玉葉和歌集。撰者京極爲兼。卷第四秋歌上。原文。
玉葉倭謌集。底本『廿一代集第七』是大正十四年十月十四日印刷。同十八日發行。發行所太洋社。已上奧書。又國謌大觀戰前版及江戸期印本『二十一代集』等一部參照ス。
玉葉和謌集卷第四
秋哥上
七月一日明ほのゝ空をみてよめる
紫式部
しのゝめの空きりわたりいつしかと秋のけしきに世は成にけり
山里にて初秋の心をよみ侍ける
前大納言公任
いつくにも秋はきぬれとやま里の松ふく風はことにそ有ける
名所百首哥に龍田山秋
前中納言定家
こゝろあての思ひの色そたつた山けさしも染し木ゝのしら露
初秋朝といふ叓を
前參議爲相
けさよりはふきくる風もをく露も袖にはしめて秋そしらるゝ
弘長百首哥に早秋
衣笠前内大臣[家良]
草のうへに朝をく庭のつゆみれは袖もすゝしく秋はきにけり
道助法親王家五十首哥におなし心を
信實朝臣
さひしさのあはれをそへぬ宿もあらしよもの草きの秋のはつ風
殘暑の心を
前大僧正慈圓
あきあさきひかけになつはのこれともくるゝまかきは荻のうは風
百首哥の中に秋哥
前大納言爲氏
身にしみてふきこそまされ日くらしの鳴ゆふくれのあきのはつかせ
初秋の心を
後一條入道前關白左大臣
ふきまさる風のまゝなるくすの葉のうらめつらしく秋はきにけり
嘉元四年法皇三十首哥めされける時秋哥
後二條院權大納言典侍
かねてたにすゝしかりしをかた岡の森の木すゑのあきの初風
題しらす
寂蓮法師
秋はきぬとはかりこそはなかめつれ籬のくれに萩のした露
前大僧正道玄
ひとよりもわきてつゆけきたもとかな我ためにくる秋にはあらねと
早秋の心を
常盤井入道前太政大臣[實氏]
秋のきてけふ三か月のくもまよりこゝろつくしの陰そほのめく〇
從三位親子
あきにこそまた成ぬれとおもふよりこゝろにはやくそふあはれかな
五十番哥合に秋露をよませ給うける
院御製[伏見院]
われもかなしくさきもこゝろいたむらし秋風ふれてつゆくたるころ〇
弘長百首哥に七夕を
前大納言爲家
ひさかたのくもゐはるかにまちわひし天つ星あひの秋もきにけり
おなし心を
平爲時
ひこほしのつまこひころもこよひたにそてのつゆほせ秋のはつ風
龜山院に奉りける七夕哥の中に
安嘉門院四條
またれつるあまのかはらに秋たちてもみちをわたす波のうきはし
乞巧奠の心を
入道前太政大臣[實兼]
庭のおもにひかてたむくることのねを雲ゐにかはす軒の松風
題しらす
山上憶良
ひこほしの妻むかへ舟こきいつらし天の河原に霧のたてれは
天曆元年七月七日うへのおのこともに哥よませ給うけるついてに
天曆御製[村上院]
戀わたるとしはふれとも天の川まれにそかゝるせにはあひける
七夕を
花山院御製
あかれしのこゝろやふかきたなはたのとしにひとたひまれにのみあふ
七月七日讀侍ける
馬内侍
思ひやり天の河原をなかむれはたえまかちなる雲そわたれる
大僧正行尊
ひこほしのまれにわたれる天の川岩こす波のたちなかへりそ
守覺法親王家五十首の哥中に
野宮左大臣
なにとなく秋にしなれはひこほしの逢ふ夜をたれも待こゝちして
嘉元百首哥奉りける時七夕の心を
二品法親王覺助
逢叓の年にかはらぬたなはたは賴むひと夜や命なるらん
秋哥の中に
平政村朝臣
露しけき袖をはかさし七夕の淚ほすまの秋のひと夜に
