拾遺愚草卷上院百首應製和哥/藤原定家
據戦前版国歌大観
拾遺愚草上
秋日侍太上皇仙洞詠百首應製和謌[正治二年八月八日追給題同日二十五日詠進之]
從四位上行左近衞權少將兼安藝權介臣藤原朝臣定家上
春二十首
はる來ぬとけさみよしのゝあさほらけきのふはかすむみねのゆきかは
あらたまのとしのあくるをまちけらしけふたにのとをいつるうくひす
はるの色をとふ火のゝもりたつぬれとふた葉のわかな雪もきえあへす
もろひとのはないろころもたちかさねみやこそしるきはるきたりとは
うちわたすをちかたひとはこたへねとにほひそなのる野へのうめか枝
うめのはなにほひをうつすそてのうへにのきもる月のかけそあらそふ
はなの馨のかすめるつきにあくかれてゆめもさたかに見えぬころかな
もゝ千とりこゑやむかしのそれならてわか身ふりゆくはるさめのそら
ありあけのつきかけのこるやまのはをそらになしてもたつかすみかな
おもひたつやまのいくへもしらくもにはねうちかはしかへるかりかね
よしのやまくもにこゝろのかゝるよりはなのころとはそらにしるしも
いつも見しまつのいろかははつ瀬やまさくらにもるゝはるのひとしほ
しらくものはるはかさねてたつたやまをくらのみねにはなにほふらむ
たかさこのまつとみやこにことつてよをのへのさくらいまさかりなり
はなの色をそれかとそおもふをとめこか袖ふるやまのはるのあけほの
はるのおるはなのにしきのたてぬきにみたれてあそふそらのいとゆふ
おのつからそこともしらぬつきはみつくれなはなけのはなをたのみて
さくらはな散りしくはるの時しもあれかへすやま田を-らみてそゆく
はるもをしはなをしるへにやとからむゆかりのいろのふちのしたかけ
しのはしよわれふりすてゝゆくはるのなこりやすらふあめのゆふくれ
夏十五首
ぬきかへてかたみとまらぬなつころもさてしもはなのおもかけそたつ
すかのねや日かけもなかくなるまゝにむすふはかりにしけるなつくさ
うのはなのかきねもたわにおけるつゆ散らすもあらなむ玉にぬくまて
もろかつらくさのゆかりにあらねともかけてまたるゝほとゝきすかな
あやめふくのきのたちはなかせふけはむかしにならふけふのそての馨
いかはかりみやまさひしとうらむらむさとなれはつるほとゝきすかな
ほとゝきすしはしやすらへすかはらやふし見のさとのむらさめのそら
ほとゝきすなにをよすかにたのめとてはなたちはなの散りはてぬらむ
たかそてをはなたちはなにゆつりけむやとはいくよとおとつれもせて
わかしめしたま江のあしのよをへてはからねと見えぬさみたれのころ
なつ草のつゆわけころもほしもあへすかりねなからにあくるしのゝめ
かたいとをよるよるみねにともす火にあはすはしかの身をもかへしを
をきの葉もしのひしのひにこゑたてゝまたきつゆけきせみの羽ころも
なつかあきかとへとしら玉いはねよりはなれておつるたきかはのみつ
今はとてありあけのかけのまきの戶にさすかにをしきみなつきのそら
秋二十首
けふこそはあきもはつ瀬のやまおろしにすゝしくひゝくかねのおと哉
しらつゆにそてもくさ葉もしをれつゝつきかけならすあきは來にけり
あきといへはゆふへのけしきひきかへてまた弓はりのつきそさひしき
いくかへりなれてもかなしをきはらやすゑこすかせのあきのゆふくれ
物おもはゝいかにせよとてあきのよにかゝるかせしもふきはしめけむ
からころもかりいほのとこの露さむみはきのにしきをかさねてそきる
あきはきの散りゆくをのゝあさつゆはこほるゝそてもいろそうつろふ
あきのゝになみたは見えぬしかのねはわくるをかやのつゆをからなむ
おもふひとそなたのかせにとはねともまつそてふるゝはつかりのこゑ
ゆふへよりあきとはかねてなかむれとつきにおとろくそらのいろかな
あきをへてくもるなみたのますかゝみきよきつきにもうたかはれつゝ
おもふことまくらもしらしあきの夜の千ゝにくたくるつきのさかりは
もよほすもなくさむもたゝこゝろからなかむるつきをなとかこつらむ
さひしさもあきにはしかしなけきつゝ寢られぬつきにあかすさむしろ
あきのよのあまのとわたるつきかけにおきそふしものあけかたのそら
