秋篠月淸集卷四戀/藤原良經
秋篠月淸集[藤原良經/據國哥大觀戰前版]
秋篠月淸集四
戀部
髙陽院の初度の御會にこひのうたよみけるに
こほりゐる志賀のうらふくはるかせのうちとけてたにひとをこひはや
しらくものたなひくそらにふくかせのおもひたえなむはてそかなしき
君かあたりわきてとおもふときしもあれそこはかとなきゆふ暮のそら
契(二)暮秋(一)戀
あきはをしちきりはまたるとにかくにこころにかゝるくれのそらかな
北野の宮のうたあはせに久戀
いそのかみふるのかみすきふりぬれといろには出てすつゆもしくれも
構(二)他人(一)戀
しられてもいとはれぬへき身ならすはなをさへひとにつゝむへしやは
嵐前戀(レ)人
ひとりぬるよはのころもをふきかへしさてもあらしは見せぬゆめかな
聞(二)虫聲(一)增戀
ひとり寢のまくらにむしはやとりけりおのかこゑよりつゆをおかせて
晝夜思戀
ひるはよるよるはひるなるおもひかななみたにくらしとこにおきゐて
月前戀
きみにわかうとくなりにしその日よりそてにしたしきつきのかけかな
舟裏戀
うきふねのたよりもしらぬなみ路にも見しおもかけのたゝぬ日そなき
戀耻(二)傍輩(一)
とふひとはしのふなかとやおもふらむこたへかねたるそてのけしきを
三島江戀
たか瀨ふねほのみしま江にこきかへりあしまのみちのなほやさはらむ
後朝戀
あかつきのきりのまよひにたちわかれきえぬる身ともしらせてしかな
五首のうた被(レ)講し中に戀を
ふくかせもものやおもふとゝひかほにうちなかむれはまつのひとこゑ
戀のうたよみける中に
すさましくとこもまくらもなりはてゝいく夜ありあけの月をやとしつ
ものおもふたゝひとり寐のさむしろにあたりのちりよいく夜つもりぬ
おもひ寐のゆめになくさむほとはかりまくらのつゆの夜はのむらきえ
よせかへるあらいそなみのしきなみにまなくときなくぬるゝそてかな
なみたせくそてにおもひやあまるらむなかむるそらもいろかはるまて
ゆふくれのくものはた手のそらにのみうきて物おもふはてをしらはや
とめこかしきみまつかせのかひなくは物おもふやとのはなのをりをり
おちたきつかは瀨のなみのいはこえてせきあへぬ袖のはてをしらはや
しのふことおもはさるらむなには女のすくもたくひもしたそこかるゝ
それはなほゆめのなこりもなかめけりあめのゆふへもくものあしたも
やまのゐにむすひもはてぬちきりかなあかぬしつくにかつきゆるあわ
水無瀨殿にて九月十三夜戀の十五首の哥合に春戀
うくひすのこほれるなみたとけぬれとなほわかそてのむすほゝれつつ
夏戀
くさふかきなつのわけゆくさをしかのねをこそたてねつゆそこほるゝ
秋戀
せくそてになみたの色やあまるらむなかむるまゝのはきのうへのつゆ
冬戀
あしかものはらふつはさにおくしものきえかへりてもいく夜へぬらむ
曉戀
もりあかすみつのしらたまいはこえてたゆむもしらぬそてのうへかな
夕
なにゆゑとおもひもいらぬゆふへたにまち出てしものを山のはのつき
羇中戀
うつのやまうつゝかなしきみちたえてゆめにみやこのひとはわすれす
山家戀
山かつのあさのさころもをさをあらみあはてつき日やすきふけるいほ
故鄕戀
すゑまてとちきりてとはぬふるさとにむかしかたりのまつかせそふく
旅泊
まてとしもたのめぬ磯のかちまくらむしあけのなみの寢ぬ夜とひぬる
關路戀
わかこひやこのよをせきとすゝかやますゝろにそてのかくはしをれし
海邊戀
うちわすれ藻にすむゝしはよそにしてすまのあまりにうらみかけつる
河邊戀
泊瀨川ゐてこす波の岩のうへにおのれくたけて人そ戀し[つれな]き
寄(レ)雨戀
こぬ人をまつよなからののきのあめにつきをよそにてわひつゝやねむ
寄(レ)風戀
をきはらやよそにきゝ來しあきのかせ物おもふくれはわか身ひとつに
院の選哥合に遇不(レ)會戀
しはしこそこぬよあまたとかそへてもなほやまのはのつきをまちしか
院の影供の哥合に忍戀を
はつ瀨かはなひくたま藻のしたみたれくるしやこゝろみかくれてのみ
おなし影供の當座に月前戀
わくらはにまちつるよひもふけにけりさやはちきりしやまのはのつき
おなし影供に依(レ)忍增戀
せきかへすそてのしたみつしたにのみむせふおもひのやるかたそなき
おなし影供旅曉戀
わくらはのかせのつてにもしらせはやおもひをすまのあかつきのゆめ
和哥所の初度の影供に初戀
すまのあまの藻しほのけふりたちまちにむせふ思ひをとふひとのなき
久戀
なにはひといかなる江にかくちはてむあふことなみに身をつくしつゝ
家の選哥合に夏戀
うつせみのなくねやよそにもりのつゆほしあへぬそてを人のとふまて
家の會に變(レ)契絕戀
ひきかへてあたしこゝろのすゑのまつまつ夜のはてはなみそこしぬる
宇治にて院の御會の五首の中夜戀
まちわひぬこよひもさてやゝましなのこはたのみねのをちのしらくも
北野の宮のうたあはせ忍戀
もらしわひこほりまとへるたにかはの
くむひとなしに
ゆきなやみつゝ
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