秋篠月淸集卷三祝/藤原良經
秋篠月淸集[藤原良經/據國哥大觀戰前版]
秋篠月淸集四
祝部
女御入内の月次の御屏風の哥第一帖
小朝拜列立所
たちそむるくもゐのはるはもろひとのそてをつらぬるにはに見えけり
のへのこまつはらにねの日するところ
かすかのゝこまつにゆきをひきそへてかつかつ千よのはな咲きにけり
山のに霞立わたりたるところ住吉の松もあり
なかめやるとほさとをのはほのかにてかすみにのこるまつのかせかな
第二帖
花たけのあいたにうくひすある所ひとのいへもあり
はるの日ののとかにかすむこすゑよりうちとけそむるうくひすのこゑ
春日祭社頭儀
いくはるのけふのまつりをみかさやまみねのあさ日のすゑもはるかに
人の家幷に野邊に梅の花咲きたるところ
うめのはなにほふのへにてけふくれぬやとのこすゑをたれたつぬらむ
第三帖
澤邊春駒
しもかれしはらのゝさはのあさみとりこまもこゝろはゝるにそめけり
山野幷に人家さくらはなさかりに又咲きたるところ霞もあり
おしなへてくもにきはなきはなさかりいつくもおなしみよしのゝやま
ひとのいへのにはにふちさかりにはな咲きたるところ山に木もあり
よろつよのはるしりそむるふちのはなやとはくもゐにみするなりけり
第四帖
人の家に更衣したる所うのはなかきもあり
けふよりは千よはかさねむはしめとてまつひとへなるなつころもかな
賀茂社祭神館儀式葵つけたるひとの參詣したる所
けふ見れはかもの御あれにあふひくさひとのかみにもかけてけるかな
早苗植ゑたるところ
さなへとる田子のこゝろはしらねともそよきしあきのかせそまたるゝ
第五帖
雲間郭公鳴きわたるところひとのいへもあり
おもひしれありあけかたのほとゝきすさこそはたれもあかぬなこりは
菖蒲かりたるところひとのいへに葺きたるところあり
かせふけはよはのまくらにかはすなりのきのあやめのおなしにほひを
ひとのいへのにはになでしこ咲きたるところ
ませのうちにきみかたねまくとこなつの花のさかりを見るそうれしき
第六帖
山井の邊に人ゝ納凉したるところ泉あり
やまかけや出つるしみつのさゝなみにあきをよすなるならのしたかせ
野邊の杜の間に夏草しけるところ
すゝみにとわけ入るみちはなつふかしすそのにつゝくもりのしたくさ
河邊に六月祓したる所
なつの日をかねてみそきにすつるかなあすこそあきのはしめと思ふに
第七帖
山野幷に人の家あきかせふきたるところをきあり
ゆふされは野やまのけしきいかならむあきかせたちぬにはのをきはら
のゝはなさかりに咲きて人ゝあつまりたるところ又ほりとるところもあり
あきのゝの千くさのいろをわかやとにこゝろよりこそうつしそめつれ
山野幷林間鹿有所
かすかやまゝつのあらしにこゑそへてしかも千とせのあきとつくなり
第八帖
人家池邊人ゝ翫(レ)月所
くもはるゝみそらやいけにうつるらむみなそこよりもつきは出てけり
相坂の關に駒迎に行きむかふ所淸水あり
あつまよりけふあふさかのせきこえてみやこに出つるもちつきのこま
田の中にひとのいへあるところ
やまたもるしつかいほりにおとつれていな葉にやとるあきのゆふかせ
第九帖
やまの中にきくさかりにひらきたる邊に仙人有る所
きみかよににほふやま路のしらきくはいくたひつゆのぬれてほすらむ
山野幷に人の家に紅葉さかりにしたるところ人ゝこれを翫ふ
あきゝりのはれゆくまゝにいろ見えてかせもこの葉をそむるなりけり
海邊に霧立たる所
ほのほのとあかしのうらを見わたせはきりのたえまにおきつしらなみ
第十帖
海邊にちとりあるところあまひとのしほ屋あり
とも千とりおきのこしまにうつるなりきしのまつかせ夜さむなるらし
網代にひとあつまりたるところ落葉あり
もみち葉をみやこのひとのこゝろまて日をへてよする瀨ゝのあしろ木
江澤の邊寒蘆しけりたるところ鶴もあり
なにはかたあしはかれ葉になりにけりしもをかさぬるつるの毛ころも
第十一帖
五節參入所
さよふけてとよのあかりのもろひとのをとめむかふるくものかよひ路
賀茂臨時祭上社社頭儀式
みたらしのかはへにさよはふけにけりたちまふそてにしも冱ゆるまて
野邊に鷹狩したるところ
けふくれぬあすもかり來むかたのはらかれのゝしたにきゝすなくなり
