紀貫之の和歌。貫之集7
紀貫之家集
已下據『歌仙歌集三』刊行年出版社校訂者等不明。
解題云如已下自撰の集ありしこと後拾遺集大鏡などにみえたれど今のは少なくとももとのまゝにはあらざるべし
貫之集第七
別
ひとのうまのはなむけによめる
をしむからこひしきものをしらくものたちわかれなはなにこゝちせん[古今]
みちのくへくたるひとによめる
しらくものやへにかさなるをちにてもおもはんひとにこゝろへたつな[古今]
ひとに[をイ]わかれけるによめる
わかれてふことはいろにもあらなくにこゝろにしみてわひしかるらん[古今]
おとはのやまのほとりにてひとに[をイ]わかるとて
おとはやまこたかくなきてほとゝきすきみかわかれををしむへらなり
ひこのかみ藤原のときすけといふぬしのくたるにやれる
ひとひたにみねはこひしきこゝろあるにとほみちさしてきみかゆくかな
ふちはらのこれをかかむさしになりてくたるにあふさかのせきこゆとて
かつこえてわかれもゆくかあふさかはひとたのめなるなにこそありけれ
兼茂朝臣ものへゆくに兼輔朝臣餞する雨ふる日
ひさかたのあめもこゝろにかなはなむふるとてひとのたちとまるへく
みちのくへくたるひとををしめる
からころもする名におへるふしのやまこえんひとこそかねてをしけれ
とほくゆくひとにわかれをしみて
またもこそものへゆくひとわかをしめなみたのかきり[のこさすイ]きみになきつる
とほくゆくひとのためにはわかそてのなみたのたまもをしからなくに[拾遺]
かねすけの兵衞佐[督イ]かもかはのほとりにて左衞門の官人みはるのありすけかひへゆくうまのはなむけによめる
きみをしむなみたおちそふこのかはのみきはまさりてなかるへらなり
あひしりたるひとのものへゆくぬさにやるとて
ゆくけふもかへらんときも玉ほこのひきも[ちきりイ]の神をいのれとそおもふ
もみちはもはなをもをれるこゝろをはたむけのやまのかみそしるらん
つるのかたにぬさいるゝものをしてよめる
千とせをはつるにまかせてわかるともあひみることを[はイ]あすもとそおもふ
左中辨よしみつのあそんのひとのうまのはなむけするところにぬさにかゝんとてよませたる
いとまたきみゆるもみちはきみかためおもひそめたる[てしイ]ぬさにさりける
たまほこのたむけのかみもわかことくわかおもふことをおもへとそおもふ
もろきの中將[源氏少將イ]しなのへゆくひとにはうまのなむけせんとてよませたまへる
われにしもくさのまくらはこはなくにものへときけはをしくそありける
きみかゆくところときけはつきみつゝをはすてやまそこひしかるへき
おなし少將のものへゆくひとにひうちのくしてこれにたきものをくはへてやるによめる
をりをりにうちてたくひのけふりあらはこゝろさすかをしのへとそおもふ
もろまさの侍從のよませたまふに
とほくゆくきみをおもふにひともみなほとゝきすさへなきぬへらなり
ものへゆくひとまつほとすくれは
おもふひとまたさもあらすあふさかのせきのなこそはなのみなりけれ
たちはなのきんよりのうちのつくしへくたるときそのころあはのかみとしたゝのあそんまゝはゝのないしのすけにおくるものともにくはへたるうた
くすり
しはしわかとまるはかりにちよまてのきみかおくりはくすりこそせめ
かつら
うちみえんおもかけことにたまかつらなかきかたみにおもへとそおもふ
さうそく
あまたにはぬひかさねゝとからころもおもふこゝろはちへにさりける[拾遺]
あひしれるひとのものへゆくにうまのはなむけしけるあひたにあめふりてえいかすなりにけれはよめる
きみをしむこゝろのそらにかよへはやけふとまるへくあめのふるらん
みちのくにのかみふちはらのありときかうまのはなむけさいさうの中將のしたまふによめる
みてたにもあかぬこゝろに[わかれをイ]たまほこのみちのおくまてひとのゆくかな[らむイ]
ものへゆくひとにやらんとてひとのこふにおくれる
あつらへてわするなとおもふこゝろあれはわかみをわくるかたみなりけり
みちのくにのかみ平のよりすけ[これみつイ]のあそんのくたるにぬさのすはまのつるのはねにかける
千とせまていのちたへたるつるなれはきみかゆきゝをしたふなりけり
おなしひとのうまのはなむけにたちはなのすけなはかさうそくおくるとてくはへたる
たまほこのみちのやまかせさむからはかたみかてらにきなんとそおもふ
おなしひとのはなむけおほきおとゝのしらかはとのにてせさせたまふにかはらけとりて
ひともみなとほみちゆけとくさまくらこのたひはかりをしきたひなし
たひゝとにぬさやるとて
わかれゆくひとををしむとこよひよりとほき夢路に我やまとはん
ちくこ[前イ]のかみの子のくたるにあふきやるにくはへたる
あふけともつきせぬかせはきみかためわかこゝろさすあふきなりけり
をはりのかみふちはらのいきかためのくたるにぬささうそくやるとてくはへたる
たつぬさの我おもひをはたまほこのみちのへことにかみもつけなん
そのひとのとかにおほゆるからころもわすらるなとてぬけるなりけり
ひとはいさ我はむかしのわすれねはものへときゝてあはれとそ思ふ
あふみのかみきんたゝのぬしのくたるにおくる
わかれをしきみちにまた我ならはねはおもふこゝろそおくれさりける
おなしひとのくたるをあふさかまておくらんとてかねみのおほきみのこのれうによませたる
いてゝゆくみちとしれゝと[はしれと]あふさかはかへらん[むかへんイ]ときのなにこそありけれ
みなもとのきんたゝのあそんの近江のかみにてくたるによめる
ねになきてわひしとおもはぬほとなれとつねのこゝろにかはりけるかな
もろまさの頭中將あつまへくたるをんなにくしのはこかゝみなとてうしてやりたまふにそふとて
わかれてもけふよりのちは玉くしけあけくれみへきかたみなりけり
しなのへゆくひとにおくる
つきかけはあかすみるともさらしなのやまのふもとになかゐすなきみ[拾遺]
ひとの國にくたるにたひにてよめる
いとによるものならなくにわかれ路の
こゝろほそくも
おもほゆるかな[古今]
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