拾遺愚草卷下秋(續)/藤原定家
據戦前版国歌大観
秋世侍宴同詠池月久明應製和哥
[建保六年八月十三日内裏中殿宴]
參議正三位行民部卿兼伊豫權守臣藤原朝臣定家上
いく千よそゝてふるやまのみつかきもおよはぬいけにすめるつきかけ
元曆元年九月神主重保賀茂神社哥合とてよませ侍りしに月
侍從
しのへとやしらぬむかしのあきをへておなしかたみにのこるつきかけ
霧
はれくもりやまのいはねにたつきりをなつるころものそてかとそ見る
野宿月權大納言の家[貞應]
ゆふつゆのいほりはつきをあるしにてやとりおくるゝのへのたひゝと
建久五年八月十五夜左大將の家
見月思旅
まつほとをかたらぬつきにかこつともしらてやぬらむあらきはまへに
對月間昔
忘れすやはしめもしらぬ夜は[空イ]の月かへらぬ秋の數はふりつゝ
月契閏月
つきもまたしかならふまてなれよとやかすそふあきのそらをたのめて
元久元年五辻殿に御わたりのゝちはしめて講せらる
序通具卿讀師太政大臣應製臣上
松間月
このまよりつきも千とせのいろに出てゝきみかよちきる庭のわかまつ
野邊月
みよしのはゆきふるみねのちかけれはあきよりうつむつきのしたくさ
田家月
なかめつゝとはれすひさにあきの田のほのうへてらすつきのいく夜を
羇旅月
くさまくらみやこをとほみいたつらにゆき來のつきのやとるしらつゆ
名所月
里わかすもろこしまてのつきはあれとあきのなかはのしほかまのうら
同夜當座八月十五夜詠翫月應製和哥
よろつ世はこよひそはしめやとのつきなかはのあきの名はふりぬとも
建仁元年三月盡哥合
湖上秋霧
さゝなみやにほのみつうみのあけかたにきりかくれゆくおきのつり舟
建保四年閏六月内裏の哥合
秋
をしかなくはやまのかけのふかけれはあらしまつまのつきそすくなき
建曆三年後九月内裏の哥合
寒野蟲
ゆく秋のすそのゝこの葉あさなあさなそむれはよわるむしのこゑこゑ
建保三年五月和哥所の哥合
行路秋
うちわたすをちかたのへのしらつゆによものくさき木の色かはるころ
建永元年七月十三日和哥當座
行路風
たまほこやゆくてのゝへのあさちまてうつろふそてのあきのはつかせ
正治二年二月左大臣の家の哥合
からころもすそのゝまくすふきかへしうらみてすくるあきのゆふかせ
元久元年七月宇治の御幸
野露
やましろのくせのはらのゝしのすゝきたまぬきあへぬかせのしらつゆ
建仁二年三月六首秋の哥
しもまよふを田のかりほのさむしろにつきともわかすいねかてのそら
建曆三年九月十三夜内裏の哥合
江上月
なには江にさくやこのはなしろたへのあきなきなみをてらすつきかけ
暮山松
あきはいぬゆふ日かくれのみねのまつよものこの葉のゝちもあひ見む
元久二年夏院の詩哥合
山路秋行
みやこにもいまやころもをうつのやまゆふしもはらふつたのしたみち
ゆふつく日木のまのかけもはつかりのなくやくもゐのみねのかけはし
建仁三年和哥所の哥合
海邊雁
ゆくかりのたかあきかせとうれふらむなみもふせかぬいそのとまやに
三宮より十五首の哥めされし秋の哥
とふかりの淚もいとゝそほちけりさゝわけしのへのはきのうへのつゆ
ひさかたのつきのかつらのしたもみちやとかるそてそいろにいてゆく
なみたのみこのはしくれとふりはてゝうき身をあきのいふかひもなし
建久六年秋の比大將殿にて末句十をかきいたしてよむへきよし侍りしに當座
しをるへきよものくさ木もおしなへてけふよりつらきをきのうはかせ
とれはけぬわくれはこほるえたなからよしみやきのゝはきのしたつゆ
來しかたはみなおもかけにうかひきぬゆくすゑてらすあきの夜のつき
いさこえしおもへはとほきふるさとをかさなる山の秋のゆふきり[月]
ふけまさるひとのまつかせくらきよにやまかけつらきさをしかのこゑ
かせなひくすゝきのすゑはつゆふかしこのころこそははつかりのこゑ
むかしかなあはれいくよと來てとへはやともるかせにうつらなくなり
