後撰和歌集。卷第十九。離別歌。原文。


後撰和歌集。原文。

後撰倭謌集。底本『廿一代集第八』是大正十四年十月十四日印刷。同十八日發行。發行所太洋社。已上奧書。

又國謌大觀戰前版及江戸期印本『二十一代集』等一部參照。



後撰和歌集卷第十九

 離別歌

  みちのくにへまかりける人に火うちをつかはすとてかきつけ侍[イナシ]ける

  つらゆき

おり〱にうちてたく火の煙あらはこゝろさすかをしのへとそおもふ

  あひしりて侍ける人のあつまのかたへまかりけるに櫻の花のかたにぬさをしてつかはしける

  よみひとしらす

あた人のたむけにおれるさくら花あふさかまてはちらすもあらなん

  とをくまかりける人に餞し侍ける所にて

  橘直幹[※左字右部夸][タゝモト]

おもひやるこゝろはかりはさはらしをなにへたつらん峯のしら雲

  しもつけにまかりける女に鏡にそへて遣しける

  よみ人しらす

ふたこ山ともにこえねとますかゝみそこなるかけをたくへてそやる

  しなのへまかりける人にたきものつかはすとて

  するか

しなのなるあさまの山ももゆなれはふしのけふりのかひやなからん

  とをき所[くにイ]へまかりける友たちにひうちにそへてつかはしける

  よみ人しらす

このたひも我を忘ぬ物ならはうち見んたひに思ひ出なん

  京に侍ける女こをいかなる叓か侍けん心うしとてとゝめ置ていなはの國へ罷けれは

  むすめ

うちすてゝきみか[しイ]いなはの露の身はきえぬはかりそありと賴むな

  伊勢へまかりける人とくいなんと心もとなかるときゝて旅のてうと[調度]なととらする物からたゝうかみにかきてとらする名をは馬といひけるに

おしとおもふこゝろはなくて此たひはゆくむまにむちをおほせつるかな

  返し

きみかてをかれゆく秋の末にしも野かひにはなつむまそかなしき

  おなしいへに久しう侍ける女のみのゝくにゝおや[のイ]侍りけるとふらひにまかりけるに

  藤原きよたゝ

いまはとて立かへりゆくふるさとのふはのせきや[ちイ]に都わするな

  とをき所にまかりける人に旅の具つかはしけるかゝみのはこのうらにかきつけてつかはしける

  おほくほののりよし

身をわくることのかたさにます鏡かけはかりをそきみにそへつる

  此たひの出たちなん物うく覺るといひけれは

  よみ人しらす

はつかりのわれもそらなるほとなれは君もものうきたひにやあるらん

  あひしりて侍ける女のひとのくにゝまかりけるにつかはしける

  公忠朝臣

いとせめて戀しき旅のから衣ほとなくかへす人もあらなん

  返し

  おんな

からころもたつ日をよそにきく人はかへすはかりのほともこひしを[しきイ]

  三月はかりに[にイナシ]こしの國へまかりける人にさけたうへけるつゐてに

  よみ人しらす

こひしくはことつてもせんかへるさのかりかねはまつわかやとになけ

  善祐法師の伊豆の國になかされ侍ける時[にイ][或抄東光善祐二條后を姦して流されしと云々]

  伊勢

わかれてはいつあひみんと思ふらんかきりある世のいのちともなし

  題しらす

  よみ人も

そむかれぬ松のちとせのほとよりもとも〱とたにしたはれそせし

  返し

とも〱としたふ淚のそふ水はいかなるいろに見えてゆくらん

  亭子院のみかとおりゐ給ふける秋弘徽殿のかへにかきつけゝる

  伊勢

わかるれとあひもをしまぬもゝしきを見さらんことや[のイ]なにかかなしき

  みかと御覧して[イ御返し]

身ひとつにあらぬはかりををしなへてゆきめくりてもなとか見さらん

  みちのくにへまかりける人に扇てうしてうたゑにかゝせ侍ける

  よみ人しらす

わかれゆくみちのくもゐになり行[ユケ]はとまるこゝろもそらにこそなれ

  むねゆき[源宗于]の朝臣のむすめみちのくにへくたりけるに

いかて猶かさとり山に身をなして露けきたひにそはんとそおもふ

  かへし

かさとりの山とたのみしきみをゝきてなみたの雨にぬれつゝそゆく

  おとこのいせの國へまかりけるに

君かゆくかたにありてふなみた川まつは袖にそなかるへらなる

  旅にまかりける人にさうそくつかはすとてそへてつかはしける

袖ぬれてわかれはすともから[りイ]ころもゆくとないひそきたりとを見ん

  返し

わかれちはこゝろもゆかすから[りイ]ころもきれ[てイ]はなみたそさきにたちける

  旅にまかりける人に扇つかはすとて

そへてやるあふきのかせし心あらはわかおもふ人の手をなはなれそ

  友則かむすめのみちのくにへまかりけるにつかはしける

  しけもとかむすめ[藤原滋幹か女イ]

きみをのみしのふの里へゆくものをあひつの山のはるけきやなそ[にイ]

  つくしへまかるとていさ[二字イニナシ]きよいこの命婦に送侍ける

  小野好古朝臣

としをへてあひみる人の別路は[イには]おしきものこそいのちなりけれ

  出羽よりのほりけるにこれかれ馬のはなむけしけるにかはらけとりて

  源のわたる

ゆくさきを[イも]しらぬなみたのかなしきはたゝめのまへにおつるなりけり

  平のたかとをかいやしき名とりてひとのくにへまかりけるに忘るなといへりけれはたかとをかめのいへる

わするなといふになかるゝなみた川うき名をすゝく瀨ともならなん

  あひしりて侍ける人のあからさまにこしの國へまかりけるにぬさ心さすとて

  よみ人しらす

我をのみおもひつるかのこしならはかへるの山はまとはさらまし

  返し

君をのみいつはたとおもひこしなれはゆきゝのみちははるけからしを

  秋旅にまかりける人にぬさを紅葉の枝につけてつかはしける

秋ふかくたひゆく人のたむけにはもみちにまさるぬさはなかりき[なかりけりイ]

