拾遺愚草卷下神祇・釋敎/藤原定家
據戦前版国歌大観
拾遺愚草下
神祇
後京極攝政殿伊勢勅使の時外宮にまゐりて
契りありてけふみやかはのゆふかつらなかきよまてもかけてたのまむ
昔八幡の哥合とて人のよませ侍りし社頭述懷
たのむかなくもゐにほしをいたゝきてわかすみかてふもとのちかひを
住吉幷ひに依羅社に求子の哥よみてたてまつるへきよし祠官申しゝかは奉りし
すみよしのまつかねあらふしきなみにいのるみかけは千よもかはらし
きみかよはよさみのもりのとことはにまつとすきとやちたひさかえむ
承元二年の秋少將具親三社社にて哥講すへきよし申しゝ中に
住吉
つれもなく猶すみの江[住吉]に手向草ひきすてらるゝあとの朽葉を
かきつめしまつのしきなみいろわかぬ藻くつなりけりみさへくちぬる
廣田
あはれひ[濁]をひろたの濱にいのりても今はかひなきみのおもひ哉
あまのすむさとのしるへのいくとせにわれからたへてみるめかりけり
ことわりとおもひしことをきたのにていのり申すとて
ちはやふるかみのきたのにあとたれてのちさへかゝるものやおもはむ
そのことはかりしるしあらたになむ侍りけり日吉社にこもりておもひつゝけゝることの中に
見しゆめのすゑたのもしくあふことにこゝろよわらぬものおもひかな
うしと世をみとせはすきぬうれへつゝかくてあらしに身やましりなむ
かそへやるほとやなけきをいのりけむかみにまかせてねをそなきつる
すてはつるちきりあれはそたのみけむかみのなかにもひとのなかにも
承久元年九月日吉の哥合とて内よりの仰せことにて六首の中
社頭松風
たのみこしゝるしもみつのかはよとにいまさへまつのかせそひさしき
湖上眺望
にほの海やあさなゆふなになかめしてよるへなきさの名にやくちなむ
御熊野詣の御供に參りて哥つかうまつりし中に
本宮寄社祝
ちはやふるくまのゝみやのなきの葉をかはらぬ千よのためしにそをる
川千鳥
さよちとりや千よとかみやをしふらむきよきかはらにきみいのるなり
山家月
みやま木のかけよりほかにくまもなしあらしにくちしかりいほのつき
新宮海邊殘月
わたつうみもひとつに見ゆるあまのとのあくるもわかすゝめる月かけ
庭上冬菊
しもおかぬみなみのうみのはまひさしひさしくのこるあきのしらきく
曉聞竹風
あけぬるかたけの葉かせのふしなからまつこのきみの千よそきこゆる
那智深山風
風のおともたゝよのつねにふかはこそみやまいてゝのかたみともせめ
瀧間月
やはらくるひかりそふらしたきのいとのよるとも見えすやとる月かけ
寺落葉
てらふかきもみちのいろにあとたえてからくれなゐをはらふこからし
本宮にて又講せられし遠近落葉
こけむしろみとりにかふるからにしきひと葉のこらぬをちのこからし
暮聞河波
もろひとのこゝろのそこもにこらしなゆふへにすめるかはなみのこゑ
道のほとの哥山路月
そてのしもにかけうちはらふみやまちもまたすゑとほきゆふつくよ哉
曉初雪
ふゆもけさことしのゆきをいそきけり夜をこめてたつみねのあけほの
深山紅葉
みやま路は紅葉もふかきこゝろあれやあらしのよそにみゆきまちける
海邊冬月
くもりなきはまのまさこにきみかよのかすさへ見ゆるふゆのよのつき
川邊落葉
そめしあきをくれぬとたれかいはた川またなみこゆるやまひめのそて
旅宿冬月
いはなみのひゝきはいそくたひのいほをしつかにすくる冬のつきかけ
羇中霰
冬の日をあられふりはへ朝たてはなみになみこすさのゝ月影[松風イ]
夕神樂
かみかきやけふのそらさへゆふかけてみむろのやまのさかき葉のこゑ
拾遺愚草下
釋敎
後法性入道關白殿舎利講に詩哥結緣あるへしとて十如是の心を
相
あともなくむなしきそらにたなひけとくものかたちはひとつならぬを
性
にこり江やをかはのみつにしつめともまことはおなしやまのはのつき
體
かりそめにつるのはやしの名をたてゝけふりののちのすかたをそ見る
力
みなれさをいはまになみはちかへともたゆますのほるうちのかはふね
作
はるの田にこゝろをつくるやまかつもうゝるさなへそいろに出てける
因
たねまきしはるをわすれぬつまなれやかきほにしのふやまとなてしこ
緣
としをへてねの日になるゝひめこまつひくにそ千よのかけも見えける
果
そての馨をよそへてうゑしたちはなもあさおくしもにみをむすふまて
報
しらぬ世をおもふもつらきめのまへにまたなけきつむのちのけふりよ
本末究竟等
あさちふやましるよもきのすゑ葉まてもとのこゝろのかはりやはする
人のよませ侍りし化城喩品哥
かりのやとにたとふるのりをあふけともしはしやすめぬ身のうれへ哉
報恩有五百弟子品
こひしとてこかるゝいろもあらしふくはゝそかはらにひともやとらて
同會人記品
もろともにおもひそめけるむらさきのゆかりのいろもけふそしらるゝ
大輔勸進住吉一品經法師品
たつねゆくしみつにちかきみちそこれ御のりのはなのつゆのしたかけ
