後撰和歌集。卷第十一。恋歌三。原文。
後撰和歌集。原文。
後撰倭謌集。底本『廿一代集第八』是大正十四年十月十四日印刷。同十八日發行。發行所太洋社。已上奧書。
又國謌大觀戰前版及江戸期印本『二十一代集』等一部參照。
後撰和歌集卷第十一
戀歌三
女のもとにつかはしける[イ女に遣しける]
三條右大臣
なにしおはゝ逢坂山のさねかつら人にしられてくるよしもかな
ありはらのもとかた
こひしとはさらにもいはししたひものとけんを人はそれとしらなん
返し
よみ人しらす
したひものしるしとするもとけなくにかたるかことはこひ[あらイ]すもあるかな
女のいと思ひはなれていふに遣しける
うつゝにもはかなきことのわひしきはねなくにゆめとおもふなりけり
みやつかへする女のあひかたく侍けるに
貫之
たむけせぬ別れする身の佗しきは人めを旅とおもふなりけり
かりそめなる所に侍ける女に心かはり[にイ]ける男のこゝにてはかくひんなき所なれは心さしはありなからなんえたちよらぬといへりけれは所をかへて待けるに見えさりけれは
女
やとかへてまつにも見えす成ぬれはつらきところのおほくもある哉
たいしらす
よみ人しらす
おもはんとたのめし人はかはらしをとはれぬわれやあらぬなるらん
源さねあきらたのむ叓なくは[イおもふ叓ならすは]しぬへしといへりけれは
中務
いたつらにたひ〱しぬといふめれはあふにはなにをかへんとすらん
返し
源信明
しぬ〱ときく〱たにも逢みねはいのちをいつのよにかのこさん
とき〱見えける男のゐる所のさうし[曹子、局也]に鳥のかたをかきつけて侍けれはあたりにをしつけ侍ける
本院侍從
ゑにかけるとりとも人を見てしかなおなしところをつねにとふへく
大納言國經朝臣の家に侍ける女に平定文いと忍ひてかたらひ侍て行末まて契り侍ける比此女にはかに贈太政大臣にむかへられてわたり侍にけれは文たにもかよはすかたなく成にけれはかの女の子のいつゝはかりなるか本院の西のたいにあそひありきけるをよひよせて母に見せ奉れとてかひなに書付侍ける
平定文
むかしせしわかかねことのかなしきはいかにちきりしなこりなるらん
返し
よみ人しらす
うつゝにてたれちきりけん定なき夢路にまとふわれはわれかは
おほやけつかひにてあつまのかたへまかりけるほとにはしめてあひしりて侍る女にかくやんことなき道なれは心にもあらすまかりぬるなと申てくたり侍けるをのちにあらためさためらるゝ叓有てめし返されけれは此女聞て悦ひなから問につかはしたりけれはみちにて人の心さしをくりて侍けるくれはとりといふあやをふたむらつゝみてつかはしける
淸原諸實
くれはとりあやに戀しくありしかはふたむらやまもこえすなりにき
返し
よみ人しらす
からころもたつをおしみしこゝろこそふたむらやまのせきとなりけめ
人のもとにつかはしける
きよな[のイ]りか女
夢かともおもふへけれとおほつかなねぬに見しかはわきそかねつる
少將實[眞イ]忠かよひ侍ける所をさりてこと女につきてそれよりかすかのつかひにいてたちてまかりけれは
もとの女[イめ]
そらしらぬ雨にもぬるゝわか身かなみかさのやまをよそにききつゝ
あさかほの花まへにありけるさうしよりおとこのあけて出侍りけるに
よみ人しらす
もろともにおるともなしに打ちとけて見えにけるかなあさかほのはな
内にまいりて久しうをとせさりける男に
をんな
もゝしきはをのゝえくたす山なれやいりにし人のをとつれもせぬ
女のもとにきぬをぬきをきてとりにつかはすとて
これまさの朝臣
すゝかやまいせをのあまのすてころもしほなれたりとひとや見るらん
