後撰和歌集。卷第十八。雑歌四。原文。
後撰和歌集。原文。
後撰倭謌集。底本『廿一代集第八』是大正十四年十月十四日印刷。同十八日發行。發行所太洋社。已上奧書。
又國謌大觀戰前版及江戸期印本『二十一代集』等一部參照。
後撰和歌集卷第十八
雜歌四
かはつを聞て
よみ人しらす
わかやとにあひやとりしてなくかはつよるに[とイ]なれはやものはかなしき
人々あまたしりて侍ける女のもとに友たちのもとより此比は思ひさためたるなめりたのもしき叓なりとたはふれをこせて侍けれは
たま江こく蘆かり小舟さし分てたれをたれとかわれはさためん
男のはしめいかに思へるさまにか有けん女のけしきも心とけぬをみてあやしくおもはぬさまなる叓と云侍けれは
みちのくのおふちの駒ものかふにはあれこそまされなつくものかは
少[中イ]將にて[善朝臣也寛平五年右少將右衞門督舒ルノ息]内にさふらひけるときあひしりたり[二字イナシ]ける女藏人のさうしにつほやなくひおいかけをやとしをきて遠き所にまかり侍けり此女のもとより此おいかけををこせてあはれなる叓なといひて侍ける返事に
源よし[善]の朝臣
いつくとてたつねきつらん玉かつらわれはむかしの我ならなくに
たよりにつきて人のくにのかたに侍て京に久しうまかりのほらさりける時に友たちにつかはしける
よみ人しらす
あさことに見し都路のたえぬれはことあやまりにとふ人もなし
とをき國に侍ける人を京にのほりたりときゝてあひまつにまうてきなからとはさりけれは
いつしかとまつちの山のさくらはなまちてもよそにきくかかなしさ[きイ]
たいしらす
伊勢
いせわたる河し[はイ]袖よりなかるれととふにとはれぬ身はうせぬな[めイ]り
北邊[キタへノ]左大臣
ひとめたに見えぬやまちにたつ雲をたれすみかまのけふりといふらん
おとこの人にもあまたとへわれやあたなるこゝろあるといへりけれは
伊勢
あすかゝはふちせにかはるこゝろとはみなかみしもの人もいふめ[なイ]り
人のむこのいままうてこんといひてまかりにけるか文をこする人ありときゝて久しうまうてこさりけれはあとうかたりの心をとりてかくなん申めるといひつかはしける
女のはゝ
いまこんといひしはかりをいのちにてまつにけぬへしさくさめのとし[大納言本には丁年とかゝれたり云々]
かへし
むこ
かすならぬ身のみ物うくおもほえてまたるゝまてもなりにけるかな
つねにまうてくとてうるさかりてかくれけれはつかはしける
よみひとしらす
ありときく音羽の山のほとゝきすなにかくるらんなくこゑはして
物にこもりたるにしりたる人のつほねならへて正月をこなひていつるあかつきにいときたなけなるしたうつをおとしたりけるをとりてつかはすとて
あしのうらのいときたなくもみゆる哉波はよせ[りイ]てもあらはさりけり
たいしらす
ひとこゝろたとへて見れはしら露のきゆるまもなをひさしかりけり
世の中といひつる物か[はイ]かけろふのあるかなきかのほとにそ有ける
友たちに侍ける女年ひさしくたのみて侍けるおとこにとはれす侍りけれはもろともになけきて
かくはかりわかれのやすき世の中につねとたのめるわれそはかなき
つねになき名たち侍けれは
伊勢
ちり[イちな]にたつわか名きよめん百敷の人のこゝろをまくらともかな
あたなる[なるイニナシ]名たちていひさはかれける比ある男ほのかにきゝてあはれいかにそととひ侍けれは
こまちかむまこ
うきことをしのふるあめのしたにしてわかぬれきぬはほせとかわかす
となりなる[なりけるイ]琴をかりてかへすつゐてに
よみ人しらす
あふことのかたみのこゑのたかけれはわかなくねとも人はきかなん
たいしらす
なみたのみしる身のうさもかたるへくなけくこゝろをまくらと[にイ]もかな
物おもひける比
伊勢
あひにあひて物おもふ比の我袖にやとる月さへぬるゝかほなる
ある所にてすのまへにかれこれ物かたりし侍けるを聞てうちより女のこゑにてあやしく物のあはれしりかほなるおきなかなといふをきゝて
つらゆき
あはれてふことにしるしはなけれともいはてはえこそあらぬものなれ
女ともたちのつねにいひかはしけるを久しう音つれさりけれは十月はかりにあた人の心と[おもふとイ]いひし言の葉はといふふることをいひつかはしたりけれは竹のはにかきつけてつかはしける
