秋篠月淸集卷三冬/藤原良經


秋篠月淸集[藤原良經/據國哥大觀戰前版]



秋篠月淸集三

 冬部

  ふゆのはしめに

はるかなるみねのくもまのこすゑまてさひしきいろのふゆは來にけり

この葉散りてのちにそおもふおくやまのまつには風もときはなりけり

なかれよるたにのいはまのもみち葉にをかはのみつのすゑそこかるゝ

いたまもるつきはよなよなかけきえてまやのゝきはにこの葉をそきく

  院の選哥合の十首のうち嵐吹(二)寒草(一)

この葉散りてのちはむなしき外やまよりかれのゝくさにあらしおつ也

  雲似(二)白雲(一)

みねのゆきもさらにふもとのこゝちしてくもをかさぬるこしのしら山

  院の十首のうたあはせのうち曉雪

よもすからかさなるくものたえまよりつきをむかふるみねのしらゆき

  水鳥

冱ゆる夜にむれゐるとりのおとなれやこほりのうへになみをきくかな

  院の影供に寒野冬月

ゆくとしをとふ火のゝもり出てゝ見よいまいくかまてふゆのよのつき

  又影供に山家朝雪

うちはらひけさたにひとのとひこにしのきはのすきのゆきのしたをれ

  家の會に野徑雪深

しらくもゝひとつに冱えてむさしのゝゆきよりをちはやまのはもなし

  千鳥聲遠

をちかたのうらひといまやねさめしてとわたる千とりちかくきくらむ

  行路雪

たまほこのみちゆくそてのしろたへにそれとも見えすおけるあさしも

  遠山雪

ゆきて見はけふもくれなむあしひきのやまのはしろきゆきのあけほの

  行路朝雪

ゆくひとのあとにそゆきはしられけるつきよりのちのやまのはのつき

  遠近千鳥

をちかたやともよひすてゝたつ千とりおくるゝこゑそそらにのこれる

  家の選哥合の十首のうち庭雪

ふるゆきにまかきかたしくゝれたけのにはのふしとはしたこほりつゝ

  いへのうたあはせに寒樹交(レ)松

しくれこしいろやみとりにかへるらむこの葉はれのくまつのあらしに

  池水半氷

いけみつをいかにあらしのふきわけてこほれるほとのこほらさるらむ

  山家夜霜

くさむすふよはの戶さしのかれしよりうちもあらはにおけるしもかな

  關路雪朝

すゝかやませきのとあくるしのゝめになほみちたゆるみねのしらゆき

  水鳥知(レ)主

にほとりのなみにまかするうき巢たになれぬみきはにわきてよるらむ

  旅泊千鳥

おのれたにことゝひこなむさよ千とりすまのうき寢にものやおもふと

  羇中曉風

あらしふくつゆのかこともかすそひてはやまのすそにやとりわひぬる

  湖上冬月

志賀のうらのみきはゝかりはこほりにてにほてるつきをよするしら波[鳰]