堀川院百首哥に
俊賴朝臣
たなはたのかへる袂のしつくには天のかは波たちやそふらん
七夕に讀侍ける
小侍從
稀にあふ秋のなぬかのくれはとりあやなくやかて明ぬこの夜は
天德三年九月庚申哥合に荻を讀侍ける
藤原元眞
荻の葉に風のすゝしき秋きてはくれにあやしき物をこそ思へ
秋海と云叓を
從二位家隆
この比のうらふく風にそなれ松かはらぬいろも秋はみえけり
秋御哥の中に
院御製[伏見院]
やまかせにもろきひと葉はかつおちてこすゑ秋なるひくらしのこゑ
早秋の心を
常盤井入道前太政大臣[實氏]
いほむすふわさ田のなるこひきかへて夜さむになりぬ露の衣手
題しらす
式子内親王
さらてたに身にしむ秋のゆふ暮にまつをはらひて風そすくなる[そゝくなりイ]
惠慶法師
たか世よりいかなる色の夕へとて秋しも物を思ひそめけん
閑中秋と云叓を
從三位爲實
たれにかはあきのこゝろもうれへまし友なきやとの夕くれの空
秋夕を
永福門院
かせにきゝくもになかむるゆふくれのあきのうれへそたへす成ゆく
鎌倉右大臣
たそかれに物おもひをれはわかやとの荻の葉そよきあき風そふく
山家秋夕といふ叓をよませ給うける
院御製
みやこ人いまとひこなんひとりきく軒はのすきの秋かせの暮
深洞聞風老檜悲といふ詩の心をよませ給うける
土御門院御製
苔ふかきほらの秋かせ吹すきてふるきひはらの音そかなしき
秋哥の中に
入道前太政大臣
夕附日さひしき影はいりはてゝ風のみ殘る庭の荻原
前大僧正道玄
袖たれていさ見にゆかんから衣すそのゝ眞萩ほころひぬらし
萩をよみ侍ける
山階入道前左大臣
からころもつまとふ鹿のなく時はすそのゝ萩の花もさきけり
從一位敎良女
なかめすくす日かすや秋にうつりぬるこ萩かすゑそ花になりゆく
章義門院
さきやらぬすゑ葉の花は稀にみえてゆふ露しけき庭のはき原
題しらす
中納言家持
髙圓[たかまと]の野への秋はきこの比の曉露に咲にけるかも
屏風繪に花見る女車ありわらはの立よりて萩花おる所
紫式部
さをしかのしかならはせる萩なれやたちよるからにをのれおれふす
嘉元内裏百首哥奉りけるに萩露
關白前太政大臣
ちれはかつ風の跡よりをきかへておつるともなき萩のしたつゆ
草花を
前參議爲相
うへさりし今ひともともくやしきは花さくのちの庭の萩原
秋哥の中に
二品法親王守覺
こゝろをはいろとこゑとにわけとめつ萩に鹿なくみやき野の原
卅首哥人ゝによませさせ給し時草花露を
院御製
なひきかへるはなのすゑよりつゆちりてはきの葉しろき庭のあきかせ
入道前太政大臣
數ゝに月のひかりもうつりけり有明の庭のつゆの玉はき〇
前大納言爲兼
露をもる小萩かすゑはなひきふして吹かへす風に花そ色そふ
寶治百首哥めされける時萩露を
後嵯峨院御製
しらつゆもこほれてにほふたかまとの野への秋はきいまさかりなり
前大納言爲家
をとめ子かかさしの萩の花のえに玉をかされる秋のしら露
太宰權帥爲經
秋萩の花さきしより宮城野の木のした露のをかぬ日そなき
おなし心を
入道前太政大臣
ま萩はら露にうつろふ月のいろもはなになりゆくあけほのゝ庭
遠鄕萩と云叓を
皇太后宮大夫俊成
この里の眞はきにすれるころも手をほさてみやこの人に見せはや
萬葉集の詞にて二百首哥よみ侍けるに衣にすらん
