後撰和歌集。卷第九。恋歌一。原文。
後撰和歌集。原文。
後撰倭謌集。底本『廿一代集第八』是大正十四年十月十四日印刷。同十八日發行。發行所太洋社。已上奧書。
又國謌大觀戰前版及江戸期印本『二十一代集』等一部參照。
後撰和歌集卷第九
戀歌一
からうしてあひしりて侍ける人につゝむことありて又あひかたく侍けれは
源宗于朝臣
あつまちのさやの中山なか〱にあひ見てのちそわひしかりける
忍ひたりける人に物語し侍けるを人のさはかしく侍[なりイ]けれはまかりかへりて遣はしける
貫之
あかつきと[をイ]なにかいひけん別るれはよひもいとこそわひしかりけれ
源おほき[巨城]かかよひけるを[はへりけるをイ]のち〱はまからす[イとふらはす]なり侍にけれはとなりのかへのあなよりおほきをはつかにみて遣しける
するか
まとろまぬかへにも人を見つるかなまさしからなんはるのよのゆめ
あひしりて侍ける人のもとにかへりこと見んとてつかはしける
元良親王
くや〱とまつ夕暮と今はとてかへるあしたといつれまされる
返し
藤原かつみ
ゆふくれはまつにもかゝるしらつゆのおくるあしたやきえははつらん
やまとにあひしりて侍ける人のもとに遣はしける
よみ人しらす
うちかへし君そ戀しきやまとなるふるのわさ田のおもひ出つゝ
返し
秋の田のいねてふことをかけしかはおもひいつるかうれしけもなし
女につかはしける
人こふるこゝろはかりはそれなからわれはわれにもあらぬなりけり
まかる所しらせす侍ける比又あひしりて侍けるおとこのもとより日比たつねわひてうせにたるとなん思ひつるといへりけれは
いせ
おもひ川たえすなかるゝ水のあはのうたかた人にあはてきえめや
題しらす
三統[ミムキノ]公忠
思ひやるこゝろはつねにかよへともあふさかのせきこえすもあるかな
女に遣しける
よみ人しらす
きえ果てやみぬはかりか年をへて君をおもひのしるしなけれは
返し
おもひたにしるしなしてふ我身こ[にイ]そあは[かイ]ぬなけきのかすはもえ[れイ]けれ[るイ]
題しらす
ほしかてにぬれぬへきかなから衣かはくたもとのよゝになけれは
題しらす
よみ人しらす
よとゝもにあふくま川のとをけれはそこなるかけを見ぬそわひしき
わかことくあひ思ふ人のなきときはふかきこゝろもかひなかりけり
いつしかとわかまつ山に[はイ]いまはとてこゆなる波にぬるゝそてかな
女のもとにつかはしける
人ことはまことなりけりしたひものとけぬにしるきこゝろとおもへは
むすひをきし我下ひもの今まてにとけぬはひとのこひぬなりけり
女のもとのもとにつかはしける
ほかの瀨はふかくなるらし飛鳥川きのふのふちそわか身なりける
返し
ふちせともいさやしら波たちさはくわか身ひとつはよるかたもなし
題しらす
ひかりまつ露に心ををける身はきえかへりつゝ世をそうらむる
ある所にあふみといひける人のもとにつかはしける
貫之
しほみたぬうみときけはやよとゝもにみるめなくして年のへぬらん
あつよしのみこまうてきたりけれは[イと]あはすしてかへして又のあしたにつかはしける
桂のみこ
から衣きてかへりにしさよすからあはれとおもふをうらむらんはた
あひまちける人の久しうせうそこなかりけれは[イいひ]つかはしける
きのめのと
影たにも見えすなりゆく[にしイ]山のゐはあさきより又水やたえにし
返し
平定文
あさしてふことをゆゝしみ山の井はほりしにこりにかけは見えぬそ
題しらす
よみ人も
いくたひかいくたの浦にたちかへる波にわか身をうちぬらすらん
返し
たちかへりぬれてはひぬるしほなれはいくたのうらのさかとこそ見れ
女のもとに
あふことはいとゝ雲ゐのおほそらにたつ名のみしてやみぬはかりか
