後撰和歌集。卷第十二。恋歌四。原文。
後撰和歌集。原文。
後撰倭謌集。底本『廿一代集第八』是大正十四年十月十四日印刷。同十八日發行。發行所太洋社。已上奧書。
又國謌大觀戰前版及江戸期印本『二十一代集』等一部參照。
後撰和歌集卷第十二
戀歌四
女に[をんなのもとにイ]つかはしける
敏行朝臣
わかこひのかすをかそへはあまの原くもりふたかりふる雨のこと
わすれにける女を思ひ出てつかはしける
讀人不知
うちかへし見まくそほしき故鄕のやまとなてしこいろやかはれる
女に遣しける
枇杷左大臣
山ひこの聲にたてし[てイ]も年はへぬわか物おもひをしらぬ人きけ
身よりあまれる人[髙き人也]を思ひかけてつかはしける
紀友則
たまもかるあまにはあらねとわたつみのそこゐもしらすいるこゝろかな
返事侍さりけれは又かさねてつかはしける
みるもなくめもなき海のはま[いそイ]に出てかへる〱もうらみつるかな
あたに見え侍けるおとこに
よみ人しらす
こりすまの浦のしらなみ立いてゝよるほともなくかへるはかりか
あひしりて侍ける[イナシ]人のあふみのかたへまかりけれは
せきこえてあはつの森のあはすとも淸水に見えし影をわするな
返し
ちかけれと[はイ]なにかはしるし逢坂のせきのほかそとおもひたえなん
つらくなりにけるおとこのもとにいまはとてさうそくなとかへしつかはすとて
平なかき[中興]かむすめ
いまはとてこすゑにかゝるうつせみのからを見んとはおもはさりしを
返し
源[‐ノ]巨[ヲホ][家イ]城[キ]
わすらるゝ身をうつせみのから衣かへすはつらきこゝろなりけり
ものいひける女のかゝみをかりてかへすとて
よみ人しらす
かけにたに見えもやすると賴み[めイ]つるかひなくこひをますかゝみかな
男の物なといひつかはしける女のゐなかの家にまかりてたゝきけれとえ[もイ]きゝつけすや有けんかともあけす成にけれは田のほとりにかへるの鳴けるをきゝて
あしひきの山田のそうつ打佗てひとりかへるのねをそなきぬる
文つかはしける女の母の戀をしこひはといへりけるかとしころへにけれはつかはしける
たねはあれとあふ叓かたき岩の上のまつにてとしをふるはかひなし
女につかはしける
贈太政大臣
ひたすらにいとひはてぬる物ならはよしのゝやまにゆゑへしられし
返し
伊勢
わかやとゝたのむよしのに君しいらはおなしかさしをさしこそはせめ
たいしらす
讀人不知[イよみ人も]
くれなゐに袖をのみこそ染めてけれきみをうらむるなみたかゝりて
つれなく見えける人に遣しける
くれなゐになみたうつると聞きしをはなといつはりとわかおもひけん
かへし
紅になみたしこくはみとりなるそてももみちと見えまし物を
あひすみける人心にもあらて別にけるか年月をへても逢見んとかきて侍ける文を見出て遣しける
いにしへの野中のしみつ見るからにさしくむものはなみたなりけり
おもふ事侍りて男のもとにつかはしける
あま雲のはるゝよもなくふるものは袖のみぬるゝなみたなりけり
かたふたかるとて男のこさりけれは
あふことのかたふたかりて君こすはおもふこゝろのたかふはかりそ
あひかたらひける人の久しうこさりけれはつかはしける
ときはにとたのめしことはまつほとの久しかるへき名にこそありけれ
たいしらす
こさまさるなみたの色もかひそなき見すへき人のこの世ならねは
女のもとにつかはしける
すみよしのきしにきよするおきつ波まなくかけてもおもほゆるかな
かへし
伊勢
すみの江のめにちかゝらは岸にゐて波のかすをもよむへきものを
つらかりける人のもとにつかはしける
こひてへんと思ふ心のわりなさ[きイ]はしにてもしれよわすれかたみに
返し
贈太攻大臣
もしもやとあひみん叓をたのますはかくす[イふ]るほとにまつそけなまし
題しらす
よみひとも
あふとたにかたみに見ゆる物[夢イ]ならはわするゝほともあらましものを
をとにのみこゑをきく哉足引のやました水にあらぬ物から
秋霧のたちたるつとめていとつらけれは此たひはかりなんいふへきといひたりけれは
伊勢
秋とてやいまはかきりの立ちぬらんおもひにあへぬ[いせ集む]ものならなくに
心のうちに思ふ叓やありけん
伊勢
見し夢の思ひ出らるゝ宵ことにいはぬをしるはなみたなりけり
たいしらす
よみ人も
しら露のおきてあひみぬ叓よりはきぬかへしつゝねなんとそ思ふ
人のもとにつかはしける
ことのはゝなけなる物といひなからおもはぬためはきみもしるらん
女のもとにつかはしける
朝忠朝臣
しらなみのうち出る濱のはま千鳥あとやたつぬるしるへなるらん