從二位隆博
あき萩のさくや花野のつゆわけてころもにすらん人なとかめそ
風後草花といふ叓をよませ給うける
新院御製
夜すからの野分の風のあとみれはすゑふす萩に花そ稀なる
永福門院
しほりつる風はまかきにしつまりてこ萩かうへに雨そゝくなり
守覺法親王家五十首哥中に
前中納言定家
里はあれて時そともなき庭のおもゝもとあらの小萩秋は見えけり
題しらす
よみ人しらす
眞くす原なひくあき風ふくことにあたのおほ野の萩の花ちる
あきかせは日ことにふきぬたかまとの野へのあきはきちらまくおしも
萩を
基俊
さをしかのけさうらふれて鳴なへに野はらの小萩はなちりぬへし
題しらす
笠金村
たかまとの野への秋萩いたつらにちりかすくらんみる人なしに
髙圓廣世
妻こひに鹿なくやまの秋はきはつゆ霜さむみさかり過ゆく
大納言旅人
わかをかのあき萩のはな風をいたみちるへくなりぬみん人もかな
露をよみ侍し
前大納言爲兼
いつくよりをくともしらぬしら露のくるれは草のうへにみゆらん
卅首哥めされ侍し時草花露
從三位爲信
みたれふす野への千くさの花のうへにいろさやかなる秋のしらつゆ
秋哥の中に
前右近大將公顯
をくつゆもなさけそ[もイ]ふかきもゝ草のはなのひもとくあさ霧のには
大江貞重
むらさめのはるゝ日かけにあき草のはな野のつゆやそめてほすらん
前大僧正實承
月殘りつゆまたきえぬ朝あけのあきのまかきのはなのいろいろ
藤原行雄
うたてなときりのあさけのをみなへしはなのすかたを-たちかくすらん
後一條院御時上達部殿上人嵯峨野の花見にまかりて内にかへりまいりて侍けるに中宮の御方の臺盤所のみすに女郎花の枝をさされたるを見てよみ侍ける
堀川院右大臣[頼宗]
ひとえたのはなのいろたにあるものを野へのにしきを思ひやらなん
女郎花をよませ給うける
崇德院御製
見しひともすみあらしてしふる鄕にひとりつゆけきをみなへしかな〇
雨のふる日女郎花につけて人につかはしける
中務卿具平親王
あきの雨になかめしほとにをみなへしうつろふまてもなりにけるかな
亭子院哥合に女郎花を
讀人不知
しら露のをけるあしたのをみなへしはなにも葉にもたまそかゝれる
嵯峨野の花見にまかりてよみ侍ける
淸槇公
かへりなはうらみもそするをみなへしこよひは野へにいさとまりなん
女郎花に露のをきたるを見てよめる
中務
なかき夜をいかにあかしてをみなへし曉おきのつゆけかるらん
西園寺にてよませ給ける秋御哥中に
永福門院
を花のみ庭になひきてあきかせのひゝきは峯のこすゑにそきく〇
題しらす
刑部卿賴輔
色ゝの秋の野へをは花すゝきまねかすとてもたへ[たゝイ]やすくへき
中原師員朝臣
つき影のいる野のすゝきほのほのと山のはならてあくるしのゝめ〇
原薄を
入道前太政大臣
あきやまのふもとのはらの村すゝきほすゑかたより秋かせそふく
千五百番哥合に
大藏卿有家
色かはるは山か峯に鹿なきて尾花ふきこす野への秋かせ
百首哥の中に
權中納言經平
はなすゝきほむけのいとを吹風にたまの緒とけてつゆそみたるゝ〇
秋風を
從三位親子
またあきのうれへのいろにむかふなりをはなか風に庭のつき影〇
秋御哥の中に
永福門院
うす霧のはるゝあさけの庭みれはくさにあまれる秋のしらつゆ〇
霧をよませ給ける
新院御製
