後撰和歌集。卷第十四。恋歌六。原文。
後撰和歌集。原文。
後撰倭謌集。底本『廿一代集第八』是大正十四年十月十四日印刷。同十八日發行。發行所太洋社。已上奧書。
又國謌大觀戰前版及江戸期印本『二十一代集』等一部參照。
後撰和歌集卷第十四
戀歌六
人のもとにつかはしける
よみ人しらす
あふことをよとにありてふみつのもりつらしと人を見つるころかな
かへし
みつのもりもるこのころのなかめにはうらみもあへすよとの川なみ[水イ]
みつからまてきてよもすから物いひ侍けるにほとも[もイナシ]なくあけ侍[にイ]けれはまかりかへりて
うき世とはおもふ物からあまのとのあくるはつらきものにそ有ける
女のもとにつかはしける
うらむれとこふれと君かよとゝもにしらすかほにてつれなかるらん
かへし
うらむともこふともいかゝ雲ゐよりはるけき人をそらにしるへき
いひわつらひてやみにける人に久しうありて又つかはしける
しつはたにへつるほとなりしら糸のたえぬる身とはおもはさらなん
かへし
へつるよりうす[とイ]くなりにししつはたの絲はたえて[すイ]もかひやなからん
おとこのまてきてすき事をのみしけれは人やいかゝ見るらんとて
くることはつねならすとも玉かつらたのみはたえしとおもほゆるかな
かへし
玉かつらたのめくる日の數はあれとたえ〱にてはかひなかりけり
おとこの久しう音つれさりけれは
いにしへの心はなくやなりにけんたのめしことのたえて年ふる
返し
いにしへもいまもこゝろのなけれはそうきをもしらてとしをのみふる
男のたゝなりけるおり[ときイ]にはつねにまて[まうてイ]きけるか物いひてのちは[イまへわたりをしつゝト有]かとよりわたれとまてこさりけれは
たえたりしむかしたに見しうき[うちイ]橋をいまはわたるとをとにのみきく
いひわひて二とせはかりをともせすなりにける男の五月はかりにまて[まうてイ]きて年ころひさしうありつるなといひてまかりにけるに
わすられてとしふる里の郭公なにゝひとこゑなきてゆくらん
たいしらす
とふやとて杉なきやとにきにけ[たイ]れとこひしきことそしるへなりける
物いひ佗て女のもとにつかはし[いひやりイ]ける
露のいのちいつともしらぬ世の中になとかつらしとおもひをかるゝ
女のほかに侍けるをそこにとをしふる人も侍らさりけれは心つからとふらひて侍ける返事に遣しける
かり人のたつぬるしかはいなみ[ひイ]野にあはてのみこそあらまほしけれ
しのひたる女のもとよりなとかをともせぬと申たりけれは
右大臣
をやまたの水ならなくにかくはかりなかれそめてはたえんものかは
おとこのまう[うイナシ]てこてあり〱て雨のふるよおほ笠をこひにつかはしたりけれは
これひらの朝臣の女[ムスメ]いまき
月にたにまつほとおほく過ぬれは[有けれはイ]雨もよにこしとおもほゆるかな
はしめて人につかはしける
よみ人しらす
おもひつゝまたいひそめぬ我こひをおなしこゝろにしらせてしかな
いひわつらひてやみにけるを又おもひ出てとふらひ侍けれはさためなき[いとさためなきイ]心かなといひてあすか川の心をいひつかはして侍けれは
あすか川心のうちになかるれはそこのしからみいつかよとまん
おもひかけたる女のもとに
あさよりの朝臣
ふしのねをよそにそきゝしいまはわかおもひにもゆるけふりなりけり
返し
よみ人しらす
しるしなき思ひとそきくふしのねもかことはかりのけふりなるらん
いひかはしける男のおやいといたうせいすと聞て女のいひ遣しける
いひさしてとゝめらるなる池水のなみいつかたにおもひよるらん
おなし所に侍ける人の思ふ心侍りけれといはてしのひけるをいかなるおりにかありけんあたりにかきておとせりける
しられしなわかひとしれぬこゝろもてきみをおもひの中にもゆとも[はイ]
心さしをはあはれと思へと人めになんつゝむといひて侍けれは