かはかせによわたるつきのさむけれはやそうちひともころもうつなり
みそちあまりみしをはなきとかそへつゝあきのみおなしゆふ暮のそら
ひとりねのさならぬとこもそてぬれぬわかれなれたるあかつきのそら
おなし比左大將殿にて五首の哥
秋色
そめてけりつきのかつらのすゑ葉まてうつろふころのゝへのあきかせ
秋聲
冱えわたるしもにむかひてうつころもいくとせあきのこゑをつくらむ
秋馨
かたみかなくれゆくあきをうらみつゝけふつむそてににほふしらきく
秋情
あめつゆにこの葉をなにのあはれとてなきこゝちするこゝろわくらむ
秋戀
うかりけるやまとりのをのひとりねよあきやちきりしなかき夜にとも
同七年の秋内大臣殿にて文字をかたみにおきて二十首の哥の中に
秋十首
をさゝはらほとなきすゑのつゆおちてひとよはかりにあきかせそふく
みねにふくかせにこたふるしたもみちひとはのおとにあきそきこゆる
なくせみもあきのひゝきのこゑたてゝいろにみやまのやとのもみちは
へたてゆくきりも日かすもふかけれはわすれやしぬるとほきみやこは
しきたへのまくらわすれて見るつきのかそふはかりのよなよなのかけ
ふりにけりとしとしなれしつきを見ておもひしことのさらにかなしき
散りぬれはこひしきものをあきはきのけふのさかりをとはゝとへかし
はやせかはみなわさかまきゆくなみのとまらぬあきをなにをしむらむ
かりかねのくもゆくはねにおくしものさむき夜ころにしくれさへふる
まつしまのあまのころもてあきくれていつかはほさむつゆもしくれも
内裏の秋十五首の哥合
秋風
をさまれるたみのくさはをみせかほになひく田のものあきのはつかせ
秋露
そてぬらすしのふもちすりたかためにみたれてもろきみやきのゝつゆ
秋月
いつはとはわかぬときはのやまひともそらにおとろくつきのかけかな
秋雨
はなそめのころものいろもさたまらす野わきになひくあきのむらさめ
秋花
たひころもひもとくはなのいろいろにとほさとをのゝあたらあさきり
秋雁
このころのかりのなみたのはつしほにいろわきそむるみねのまつかせ
秋蟲
あるしからおもひたえにしよもきふにむかしもよほすまつむしのこゑ
秋鹿
あさなあさなこの葉うつろひなくしかのことわりしるきあきの山かけ
秋水
あきかせのかけふきはらふたにの戶におもふもきよくすめるやまみつ
秋霜
あきの色にのこるかたみのしもをたにおけかしくさはそれもとまらす
秋祝
やまみつにおいせぬ千よをせきとめておのれうつろふしらきくのはな
秋旅
ふるさとはとほやまとりのをのへよりしもおくかねのなかき夜のそら
秋戀
したむせふ藻しほのけふりこかるとてあきやはみゆるひとはうらめし
秋思
老いか世はあはれすそのゝくさかれによるのおもひのなかつきのそら
秋雜
わたつうみやあきなき花のなみかせも身にしむころのふきあけのはま
仁和寺宮よりしのひてめされし秋の題十首承久二年八月
秋風
あきのいろと身をしるあめのゆくゝもに伊駒のやまもおもかはりして
秋花
このくれのあきかせすゝしからころもひもとくはなにつゆこほれつゝ
秋田
なかめあへぬ穗むけのかせのかたよりに田のもふきこすみねの紅葉ゝ
秋霜
よやはうきしもよりしもにむすひおくおいそのもりのもとのくちはゝ
秋祝
つゆしくれもるにつれなきあきやまのまつにそきみの御よは見えける
秋戀
はつかりのとほちもよほすあきかせになれてまちかきなかそかれゆく
秋夢
かせさわくをきの葉よくとうきて見しゆめのたゝちそいやはかなゝる
秋旅
波かく[へ]る袖しのうらのあきのつき宿かるまゝにまつやしほらむ
秋恨
こゝろもてよゝのむかしやならひけむあきかせいそくをかのくすはに
秋雜
しられしななくなくあかすなかき夜もさはへのたつのあきのこゝろは
内裏の秋十首
なつはてゝぬるやかはへのしのゝめにそてふきかふるあきのはつかせ