女につかはしける
大江朝綱朝臣
おほしまに水をはこひしはや舟のはやくもひとにあひ見てしかな
伊勢なん人にわすられてなけき侍るときゝてつかはしける
贈太政大臣
ひたふるに思ひなわひそふるさるゝ人のこゝろはそれそ[よイ]よのつね
返し
伊勢
よのつねの人の心をまたみねはなにかこのたひけぬへき物を
淨藏くらまの山へなんいるといへりけれは
平なかきかむすめ
すみそめのくらまの山にいる人はたとる〱もかへりきなゝん
あひしりて侍ける人のまれにのみ見えけれは
伊勢
日をへてもかけに見ゆるは玉かつらつらきなからもたえぬなりけり
わさとにはあらす時々物いひ侍ける女ほと久しうとはす侍[イさり]けれは
よみ人しらす
たかさこの松をみとりと見しことはしたのもみちをしらぬなりけり
返し
ときわかね松のみとりもかきりなきおもひにはなをいろやもゆらん
文かよはす[たゝ文かはすイ]はかりにてとしへ侍ける人につかはしける
水とりのはかなき跡に年をへてかよふはかりのえにこそ有けれ
かへし
波のうへにあとやは見ゆる水鳥のうきてへぬらん[にけんイ]としは數かは
せうそこつかはしける女のもとよりいな舟のといふ叓を返事にいひて[てイニナシ]侍けれはたのみていひわたりけるに猶あひかたきけしき[にイ]侍けれはしはしとありしをいかなれはかくはといへりける返事につかはしける
なかれよるせゝのしらなみ淺けれはとまるいなふねかへるなるへし
かへし
三條右大臣
もかみ川深きにもあへすいなふねのこゝろかろくもかへるなるかな
いとしのひてかたらふ人のをろかなるさまに見えけれは
よみ人しらす
はなすゝきほに出る叓もなき物をまたきふきぬる秋のかせかな
こゝろさしをろかに見えける人につかはしける
中興かむすめ
またさりし秋はきぬれとみし人のこゝろはよそになりもゆくかな
かへし
源是茂朝臣
きみをおもふ心なかさは秋のよにいつれまさるとそらにしらなん
ある所にあふみといふ人をいとしのひてかたらひ侍けるを夜あけてかへりけるを人見てさゝやきけれは其女のもとにつかはしける
坂上つねかけ
かゝみ山あけてきつれは秋霧のけさやたつらんあふみてふ名は
あひしりて侍る女の人にあた名たち侍けるにつかはしける
平まれよの朝臣
枝もなく人におらるゝ女郎花ねをたにのこせうへし我ため
人のもとにまかりて侍るによひいれねはすのこにふしあかしてつかはしける
藤原成國
秋の田のかりそめふしもしてけるかいたつらいねを何につまゝし
平かねきかやう〱かれかたになりにけれはつかはしける
中務
秋風のふくにつけてもとはぬかな荻の葉ならはをとはしてまし
とし月をへてせうそこし侍ける人に遣しける
よみ人しらす
きみ見すていく世へぬらん年月のふるとともにもおつるなみたか
女につかはしける
なか〱に思ひかけてはからころも身になれぬをそうらむへらなる
返し
うらむともかけてこそ見めから衣身になれぬれはふりぬとかきく
人につかはしける
なけゝともかひなかりけり世の中に何にくやしくおもひそめけん
わすれかたになり侍けるおとこにつかはしける
承香殿[シヨキヤウテンノ]中納言
こぬ人をまつの葉にふるしら雪のきえこそかへれくゆるおもひに
わすれ侍にける女につかはしける
よみ人しらす
きくの花うつるこゝろををく霜にかへりぬへくもおもほゆるかな
返し
いまはとてうつりはてにし菊のはなかへるいろをは誰か見るへき
人のむすめにいと忍ひてかよひ侍けるにけしきを見ておやのまもりけれは五月なか雨のころつかはしける
なかめしてもりもわひぬる人めかないつか雲間のあらんとすらん
またあはす侍ける女のもとにしぬへしといへりけれは返事にはやしねかしといへりけれは又遣しける
おなしくは君とならひの池にこそ身をなけつとも人にいはれめ[イきかせめ]
女につかはしける
かけろふのほのめきつれは夕くれの夢かとのみそ身をたとりつる
かへし
ほのみてもめなれにけりと聞からにふしかへりこそしなまほしけれ
せうそこしは〱つかはしけるをちゝ母侍てせいし侍けれはえ逢侍らて
源よしの朝臣
あふみてふかたのしるへも[イを]えてしかなみるめなきことゆきてうらみん
かへし
春澄[ハルスミノ]善縄朝臣女
あふさかのせきとも[イめ]らるゝ我なれはあふみてふらんぁたもしられす
女のもとにつかはしける
よしの朝臣
あしひきの山した水の木かくれてたきつこゝろをせきそかねつる
返し
よみ人しらす
こかくれてたきつ山水いつれかはめにしも見ゆるをとにこそきけ
人のもとよりかへりてきて[二字イニナシ]つかはしける
貫之
