはつねにやはあらぬ[拾遺]
おなしところにちひさきくるみのきのありけるをきゝてこひてほるとてよめる
うくひすにはなしられけはみえねともあき[春イ]くるみちのものにさりける
かへし
靑柳のいともくるみのいかなれは花よりことにおとらさりけり
ちかとなりなるところにかたかたかへにあるをんなのわたれるときゝてあるほとにことにふれて見きくにうたよむへきひとなりときゝてこれかよむさまいかてこゝろみんとおもへといとむこゝろにしあらねはふかくもいはぬにかれもおゝろみんとやおもひけんはきの葉もみちたるにつけておこせたりあはせて十首をんな
秋萩のした葉につけてめにちかくよそなるひとのこゝろをそみる[拾遺]
かへし
よのなかのひとのこゝろをそめしかはくさ葉のつゆ[いろイ]も見えしとそ思ふ[拾遺]
をんな
したはにはさらにうつらてひたすらにちりぬるはなとなりやしぬらん
かへし
ちりもせすうつろひもせすひとをおもふこゝろのうちにはなしさかねは
をんな
花ならてうつろふものはしかすかにあたなるひとのこゝろなりけり[とそきくイ]
かへし
あたなりとなたてる[つくるイ]ひとのことの葉ににほはぬはなもわれはさく哉
をんな
いろも馨もなくてさけはやはるあきもなくて[みえてイ]こゝろのちりかはるらん
かへし
はるあきはすくすものからこゝろにははなももみちもなくこそありけれ
をんな
はるあきにあへとにほひもなきものはみやまかくれのくちきなりけり
かへし
おくやまのうもれ木に身をなすことはいろにもいてぬ戀のためなり
ひさしうすみけるいへをすましとてほかへうつるにまへにおひたる松竹をみて
まつもみなたけをもこゝにとゝめおきてわかれていつるこゝろしらなん
きのふけふみへきかきりとまもりつゝ松とたけとをいまそわかるゝ
つかさたまはらてなけくころ大殿のものかゝせたまへるおくによみてかける
おもふことこゝろにあるをありとのみたのめるきみにいかてしらせん
いたつらによにふるものとたかさこのまつもわれをやともとみるらん[拾遺]
十二月つこもりかたにみのうき[へイ]をなけきて
ゆきたにもはなとさくへきみにもあらてなにをたよりとはるをまつらん
六月つこもりにまさたゝのあそんにおくれる
花もちりほとゝきすさへいぬるまてきみにゆかすもなりにける哉[後撰]
かへし
花鳥のいろをも馨をもいたつらにものうかる身はすくすなりけり[後撰]
三月つこもりのひあるひとのもとにやれる
またもこんときそとおもへとたのまれぬ我身にしあれはをしき春かな[後撰]
よのなかこゝろほそくつねのこゝちもせさりけれはみなもとのきんたゝのあそんのもとに此哥をやりけるこのあひたおもくなりにけり
手にむすふみつにやとれる[うつれるイ]つきかけのあるかなきかのよにこそありけれ[拾遺]
のちにひとのいふをきけはこのうたのかへしせんとはおもへといそきてもせぬほとにうてにけれはきゝおとろきてかのおくれたりしうたにかへしをよみくはへておたきにてすらしてかはらにてなんやかせけるといふはまことにやあらん
三月ふたつあるとし左大臣さねよりのきみにたてまつれる
あまりさへありてゆくへきとしたにも[ことしたにイ]はるにかならすあふよしもかな[後撰]
春源といふたいとくのさくらをうすかみにつゝみて
空しらぬゆきかとひとのいふときくさくらのふるは風にそありける
とあるかへし
吹風にさくらの波のよるときはくれゆくはるをそらかとそ思ふ
たゝひらとまうすおとゝのにしなるとのにうつりたまはんとてそのとのゝひとつやにむすめの御ないしのかみのおはすへきかたとのゝやのさうしに松つるなとひとつかへにかきたるたいにしてよませたまふ
いろかへぬまつとたけとやたらちねのおやこひさしきためしなりけり
鶴のおほくよそへてみゆるはまへこそ千とせすこもるこゝろなりけれ
春のくるゝひおほせにてつかうまつれる
こむとしのためにはいぬる春なれとけふのくるゝはをしくそありける
櫻なきとしならなくにいまはとてはるのいつちかけふはゆくらん
あるひとのやまふきのはなをみよとてたまへるにたてまつる
おとにきくゐてのやまふきみつれともかはつのこゑはましらさりけり
もろすけのさいさうの中將とのゝ四郎[二郎イ]きみのはしめてはかまきたまひてのちおほちおとゝの御もとにまゐりたまふひおくりものゝのかへしにくはへんとてよませたまふによめる
ことにいはてこゝろのうちをしるものはかみのすちさへぬけるなりけり
れいにあらすなやみたまひけるによめる
やみおきてけふかあすかとまつほとのをりふししる[とふイ]は淚なりけり
とよめるをうちにきこしめしておほんとふらひにつかはさんとてめしゝに
鶯のはなになくねをきゝしまに
いとをしきこと
しらすそありける
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