あふはかりなくてのみふる我こひを人めにかくることのわひしさ
題しらす
夏衣身にはなるともわかためにうすきこゝろはかけすもあらなん
いかにしてことかたらはんほとゝきすなけきのしたになけはかひなし
おもひつゝへにけるとしをしるへにてなれぬるものはこゝろなりけり
文なとつかはしける女のこと男に付侍に[にイナシ]けるに遣しける
源とゝのふ
我ならぬ人すみのえのきしに出てなにはのかたをうらみつるかな
とゝのふかれかたになり侍にけれはとゝめをきたる笛をつかはすとて
よみ人しらす
にこりゆく水には影の見えはこそあしまよふ江をとゝめても見め
菅原[家イ]のおほいまうちきみ[聖廟の御事也]の家に侍りける女にかよひ侍けるおとこ中たえて又とひて侍けれは
すかはらやふしみの里のあれしよりかよひし人のあともたえにき
女のおとこをいとひてさすかにいかゝおほえけんいへりける
ちはやふる神にもあらぬ我中の雲ゐはるかになりもゆくかな
返し
ちはやふるかみにもなにかたとふらんをのれ雲ゐに人をなしつゝ
女三のみこに
あつよしのみこ
うきしつみ[むイ]ふちせにさわくにほ鳥の[はイ]そこものとかにあらしとそ思ふ
かひに人の物いふときゝて[イ又はかうちにかひに人の物いふと聞て]
藤原守文[モリフン]
松山に波たかき音そきこゆなる我よりこゆる人はあらしを
おとこのもとに雨ふる夜かさをやりてよひけれとこさりけれは
よみ人しらす
さしてことおもひし物をみかさ山かひなく雨のもりにけるかな
かへし
もるめのみあまたみゆれは三笠山しる〱いかゝさしてゆくへき
女のもとよりいといたくな思ひわひそとたのめおこせて侍けれは
なくさむることのはにたにかゝらすはいまもけぬへき露のいのちを
もとよしのみこのみそかにすみ侍ける比今こんとたのめてこすなりにけれは
兵衞
人しれすまつにねられぬあり明の月にさへこそあさむかれけれ
しのひて住侍ける人のもとよりかゝるけしき人に見すないへりけれは
元方
立田川たちなはきみか名をおしみいはせのもりのいはしとそおもふ
宇多院に侍ける人にせうそこつかはしける返事も侍らさりけれは
よみ人しらす
うたの野はみゝなし山かよふこ鳥よふこゑにたにこたへさるらん
返し
宇多院の[四字イニナシ]女五のみこ
みゝなしの山ならすともよふことりなにかはきかんときならぬねを
つれなく侍ける人に
たゝみね
こひわひてしぬてふことはまたなきに[をイ]世のためしにもなりぬへきかな
たちよりけるに女にけていりけれは遣しける
よみひとしらす
かけ見れはおくへ入ぬ[けイ]るきみによりなとかなみたのとへはいつらん
あひにける女の又あはさりけれは
しらさりし時たにこえしあふ坂をなといまさらに我まとふらん
女のもとにまかりそめてあしたに
かけもと
あかすして枕のうへにわかれにしゆめちを又もたつねてしかな
おとこのとはすなりにけれは
よみ人しらす
をともせすなりもゆくかな鈴鹿山こゆてふ名のみたかくたちつゝ
かへし
こえぬてふ名をなうら[とイ]みそすゝかやまいとゝまちかくならんとおもふを
女に物いはんとてきたりけれと[もイ]こと人に物いひけれはかへりて
わかためにかつはつらしとみやま木のこりともこりぬかゝるこひせし
かへし
あふこなき身とはしる〱戀すとてなけきこりつむ人はよきかは
人に遣しける
かいせん法し
あさことに露はをけとも人こふるわかことの葉はいろもかはらす
きて物いひける人のおほかたはむつましかりけれとちかうはえあはすして
よみ人しらす
まちかくてつらきをみるはうけれともうきはものかはこひしきよりは
女のもとにつかはしける
藤原さねたゝ
つくしなるおもひそめ河わたりなは水やまさらんよとむときなく
かへし
よみ人しらす
わたりてはあたになるてふ染河のこゝろつくしになりもこそすれ[せめイ]
