後撰和歌集。卷第八。冬歌。原文。
後撰和歌集。原文。
後撰倭謌集。底本『廿一代集第八』是大正十四年十月十四日印刷。同十八日發行。發行所太洋社。已上奧書。
又國謌大觀戰前版及江戸期印本『二十一代集』等一部參照。
後撰和歌集卷第八
冬歌
題しらす
よみ人も
初しくれふれはやまへそおもほゆるいつれのかたかまつもみつらん
はつしくれふるほともなくさほ山のこすゑあまねくうつろひにけり
神無月ふりみふらすみさためなきしくれそ冬のはしめなりける
冬くれはさほの河瀨にゐるたつもひとりねかたきねをそなくなる
獨[※ひとり]ぬるひとのきかくに神無月にはかにもふるはつしくれかな
秋はてゝ時雨ふりぬる我なれはちることのはをなにかうらみん
ふくかせはいろも見えねと冬くれはひとりぬる夜の身にそしみける
秋はてゝ我身しくれと[にイ]ふりぬれはことのはさへにうつろひにけり
かみなつきしくれはかりはふらすしてゆきかてにさへなとかなるらん
神無月しくれとともにかみなひのもりの木の葉はふりにこそふれ
女につかはしける
たのむ木もかれはてぬれは神無月しくれにのみもぬるゝそてかな
山に[へイ]入とて
增基法師
かみなつき時雨はかりを身にそへてしらぬ山路にいるそかなしき
十月はかりに大江千古かもとにあはんとてまかりたりけれとも侍ぬほとなれは歸りまてきてたつねてつかはしける
藤原忠房朝臣
もみちはゝおしき錦とみしかともしくれとゝもにふりてこそこし
返し
大江千古
紅葉々もしくれもつらしまれにきてかへらんひとをふりやとゝめぬ
題しらす
よみ人も
神無月かきりとやおもふ紅葉々のやむときもなくよるさへにふる
ちはやふる神かき山の榊葉はしくれにいろもかはらさりけり
すまぬ家にまてきて紅葉にかきていひつかはしける
[仲平公時の大臣の聟[※婿]に成て伊勢と中絕給時と集に有]
枇杷左大臣
人すますあれたる宿をきてみれはいまそこのはゝにしきをりける
返し
いせ
[集にはねすもちの紅葉につけてうかはすとあり]
なみたさへしくれにそひてふる里はもみちのいろもこさまさりけり
たいしらす
よみ人も
冬の池のかものうはけにをく霜のきえて物おもふころにもある哉
おやの外にありて[まかりてイ]をそくかへりけれはつかはしける
人のむすめのやつ成ける
神無月しくれふるにもくるゝ日をきまつほとはなかしとそおもふ
たいしらす
身をわけて霜やをくらむあた人のことのはさへにかれもゆくかな
冬の日むさしにつかはしける
人しれす君につけてしわか袖のけさしもとけすこほるなるへし[イなりけり]
たいしらす
かきくらしあられふりしけしらたまをしける庭とも人の見るへく
神無月しくるゝときそみよしのゝやまのみゆきもふりはしめける
けさのあらしさむくもある哉足引の山かきくもり雪そふるらし
くろかみのしろくなりゆく身にしあれはまつはつ雪をあはれとそ見る
あられふるみ山の里のわひしきはきてたはやすくとふ人そなき
ちはやふる神な月こそかなしけれわか身しくれにふりぬとおもへは
式部卿敦實のみこ忍ひてかよふ所侍けるをのち〱たえ〱に成たるころほひ[侍けれはイ]いもうとの前齊宮のみこのもとより此女のもとに此比はいかにそとありけれはそのかへりことに女
しら山に雪ふりぬれは跡たえていまはこしちにひともかよはす
雪のあした老をなけきて
貫之
ふりそめて友まつ雪はむはたまのわかくろかみのかはるなりけり
返し
兼輔朝臣
くろかみの色ふりかふるしら雪のまちいつる友はうとくそ有ける
又
つらゆき
黑かみと雪とのなかのうき見れはともかゝみをもつらしとそ思ふ
返し
兼輔朝臣
年ことにしらかの數をます鏡見るにそ雪の友はしりける
題しらす
よみ人も
としふれといろもかはらぬ松か枝にかゝれる雪を花とこそみれ
霜かれの枝となわひそしら雪のきえぬかきりは花とこそ見れ
氷りこそいまはすらしもみよしのゝ山のたきつせこゑもきこえす
夜をさむみねさめてきけはをしそ鳴はらひもあへす霜やをくらん
雪のすこしふる日女につかはしける
藤原かけもと
かつきえてそらも[にイ]みたるゝあは雪は物おもふ人のこゝろなりけり
師氏[モロウチ]朝臣のかりして家の前よりまかりけるを聞きて
よみ人しらす
しら雪のふりはへてこそとはさらめとくるたよりをすくささらなん
題しらす
おもひつゝねなくにあくるふゆのよの袖のこほりはとけすもあるかな
あらたまの年をわたりてあるかうへにふりつむ雪のたえぬしらやま
まこもかるほり江にうきてゐ[ぬイ]る鴨のこよひの霜にいかにわふらん
しら雲のおりゐる山と見えつるはふりつむ雪のきえぬなりけり
古鄕のゆきは花とそふりつもるなかむるわれもおもひきえつゝ
なかれゆく水こほりぬる冬さへや猶うき草のあとはとゝめぬ
こゝろあてに[はイ]見はこそわかめしら雪のいつれか花のちるにたゝ[たかイ/まかイ]へる
あまの川冬はこほりにとちたれやいしまにたきつをとたにもせぬ
をしなへて雪のふれゝはわかやとの杉をたつねてとふひともなし
冬の池の水になかるゝあしかものうきねなからにいくよへぬらん
山ちかみめつらしけなくふるゆきのしろくやならんとしつもりなは
松の葉にかゝれる雪のう[そイ]れをこそ冬の花とはいふへかりけれ
ふる雪はきえてもしはしとまらなん花も紅葉もえたになきころ
なみた川身なくはかりの淵はあれとこほりとけねはゆくかたもなし
ふる雪に物おもふわか身をとらめやつもり〱てきえぬはかりそ
よるならは月とそ見ましわかやとの庭しろたへにふりつもる雪
梅か枝にふりをける雪を春ちかみめのうちつけに花とこそ見れ[かとそみるイ]
いつしかとやまのさくらもわかことや[ことくイ]としのこなたに春をまつらん
年ふかくふりつむ雪を見るときそこしのしらねにすむこゝちする
としくれて春あけかたになりぬれは花のためしにまかふしらゆき
春ちかくふる白雪はをくらやまみねにそ花のさかりなりける
冬の池にすむ鳰[※にほ、にを水鳥乃名]とりのつれもなく下にかよはん人にしらすな
むはたまのよるのみふれるしら雪はてる月かけのつもるなりけり
この月のとしのあまりにたら[たゝイ]さらはうくひすははやなきそしなまし
せきこゆる道とはなしにちかなからとしにさはりて春をまつかな
みくしけとのゝ別當にとしをへていひわたり侍けるをえあはすして其年のしはすのつこもりの日つかはしける
藤原敦忠朝臣
物おもふとすくる月日もしらぬまにことしも[はイ]けふにはてぬとかきく
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