後撰和歌集。卷第五。秋歌上。原文。
後撰和歌集。原文。
後撰倭謌集。底本『廿一代集第八』是大正十四年十月十四日印刷。同十八日發行。發行所太洋社。已上奧書。
又國謌大觀戰前版及江戸期印本『二十一代集』等一部參照。
後撰和歌集卷第五
秋歌上
惟[是イ]貞のみこの家の歌合に
よみ人しらす
にはかにも風のすゝしくなりぬるか秋たつ日とはむへもいひけり
たいしらす
うちつけに物そかなしき木葉ちる秋のはしめをけふそとおもへは
物思ひける比秋立つ日人につかはしける[侍けるイ]
たのめこし君はつれなし秋かせはけふよりふきぬ我身かなしも
おもふこと侍けるころ
いとゝしく物おもふやとの荻の葉に秋とつけつる風のわひしさ
たいしらす
あきかせのうちふきそむるゆふくれはそらにこゝろそわひしかりける
大江千里
露わ[かイ]けしたもとほすまもなき物をなと秋かせのまたきふくらん
女のもとより文月はかりにいひおこせて侍ける
よみ人しらす
秋萩をいろとる風のふきぬれはひとのこゝろもうたかはれけり
返し
在原業平朝臣
あき萩をいろとる風はふきぬともこゝろはかれし草葉ならねは
源昇朝臣とき〱まかりかよひける時にふん月の四五日はかりなぬかの[日の]れうにさうそくてうしてといひつかはして侍けれは
閑院
あふことは七夕つめにひとしくてたちぬふわさはあへすそ有ける
題しらす
よみ人も
天川わたらむこと[そらイ]もおもほえす絕えぬわかれとおもふものから
七月七日にゆふかたまてこむといひて侍けるに雨ふり侍けれはまてこて
源中正
雨ふりて水まさりけりあまの河こよひはよそにこひんとや見し
返し
よみ人しらす
水まさりあさき瀨しらすなりぬともあまのとわたる舟も[はイ]なしやは
七日の日に女のもとにつかはしける
藤原兼三
たなはたもあふ夜[せイ]有けり天の河このわたりにはわたる瀨もなし
かれにけるおとこの七日の夜まてきたりけれは女のよみて侍ける
ひこほしのまれにあふ夜の床夏[なれイ]はうちはらへとも露けかりけり
なぬか[七日の夜イ]人のもとより返事にこよひあはんといひをこせて侍けれは
こひ〱てあはんと思ふゆふくれは七夕つめもかくそ[やイ]あるらし
返し
たくひなき物とは我そなりぬへきたなはたつめは人めやはもる
たいしらす
あまの川なかれて戀はうくもそあるあはれとおもふ瀨にはやく見ん
玉かつらたえぬ物からあらたまのとしのわたりはたゝひと夜のみ
秋の夜のこゝろもしるく七夕のあへるこよひはあけすもあらなん
ちきりけんことのは今はかへしてんとしのわたりによりぬるものを
なにかに[イなぬかのひに]越後藏人につかはしける
藤原敦忠朝臣
あふことのこよひすきなは七夕にをとりやしなんこひはまさりて
七日[イ七夕]
よみ人しらす
七夕のあまのとわたるこよひさへをちかた人の[やイ]つれなかるらん
たなはたをよめる
あまの川とをきわたりはなけれともきみかふなてはとしにこそまて
銀河いはこす波のたちゐつゝ秋のなぬかのけふをしそまつ
きのとものり
けふよりは[やイ]あまのかはらはあせなゝんそこゐ[イそよみ行成本]ともなくたゝわたりなむ
よみ人しらす
あまの河なかれてこふる七夕のなみたなるらし秋のしら露
あまの河せゝのしら波たかけれとたゝわたりきぬまつにくるしみ
秋くれは川きりわたる天川かはかみ見つゝこふる日のおほき
あまの川こひしき瀨にそ渡りぬるたきつなみたに袖はぬれつゝ
七夕の年とはいはし天河雲たちわたりいさみたれなん
凡河内躬恒
秋の夜のあかぬわかれを七夕はたてぬきにこそおもふへらなれ
七月八日のあした
兼輔朝臣
七夕のかへるあしたのあまの川舟もかよはぬなみもたゝなん
おなし心を
貫之
あさ戶あけてなかめやすらん七夕の[はイ]あかぬわかれのそらをこひつゝ
思ふ事侍て
よみ人しらす
秋かせのふけはさすかにわひしきは[イはた不用]世のことはりとおもふものから
題しらす
松むしのはつこゑさそふ秋かせはをとはやまよりふきそめにけり
業平朝臣
ゆくほたる雲のうへまていぬへくは秋かせふくと鴈につけこせ
よみ人しらす
あきかせの[にイ]草葉そよきて吹なへにほのかにしつるひくらしのこゑ
つらゆき
日くらしの聲きく山のちかけれは[イや]なきつるなへにいり[ゆふイ]日さすらん
よみ人しらす
ひくらしのこゑきくからに松むしの名にのみひとをおもふころかな
こゝろありてなきもしつるか日晩[※ひくらし]のいつれも物のあきて[はイ]うけれは
秋かせのふきくるよひはきり〱す草のねことにこゑみたれけり
我ことく物やかなしききり〱す草のやとりにこゑたえすなく
こんといひしほとや過ぬる秋のゝにたれまつむしそこゑのかなしき
秋の野にきやとる人もおもほえす誰をまつむしこゝらなくらん
あきかせのやゝふきしけは野を寒みわひしきこゑにまつむしそなく
藤原元善朝臣
秋くれは野もせに虫のをりみたるこゑのあやをはたれかきるらん
よみ人しらす
風さむみなく秋虫のなみたこそくさ葉いろとる露とをくらめ
秋風のふきしく松はやまなからなみたちかへるをとそきこゆる
是貞のみこの家歌合に
壬生忠岑
松のねに風のしらへをまかせてはたつたひめこそ秋はひくらし
秋大輔かうつまさのかたはらなる家に侍けるにおきの葉に文をさしてつかはしける
左大臣
山さとの物さひしさ[きイ]は荻のはのなひくことにそおもひやらるゝ
題しらす
小野道風朝臣
ほには出ぬいかにかせまし[すへきイ]はな薄[※すゝき]身を秋風に捨やはてゝん[イしなまし]
ふたりのおとこに物いはれ[いひイ]ける女のひとりにつきにけれはいまひとりかつかはしける
よみ人しらす
あけくらしまもるたのみをからせつゝたもとそほつの身とそ成ぬる
返し
こゝろもておふ[ほイ]る山田のひつちほはきみまもらねとかるひともなし
題しらす
藤原守文
草のいとにぬく白玉と見えつるは秋のむすへる露にそありける
0コメント