秋篠月淸集卷二句題五十首/藤原良經
秋篠月淸集[藤原良經/據國哥大觀戰前版]
秋篠月淸集二
句題五十首
初春待(レ)花
はる來てもつれなき花のふゆこもりまたしとおもへはみねのしらくも
山路尋(レ)花
はなを見てこそのしをりはあともなしゆきにそまかふみよしのゝやま
山花末(レ)遍
はなもまたさかぬかたにはやまかはのうちいつる波をはるのものにて
朝見(レ)花
ほのほのとはなは外やまにあらはれてゆきにかすみのあけはなれゆく
遠村花
たつねはやたかすむさとのひとむらそぬしおもほゆるはなのおくかな
故鄕花
かはらしな志賀のみやこのしかすかにいまもむかしのはるのはなその
田家花
なれなれてかと田のさはにたつかりのなみたのつゆははなにおちけり
古寺花
のかれすむをはつ瀨やまのこけのそてはなのうへにやくもに臥すらむ
花似(レ)雪
よしのやまこのめもはるのゆきゝえてまたふるたひはさくらなりけり
河邊花
すゝかゝはなみとはなとのみちすからやそ瀨をわけしはるはわすれす
深山花
かへり見るやまはゝるかにかさなりてふもとのはなも八重のしらくも
暮山花
み山いてゝはなのかゝみとなるつきは木のまわくるやくもるなるらむ
古溪花
しもとゆふかつらきやまのたにかせにはなのゆきさへまなく散るなり
關路花
あふさかのせきふみならすかちひとのわたれとぬれぬはなのしらなみ
羇中花
たひねするはなのしたかせたちわかれいな葉のやまのまつそかひなき
湖上花
くものなみけふりのなみや散るはなのかすみにしつむにほのみつうみ
橋下花
あつま路のさのゝふなはしゝらなみのうへにそかよふはなの散るころ
花下送(レ)日
ふるさとのあれまくたれかをしむらむわか世へぬへきはなのかけかな
庭前落花
はるさめのわか身世にふるなかめよりあさちかにはにはなもうつりぬ
暮春惜(レ)花
さほひめのかすみのそてのはなの馨もなこりはつきぬはるのくれかな
初秋月
あきは來ぬつゆはたもとにおきそめぬ木のまのつきのもらぬ夜そなき
月前草花
ふるさとのもとあらのこ萩咲きしよりよなよなにはのつきそうつろふ
雨後月
ふかきよのはしにしたゝるあきのあめのおとたえぬれは軒はもるつき
松間月
まつかけのまやのあまりにさし入りてこすゑにつきはかたふきにけり
山家月
つき見はといひしはかりのひとは來てまきの戶たゝくにはのまつかせ
月前竹風
ひとりかもつきはまちいてゝくれたけのなかなかし夜をあき風そふく
野徑月
ゆくすゑはそらもひとつのむさし野にくさのはらよりいつるつきかけ
澤邊月
つきかけのわすれすやとるわすれみつ野さはにたれかあきをちきりし
月前聞(レ)雁
こし路より千さとのくもをへたて來てみやこのつきにはつかりのこゑ
浦邊月
かりまくらつきをしきつのころも手にたちよるなみもうらふれにけり
月照(二)瀧水(一)
やまひとのころもなるらししろたへのつきにさらせるぬのひきのたき
杜間月
ふりにけるたつたのもりはかみさひて木のもとてらすあきのよのつき
月前秋風
そのいろとおもひわけとやあきかせのこゝろつくしのつきにふくらむ
江上月
たひゝとをおくりしあきのあとなれやいり江のなみにひたすつきかけ
月前蟲
たれとなくひとまつむしをしるへにてさそふかのへにひとりゆくつき
月前聞く(レ)鹿
さをしかもをのゝくさ臥しふしわひてつき夜よしとやつまをこふらむ
旅泊月
わするなよいてしみやこの夜はのつきゝよ見かせきにめくりあふまて[淸見關]
月前草露
あきの夜はませもるつゆのはかなさもつきの夜すからならぬものかは
菊籬月
つきのすむそらにまれなるほしのいろをまかきにのこすしらきくの花
暮秋曉月
あきはいますゑ野にならすはしたかのこひしかるへきありあけのつき[鷹]
寄(レ)雲戀
うつりゆくひとのこゝろはしらくものたえてつれなきちきりなりけり
寄(レ)風戀
ゆきかよふかせのつてにもなれぬれはふき來ぬよひはこひしきものを
寄(レ)雨戀
わすられてわか身しくれのふるさとにいはゝやものをのきのたまみつ
寄(レ)草戀
やすらひにたのめて出てしあとしあれは猶まつものをにはのよもきふ
寄(レ)木戀
たかあきのこゝろこの葉にかれにけむまつとしきかはよゝもへぬへし
寄(レ)島戀
ふかき江におもふこゝろはみかくれてかよふはかりのにほのしたみち[鳰]
寄(レ)嵐戀
あきはてゝみ山はけしくふく嵐あらし[濁]いまはのなけのことの葉
寄(レ)舟戀
なみたかきむしあけの瀨とにゆくふねのよるへしらせよ沖のしほかせ
寄(レ)琴戀
こひわひてなくねもかよふことのねにこほれるみつのしたむすひつゝ
寄(レ)衣戀
わか戀はやまとにはあらぬからあゐの
やしほのころも
ふかくそめてき [唐藍]
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