たいしらす
貫之
いかて猶人にもとはんあかつきのあかぬわかれや何ににたりと
在原行[業イ]平朝臣
戀しき[さイ]にきえかへりつゝあさ露のけさはおきゐんこゝちこそせね
よみ人しらす
しのゝめにあかてわかれし袂をそ露やわけしと人は[のイ]とかむる
平中興[ナカキ]
戀しき[イさ]もおもひこめつゝある物を人にしらるゝなみたなになり
からうしてあへりける女につゝむこと侍て又えあはす侍けれはつかはしける
兼輔朝臣
あふさかの木の下露にぬれしよりわかころもてはいまもからまし
題しらす
みつね
君をおもふこゝろを人にこゆるきのいそのたまもやいまもからまし
おやある女に忍ひてかよひけるを男もしはしは人にしられしといひ侍けれは
よみ人しらす
なき名そと人にはいひてありぬへしこゝろのとはゝいかゝこたへん
なき名たちけるころ
伊勢
きよけれと玉ならぬ身の佗しきはみかけるものに[とイ]いはぬなりけり
忍ひて住侍ける女につかはしける
敦忠朝臣
あふことをいさほに出なん[いてんイ]しの薄しのひはつへきものならなくに
あひかたらひける人これもかれもつゝむこと有てはなれぬへく侍けれは遣しける
よみ人しらす
あひみてもわかるゝ叓のなかりせはかつ〱ものはおもはさらまし
人のもとよりあかつき歸りて
閑院左大臣
いつのまに戀しかるらんから衣ぬれにし袖のひるまはかりに
貫之
わかれつるほともへなくにしらなみのたちかへりても見まくほしきか[にイ]
女のもとにつかはしける
これまさ[伊尹]の朝臣
人しれぬ身はいそけともとしをへてなとこえかたきあふさかのせき
返し
小野好古朝臣女
あつまちにゆきかふ人にあらぬ身はいつかはこえむあふさかのせき
女のもとにつかはしける
藤原きよたゝ
つれもなき人にまけしとせしほとに我もあたなはたちそしにける
かれかたになりにける男のもとにさうそくてうしてをくれりけるにかゝるからにうとき心ちなんするといへりけれは
小野[‐ノ]遠興[トヲキ]かむすめ
つらからぬ中にあるこそうとしといへへたてはてゝしきぬにやはあらぬ
五節の所にて閑院のおほい君につかはしける
もろまさの朝臣
ときはなるひかけのかつらけふしこそこゝろのいろにふかく見えけれ
返し
たれとなくかゝるおほみにふかゝらんいろをときはにいかゝたのまん
藤つほの人々月夜にありきけるを見てひとりかもとにつかはしける
淸正[タゝ]
たれとなくおほろに見えし月影にわけるこゝろをおもひしらなん
左兵衞[‐ノ]督[カミ]師尹[モロマサノ]朝臣につかはしける
本院兵衞
春をたにまたてなきぬる鶯はふるすはかりのこゝろなりけり
題しらす
兼茂朝臣女
夕されは我身のみこそかなしけれいつれのかたにまくらさためん
ありはらの元方
夢にたにまた見えなくに戀しきはいつに[ちイ]ならへるこゝろなるらん
みふのたゝみね
おもふてふことをそねたくふるしけるきみにのみこそいふへかりけれ
戒仙[カイセン]法師
あなこひしゆきてや見まし津の國のいまもありてふうらのはつしま
やむことなき叓によりて遠き所にまかりてたゝん月はかりになんまかりかへるへきといひてまかりくたりてみちよりつかはしける
貫之
月かへてきみをは見んといひしかと日たにへたてすこひしき物を
おなし所に宮つかへし侍て常にみならしける女につかはしける
みつね
いせの海にしほやくあまの藤衣なるとはすれとあはぬきみかな
題しらす
是則
わたのそこかつきてしらんきみかためおもふこゝろのふかさくらへに
人のおとこにて侍る人をあひ知りて遣しける
右近
からころもかけてたのまぬ時そなき人のつまとはおもふものから