あかつきのなからましかはしらつゆのおきてわひしきわかれせましや
返し
讀人不知
おきてゆくひとのこゝろをしら露のわれこそまつはおもひきえぬれ
女のもとにおとこかくしつゝ世をやつくさん髙砂のといふ叓をいひつかはしたりけれは
たかさこの松といひつゝとしをへてかはらぬいろときかはたのまん
人のむすめのもとにしのひつゝかよひ侍けるをおやきゝつけていといたくいひけれはかへりてつかはしける
つらゆき
風をいたみくゆる煙のたち出てもなをこりすまのうらそこひしき
はしめて女のもとにつかはしける
よみ人しらす
いはねともわかかきりなきこゝろをは雲ゐにとほき人もしらなん
たいしらす
きみかねにくらふの山のほとゝきす[イよふことり]いつれあたなるこゑまさるらん
せうそこかよはしける女をろかなるさまに見え侍けれは
こひてぬる夢路にかよふ玉しゐのなるゝかひなくうとき君かな
女につかはしける
かゝり火にあらぬ思ひのいかなれはなみたの川にうきてもゆらん
人のもとにまかりてあしたにつかはしける
待くらす日はすかのねにおもほえてあふ夜しもなと玉のをならん
大江千里まかりかよひける女を思ひかれかたになりてとをき所にまかりにたりと[わたるとイ]いはせて久しうまからす成にけり此女思ひ佗てねたる夜の夢にまうてきたりと見えけれはうたかひにつかはしける
はかなかる夢のしるしにはかられてうつゝにまくる身とやなりなん
かくてつかはしたりけれは千里見侍りてなをさりに[イニナシ]まことにをとゝひなんかへりまうてこしかと心ちのなやましくてあり[なんありイ]つるとはかりいひをくりて侍けれはかさねてつかはしける
おもひねの夢といひてもやみなまし中々なにゝありとしりけん
やまとのかみに侍ける時かの國のすけ藤原淸秀かむすめをむかへむとちきりておほやけ叓によりてあからさまに京にのほり[たりイ]て侍けるほとにこのむすめ眞延法師にむかへられてまかりにけれは國に歸りて尋ねて遣しける
忠房朝臣
いつしかのねになきかへりこしかとものへのあさちはいろつきにけり
せうそこつかはしける女の返事にまめやかにしもあらしなといひて侍けれは
ひきまゆのかくふたこもりせまほしみくはこきたれてなくを見せはや
ある人のむすめあまた有けるをあねよりはしめていひ侍けれときかさりけれは三[サン]にあたる女につかはしける
よみ人しらす
せき山のみねの杉村すきゆけとあふみはなをそはるけかりける
朝忠朝臣ひさしうをともせて文おこせて侍けれは
おもひ出て音つれしける山ひこのこたへにこりぬこゝろなになり
いとしのひてまかりありきて
まとろまぬ物からうたてしかすかにうつゝにもあらぬ心ちのみする
かへし
うつゝにもあらぬこゝろは夢なれや見てもはかなき物を思へは
うつまさわたりに大輔か侍けるにつかはしける
小野道風朝臣
かきりなくおもひいり日のともにのみにしのやまへをなかめやるかな
女五のみこに
忠房朝臣
きみか名のたつにとかなき身なりせはおほよそひとになして見ましや
かへし
女五のみこ
たえぬると見れはあひぬる白雲のいとおほよそにおもはすもかな
みくしけとのにはしめてあひて[イニナシ]つかはしける
あつたゝの朝臣
けふそへにくれさらめやはと思へともたへぬはひとのこゝろなりけり
みちかせ忍ひてまうてきけるにおやきゝつけてせいしけれはつかはしける
大輔
いとかくてやみぬるよりはいなつまのひかりのまにもきみを見てしか
大輔かもとにまうてきたりけるに侍らさりけれはかへりて又のあしたにつかはしける
朝忠朝臣
いたつらにたちかへりにし白波のなこりに袖のひるときもなし
かへし
大輔
なにゝかは袖のぬるらんしら浪の名殘ありけも見えぬこゝろを
よしふるの朝臣にさらにあはしとちかことをして又のあしたにつかはしける
藏内侍
ちかひても猶おもふにはまけぬへし[にけりイ]たかためおしきいのちならねは
しのひてまかりけれは[とイ]あはさりけれは
みちかせ
なにはめにみつとはなしに蘆のねのよのみしかくてあくるわひしさ
物いはんとてまかりたりけれとさきたちてむねもちか侍りけれははやかへりねといひいたし侍けれは
かへるへきかたもおほえすなみた河いつれかわたるあさせなるらん
かへし
大輔
なみた川いかなるせよりかへりけんこゝなる[みなるイ]みおもあやしかりしを
大輔かもとにつかはしける
敦忠朝臣
いけ水のいひ出ることのかたけれはみこもりなからとしそへにける
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