秋されはわか袖ぬらす淚よりくさ木のつゆもをくにや有らん
朝霧を讀侍ける
入道前太政大臣
いり殘るくもまの月はあけはてゝなをひかりある庭のあさ露〇
名所百首御哥の中に嵯峨野
順德院御製
狩ひとのくさわけころもほしもあへす秋のさか野のよもの白つゆ
十首哥人ゝによませ給ける時松風
中務卿具平親王
まつかせはいかてしるらんあきのよのねさめせらるゝをりにしも吹
三首哥めされし時遠近秋風といふ叓を
權中納言兼季
吹しほりと山にひゝく秋かせに軒端の松もこゑあはすなり〇
秋哥とて
永福門院内侍
ふきしほる四方のくさ木のうら葉みえてかせにしらめる秋の明ほの
百首御哥の中に
後鳥羽院御製造
秋されはいとゝおもひをましはかるこの里ひとも袖やつゆけき
秋廿首哥めされし時
前大納言爲兼
露の色ましはの風江のゆふけしきあすもやこゝにたへてなかめん
建保内裏秋十五首哥めされける中に
大藏卿有家
ゆふされは野もせにすかくしらつゆのたまれはかてに秋かせそふく
題しらす
藤原義景
櫻あさのおふのした露をきもあへすなひく草葉にあき風そふく
露をよみ侍ける
前關白太政大臣[基忠]
つゆけさのそてにかはらぬくさ葉まてとはゝや秋は物やおもふと
源淸兼朝臣
をきあまるこのした露やそめつらん草葉うつろふみやきのゝ原
題しらす
藤原定成朝臣
もの思ふといはぬはかりそ露かゝるくさ木もあきのゆふ暮のいろ
守覺法親王五十首哥に
大藏卿有家
あきはきぬ鹿はをのへにこゑたてつよはのねさめをとふ人はなし〇
秋哥の中に
前中納言定家
やへむくら秋のわけいる風のいろをわれさきにとそ鹿は啼なる
建曆哥合に
前大僧正慈鎭
あきやまのみねゆくしかのともをなみ霧にまとへるゆふくれのこゑ〇
千五百番哥合に
從二位家隆
あきかせにもとあらのこはきつゆおちてやまかけさむみしかそなくなる
題しらす
貫之
山遠き宿ならなくに秋はきをしからむ鹿のなきもこぬかな
躬恒
わかやとのあきはきのはなさくときそをのへにしかのこゑたかくなく
讀人しらす
かりもきぬ萩もちりぬとさをしかの鳴なる聲はうらふれにけり
從三位賴政
草かくれ見えぬをしかも妻こふるこゑをはえこそしのはさりけれ
冷泉前太政大臣
宿ちかく妻とふ鹿のこゑのみそ秋のねさめの友となりける
藤原永光
鹿のねもをのへの鐘もたゆむなり淚はつきぬ秋のね覺に
秋御哥の中に
野山にも秋のうれへやひとつならし男鹿つまとひ虫もなくなり
卅首哥奉りし時野鹿
從三位爲子
矢田の野やよさむの露のをくなへに淺茅いろつきをしかなくなり
從一位兼敎
鳴しかのこゑのしるへもかひそなき道ふみまか[よイ]ふかすか野の原
秋哥とて
藤原冬綱朝臣
つゆわくるこのしたとをきかすかのゝをはなかなかにさをしかのこゑ
賀茂社へ奉りける百首哥の中に鹿を
皇太后宮大夫俊成
あらしふき籬の萩に鹿なきてさひしからぬは秋のやまさと
前右近中將資盛家哥合におなし心を
大宮入道内大臣
荻の葉のをともあやしきゆふくれに鹿のねをさへそへて聞哉
千五百番哥合に
大納言通具
あはれなる時しもあきの寢さめかなつまとふしかの明かたの聲
鹿を
前中納言定家
ふけまさるひとまつ風のくらき夜にやまかけつらきさをしかのこゑ
土御門院御製
深山路やあかつきかけてなく鹿のこゑするかたに月そかたふく〇