ひとのもとにまかれりけるにすのとにすへて物いひけるをすを引きあけゝれはいたくさはきけれは歸りて[まかりかへりてイ]又のあしたにつかはしける
藤原守正[タゝ]
あらかりし波の心はつらけれとすこしによせしこゑそこひしき
あひしりて侍ける女の心ならぬやうに見え侍けれはつかはしける
藤原俊䕃[イのちかけ]朝臣
いつかたに立ちかくれつゝ見よとてかおもひくまなく人のなりゆく
おとこの心やう〱かれかたに見え行けれは
土左
つらきをもうきをもよそに見しかとも我身にちかき世にこそありけれ
女に心さしあるよしをいひつかはしけれは[たりけれはイ]世中の人の心さためなけれはたのみかたきよしをいひて侍けれは
在原元方
ふちは瀨になりかはるてふあすか河わたり見てこそしるへかりけれ
題しらす
伊勢
いとはるゝ身をうれはしみいつしかとあすかゝはをも[そイ]たのむへらなり[るイ]
かへし
贈太政大臣
あすか川せきてとゝむる物ならはふち瀨になるとなにかいはせん
女四のみこにおくりける
右大臣
あしたつの澤邊にとしはへぬれともこゝろは雲のうへにのみこそ
かへし
あしたつの雲ゐにかゝる心あらはよをへて澤にすますそあらまし
せうそこつかはしける女の又こと人に文つかはすときゝていまは思ひたえねといひをくりて侍りける返事に
贈太政大臣
松山につらきなからもなみこさんことはさすかにかなしきものを
宮つかへし侍ける女ほと久しく有て物いはむといひ侍けるにをそくまかり出けれは
枇杷左大臣[イなりひらのあそん]
よひのまにはやなくさめよいそのかみふりにしとこもうちはらふへく
返し
伊勢
わたつみとあれにし床をいまさらにはらはゝ袖やあはとうき[きえイ]なん
心さしありていひかはしける女のもとより人かすならぬやうにいひて侍けれは
長谷雄朝臣
しほのまにあさりする蜑もをのかよゝかひありとこそおもふへらなれ
題しらす
贈太政大臣
あちきなくなとか松山波こさんことをはさらにおもひはなるゝ
かへし
伊勢
岸もなくしほしみちなは松やまをしたにて波はこさんとそ思ふ
まもりをきて侍ける男の心かはりにけれは其まもりを返しやるとて
伊衡[コレヒラノ]朝臣のむすめいまき
よとゝもになけきこりつむ身にしあれはなそやまもりのあるかひもなき
人の心つらくなりにけれは袖といふ人をつかひにて
よみひとしらす
人しれぬわか物おもひのなみたをは袖につけてそ見すへかりける
文なとをこするおとこほかさまになりぬへしときゝて
藤原眞忠かいもうと
山のはにかゝるおもひのたえさらは雲ゐなからもあはれとおもはん
まちしりのきみに文つかはしたりける返事に見つとのみありけれは[つかはしけるイ]
もろうちの朝臣
なきなかすなみたのいとゝそひぬれははかなきみつも袖[みはイ]ぬらしけり
たいしらす
源たのむ
夢のことはかなき物はなかりけりなにとて人にあふと見つらん
心さし侍ける女のつれなきに
よみ人しらす
おもひねのよな〱夢にあふ事をたゝかたときのうつゝともかな
返し
時のまのうつゝをしのふこゝろこそはかなきゆめにまさらさりけれ
題しらす
くろぬし
玉つしまふかき入江をこくふねのうきたるこひも我はするかな
紀内親王[イ三品みこ]
津の國のなにはたゝまくおしみこそすくもたく火のしたにこかるれ
人のもとにまかりていれさりけれはすのこにふしあかしてかへるとていひ入侍ける
よみひとしらす
夢路にもやとかす人のあらませはねさめに露ははらはさらまし
返し
なみた河なかすねさめもある物をはらふはかりの露やなになり[イる]
心さしはありなからえあはさりける人につかはしける