おとこのもとより花さかりにこんといひてこさりけれは
花さかりすくしし君[人イ]はつらけれとことの葉をさへかくしやはせん
おとこのひさしうとはさりけれは
右近
とふことをまつに月日はこゆるきのいそにやいてゝ今はうらみん
あひしりて侍ける人のもとに久しうまからさりけれはわすれくさ何をかたねと思ひしはといふ叓[古今つれなき人の心なりけりといふうた也]をいひつかはしたりけれは
よみひとしらす
わすれくさ名をもゆゝしみかりにてもおふてふやとはゆきてたに見し[濁]
返し
うきことのしけき宿には忘れ草植てたに見し[淸]秋そわひしき
女ともろともに侍りて
かすしらぬおもひは君にある物ををきところなき心ちこそすれ
返し
をきところなき思ひとし聞つれは我にいくらもあらしとそおもふ
元長のみこに夏のさうそくしてをくるとてそへたりける
南院[ミナミノヰン]式部卿のみこの女
わかたちてきるこそうけれ夏衣おほかたにこそ[とのみイ]見へきうすさを
久しうとはさりける人の思ひ出てこよひまてこんかとさゝてあひまてと申てこさり[まてこさりイ]けれは
よみ人しらす
やへむくらさしてしかとを今更になにゝくやしくあけて待けん
人をいひわつらひてこと人にあひ侍て後いかゝありけんはしめの人に思ひかへりてほとへにけれは文はやらすして扇にたかさこのかたかきたるにつけて遣はしける
源庶明[モロアキラ]朝臣
さをしかのつまなき戀をたかさこのおのへのこまつきゝもいれなん
返し
よみひとしらす
さをしかのこゑたかさこにきこえしはつまなきときのねにこそ有けれ
おもふ人にえ逢侍らて忘られにけれは
せきもあへすなみたの河の瀨を早[ハヤ]みかゝらん物とおもひやはせし
たいしらす
瀨をはやみたえすなかるゝ水よりもたえせぬものは戀にそ有ける
こふれともあふよなき身は忘れ草ゆめちにさへやおひしけるらん[古今こふれともあふよのなきは]
世の中のうきはなへてもなかりけりたのむかきりそうらみられける
たのめたる人に[たりける人にイ]
夕されはおもひそしけきまつ人のこんやこしやのさためなけれは
女に遣しける
源よしの朝臣
いとはれてかへりこしちのしらやまはいらぬにまとふ物にそ有ける
たいしらす
よみ人も
人なみにあらぬ我身は難波なるあしのねのみそしたになかるゝ
白雲のゆくへきやまはさたまらすおもふかたにも風はよせなん
世の中になをありあけの月なくてやみにまとふをとはぬつらしな
さたまらぬ心ありと女のいひけれは[いひたりけれはイ]つかはしける
贈太政大臣
あすか川せきてとゝむるものならはふちせになるとなとかいはれん
久しうまかりかよはす成にけれは十月はかりに雪のすこしふりたるあした[にイ]いひ侍ける
右近
身をつめはあはれとそ思ふ初雪のふりぬることもたれにいはまし
源たゝあきらの朝臣十月はかりに床夏を折て送[てイ]侍けれは
よみ人しらす
冬なれと君かかきね[イほ]にさきた[ぬイ]れはむへとこなつにこひしかりけり
女の恨る叓有て親のもとにまかりわたりて侍けるに雪の深く降て侍けれはあしたに女のむかへに車つかはしけるせうそこにくはへてつかはしける
かねすけの朝臣
しら雪のけさはつもれるおもひかなあはてふるよのほともへなくに
かへし
よみひとしらす
白ゆきのつもるおもひもたのまれすはるよりのちはあらしとおもへは
心さし侍る女みやつかへし侍けれは逢事かたく[てイ]侍けるを[にイ]雪の降に遣しける
わかこひしきみかあたりをはなれねはふるしら雪もそらにきゆらん
かへし
山かくれきえせぬ雪のわひしきはきみまつのはにかゝりてそふる
物いひ侍ける女に年のはての比ほひつかはしける
藤原ときふる[時雨トキフル]
あらたまのとしはけふあすこえぬへしあふさかやまをわれやをくれん
0コメント