金槐和歌集/源実朝/4冬


據校註金槐和歌集/佐々木信綱

奧書云、

昭和元年十二月廿七日印刷

昭和二年一月一日發行

明治書院




金槐和歌集

 冬

  十月一日よめる

あきはいぬ風にこのはのちりはてゝやまさひしかるふゆはきにけり〇

  松風時雨に似たり

ふらぬ夜もふるともまかふしくれかなこのはのゝちの峯のまつかせ

神なつきこのはふりにしやまさとはしくれにまかふまつのかせかな

  冬の哥

このはちりあきもくれにしかたをかのさひしきもりにふゆはきに鳬

はつしくれふりにし日より神なひのもりのこすゑそいろまさりゆく

かみなつきしくれふるらしおくやまはとやまのもみちいまさかり也

  冬のはしめの哥

かみな月しくれふれはかならやまのならの葉かしはかせにうつろふ

した紅葉かつはうつろふはゝそ原かみなつきとてしくれふれりてへ

みむろやまもみちちるらし神なつきたつたのかはににしきをりかく

よしのかはもみち葉なかる瀧のうへのみふねの山にあらしふくらし

散りつもるこのは朽ちにしたにみつもこほりてとつるふゆはきに鳬

  野霜といふ叓を

花すゝきかれたる野へにおくしものむすほゝれつゝふゆはきにけり

  霜をよめる

あつま路のみちのふゆくさかれに鳬よなよなしもやをきまさるらん

おほさはのいけのみつくさかれに鳬なかきよすからしもやおくらん

  月影霜に似たりといふ叓をよめる

つきかけのしろきをみれはかさゝきのわたせるはしに霜そ置きける

  冬哥

夕つく夜さほのかはかせみにしみてそてよりすくる千とりなくなり

  河邊冬月

ちとりなくさほのかはらのつきゝよみころもてさむしよやふけぬ覧

  月前松風

天のはらそらをさむけみむはたまの夜わたるつきにまつかせそふく

  海の邊の千鳥といふ叓を人ゝあまたつかうまつりしついてに

よをさむみ浦のまつかせふきむせひむしあけの波に千とりなくなり[むしあけハ備前邑久郡]

ゆふつくよみつ汐あひのかたをなみなみにしをれてなくちとりかな

つきゝよみさよふけゆけはいせ嶋やいちしのうらに千とりなくなり

  名所千鳥

ころもてにうらのまつ風冴え佗ひてふきあけの月に千とりなくなり

  寒夜千鳥

かせさむみよのふけゆけはいもか島かたみのうらに千とりなくなり

  深き夜の霜

むはたまのいもかくろ髮うちなひきふゆふかきよにしもそおきける

  冬哥

かたしきの袖こそしもにむすひけれまつ夜ふけぬる宇治のはしひめ

かたしきの袖もこほりぬふゆのよのあめふりすさむあかつきのそら

よをさむみかは瀨にうかふみつのあはのきえあへぬほとに氷しに鳬

  氷をよめる

をとは山やまおろしふきてあふさかの關のをかはゝこほりしにけり

  月前嵐

ふけにけりとやまのあらしさえさえてとをちの里にすめるつきかけ

  湖上冬月といふ叓を

ひらの山やまかせさむきからさきや鳰のみつうみにつきそこほれる[鳰のみつうみハ琵琶湖也。※鳰ハにほ是水鳥乃名]