秋哥の中に
西行法師
しかのねをかきねにこめてきくのみか月もすみけりあきのやま里
光明峯寺入道前攝政家哥合に月下鹿
藻壁門院少將
さをしかのこゑきくときのあき山にまたすみのほる夜はの月かけ
田家曉鹿といふ叓を
前大納言伊平
あしひきの山田もるいほにね覺して鹿のねきかぬ曉そなき
建保四年内裏百番哥合に
嘉陽門院越前
ときはなるやまちはあきのほかゝとてなかむるくれもさをしかのこゑ
秋御哥の中に
後鳥羽院御製
はつお花たか手まくらにゆふきりの籬もちかくうつら[鶉]なくなり
寶治百首哥に初雁を
衣笠前内大臣
わかためにくるともきかぬ初かりのそらにまたるゝ秋にも有かな
おなし心を
後二條院御製
あきかせのさむき朝けにきにけらし雲にきこゆるはつかりのこゑ
題しらす
伊勢
すむさとはくもゐならねとはつかりのなきわたりぬるものにそありける
重之女
きかさりし物とはなしにかりかねのくるたひことにあはれといはるゝ
正治二年百首哥奉りける時
式子内親王
わかゝとのいな葉の風におとろけは霧のあなたにはつ鴈のこゑ
雁を讀侍ける
後一條入道前關白左大臣
あき風はくものうへまてふきぬらし今はた雁のこゑそきこゆる
千五百番哥合に
前大僧正慈鎭
ころもうし初かりかねの玉つさにかきあへぬものは淚なりけり
百首哥の中に
中務卿宗尊親王
した葉ちるやなきのこすゑうちなひき秋かせたかしはつ鴈のこゑ
雁をよめる
二條太皇太后宮大貮
ふるさとのあさちかすゑはいろつきてはつかりかねそくもになくなり〇
前中納言定家
山のはの雲のはたてを吹風にみたれてつゝく雁のつらかな
前大納言爲家
あきかせにひ影うつろふむらくもをわれそめかほに鴈そ啼なる
きかしたゝあきかせさむき夕つく日うつろふくもにはつかりの聲
百首御哥の中に
院御製
くもたかきゆふへのそらのあきかせにつらものとかにわたるかりかね
秋哥とて
永陽門院少將
はたさむく風も秋なるゆふくれの雲のはたてをわたるかりかね
從三位親子
むらむらのくものそらにはかりなきてくさ葉つゆなるあきの朝あけ[あけほのイ]
雨中雁
永福門院
あきのあめのものさむくふるゆふくれのそらにしほれてわたるかりかね
建保五年九月家に秋三首哥よみ侍けるに雲間雁を
光明峯寺入道前攝政左大臣
ゆふされはいやとをさかりとふ鴈のくもより雲にあとそきえゆく〇
百首哥よみ侍ける中に
從二位行家
たれにかも衣かりかねあき風のさむき夕への空になくらん
日吉社へ奉りける百首哥の中に
皇太后宮大夫俊成
かへるかりまたしもあはしと思ひしにあはれにあきのくもに鳴なる
題しらす
人麿
かりかねのさむくなるより水くきの岡のくす葉はいろつきにけり
院御製
あき風のさむくしなれはあさ霧のやへ山こえて鴈もきにけり
延喜十三年尚侍藤原朝臣滿子四十賀の屏風哥内よりの仰叓にて讀て奉りける中に雁のなくをきく所
貫之
あききりはたちわたれともなくかりのこゑはそらにもかくれさりけり
題しらす
權大納言長家
秋の夜のころもかりかねなくからに寢覺のとこも風そさむけき
中務卿宗尊親王
かりなきてさむき朝けに見わたせは霧にこもらぬ山のはもなし
千五百番哥合に
二條院讚岐
あはれなるやまたのいほのねさめかないなはのかせにはつかりのこゑ
霧中雁を