第十二帖
内侍所御神樂
雲のうへにかみもこゝろやはれぬらむつき冱ゆる夜のあかほしのこゑ
山野の竹樹なとにゆきふりつみたむ[儘]ところひとのいへあり
なかめやるこゝろのみちもたとりけり千さとのほかのゆきのあけほの
歳暮に下人等山より松なときりていつる所
千よふへきまつさへやまを出てにけりはるをいとなむしつにひかれて
泥繪御屏風
夏樹䕃納凉
なつ草のかせにみたるゝゆふくれはあきのみふかきおほあらきのもり
冬池上氷
いけみつに冱ゆるひかりをたよりにてこほりはつきのむすふなりけり
院にて入道釋阿に九十賀給はせける屏風のうたに春帖
霞
はるかすみしのにころもをおりはへていくかほすらむあまのかくやま
若草
みよしのはくさのはつかにあさみとりたかねのみゆきけさやきゆらむ
花
おいらくのけふこむみちはのこさなむ散りかひくもるはなのしらゆき
夏帖
郭公
かさしをるひとやたのめしほとゝきすみわの檜はらに來つゝなくなり
五月雨
をやま田にひくしめなはのうちはへてくちやしぬらむさみたれのころ
納凉
紀のくにやふきあけのはまによるなみのよるへすゝしきいそまくら哉
秋帖
秋野
さをしかのいるのゝあきのしたつゆにたれつまこめてくさむすふらむ
月
このころはあき津しまひとゝきをえてきみかひかりのつきを見るかな
紅葉
やまこゆるかりのつはさにしもおきてよものこすゑはいろつきにけり
冬帖
千鳥
はまちとりあとふみつけよいもかひもゆふはかはらのわすれかたみに
氷
はつ瀨めのしらゆふはなはおちもこすこほりにせけるやまかはのみつ[白木綿]
雪
ふりにけるともとやこれをなかむらむゆきつもりにしこしのしらやま
今上の一宮生れさせたまひての七夜人ゝさかつきとりてよみける
ひかりそふくもゐのつきをみかさやま千よのはしめはことしのみかは
中宮の初度の御會に月契(二)秋久(一)
よろつよのつきをはあきのひかりにてたえぬちきりはくもゐにそ見る
庭梅久芳
わかそてにのきはのうめの馨をとめよはなはいくよもはるそにほはむ
渡(二)新所(一)之後初度之會に松延(レ)齡友
千よまてとちきるこゝろやかよふらむまつにこたふるかせのおとつれ
大臣のゝちの初度の會に松不(レ)改(レ)色
はるくれはいまひとしほのみとりこそかはらぬまつのかはるなりけれ
春日山を祝によせてよみける
くもりなき千よのひかりはかすかやまゝつより出つるあさ日なりけり
祝の哥とてよみける
それもなほ千よのかきりのありけれはまつたにしらぬきみか御よかな
しもやたひおけとかはらぬまつもなほきみか御よにやおひかはるへき
みやまよりまつの葉わけて出つるつき千よにかはらぬひかりなりけり
千よやちよとしなみこゆるすゑのまつくちかはるともきみはときはに
おのつからをさまれる世やきこゆらむはかなくすさふやまひとのうた
かみかせや御裳すそかはのなかれこそつき日とゝもにすむへかりけれ
院於鳥羽殿初度の御會に池上松風
つたへこしふるきなかれのいけみつになほ千よまてとまつかせそふく
院の選哥合に寄(二)神祇(一)祝
きみかよのしるしとこれをみやかはのきしのすきむらいろもかはらす
院の十番のうたあはせ神祇
かみかせやみもすそかはにちきりおきしなかれのすゑそ北のふちなみ
おなしにはのまつ
にはのいしもいはとなるへき君かよにおひそふまつのたねそこもれる
院の影供に松邊千鳥
たかさこのまつをともとしなく千とりきみかや千よのこゑやそふらむ
いへのうたあはせに春祝
かすかやまみやこのみなみしかそ思ふきたのふちなみはるにあへとは
院の御會に初春祝
はるといへは八重立かすみかさねてもいくよろつよをそらにこむらむ
和哥所おかれて初度の御會に松月夜深
まつかせにけふよりあきをちきりおきてつきにすむへきわかのうら人
城南寺にて祈(レ)雨御會に社頭祝
たみの戶もかみのめくみにうるふらしみやこのみなみゝやゐせしより
京極殿の初度の御會に松有(二)春色(一)
おしなへてこのめもはるのあさみとり
まつにそ千よの
いろは見えける
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