拾遺愚草卷上院百首應製和哥/藤原定家


據戦前版国歌大観



拾遺愚草上

 春日同詠百首應製和哥

 參議從三位行治部卿兼侍從伊豫權守臣藤原朝職定家上

  春二十首

はるかすみたつや外やまのあしたより咲きあへぬ花をゆきとやは見る

あさ日さすかすかのをのゝおのつからまつあらはるゝゆきのしたくさ

あしかきのまちかきふゆのゆきなからひらけぬうめにうくひすそなく

うめのはなにほふやいつこくもかゝるみやまのまつはゆきもけなくに

むはたまの夜のまのかせのあさと出てにおもふにすきてにほふ梅か枝

くるとあくとめかれぬ花にうくひすのなきてうつろふこゑなをしへそ

あらたまのこけのみとりにはるかけてやまのしつくもときはしりけり

あさみとりかすみたなひくやまかつのころもはるさめいろに出てつゝ

あをによしならのみやこのたまやなきいろにもしるくはるは來にけり

みねのゆきとくらむあめのつれつれとやまへもよほすはなのしたひも

きのふけふやまのかひよりしらくものたつたのさくらいまか咲くらむ

みよしのゝよしのはゝなのやとそかしさてもふりせすにほふやまかな

さくらはな咲きぬるころはやまなからいしまゆくてふみつのしらなみ

もゝちとりさへつるはるのかすかすにいくよのはなのみもふりぬらむ

はなのいろにひとはるまけよかへる鴈ことしこし路のそらたのめして

なかめつゝかすめるつきはあけはてぬはなのにほひもさとわかぬころ

やまのはをわきてなかむるはるのよにはなのゆかりのありあけのつき

散るはなのつれなく見えしなこりとてくるゝもをしくかすむやまかけ

いろまかふのへのふちなみそてかけてみかりのひとのかさしをるらし

とはゝやなはなゝきさとにすむひともはるはけふとやなほなかむらむ

  夏十五首

はるのいろにせみの羽ころもぬきかへてはつこゑおそきほとゝきす哉

しのはるゝときはのやまのいはつゝしはるのかたみのかすならねとも

ものことにしくれのわきしまつの色をひとつにそむるなつのあめかな

ほとゝきすたひなるけさのはつこゑにまつさと見えよのきのたちはな

いたつらにくもゐるやまのまつの葉のときそともなきさみたれのそら

あやめくさふくやさつきのなかき日にしはしをやまぬのきのたまみつ

ほとゝきすこゝろつくしのやまのはをまたぬに出つるいさよひのつき

あきたゝむいなはのかせをいそくとてみしふにましる田子のころも手

あたらしや鵜かはのかゝりさしはへていとふかは瀨のありあけのつき

さゆり葉のしられぬこひもあるものを身よりあまりてゆくほたるかな

よそへてのかひこそなけれまつひとはこすのとこなつはなに咲けとも

なつころもかとりのうらのうたゝねになみのよるよるかよふあきかせ

木のまもるかきねにうすきみかつきの-かけあらはるる-ゆふかほのはな

ゆふたちのくもふくかせのときのまにつゆほしはつるをのゝしのはら

あすかゝはゆくせのなみにみそきしてはやくそとしのなかはすきぬる

  秋二十首

  此哥忘却似故殿御哥後年見付之可恥可痛

さらぬたにあたに散るてふさくらあさのつゆもたまらぬ秋のはつかせ

たなはたのてたまもゆらにおるはたのをりしもならふむしのこゑかな

わかやとははきのしらつゆあともなしたれかはとはむのへのふるみち

おほかたにつもれはひとのとはかりになかめしつきもそてやぬれけむ

あはれのみいやとしのはにいろまさるつきとつゆとののへのさゝはら

あきのつきかはおとすみてあかす夜にをちかたひとのたれをとふらむ

袖のうへにおもひいれしとしのへともたえすやとかるつきのかけかな

あつまやののきのほとなきいたひさしいたくもつきになれにけるかな

まとろまてなかむるつきのあけかたにねさめやすらむころもうつなり

おきてゆくたかゝよひ路のあさつゆそくさのたもともしほるはかりに

さをしかのしからむはきもときすきてかれゆくをのをうらみてそなく

ひきむすふかりほのいほもあきくれてあらしによわきまつむしのこゑ

あきの色のめにさやかなるふるさとになきてうつらのたれしのふらむ

おろかなるつゆやくさ葉にぬくたまを今はせきあへぬはつしくれかな

かりかねのなみたのつゆのたまなからぬきもさためすおるにしきかな

もるやまのしくれのあきを見てしかなこゝろつからやもみちはつると

ちきりありてうつろはむとやしらきくのもみちのしたの花に咲きけむ