そめはつるしくれをいまはまつむしのなくなくをしむ野へのいろいろ
しろたへのころもしてうつひゝきよりおきまよふしもの色に出つらむ
おもひあへすあきないそきそさを鹿のつまとふやまのを田のはつしも
あきくれてわか身しくれとふるさとのにはゝもみちのあとたにもなし
あすよりはあきもあらしのおとはやまかたみとなしに散るこの葉かな
冬十五首
手むけしてかひこそなけれかみなつきもみちはぬさと散りまかへとも
やまめくりなほしくるなりあきにたにあらそひかねしまきのした葉を
うらかれしあさちはくちぬひとゝせのすゑはのしものふゆのよなよな
ふゆはまたあさはの野らにおくしものゆきよりふかきしのゝめのみち
よしさらはよもの木からしふきはらへひとはくもらぬつきをたに見む
おとつれしまさきのかつら散りはてゝ外やまもいまはあられをそきく
やまかつのあさけのこやにたくしはのしはしと見れはくるゝそらかな
ふゆの夜のむすはぬゆめにふしわひてわたるをかはゝこほりゐにけり
にはのまつはらふあらしにおくしもをうは毛にわふるをしのひとりね
たれをまた夜ふかきかせにまつしまやをしまの千とりこゑうらむらむ
なかめやるころも手さむくふるゆきにゆふやみしらぬやまのはのつき
こまとめてそてうちはらふかけもなしさのゝわたりのゆきのゆふくれ
しろたへにたなひくゝもをふきませてゆきにあまきるみねのまつかせ
庭のおもにきえすはあらねと花と見るゆきはゝるまてつきてふらなむ
いくかへりはるをはよそにむかへつゝおくるとしのみ身につもるらむ
戀十首
ひさかたのあまてるかみのゆふかつらかけていく世をこひわたるらむ
まつか根をいそへのなみのうつたへにあらはれぬへきそてのうへかな
あはれともひとはいはたのおのれのみあきのもみちをなみたにそかる
しのふるはまけてあふにも身をかへつゝれなきこひのなくさめそなき
わくらはにたのむるくれのいりあひはかはらぬかねのおとそさひしき
あかつきはわかるゝそてをとひかほにやましたかせもつゆこほるなり
まつひとの來ぬ夜のかけにおもなれてやまのは出つるつきもうらめし
うきはうくつらきはつらしとはかりもひとめおほえてひとをこひはや
たれゆゑにつきをあはれといひかねてとりのねおそきさ夜の手まくら
見せはやなまつとせしまのわかやとをなほつれなさはことゝはすとも
旅五首
くさまくらゆふつゆはらふさゝの葉のみやまもそよにいくよしをれぬ
なみのうへのつきをみやこのともとしてあかしのせとを出つるふな人
いもと我といるさのやまは名のみしてつきをそしたふありあけのそら
こまなつむいはきのやまをこえわひてひともこぬみのはまにかもねむ
みやこおもふなみたのつまとなるみかたつきに我とふあきのしほかせ
山家五首
つゆしものをくらのやまにいへゐしてほさてもそてのくちぬへきかな
あきの日にみやこをいそくしつのめのかへるほとなきおほはらのさと
なみのおとに宇治のさとひとよるさへやねてもあやふきゆめのうき橋
柴の戶のあとみゆはかりしをりせよ[は]忘れぬ人のかりにもそとふ
にはのおもはしかのふしとゝあれはてゝよゝふりにけり竹あめるかき
鳥五首
やとになくやこゑのとりはしらしかしおきてかひなきあかつきのつゆ
手なれつゝすゑ野をたのむはし鷹のきみか御よにそあはむとおもひし
きみかよにかすみをわけしあしたつのさらにさはへのねをやなくへき
いかにせむつらみたれにしかりかねのたちともしらぬあきのこゝろを
わかきみにあふくまかはのさよ千とりかきとゝめつるあとそうれしき
祝五首
よろつよとゝきはかきはにたのむかなはこやのやまのきみのみかけを
あまつそらけしきもしるしあきのつきのとかなるへきくものうへとは
わかきみのひかりそゝはむはるのみやてらすあさ日の千よのゆくすゑ
をとこやまさしそふまつのえたことにかみも千とせをいはひそむらむ
あき津しまよものたみの戶をさまりて
いくよろつよも
きみそたもたむ
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