よみひとしらす
うつろはぬ名になかれたる河竹は[のイ]いつれの世にか秋をしるへき
題しらす
贈太政大臣
ふかき[くイ]おもひそめつといひしことのはゝいつかあきかせふきてちりぬる
返し
伊勢
こゝろなき身は草木[はイ]にもあらなくに秋來る風にうたかはるらん
たいしらす
身のうさ[きイ]をしれははしたになりぬへみ[しイ]おもへはむねのこかれのみする
よみ人しらす
雲路をもしらぬ我さへもろこゑにけふはかりとそなきかへりぬる
またきから思ひこき色にそめんとやわかむらさきのねをたつぬらん
いせ
見えもせぬふかき心をかたりてはひとにかちぬとおもふものかは
伊勢か[イ伊勢かの三字なし]亭子院にまいりてさふらひけるに御ときのおろしたまはせたりけれは
いせのうみにとしへてすみしあまなれとかゝるみるめはかつかさりしを
あはたの家にて人につかはしける
かねすけの朝臣
あしひきの山のやとり[イ山とり]かひもなしみねのしら雲たちしよらねは
左大臣の家にてかれこれ題をさくりて歌よみけるに露といふもしをえて
藤原たゝくに
我ならぬ草葉もものはおもひけり袖よりほかにをけるしら露
人のもとにつかはしける
伊勢
ひとこゝろあらしのかせのさむけれはこのめも見えす枝そしほるゝ
こと人をあひかたらふときゝてつかはしける
讀人不知
うきなから人をわすれんことかたみわかこゝろこそかはらさりけれ
ある法師の源のひとしの朝臣の家にまかりてすゝのすかりをおとしおけるをあしたにをくるとて
うたゝねのとこにとまれるしら玉はきみかをきける露にやあるらん
返し
かひもなき草のまくらにをく露のなにゝきえなておちとまりけ[るらイ]ん
たいしらす
おもひやるかたもしられすくるしきはこゝろまとひのつねにやあるらん
むかしをおもひ出てむらこの内侍につかはしける
左大臣
すゝむしにをとらぬねこそなかれけれむかしの秋をおもひやりつゝ
ひとり侍けるころ人のもとよりいかにそととふらひて侍けれはあさかほの花につけてつかはしける
よみひとしらす
ゆふくれのさひしき物はあさかほのはなをたのめるやとにそ有ける
左大臣のかゝせ侍けるさうしのおくにかきつけ侍ける
つらゆき
はゝそやま峯のあらしの風をいたみふることのはをかきそあつむる
たいしらす
こまちかあね
世の中をいとひてあまのすむかたもうきめのみこそ見えわたりけれ
むかしあひしりて侍ける人のうちにさふらひける[かイ]もとにつかはしける
伊勢
山河のをとにのみきくもゝしきを身をはやなから見るよしもかな
人にわすられたりときく女のもとに遣しける
よみ人しらす
世の中はいかにやいかに風のをとをきくにもいまは物やかなしき
かへし
いせ
よのなかはいさともいさや風の音は秋にあきそふこゝちこそすれ
たいしらす
よみひとも
たとへ來る露とひとしき身にしあらはわかおもひにもきえんとやする
つらかりける男のはらからのもとにつかはしける
さゝかにのそらにすかける絲よりもこゝろほそしやたえぬと思へは
かへし
風ふけはたえぬと見ゆる蜘のいも又かきつかてやむとやはきく
ふしみといふ所にて
名にたちてふしみの里といふ叓は紅葉をとこにしけはなりけり
題しらす
ひとしきこのみこ
我もおもふ人もわするなありそ海のうらふくかせのやむときもなく
山田法師
あしひきの山したとよみなく鳥もわかことたえす物おもふらめや[はおもはしイ]
神無月のついたちころめのみそかおとこしたりけるを見つけ[てイ]いひなとしてつとめて
よみ人しらす
いまはとて秋はてられし身なれともきりたち[つイ]ひとをえやはわするゝ
十月はかりむかしおもしろかりし所なり[れはイ]とて北山のほとりにこれかれあそひ侍けるつゐてに
かねすけの朝臣
おもひ出てきつるもしるく紅葉々のいろはむかしにかはらさりけり
おなし心を
坂上是則
峯たかみゆきても見へき紅葉々をわかゐなからもかさしつるかな
しはすはかりにあつまよりまうてきける男のもとより京にあひしりて侍ける女のもとに正月つゐたちまてをとつれす侍りけれは
よみ人しらす
まつ人はきぬときけともあら玉のとしのみこゆるあふさかのせき
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