返し
よそなからやまんともせすあふ事はいまこそ雲のたえまなるらめ
又おとこ
いまのみと[とのみ]たのむなれともしら雲のたえまはいつかあらんとすらん
かへし
をやみせす雨さへふれは澤水のまさるらんともおもほゆる哉
題しらす
よみ人も
ゆめに[をイ]たに見ることそなき年をへてこゝろのとかにぬる夜なけれは
見そめすて[すしてイ]あらまし物をからころもたつ名のみしてきるよなきかな
女のもとにつかはしける
かれはつる花のこゝろはつらからてときすきにけ[イた]る身をそ恨むる
返し
あたにこそちると見るらめ君にみなうつろひにけ[たイ]る花のこゝろを
そのほとにかへりこんとて物にまかりける人のほとをすくしてこさりけれはつかはしける
こんといひし月日を過すをは捨の山のはつらきものにそありける
かへし
月日をもかそへけるかな君こふるかすをもしらぬわか身なりけり[なになりイ]
女に年をへて心さしあるよしをのたまひわたりけるを女猶ことしをたに待くらせとたのめけるをそのとしも暮てあくる春まていとつれなく侍りけれは
よみ人も
このめはる春の山田をうちかへしおもひやみにしひとそこひしき
心さしありなからえあはす侍ける女のもとにつかはしける
贈[ソウ]太政大臣
ころをへてあひみぬときはしらたまのなみたもはるはいろまさりけり
かへし
いせ
人こふるなみたははるそぬるみけるたえぬ思ひのわかすなるへし
おとこのこゝかしこにかよひすむ所おほくてつねにしもとはさりけれは女も又いろこのみなる名立けるをうらみ侍ける返事に
源たのむかむすめ
つらしともいかゝうらみんほとゝきすわかやとちかくなくこゑはせて
かへし
あつよしのみこ
さとことになきこそわたれほとゝきすすみかさためぬきみたつぬとて
えかたかるへき女をおもひかけてつかはしける
春道つらき
かすならぬみやまかくれのほとゝきすひとしれぬねをなきつゝそふる
いとしのひたる女にあひかたらひて後人めにつゝみて又あひかたく侍けれは
これたゝのみこ
あふことのかたいとそとはしりなからたまのをはかりなにゝ[かイ]よりけん
女のもとよりわすれ草[定家卿萱草云々]に文をつけてをこせて侍けれは
よみ人しらす
おもふとはいふものからにともすれはわするゝ草の花にやはあらぬ
かへし
たいふ[大輔]のこ[御]といふ[いひけるイ]人
うへて見る我は忘れてあた人にまつわすらるゝ花にそ有ける
平定文かもとよりなにはのかたへなんまかるといひをくりて侍りけれは
土左
浦わかすみるめかるてふあまの身はなにかなにはのかたへしもゆく
かへし
定文
きみをおもふふかさくらへに津の國のほり江見にゆく我にやはあらぬ
つらくなりにける人につかはしける
伊勢
いかてかく心ひとつをふたしへにうくもつらくもなしてみすらん
題しらす
よみ人も
ともすれは玉にくらへしますかゝみひとのたからと見るそかなしき
しのひたる人につかはしける
いはせ山たにのした水うちしのひ人の見ぬまはなかれてそふる
人をあひしりてのち久しうせうそこもつかはささりけれは
うれしけにきみかたのめし言の葉はかたみにくめる水にそ有ける
題しらす
ゆきやらぬ夢ちにまとふたもとにはあまつそらなき露そをきける[やをくらんイ]
身ははやくならのみやこと成にしをこひしきことのまたもふりぬる[かイ]
すみよしのきしの白波よる〱はあまのよそめに見るそかなしき
きみこふとぬれにし袖のかわかぬはおもひのほかにあれはなりけり
あはさりしときいかなりし物とてかたゝいまのまも見ねはこひしき
世の中にしのふるこひのわひしきはあひてののちに[のイ]あはぬなりけり
戀をのみつねにするかのやまなれはふしのねにのみなかぬ日はなし