大江宗秀
峯こゆる聲はあまたに聞鴈も霧のひまゆくかすそすくなき
藤原實文朝臣
山きはのきりはれそめてこゑはかりきゝつる雁のつらそみえゆく
月前雁
民部卿爲世
つき影の更る雲ゐにおとつれてひとつらすくる秋のかりかね
秋御哥とて
朔平門院
なきつくす野もせの虫のねのみして人はをとせぬあきのふる鄕
秋夜雨
永福門院
ふりまさるあま夜のねやのきりきりすたえたえになる聲もかなしき
月前虫と云叓を
今上御製
つきすみてかせはたさむきあきのよのまかきのくさにむしの聲ゝ
秋御哥の中に
廣義門院
つきもまた影みえそめぬゆふ暮のまかきはむしのねをのみそきく
院御製
更ゆけは虫のこゑのみ草にみちてわくるひとなき秋のよの野へ
秋里に侍ける比七條后宮よりなとか久しくまいらぬ松虫もなきやみ花のさかりも過ぬへしとのたまはせたりける御返事に
伊勢
まつむしもなきやみぬなるあきのゝにたれよふとてかはなみにもこん
題しらす
和泉式部
すゝむしのこゑふりたつるあきのよはあはれにものゝ成まさるかな
あひしりて侍ける人の伏見にすむと聞て尋ねまかりたりけるに庭の草道も見えすしけりて虫の鳴けれは
西行法師
わけている袖にあはれをかけよとてつゆけき庭にむしさへそなく
題しらす
平通時
なくむしのこゑもみたれてきこゆなりゆふ風わたるをかのかや原
虫をよみ侍ける
權大納言冬敎
露はをき風は身にしむ夕くれををのか時とやむしの鳴らん
題しらす
湯原王
ゆふつくよこゝろもしのにしらつゆのをくこの庭にきりきりすなく
人麿
くさふかみきりきりすいたくなく宿のはき見にきみはいつかきまさん
秋哥とて
藤原敏行朝臣
すゝむしの聲みたれたる秋の野はふりすてかたきものにそありける
髙辨上人
あはれしれとわれをすゝむる夜半なれやまつのあらしもむしの鳴ねも
虫をよめる
西行法師
あきのよをひとりやなきてあかさましともなふむしのこゑなかりせは
前右兵衞督爲敎
鳴あかす友とはきけときりきりすおもふこゝろはかよひしもせし
讀人不知
うき世そとおもはぬむしの鳴こゑもきくからかなし秋のゆふ暮
うへのおのことも題をさくりて哥つかうまつりけるに虫をよませ給ける
法皇御製
野へにとるわかまつ虫のなくこゑもなれし住かを戀しくや思ふ
おなし心を
新院少納言
きりきりすねさめのとこをとひかほにわきて枕のしたにしもなく
權僧正憲淳
さひしさは我やとからの秋ならしあれたる庭にむしの聲ゝ
秋哥の中に虫
入道前太政大臣
くれぬとやかた山かけのきりきりすゆふ日かくれの露になくらん
衣笠前内大臣
里とをき野なかのもりの下くさに暮るもまたぬまつむしのこゑ
龜山院より百首哥めされける中に
安嘉門院四條
いろいろにほむけの風をふきかへてはるかにつゝく秋のをやまた
露をよみ侍ける
入道前太政大臣
をやまたのいな葉をしなみふく風にほすゑをつたふあきのしら露
秋哥の中に
藤原光俊朝臣
かりなきてやまかせさむしあきのたのかりほのいほのむらさめのそら
前中納言定家
をきの葉にかはりし風のあきのこゑやかて野分のつゆくたくなり
いなつまを
院御製
よひのまの村雲つたひ影みえて山のはめくる秋のいなつま
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