  爐邊懷舊

したにのみしのふむかしのかひなきやかきあらはさぬ夜はのうつみ火

  寄(二)歳暮(一)戀

わすれすはあふ夜をまたむなみたかはなかるゝとしのすゑをかそへて

  家の會に河水を

かつこほるなみやあらしにくたくらむきよたきかはのあかつきのこゑ

  吉野山寒月

ひとゝせをなかめはてつるよしのやまむなしきえたにつきそのこれる

  伏見里雪

さとわかぬゆきのうちにもすかはらやふしみのくれはなほそさひしき

  雪の朝座主のもとへつかはしける

ゆきのあとをしからぬまてなりにけりきみまつやとのにはをなかめて

  かへし

我やとはひとをわきてそあとをゝしむしつしもゆきにいとひけるにそ

  雪の朝三位入道のもとへつかはしける

わけ來へきひとなきやとのにはのゆきにわれあとつけて君をとふかな

きみかすむまつの扉のゆきのあしたなほふりゆかむすゑをこそおもへ

  かへし

きみかとふあとつけそむるはつゆきをつもらむすゑもたのまるゝかな

ふりはてゝゆきゝえぬともきみかよをまつのとほそはなほたつねみよ

  田家時雨

をしねつむやま田のいほはあきすきてそてをしくれにほさぬころかな

  山家冬月

やまおろしのけしきはかりやふゆならむみやこなりせは秋のよのつき

  十月はかり宇治にて

あきのいろのいまはのこらぬこすゑよりやまかせおつるうちのかは波

くさまくらまたおとつれのなきまゝになみにおとろくふるさとのゆめ

しもさゆるすきのいたまのめもあはすたれまつそてにつきこほるらむ

よもすからこほれるつゆをひかりにてにはのこの葉にやとるつきかけ

  冬のうたの中に

しもこほる眞すけかしたにとちてけりそかのかはらのみつのしらなみ

いくたひかねさめしつらむそてのつゆこほれる夜はのあかしかたさに

おほふへきそてこそなけれ世のなかのまつしきたみのさむきよなよな

  閑居聞(レ)霰

さゆる夜のまきのいた屋のひとり寐にこゝろくたけてあられふるなり

  山水始氷

よしのかはたきのみなかみこほるらしけさよわりゆくいはなみのこゑ

  池氷曉結

あけかたのなみまのつきや冱えぬらむそれよりこほるひろさはのいけ

  池氷似(レ)

としをへてかけ見るいけのこほれるやむかしをうつすかゝみなるらむ

  網代眺望

なみのうへにこゝろのすゑのかすむかなあしろにやとる宇治の明ほの

  氷

なみよする志賀のからさきこほりゐておきはみきはとなりにけるかな

  千鳥

てるつきのかけにまかせてさよ千とりかたふくかたにうらつたふなり

  水鳥

やまかはのつらゝのとこにすむをしのおのか羽ふきにそふあらしかな[鴛]

  樵夫

はなと見するつま木のゆきのいつはりをおひてそかへるふゆのやま人

  深草里人

ふかくさやうつらもすまぬかれのにてあとなきさとをうつむしらゆき

  野亭深雪

のなかなるあしのまろ屋にあきすきてかたふくのきにゆきおもるなり

  山家雪

うかりけるまたやまふかきやともあらはひとをもとはむゆきの明ほの

ゆきをれのみねのしひしはひろふとてあと見せそむるふゆのやまさと

  社頭雪

みかさやまむかしの月をおもひ出てゝふりさけ見れはみねのしらゆき

  雪中眺望

ゆきしろきよものやまへをけさ見れははるのみよしのあきのさらしな

  雪ふりけるに定家朝臣かもとへつかはしける

つれなくはきみもやとふとおもひつるけさのゆきにもつひにまけぬる

  かへし

わかやとのにはのあとにもつれなくてとはむこゝろのふかさをそしる

  山里にて雪の朝によめる

みやこにはしくれしほとゝおもふよりまつこのさとはゆきのあけほの

  ふゆのうたよみける中に

かさねてもひとまつにはのけしきかなゆきにやとれるふゆのよのつき

したをれのたけのひゝきに散るゆきをはらふとすれとそてそさむけき

さひしさはいつもなかめのものなれとくもまのみねのゆきのあけほの

ゆくとしのなかるゝかけはゝやけれとをりしもきくかたにかはのみつ

  歳暮雪

世のなかははるのとなりになりぬれとかきねのほかもおなしゝらゆき

ゆきつもる木すゑにくもはへたつれとはなにちかつくみよしのゝやま

  歳暮

あけぬよりはるのかすみもたちやせむこよひはさすなしらかはのせき

  家の選哥合に冬述懷

世にすめははやくもとしのくるゝかなこゝろのみつはかつこほれとも

  院於(二)春日御社(一)哥合三首のうち落葉を

しかのたつもりの木かけのからにしきふきしくかせはかみのまにまに

  北野の宮のうたあはせ時雨

むらくもにおくれさきたつ夜はのつき

   しらすしくれの

      いくめくりとも








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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