拾遺愚草卷下秋/藤原定家


據戦前版国歌大観



拾遺愚草下

 秋

  松尾の哥合に初秋風建曆三[二イ]年

あらたまのことしもなかはいたつらになみたかすそふをきのうはかせ

  建久五年夏左大將の家の哥合

   秋宮城野

あき來ぬるをきふくかせのそよさらにしはしもためぬみやきのゝはら

陬磨關

世やはうきあきやはすくるすまのせきうらかせこゆるそてのしらなみ

  建保三年七夕内裏七首

あまのかはみつかけくさのうちなひきたまのかつらもつゆこほるらむ

あまのかはふるきわたりもうつろひてつきのかつらそいろに出てゆく

あまのかはかはとのなみのあきかせにくものころもをたつやとそまつ

あまのかは手たまもゆらにおるはたのなかきちきりはいつかたえせむ

あまのかはもみちのはしのいろに見よあきたつそてのくれをまつほと

あまのかはあれにしとこをけふはかりうちはらふ袖のあはれいくとせ

あまのかはあくるいはともなさけしれあきのなぬかのとしのひと夜を

  建久六年二月左大將の家の五首

   秋

あきといへとこの葉もしらぬはつかせにわれのみもろき袖のしらたま

   閑中草花

あとたえてかせたにとはぬはきの枝に身をしるつゆはきゆる日もなし

  元久元年宇治御幸

   山風

かへり見るすそのゝ草はかたよりに限[浪]なき秋のやまおろしの風

  正治二年九月院の初夏の哥合

   山嵐

あきのあらしひと葉もをしめみむろ山ゆるすしくれのそめつくすまて

  建保元年内裏の詩哥合

   野外秋望

むらさめの玉ぬきとめぬあきかせにいく野かみかくはきのうへのつゆ

なかめつゝくさのたもとはうつろひぬかりのなみたもをちのしのはら

  同四年閏八月内裏の哥合

   秋

なほさりのをのゝあさちにおくつゆもくさ葉にあまるあきのゆふくれ

  承久元年内裏の哥合

   秋夕霞

ゆふくれのくさのいほりのあきのそてならはぬひとやしをれても見む

  建永元年七月和哥所の哥合

   朝草花

あさなあさなした葉もよほすはきの枝にかりのなみたそ色に出てゆく

   海邊月

藻しほくむそてのつきかけおのつからよそにあかさぬすまのうらひと

  建久八年秋の哥あまたよみける中に

なかめつゝおもひしことのかすかすにむなしきそらのあきのよのつき

  秀能かよませ侍りし月の哥

あきといへは月のたゝちをふくかせのくもをはすてのひさかたのやま

  攝政殿の詩哥合に

   月明風又冷

くもたえてのちさへつきをふくあらしこぬようらむるとこなはらひそ

さむしろにはつしもさそひふくかせをいろに冱えゆくねやのつきかけ

  正治二年九月院に初度の哥合

   浦月

あはちしまつきのかけもてゆふたすきかけてかさせるすまのうらなみ

  建仁元年八月十五夜の哥合

   月多秋友

千よふへきたまのみきりのあきのつきかはすひかりのすゑそひさしき

   月前松風

ゆふへよりくもはまよはぬつきかけにまつをそはらふみねの木からし

   月前擣衣

あきかせに夜さむのころもうちわひぬふけゆくつきのをちのやまもと

   海邊秋月

つきにふすいせのはまをきこよひもやあらきいそへのあきをしのはむ

   湖上月明

さゝなみやちりもくもらすみかゝれてかゝみのやまを出つるつきかけ

   古寺殘月

はつ瀨やまゆつきかしたにてるつきのあくるもしらぬありあけのかけ

   深山曉月

とりのねもきこえぬやまのやまひとはかたふくつきをあけぬとやしる

   野月露深

おきあかすのへのかりいほのそてのつゆおのかすみかと月そ冱えゆく

   田家見月

さをしかのつまとふを田にしもおきてつきかけさむしをかのへのやと

   河月似水

すみわたるつきかけきよみゝなせかはむすはぬみつをこほりとそ見る

  建保三年八月十五夜内裏

   月前竹風

つきゝよみたまのみきりのくれたけに千よをならせるあきかせそふく

   月前擣衣

つきにうつたみのころもゝやとことにくにさかえたる御よそきこゆる

   月前眺望

きはもなきたのもはかりにしくゝものちりもまかはぬあきのよのつき

  建永元年七月十三日和哥所當座

   湖邊月

さゝなみやにほのうらかせゆめたえて夜わたるつきにあきのふなひと

  元久元年七月宇治御幸

   水月

にほのうみやしたひてこほる秋のつきみかくなみまをくたすしはふね

  正治二月左大臣の家の哥合

   山月

まつことはこゝろのあきにたえぬれとなほやまのはにつきは出てけり

  建曆三年後九月内裏の哥合

   深山月

しらかしのつゆおくやまもみちしあれはえたにも葉にも月そともなふ

  建久七年九月十三夜内大臣の家

   未出月

あきのそらつきそこよひとはらふなりひかりさきたつみねのまつかせ

   初昇月

さしのほるみかさのやまのみねからにまたゝくひなくさやかなるつき

   停午月

あきのつきなかはのそらのなかはにてひかりのうへにひかりそひけり

   漸傾月

ものことにあきのあはれはかすそひてそらゆくつきのにしにすくなき

   入後月

つきはさそゆきたにのこるころならはそれとも見ましみねのあけほの

  内裏にて

   禁庭月

わすれすよ御はしのしものなかきよになれしなからの雲のうへのつき

  建久二年法皇栖霞寺におはしましゝ時駒牽のひきわけの使にまゐるとて

さかのやま千よのふるみちあとゝめてまたつゆわくるもちつきのこま

  九月十三夜内裏にて

やまかせはつきのさころもはらへともおもらぬゆきはこの葉こそふれ

たまほこのみちもさりあへぬはるのはなそれかとまかふ山のつきかけ

  建保二年九月十三夜内裏

   月前風

すかのねやなかつきの夜のつきかけを

   はるかにわたる

      のへのあきかせ











Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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