秋篠月淸集卷三春/藤原良經
秋篠月淸集[藤原良經/據國哥大觀戰前版]
秋篠月淸集三
春部
はるたつ日ゆきのふりけれは
よしのやまなほしらゆきのふるさとはこそとやいはむはるのあけほの
はるのはしめに
としくれしくもゐのゆきけはれそめてたえたえあをきしのゝめのそら
うこきなきやまのいは根はこたへねとはるをそつくるゆきのしたみつ
このころはたにのすきむらゆきゝえてかすみもしらぬはるのやまかせ
千さとまてけしきにこむるかすみにもひとりはるなきこしのしらやま
うくひす
ゆきはのこり花もにほはぬやまさとにひとりはるなるうくひすのこゑ
殘雪
あふさかのすきの木かけにやとかりてせき路にとまるこそのしらゆき
はるのうたよみける中に
はるやときのきはのうめにゆき冱えてけふまてはなのえたにのこれる
院の十首のうたあはせ若草
はるかせのふきにし日よりみよしのゝゆきまのくさそいろまさりゆく
おなしうたあはせに落花を
あたら夜のなかめしはなにかせふけはつきをのこしてはるゝしらくも
院の選哥合の十首の中霞隔(二)遠樹(一)
なかめこしおきつなみまのはまひさきひさしく見せぬはるかすみかな[濱楸]
おなしうたあはせに羇中花
けふもまたさくらにやとをかりころもきつゝなれゆくはるのやまかせ
おなし御會に松間鶯
ゆきをれのまつをはるかせふくからにまつうちとくるうくひすのこゑ
おなし御會に朝若菜
みやこひとけふのためにとしめし野にあさつゆはらひわかなをそつむ
おなし御會の三首春風不(レ)分(レ)處
おしなへてたみのくさ葉もうちなひきゝみか御よにははるかせそふく
梅花薰(二)曉袖(一)
をる袖のつゆのかことにかけ見れはありあけのつきもうめの馨そする
晩霞隔(二)春山(一)
かさぬへきかすみのそてもたゝひとへいかにやとらむやまのゆふかけ
建仁三年春上皇大内の花御らんしけるに散りたるはなを御手はこの葢に入てたまひける
けふたにもにはをさかりとうつる花きえすはありともゆきかとも見よ
御かへし
さそはれぬひとのためとやのこりけむあすよりさきのはなのしらゆき
大原にまかりてはな見侍りけるに日の暮にけれは
はなにあかぬなこりをおもふはるの日のこゝろもしらぬ鐘のおとかな
いへのうたあはせに曉霞を
いはとあけしかみよもいまのこゝちしてほのかにかすむ天のかくやま
彼岸梅花
はるのいけのみきはのうめの咲きしよりくれなゐくゝるさゝ波そたつ
朝花
あさあらしにみねたつくものはれぬれは花をそはなとみよしののやま
山花
みやこにはかすみのよそになかむらむけふ見るみねのはなのしらくも
はるのうたとて
ほともなくかれのゝはらをやきしよりはるのわかくさもえかはるなり
きりおつるおほろつき夜にまとをあけてころも手さむきはる風そふく
しもきえてうちいつるなみやこたふらむかすめるやまのあかつきの鐘
ねぬる夜のほとなきゆめとしられぬるはるのさくらにのこるともしひ
歸雁
なかむれはかすめるそらのうきくもとひとつになりぬかへるかりかね
はるの哥よみける中に
むらさきのにはものとかにかすむ日のひかりともなふうくひすのこゑ
さとわかすなかめしあきのつきよりもみやまのはなのひとしをるらむ
あしの屋のなたのしほやきいとまあれやいそ山さくらかさすあまひと
ふるきあとそかすみはてぬるたかまとのをのへの宮のはるのあけほの
初瀨山春
はつせやまはなにうき世やのこるらむいほあはれなるはるの木のもと
内裏の直盧に侍りける比大乘院座主無動寺より申しおくれりける
みやこにはやよひのそらのはなさかりしるやみやまはまたゆきの散る
かへし
しらさりつけふこゝのへのはなを見てなほしらゆきのふかきやまとは
おなしころ又やまより
見せはやな志賀のからさきふもとなるなからのやまのはるのけしきを
かへし
わかおもふこゝろやゆきてかすむらむ志賀のあたりのはるのけしきに
はなさかりに大内におはしましける比公衡卿のもとより女房の中へ
風のおとはのとけゝれとも日かすへてはなやくもゐのゆきとふるらむ
かへそ女房にかはりて
このはるはきみをまちけるはなゝれは散らて日かすをふるとしらすや
おなし比南殿のはなをゝりてひとのもとへつかはしける
みやひとのかさすくもゐのさくらはなこのひとえたはきみかためとて
前齋院大炊門におはしましける比女房の中より八重さくらにつけて
ふるさとのはるをわすれぬ八重さくらこれや見しよにかはらさるらむ
かへし
八重さくらをりしるひとのなかりせは見し世のはるにいかてあはまし
宇治平等院にて一切經の會の後朝の會に
のりのみつやそうちかはにせきとめてはなとゝもにやはるをまちけむ
おなし日當座の會に依(レ)花留(レ)客といふこゝろを
はることの花のちきりになれなれてかせよりかれむころをしそおもふ
又の日中宮の女房とも舟にのりて公卿殿上人なとの物のおとならしてあそひけるにはてつかたに人ゝ舟中見(レ)花とふことをよみけるに
ふもとゆくふな路はゝなになりはてゝなみになみそふやまおろしの風
當世の女房の哥よみともに百首哥よませて披講せしついてに五首のうたよみける中に春のこゝろを
あたら夜のかすみゆくさへをしきかなはなとつきとのあけかたのやま
はなのうたよみける中に
さくらさ咲く比良のやまかせふくまゝにはなになりゆく志賀のうら波
はれくもりみねさたまらぬしらくもはかせにあまきるさくらなりけり
みやま路や散りしくはなをふましとてまつのしたゆくたにのいははし
散りまかふさくらをかせのふきよせてふかきなみたつかつまたのいけ
喚子鳥を舎利講のついてに
ときしもあれ我こたへよとよふことりかたふくつきのにしのくもゐに
はるの暮に
やまさとのひともこすゑにはるくれてあさちかすゑにはなはうつりぬ
ふる巢うつむくものあるしとなりぬらむ馴しみやこをいつるうくひす
三月盡
おとろかすいりあひのかねになかむれは
けふまてかすむ
をはつ瀨の山
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