みるめかるかたそあふみになしと聞玉もをさへやあまはかつかぬ
返し
なのみしてあふことなみのしけきまにいつかたまもをあまはかつかん
心さしありて人にいひかはし侍けるをつれなかりけれはいひわつらひてやみにけるを思ひ出てしきりにいひをくりける返事に心ならぬさまなりといへりけれは
かつらきやくめちのはしにあらはこそおもふこゝろをなかそらにせめ
人のもとにつかはしける
右大臣
かくれぬにすむをし鳥のこゑたえすなけとかひなきものにそ有ける
つりとのゝみこにつかはしける
陽成院御製
つくはねのみねよりおつるみなの河こひそつもりてふちとなりける
あひしりて侍ける人のまうてこすなりて後心にもあらす聲をのみきくはかりにて又をともせす侍けれはつかはしける
よみ人しらす
かりかねの雲ゐはるか[なからイ]にきこえしはいまはかきりのこゑにそ有ける
かへし
兼覧王[イかねみのおほきみ]
今はとてゆきかへりぬるこゑならはをひかせにてもきこえましやは
おとこのけしきやう〱つらけに見えけれは
小町
こゝろからうきたる舟にのりそめてひと日も波にぬれぬ日そなき
おとこの心つらくおもひかれにけるを女なをさりになとかをともせぬといひつかはしたりけれは
よみ人しらす
わすれなんとおもふ心のやすからはつれなきひとをうらみましやは[さらましイ]
よひに女にあひてかならすのちにあはんとちかことをたてさせてあしたに遣しける
藤原しけもと
千はやふる神ひきかけてちかひてしこともゆゝしくあらかふなゆめ
院のやまとにあふきつかはすとて
右大臣
おもひには我こそ入りてまとはるれあやなくきみやすゝしかるへき
かねみちの朝臣かれかたになりてとしこえてとふらひ[てイ]侍けれは
元平のみこの母[イ女]
あら玉のとしもこえぬる松やまの波のこゝろはいかゝなるらん
もとのめにかへりすむときゝて男のもとに遣しける
よみ人しらす
わかためはいとゝあさくやなりぬらん野中のしみつふかさまされは
女のもとにつかはしける
源中正[ナカタゝ]
あふみちをしるへなくても見てし哉せきのこなたはわひしかりけり
かへし
しもつけ
みちしらてやみやはしなぬ逢坂のせきのあなたはうみといふなり
女のもとにまかりたるにはやかへりねとのみいひけれは
よみ人しらす
つれなきをおもひしのふのさねかつらはてはくるをもいとふなりけり
あつよしのみこの家にやまとゝいふ人に遣しける
左大臣
いまさらにおもひいてしとしのふるをこひしきにこそわすれわひぬれ
いひかはしける女のいまは思ひ忘れねといひ侍けれは
紀[イニナシ]はせおの朝臣
わかためは見るかひもなし忘れくさわするはかりのこひにしあらねは
しのひてかよひける人に
藤原ありよし
あひみてもつゝむ思ひの佗しきは人まにのみそねはなかれける
物いひける[はへりけるイ]おとこいひわつらひていかゝはせんいなともいひはなちてよといひ侍けれは
よみ人しらす
をやまたのなはしろ水はたえぬともこゝろの池のいひははなたし
かたゝかへに人の家に人をくしてまかりてかへりてつかはしける
千世へんとちきりをきてしひめ松のねさしそ[とイ]めてしやとはわすれし
物いひける女にせみのから[もぬけイ]をつゝみてつかはすとて
源重光朝臣
これを見よ人もすさめぬ戀すとてねをなくむしのなれるすかたを
人のもとよりかへりまう[うイニナシ]てきてつかはしける
坂上是則
あひみてはなくさむやとそ思ひしになこりしもこそこひしかりけれ
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