きみによりわか身そつらき玉たれの見すはこひしとおもはましやは
男のはしめて女のもとにまかりてあしたに雨のふるにかへりてつかはしける
いまそしるあかぬわかれのあかつきはきみをこひちにぬるゝものとは
返し
よそにふる雨とこそきけおほつかななにをかひとのこひちといふらん
つらかりけるおとこに
たえはつる物とは見つゝさゝかにのいとをたのめるこゝろほそさよ
返し
うちわたしなかき心はやつはしのくもてにおもふ叓はたえせし
おもふ人侍ける女に物のたふひけれとつれなかりけれはつかはしける
おもふ人おもはぬひとのおもふひとおもはさらなん思ひしるへく
返し
こからしの森の下くさかせはやみひとのなけきはおひそひにけり
おとこのこと女むかふるを見て親の家にまかりかへるとて
わかれをはかなしき物ときゝしかとうしろやすくもおもほゆるかな
題しらす
なきたむるたもとこほれるけさみれはこゝろとけても君をおもはす
身をわけてあらまほしくそおもほゆるひとはくるしといひけるものを
雲ゐにて人をこひしとおもふかなわれはあしへのたつならなくに
人につかはしける
源[‐ノ]等[ヒトシノ]朝臣
あさちふのをのゝしのはらしのふれとあまりてなとかひとのこひしき
兼盛[イ兼覧王]
雨やまぬ軒のたま水かすしらすこひしきことのまさるころかな
こゝろみしかきやうにきこゆる人也といひけれは
よみひとしらす
いせの海にはへてもあまるたく繩のなかきこゝろはわれそまされる
人につかはしける
いろに出て戀すてふ名そ立ぬへきなみたにそむる袖のこけれは
かくこふるものとしりせはよるは置て[イよはにをきて]あくれはきゆるつゆならましを
あひも見すなけきもそめす有し時おもふことこそ身になかりしか
こひのことわりなき物はなかりけりかつむつれつゝかつそ戀しき
女のもとにつかはしける
わたつうみにふかき心のなかりせはなにかはきみをうらみしもせん
みなかみにいのるかひなくなみた川うきても人をよそに見るかな
かへし
いのりけるみなかみさへそうらめしきけふよりほかにかけの見えねは
大輔に遣しける
右大臣
いろふかくそめしたもとのいとゝしくなみたにさへもこさまさるかな
題しらす
よみひとも
見るときはことそともなくみぬ時はことありかほにこひしきやなそ
おとこのこんとてこさりけれは
山さとのまきの板戶もさゝさりきたのめし人をまちしよひより
はしめて女のもとにつかはしける
ゆくかたもなくせかれたる山水のいはまほしくもおもほゆるかな
女につかはしける
人のうへのことゝしいへはしらぬかなきみもこひするおりもこそあれ
返し
つらからはおなしこゝろにつらからんつれなきひとをこひんともせす
女につかはしける
人しれすおもふこゝろはおほしまのなるとはなしになけくころ哉
おとこのもとにつかはしける
中務
はかなくておなしこゝろになりにしをおもふかことは思ふらんやそ
返し
源信明
わひしさをおなしこゝろときくからに我身をすてゝきみそかなしき
まからすなりにける女の人に名たちけれはつかはしける
さためなくあたにちりぬる花よりは[イも]ときはの松のいろをやは見ぬ
返し
すみよしのわか身なりせはとしふともまつよりほかのいろを見ましや
おとこにつかはしける
うつゝにもはかなきことのあやしきはねなくにゆめの見ゆるなりけり
女のあはす侍りけるに
しらなみのよる〱きしに立よりてねも見しものをすみよしの松
おとこにつかはしける
なからへてあらぬまてにもことのはのふかきはいかにあはれなりける[りイ]
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