なかつきのもみちのやまのゆふしくれはるゝ日かけもくもはそめけり

いつみかは日もゆふくれのこまにしきかた枝おちゆくあきのもみちは

この葉もてかせのかけたるしからみにさてもよとまぬあきのくれかな

  冬十五首

こからしのもりのこすゑのあさなあさな名にあらはるゝかみな月かな

かせさむみゝほのうらへをこくふねにやまのこの葉のきほひかほなる

とまらしなよものしくれのふるさとゝなりにしならのしものくち葉は

かさゝきのはかひの山のやまかせのはらひもあへぬしものうへのつき

にほとりはたまものやともかれなくにたのみしあしそあを葉ましらぬ

ふゆくさをむすふもあたにあかす夜のまくらもしらすあられふるなり

いろ見えぬふゆのあらしのやまかせにまつのかれ葉そあめとふりぬる

ならしはのかれゆくきゝすかけをのみたつやかりはのおのかありかを

はまゝつのねられぬなみのとまやかたなほこゑそふるさよ千とりかな

身をしを[ほ]るすみのやすきを愁へ[ひ]にて

   こほりをいそく

      あさ[あま]のころも手

なにはかたもとよりまかふみたれあしのほすゑおしなみ初ゆきそふる

あけぬとて出てつるひとのあともなしたゝときのまにつもるしらゆき

とはるゝをたれはかりとやなかむらむゆきのあしたのいはのかけみち

いとゝしくふりそふゆきにたにふかみしられぬまつのうつもれぬらむ

むかひゆくむそちのさかのちかけれはあはれもゆきも身につもりつゝ[六十路]

  戀十五首

けふそおもふいかなるつき日ふしのねの峯にけふりのたちはしめけむ

きのふけふくものはたてをなかむとて見もせぬひとのおもひやはしる

はつかりのとわたるかせのたよりにもあらぬおもひをたれにつたへむ

まとろまぬしもおくよはのもゝはかきはねかくしきのくたけてそなく

よもすからつきにうれへてねをそなくあはれにむかふものおもふとて

くるゝよはおもかけ見えてたまかつらならぬこひするわれそかなしき

そてのうへもこひそつもりてふちとなるひとをはみねのよその瀧つ瀨

いかにしてむかひのをかにかるくさのつかのまにたにつゆのかけ見む

いかにせむなみこすそてに散るたまのかすにもあらぬしつのをたまき

夢といへはいやはかなゝるはるのよにまとふたゝ路は見てもたのます

いしはしるたきあるはなのちきりにてさそはゝつらしはるのやまかせ

わくらはにかよふこゝろのかひもなしたのむよしのゝかさしはかりは

ねにたつるかけのたれ尾のたれゆゑかみたれてものはおもひそめてし

あきのゝに尾はなかりふくやとよりもそてほしわふるけさのあさつゆ

したひものゆふ手もたゆきかひもなしわするゝくさをきみやつけゝむ

  雜十五首

あけぬとてゆふつけとりのこゑすなりたれかわかれのそてぬらすらむ

なかめするけふもいりあひの鐘のおとに過ゆくかたを身にかそへつゝ

やまさとはなほさひしとそたちかへるあくれはいそくこゝろやすまて

よそにのみゝやまのすきのつれもなくもとのこゝろはあらすなりつゝ

それもうとしこころなくさむうみやまは身のよるへとも思ひならはて

こゝろからいきうしといひてかへるともいさめぬ關を出てそわつらふ

かきやれはけふりたちそふ藻しほくさあまのすさひにみやこゝひつゝ

なみまくらはまかせしろくやとるつきそてのわかれのかたみかほなる

ひともわかすやま路しくれてゆくゝもをともなふみねの袖のしつくは

たまほこやたひゆくひとはなへて見よくにさかえたるあき津しまかな

きみかよのあめのうるひはひろけれとわれそめくみの身にあまりぬる

いかにしてくちにし谷の木のもとにみちある御よのはるをまち劔[覧]

むらさきのいろこきまてはしらさりき御よのはしめのあまの羽ころも

わかの浦になきてふりにしゝものつるこのころ見えぬこゝろやすめて

いのりおきしわかふるさとのみかさやま

   きみのしるへを

      なほおもふかな

先撰二百首之愚哥有結番事仍可謂拾其遣又養和元年企百首之初學建保四年書三卷之家集彼是之間再居拾遣之官故爲此草名

建保四年三月十八日書之

參議治部卿兼侍從藤判








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

0コメント

  • 1000 / 1000