金槐和歌集/源実朝/7旅
據校註金槐和歌集/佐々木信綱
奧書云、
昭和元年十二月廿七日印刷
昭和二年一月一日發行
明治書院
金槐和謌集
旅
たまほこの道はとほくもあらなくにたひとし思へは佗ひしかりけり
くさまくらたひにしあれは苅こものおもひみたれていこそねられね
たひころもたもとかたしきこよひもや草のまくらにわれひとりねん
羇中夕霧
つゆしけみならはぬ野へのかりころもころしもかなしあきのゆふ暮
の邊わけぬそてたにつゆはおくものをたゝこのころのあきのゆふ暮
たひころもうらかなしかる夕くれのすそののつゆにあきかせそふく
羇中鹿
たひころもすそのゝつゆにうらふれてひもゆふかせに鹿そ鳴くなる
秋もはやすゑのはら野になくしかのこゑきくときそたひはかなしき
ひとりふす草のまくらのよるの露はともなきしかのなみたなりけり
旅宿月
ひとりふす草のまくらのつゆのうへにしらぬのはらの月をみるかな
いはかねの苔のまくらにつゆをきていくよみやまのつきにねぬらん
旅宿霜
そてまくらしもおくとこのこけのうへにあかすはかりのさ夜の中山
しなかとりゐな野のはらのさゝまくらまくらのしもやゝとる月かけ
旅哥
たひ寐するいせの濱をきつゆなからむすふまくらにやとるつきかけ
旅宿時雨
たひの空なれぬはにふのよるのとこ佗ひしきまてにもるしくれかな
屏風の繪に山家に松かけるところに旅人あまたあるをよめる
まれに來てきくたにかなしやまかつのこけのいほりの庭のまつかせ
まれに來てまれにやとかるひともあらしあはれと思へ庭のまつかせ
雪ふれる山の中に旅人したる所
かたしきのころもていたくさえわひぬゆきふかきよの峯のまつかせ
あかつきの夢のまくらにゆきつもりわかねさめとふみねのまつかせ
羇中雪
旅ころもよはのかたしき冱え冴えて野なかのいほにゆきふりにけり
あふさかのせきのやまみちこえわひぬきのふもけふも雪しつもれは
ゆきふりてあとははかなくたえぬともこしの山みちやますかよはん
二所へ詣てたりし下向に春雨いたく降れりしかは
春さめはいたくなふりそたひゝとのみちゆきころもぬれもこそすれ
はるさめにうちそほちつつあしひきの
山路ゆくらむ
やまひとやたれ
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