  池上冬月

はらのいけの蘆まのつらゝしけゝれとたえたえ月のかけはすみけり

  冬哥

あしの葉ゝさは邊もさやにおくしものさむきよなよなこほりしに鳬

なにはかたあしの葉しろくおくしものさえたるよはにたつそ鳴なる

  夜ふけて月を見てよめる

さよふけてくもまのつきのかけみれは袖にしられぬしもそおきける

  社頭霜

さよふけていなりのみやのすきの葉にしろくもしものおきにける哉

  屏風にみわの山に雪のふれる所

ふゆこもりそれともみえすみわの山すきのはしろくゆきのふれゝは

  社頭雪

み熊野のなきの葉したりふるゆきは神のかけたるしてにそあるらし

  鶴岡別當僧都のもとに雪の降れりしあした詠みて遣はす哥

つるのをかあふきて見れはみねのまつこすゑはるかに雪そつもれる

やはた山こたかきまつにゐるたつのはねしろたへにみゆきふるらし

  海邊鶴

なにはかたしほひにたてるあしたつのはねしろたへに雪はふりつゝ

  冬哥

ふりつもるゆきふむいそのはまちとり波にしをれてよはになくなり

みさこゐるいそへにたてるむろの木のえたもとをゝにゆきそ積れる

ゆふされは汐かせさむしなみまよりみゆるこしまにゆきはふりつゝ

たちのほるけふりはなほそつれもなきゆきのあしたの鹽かまのうら

  雪をよめる

なかむれはさひしくもあるかけふりたつむろのや島の雪のしたもえ

  冬哥

ゆふされはうらかせさむしあまを舟とませのやまにみゆきふるらし

まきもくの檜原のあらしさえさえてゆつきかたけにゆきふりにけり

みやまにはしら雪ふれりしからきのまきのそまひとみちたとるらし

はらへたゝゆきわけ衣ぬきをうすみつもれはさむし山おろしのかせ

まきのとをあさけのくものころも手に雪をふきまく山おろしのかせ

やま里はふゆこそことに佗ひしけれゆきふみわけてとふひともなし

わかいほはよしのゝおくの冬こもりゆきふりつみてとふひともなし

おくやまのいはねにおふるすかの根のねもころころにふれるしら雪

おのつからさひしくもあるか山ふかみこけのいほりのゆきのゆふ暮

  寺邊夕雪

うちつけにものそかなしきはつ瀨やまをのへのかねのゆきのゆふ暮

  閑居雪

ふるさとはうらさひしともなきものをよしのゝおくのゆきのゆふ暮

  冬哥

ゆふされはすゝふくあらしみにしみてよしのゝたけにみ雪ふるらし

やまたかみあけはなれゆくよこくものたえまにみゆる峯のしらゆき

見みわたせは雲居はるかにゆきしろしふしのたかねのあけほのゝ空

さゝの葉のみ山もそよにあられふりさむきしもよをひとりかもねん

  山邊霰

くもふかきみやまのあらしさえさえて生駒のたけにあられふるらし

  雪をよめる

はし鷹もけふはしらふにかはるらんとかへるやまにゆきのふれゝは

  冬哥

雪ふりてけふともしらぬおくやまにすみやくおきなあはれはかなき〇

すみかまのけふりもさひしおほはらやふりにしさとのゆきの夕くれ

わかかとのいたゐのしみつ冬ふかみかけこそみえねこほりすらしも

ふゆふかみこほりやいたくとちつらむかけこそみえねやまのゐの水

ふゆふかみこほりにとつるやまかはのくむひとなしととしや暮なむ

ものゝふのやそうち川をゆくみつのなかれてはやきとしのくれかな

しらゆきのふるのやまなるすきむらのすくるほとなきとしのくれ哉

かつらきや山をこたかみゆきしろしあはれとそおもふとしの暮ぬる

  佛名こゝろをよめる

身につもる罪やいかなるつみならむけふ降るゆきとゝもにけななむ[佛名ハ陰暦十月十九日自り三日淸凉殿に佛名經を讀しめる六根淨の儀也]

  歳暮

老らくのかしらのゆきをとゝめおきてはかなのとしやくれてゆく覧

とりもあへすはかなくゝれてゆくとしをしはしとゝめむ關守もかな

ちふさすふまたいとけなきみとりことゝもになきぬるとしのくれ哉

ちりをたにすゑしとやおもふゆくとしのあとなき庭をはらふまつ風

むは玉のこのよなあけそしはしはもまたふるとしのうちとおもはん

はかなくてこよひあけなはゆくとしの

   思ひ出もなき

      春にやあはなむ







Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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