報恩かい提婆品
わたつみのそこのたまもにやとかりてみなみのそらをてらすつきかけ
報恩會勸持品
きりはれてゆくすゑてらすつきかけをよもさらしなとなになかめけむ
涌品出
いかにしてはつねはわかきうくひすのふるきのやまのはるをつけゝむ
分別功德品
とふとりのあすかゝはかせそれもかとそてふきかへしはなそふりしく
屬累品
みたひなつるわかくろかみの末まてもゆつる御のりをなかくたのまむ
亡父十三年の忌日に遺言に侍りしかは哥よむ人ゝすゝめて結緣經供養し侍りしに嚴王品
この道をしるへとたのむあとしあらはまよひしやみもけふはゝるけよ
律師獻因すゝめ法花經普賢品哥
こちかせに散りしくはなもにほひ來てわしの御やまのあるしをそとふ
母の週忌に法花經六部みつから書き奉りて供養せし一部の表紙に繪に書かせし哥
一卷
あはれしれはるのそなたをさすひかりわか身につらきゝさらきのそら
二卷
をしますよあけほのかすむはなのかけこれもおもひのしたのふるさと
三卷
ほとゝきすたつぬるみねもまとはましかりねやすむるしるへならすは
四卷
身をしほるやまゐのしみつおとちかしさきたつひとにかせやすゝしき
五卷
をみなへしうけゝる花のあとしあれはきえしうは葉につゆなみたれそ
六卷
てらさなむ世ゝもかきらぬあきのつき入るやまのはにひかりかくさて
七卷
むかはれよこの葉しくれしふゆのよをはくゝみたてしうつみ火のもと
八卷
れきこふのくせいのうみに舟わたせしやうしのなみはふゆあらくとも[歷劫の弘誓]
無量義經
たのもしなひかりさしそふさかつきを世をてらすへきはしめとや見ぬ
普賢經
あさ日かけおもへはおなしよるのゆめわかれにしほるしのゝめのつゆ
心經
むなしさをみよのほとけのはゝならはこゝろのやみをそらにはるけよ
無量義經の心を人のよませしに
わたしもりいたすふな路はほともあらし身はこのきしに霧はれすとも
住江殿にて供養すへしとて人のすゝめ侍りし解脱房のためとて法花經大意
のりのはなきくのあさつゆやとりきてもらすかすなきひかりをそまつ
海路懷舊
かへりみはゆくかたしたふしるへせよみなみのうみのふかきちかひに
舎利讚歎の心を
きえせすなつるのはやしのけふりにものこすひかりのつゆのかたみは
金光明最勝王經王法正論品哥國内居人盛蒙利益
よものうみ夜わたるつきにとさしせてくもりなきよの御かけをそしる
亡き人の名を各とりて卒都婆供養すとて人のすゝめし哥
磐姬皇后
くろかみのなかきやみちもあけぬらむおきまかふ霜のきゆるあさ日に
二條后
はるかけてなくとりのねにゆきゝえてひかりをそへよあけほのゝそら
高津内親王
木にもあらぬ竹のした根のうきふしにむなしきよゝをまつやさとらむ
齋宮女御
さそはなむかよひしことのねにそへてむかふるにしのみねのまつかせ
廣幡御息所
うつしおく蓮のうへにみかゝなむかきほに咲[吹]けるなてしこの露
在原中納言
もしほたれなけきをすまのみちかへてうきよふきこせゝきのうらかせ
小野宰相
なくなみたわかれはあめとふりぬともまことのみちにかへれとそ思ふ
衣通姬
むらさきのくもまにけふやむかふらむまちにはまたぬこゝろかよはゝ
大伴坂上郎女
こゝろうきさとゝしりにしこひなれはりむねのかすみいまやはるらむ[輪廻]
中務
しのふらむなみたにくもるかけなからさやかにてらすありあけのつき
文治の比殷富門院大輔天王寺にて十首の哥よみ侍りしに
月前念佛[非尺敎題依追書入在奧]
にしをおもふなみたにそへてひくたまにひかりあらはす秋のよのつき
草庵忌歸
とまりなむくるれはやとるつゆのまもおきところなき身はかくれけり
曉天懷舊
しらさりつ身はありあけのつきもせすむかしになしてしのふへしとも
薄暮觀身
きえはてむけふりのはてとなかむれはなほあともなきゆふくれのくも
旅宿波聲
おとろかしゆめのまくらによるなみもこゑこそかはれそてはなれにき
舩中述懷
あさなきのふな出にたにもわすれはやくかにしつめるあきのこゝろを
厭離穢土
にこり江になほしもしつむあしのねのいとふゝしのみしけきころかな
欣求淨土
おもふかな咲き散るいろをなかめてもさとりひらけむはなのうてなを
掬龜井水言志
もろひとのむすふちきりはわするなよかめゐのみつにこふはへぬとも[劫]
於難波精舎卽叓
ふきはらへこゝろのちりもなにはかたきよきなきさののりのうらかせ
遁世のよし聞きて
家長朝臣
すみそめのそてのかさねてかなしきはそむくにそへてそむくよのなか
かへし
いけるよにそむくのみこそうれしけれあすともまたぬおいのいのちは
同時
按察使入道
きみかいるまことのみちのつきのかけゆめとみしよをいまやてらさむ
かへし
やみふかきうき世のゆめのさめぬとて
てらさはうれし
ありあけのつき
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