金槐和歌集/源実朝/2夏
據校註金槐和歌集/佐々木信綱
奧書云、
昭和元年十二月廿七日印刷
昭和二年一月一日發行
明治書院
金槐和歌集
夏
更衣をよめる
をしみこしはなのたもともぬきかへつひとのこゝろそ夏には有ける
夏のはしめの哥
なつころもたつたのやまのほとゝきすいつしか鳴かむ聲をきかはや
はるすきていくかもあらねとわか宿のいけのふち波うつろひにけり
郭公を待つといふ叓をよめる
夏ころもたちしときよりあしひきのやまほとゝきすまたぬ日そなき
ほとゝきすきくとはなしにたけくまのまつにそなつの日數へぬへき
初こゑをきくとはなしにけふも又やまほとゝきすまたすしもあらす
ほとゝきすかならすまつとなけれともよなよなめをも覺ましつる哉
山家時鳥
やまちかく家ゐしをれはほとゝきすなくはつこゑはわれのみそ聞く
郭公哥
あし引のやまほとゝきすこかくれてめにこそみえねおとのさやけさ〇
かつらきや髙まのやまのほとゝきすくもゐのよそになきわたるなり
あしひきのやまほとゝきすみやまいてゝ夜ふかき月の影になくなり
ありあけの月はいりぬる木の間よりやまほとゝきすなきていつなり〇
みなひとのなをしもよふかほとゝきすなくなる聲のさとをとよむる
夕時鳥
ゆふやみのたつたつしきにほとゝきすこゑうらかなし道やまとへる
夏哥
さつきまつをたのますらをいとまなみせきいるゝみつにかはつ鳴也
さみたれにみつまさるらしあやめ草うれ葉かくれてかるひとのなき
五月あめふれるに菖蒲くさを見てよめる
そてぬれてけふふくやとのあやめくさいつれの沼にたれか引きけん
五月
さみたれはこゝろあらなん雲まよりいてくるつきをまてはくるしも
さみたれによのふけゆけはほとゝきすひとり山へをなきてすくなり〇
さみたれのつゆもまたひぬ奧やまのまきの葉かくれなくほとゝきす
さみたれのくものかゝれるまきもくの檜原かみねになくほとゝきす
さつきやまこたかきみねのほとゝきすたそかれ時のそらになくなり
故鄕蘆橘
いにしへをしのふとなしにふる里のゆふへのあめににほふたちはな
蘆橘薰衣
うたゝ寢のよるのころもにかをる也ものおもふやとののきのたち花
ほとゝきすをよめる
ほとゝきすきけともあかすたちはなの花散るさとのさみたれのころ
社頭時鳥
さみたれをぬさにたむけて三熊野のやまほとゝきすなきとよむなり
雨いたく降れる夜ひとり時鳥をきゝてよめる
ほとゝきすなくこゑあやなさつきやみきくひとなしみ雨はふりつつ[なしみハははみノ誤用ト註]
さつきやみおほつかなきにほとゝきすふかき峯より鳴きていつなり
さつきやみ神なひやまのほとゝきすつまこひすらしなくねかなしも
蓮露似玉
さよふけてはすのうき葉のつゆのうへにたまとみるまて宿るつき影
河風似秋
いはくゝるみつにや秋のたつたかはかはかせすゝしなつのゆふくれ
螢火亂飛秋已近といふ叓を
かきつはたおふる澤邊にとふほたるかすこそまされあきやちかけん
蟬
なつやまになくなるせみの木隱れてあきちかしとやこゑもをしまぬ
みな月の二十日あまりのころ夕風すたれを動かすをよめる
あきちかくなるしるしにや玉たれのこすのまとほしかせそすすしき
夜風冷衣といふ叓を
なつふかみおもひもかけぬうたゝねのよるのころもにあき風そふく
夏の暮によめる
きのふまてはなのちるをそをしみこし夢かうつゝか夏もくれにけり
みそきする河せにくれぬなつのひのいりあひの鐘のそのこゑにより
なつはたゝこよひはかりとおもひねの
夢路にすゝし
あきのはつかせ
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