  西四條の濟宮の九月晦日くたり侍りけるともなる人にぬさつかはすとて

  大輔

もみちはをぬさとちらしてたむけつゝ秋とともにやゆかんとすらん

  物へまかりけるひとにつかはしける

  伊勢

まちわひてこひしくならはたつぬへくあとなき水[なみイ]のうへならてゆけ

  題しらす

  贈太政大臣

こんといひてわかるゝたにもあるものをしられぬけさのましてわひしき

  返し

  いせ

さらはよとわかれしときにいはませはわれもなみたにおほゝれなまし

  よみ人しらす

はるかすみはかなくたちてわかるともかせよりほかにたれかとふへき

  返し

  いせ

めに見えぬ風にこゝろをたくへつゝやらはかすみのわかれ[へたてイ]こそせめ

  かひへまかりける人につかはしける

きみか代はつるのこほりにあえてきねさためなきよのうたかひもなく

  舟にて物へまかりける人に遣しける

をくれすそ心にのりてこかるへき波にもとめよふね見えすとも

  かへし

  よみ人しらす

舟なくはあまの川まてもとめてんこきつゝしほのなかにきえすは

  ふねにて物へまかりける人[※儘]

かねてよりなみたそ袖をうちぬらすうかへるふねにのらんとおもへは

  返し

  いせ

をさへつゝ我は袖にそせきとむる舟こすしほになさしと思へは

  とをき所にまかるとて女のもとに遣しける

  つらゆき

わすれしとことにむすひて別るれはあひ見んまてはおもひみたるな

 羇旅[キリヨノ]歌

  ある人いやしき名とりて遠江の國へまかるとてはつせ川をわたるとて讀侍ける

  よみ人しらす

はつせ河わたる瀨さへやにこるらん世にすみかたきわか身と思へは

  たはれしまを見て

名にしおはゝあたにそ思ふたはれ嶋なみのぬれきぬいく世きぬ[つイ]らん

  あつまのかた[三字イニナシ]へまかりけるに過ぬるかたゆか[こひイ]しくおほえけるほとに川をわたりけるに波のたちけるをみて

  業平朝臣

いとゝしくすきゆくかたのこひしきにうらやましくもかへるなみかな

  しらやまへまうてけるに道なかよりたよりの人につけてつかはしける

  よみ人しらす

みやこまてをとにふりくるしら山はゆきつきかたき雲ゐ[ところイ]なりけり

  なかはらのむねきかみのゝくにへまかり下り侍けるに道に女の家にやとりていひつきてさりかたくおほえ侍[イナシ]けれは二三日侍てやむことなき叓によりてまかりたちけれはきぬをつゝみてそれかうへにかきてをくり侍ける

  中原宗興

山さとの草葉の露は[もイ]しけからんみのしろころもぬはすともきよ

  土左よりまかりのほりける舟のうちにて見侍けるに山のはならて月の波のなかよりいつるやうにみえけれはむかし安倍のなかまろかもろこしにてふりさけ見れはといへる叓を思ひやりて

  つらゆき

みやこにて山のはに見し月なれと海よりいてゝうみにこそいれ

  法皇宮の瀧といふ所御らんしける御供にて

  菅原右大臣

水ひきのしらいとはへてをるはたを旅のころもにたちやかさねん

  みちまかりけるつゐてに日くらしの山をまかり侍て

日くらしの山路をくらみさよ更てこのすゑことに紅葉てらせる

  はつせへまうつとて山のへといふわたりにて讀侍ける

  伊勢

くさまくら旅となりなは山のへにしら雲ならぬ我ややとらん

  うちとのと[のとのとイ]いふ所を[宇治殿融公別業今平等院其他也]

  伊勢

水もせにうきた[ぬイ]るときはしからみのうちのとのとも見えぬもみちは

  海のほとりにてこれかれせうえうし侍けるつゐてに

  こまち

花さきてみならぬものはわたつ海のかさしにさせるおきつしらなみ

  あつまなる人のもとへまかりける道にさかみのあしからのせきにて女の京にまかりのほりけるにあひて

  眞靜法師

あしからのせきの山路をゆくひとはしるもしらぬもうとからぬかな

法皇とをき所に山ふみし給ひて京にかへり給ふに旅やとりし給ふて御ともにさふらふ道俗に歌よませ給けるに

  僧正聖寶

人ことにけふ〱とのみこひらるゝ都ちかくもなりにけるかな

  土左より任はてゝのほり侍けるに舟の中にて月を見て

  つらゆき

てる月のなかるゝ見れはあまの河いつるみなとはうみにそありける

  たいしらす

  亭子院御製

くさまくら紅葉むしろにかへたらはこゝちをくたくものならましや

  京におもふ人侍て遠き所より歸りまうてきける道にとゝまりて九月はかりに

  讀人不知

おもふ人ありてかへれはいつしかのつまゝつよひの秋そかなしき

草まくらゆふてはかりの[はイ]なになれや露もなみたもをきかへりつゝ

  宮の瀧といふ所に法皇おはしましたりけるにおほせことありて

  素性法師

あき山にまとふ心をみやたきの瀧のしらあはにけちやはてゝん









Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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