おのつからいくよのひとのなかむらむあまのかはらのほしあひのそら
わすれしなあきのしらつゆしきたへのかりいほのとこにのこる月かけ
やとれともぬらさぬそてのわれからになれてひさしきあきのよのつき
こゑたてゝたれまつかせのおのれのみたゆまぬつきにころもうつらむ
またれつるつきもはるかになくつるのこゑあけかたきなかきよのしも
いくかへりうめをはきくになかめつゝしもよりしものそてしをるらむ
身をくたくとしのいくとせなけきしておもひとち[ゝ]めし秋の淚そ
たつたやまゆふつけとりのなくこゑにあらぬしくれのいろそきこゆる
やまひめのかたみにそむるもみち葉をそてにこきいるゝよものあき風
建保二年みなせ殿にて講せられし秋十首の哥
應製臣上
もしほくむあまのとま屋のしるへかはうらみてそふくあきのはつかせ
あさちふのをのゝしのはらうちなひきをちかたひとにあきかせそふく
おほかたのあきおくつゆやたまはなす身なからくちしそてはほしてき
いくあきをたへていのちのなからへてなみたくもらぬつきにあふらむ
みやきのはもとあらのはきのしけゝれは玉ぬきとめぬあきかせそふく
ゆふつく日むかひのやまのうすもみちまたきさひしきあきのいろかな
たかさこのほかにもあきはあるものをわかゆふくれとしかはなくなり
かはなみのくゝるも見えぬくれなゐをいかに散れとかみねの木からし
たまきはるわか身しくれとふりゆけはいとゝつき日もをしきあきかな
しものたてやまのにしきをおりはへてなくねもよわるのへのまつむし
承久元年七月内裏の哥合
聞擣衣
なさけなくふくあきかせそ敎しふらむこぬよのとこにころもうてとは
庭紅葉
もるやまも木のしたまてそしくるなるわかそてのこせのきのもみちは
聞擣衣といふ叓を人ゝよみ侍りしに
をきの葉のつけふるしてふあきかせをまたしもさらにころもうつなり
依月思秋
いたつらにつもれはひとのなかき夜もつき見てあかすあきそすくなき
承久元年九月日吉の哥合とて内よりの仰せこと
深夜秋月
おほかたのあらしもくもゝすみはてゝそらのなかなるあきの夜のつき
遠山曉霞
ほのかなるかねのひゝきにきりこめてそなたのやまはあけぬとも見す
暮天聞雁
かりかねのなきてもいはむかたそなきむかしのつらのいまのゆふくれ
紅葉添雨
ふりまさるなみたもあめもそほちつゝそてのいろなるあきのやまかな
建保五年四月十四日庚申五首
秋朝
をくらやましくるゝころのあさなあさなきのふはうすきよもの紅葉ゝ
承元三年九月新羅社の哥合とて人のよませ侍りし
紅葉
つゆしものしたてるにしきたつたひめわかるゝそてもうつるはかりに
内裏にて
朝見紅葉
もみち葉のなほいろまさるあさ日やまよのまのしものこゝろをそしる
建保二年九月十三夜内裏
暮山紅葉
しくれつゝそてぬれきつるやまひとのかへるいほりはあらぬもみちは
對菊惜秋
いかにせむきくのはつしもむすほゝれそらにうつろふあきの日かすを
紅葉見秋
たつたかはをられぬみつのくれなゐになかれてはやきあきのかけかな
九月十三夜侍宴詠三首
秋山月
さゝまくらみやまもさやにてるつきの千よもふはかりかけのさひしき
秋野月
ひさかたのあまつそらゆくつきかけをおのれしめのゝあきのしらつゆ
秋庭月
くものうへをてらさむあきもしらさりきをしへし庭のみちのつきかけ
右大臣の家の六首の哥合
夜深待月
よをかさねたゆますひさになかめするやまのはおそきつきをこひつゝ
故鄕紅葉
うつろひしむかしのはなのみやことてのこるにしきのいろそしくるゝ
河邊擣衣
こはたかはこはたかためのからころもころもさひしきつちのおとかな
元曆元年宰相中將通親卿五首の中
擣衣
冱えまさるひゝきをそへてうつころも
かさなるよはに
あきやくるらむ
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