秋篠月淸集卷四雜/藤原良經
秋篠月淸集[藤原良經/據國哥大觀戰前版]
秋篠月淸集四
雜部
五行をよめる木
としへたる檜はらのそまのさひしきにたつきのおとのほのかなるかな
火
おもふへしたきゝのうへにもゆる火はよのことわりをあかすなりけり
土
おしなへてあめのしたなるものはみなつちをもとゝてありとこそきけ
金
來む世まてなかきたからとなるものはほとけとみかくこかねなりけり
水
きよくすむみつのこゝろのむなしきにされはとやとるつきのかけかな
東
つきも日もまつ出てそむるかたなれはあさゆふひとのうちなかめつゝ
西
あきかせもいり日のそらもかねのおともあはれは西にかきるなりけり
南
たまつさをまつらむさとのあきかせにはるかにむかふはつかりのこゑ
北
そなたしもふゆのけしきのはけしとやとちたる戶をもたゝくかせかな
中
むかしよりみやこしめたるこのさとはたゝわかくにのもなかなりけり
靑
なみあらふいは根のこけのいろまてもまつの木かけをうつすなりけり
黄
あきの日のひかりのまへにさくきくのかれのゝいろにまかひぬるかな
赤
あかねさすみねのいり日のかけそへて千しほそめたるいはつゝしかな
白
しもうつむかものかはらになく千とりこほりにやとるつきやさむけき
黑
くもふかきみやまのさとのゆふやみにねくらもとむるからすなくなり
曉觀(レ)佛
よこくものきえにしそらにおもふかなさとりはれにしつきのひかりを
夕聞(レ)經
いりあひのかねのおとこそたくふなれこれとてのりのこゑならぬかは
夜尋(レ)僧
ふけぬれはつゆとゝもにやゝとらましいは屋のほらのこけのむしろに
曉
をしきかないりかたちかきあかつきのまたやみふかきこの世と思へは
山家のこゝろを
ひとりさはみやまのはるにくらせとやけふまてひとのとはぬさくらを
やまかけやのきはのこけのしたくちてかはらのうへにまつそかたふく
やまさとにかれにしくさははるのゆめひと夜にあきのかせそおとろく
つき見はといひしはかりのひとはこすよもきかうへにつゆしけきには
よのうさのねをやたえなむやまかはのうれしくみつのさそふうきくさ
しをりせて入りにしやまのかひそなきたえすみやこにかよふこゝろは
かりそめのうき世出てたるくさのいほにのこるこゝろはふるさとの夢
みよしのもはるのひとめはかれなくにはなゝきたにのおくをたつねむ
ふもとまておなしさゝはらあともなしみやまのいほのつゆのしたみち
いかはかりゆめの世あたにおもふらむみやまのいほの夜はのあらしに
まつひとのなきにかゝれるわか身かな物おもふあきの入りあひのそら
たきのおとまつのひゝきのさひしきにつれなくあかすいはまくらかな
ひとりこそおもひ入りにしおくやまにしかもなくなりみねのまつかせ
あしひきのやまかけならすゆふまくれこの葉いろつくひくらしのこゑ
をはりおもふすまひかなしきやまかけに玉ゆらかゝるあさかほのつゆ
院より八幡若宮の哥合六首のうち山家松
すみはてゝひとはあとなきいはの戶にいまもまつかせにはゝらふなり
院より春日のやしろにてうたあはせ三首のうち松風
つゆしくれそてにもらすなみかさやまくもふきはらへみねのまつかせ
夢中述懷
うたゝ寐のはかなきゆめのうちにたに千ゝのおもひのありけるものを
まことにも世のことわりをしるひとはこともおろかにいとふへきかは
述懷
よのうきはひとのこゝろのうきそかしひとりをすまむみやこなりとも
ふちも瀨もひまなくかはるあすかゝはひとのこゝろのみつやなかるゝ
はらはてやのきはのくさにまかせましふるきをしのふこゝろしけりて
そめおきしうき世のいろをすてやらてなほはなおもふみよしのゝやま
つほむより散るへきいろのものなれやあらしにはなはやとるなりけり
をりをりのこゝろにそめてとしもへぬあきことのつきはることのはな
なかき夜のふけゆくつきをなかめてもちかつくやみをしるひとそなき
てらすらむつき日のひかりくもらすはそらをたのみて世をやすきまし
皇太后宮大夫入道かもとへせうそこしてはへりし返事にかくいひつかはしたりける
あきのときすてゝしたにのうもれ木をうれしくもとふまつのかせかな
かへし
きみをとふかひなきころのまつのかせわれしもはなをよそにきくかな
前大僧正のもとより
よのなかにおもひつらぬるまくらにはなみたのたまのせくかたそなき
いたつらによもきかつゆと身をなしてきえなむのちの名こそをしけれ
かへし
世のなかになほたちめくるそてたにもおもひ入るれはつゆそこほるゝ
きみもゝしよもきかつゆと身をなさはやかてやきえむのりのともしひ
天王寺にて
にしおもふこゝろありてそ津のくにのなにはわたりは見るへかりける
院にて三體の哥をめしけるに髙哥
春
はるかすみあつまよりこそたちにけれあさまのたけはゆきけなからに
夏
まつたてるよさのみなとのゆふすゝみいまもふかなむおきつしほかせ[與謝]
痩哥
秋
をきはらやよはにあきかせつゆふけはあらぬたま散るとこのさむしろ
冬
やま里はまきの葉しのきあられふりせきいれしみつのおとつれもせぬ
艷哥
戀
わすれなむなかなかまたしまつとても出てにしあとはにはのよもきふ
旅
ゆめにたにあふ夜まれなるみやこひとねられぬつきにとほさかりつゝ
瀧水をよめる
あまのかはなかれやみねにかよふらむしらくもおつるたきのみなかみ
和羽林次將大原之作
ありあけのつきまつやまのふもとにてうき世のやみはおもひしりにき
舎利講のついておもひを
さまさまのひとのおもひのすゑやいかにおなしけふりの空にかすめる
八月十五夜前座主のもとより
やよやつきこそまたいさやをとゝしもこよひのそらはかきくもりしを
いかなれははれゆくそらのつき見えてわかこゝろのみくもかゝるらむ
かへし
みとせまてくもりしつきもはれぬれはなほひかりそふそらをまつかな
こよひとてはれゆくつきのかひそなききみかこゝろのくもかくれせは
宜秋門院御樣變わせ給ひて次の日座主のもとより
いへを出てゝいまはうれしきみちしはによそにはつゆの猶やおくらむ
入るひとのしるへよそなるこゝろよりまことのみちにくすのうらかせ
かへし
よそにしてぬらすそてこそはかなけれこれそまことのみちしはのつゆ
しるへせぬそのよのみちのゆくすゑになほたちかへれくすのうらかせ
院にて當座の御會に松を
すみよしのかみやまことにことの葉をきみにつたへしまつかせのこゑ
ひとゝきのいろはみとりになほしかしたつたのもみちみよしのゝはな
くやしくそつきにふくよのまつかせを
やとのものとも
なかめきにける
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