玉葉和歌集。撰者京極爲兼。卷第三夏歌。原文。



玉葉倭謌集。底本『廿一代集第七』是大正十四年十月十四日印刷。同十八日發行。發行所太洋社。已上奧書。又國謌大觀戰前版及江戸期印本『二十一代集』等一部參照ス。





玉葉和謌集卷第三

 夏哥

  首夏の心をよみ侍ける

  入道前太政大臣[實兼]

花鳥のあかぬわかれに春くれてけさよりむかふ夏山のいろ

  更衣の心を

  皇太后宮大夫俊成

いつしかとかへつる花の袂かな時にうつるはならひなれとも

  前大納言忠良

さくらいろの花のたもとをたちかへてふたゝひ春の名殘をそ思ふ

  夏哥の中に

  式子内親王

春はすて[きイ]またほとゝきすかたらはぬけふのなかめをとふ人もかな

  名所哥の中に大井河

  皇太后宮大夫俊成女

大井川いは波はやく春くれていかたのとこに夏そきにける

  さくらもとゝいふ所にすみ人の許に四月一日いひつかはし侍ける

  周防内侍

けふはいとゝ櫻もとこそゆかしけれ春のかたみに花やのこると

  四月一日比雨ふりて花とものちりみたれけるを御覧してよませ給うける

  院御製[伏見院]

おしや猶さくらやまふきちりしをれはるなりぬへきけふのけしきを

  殘花を

  常盤井入道前太政大臣[實氏]

のこりけるみ山かくれのをそ櫻なつさへかせを猶やいとはん

  夏御哥の中に

  永福門院

うすみとりましるあふちの花みれはおも影にたつ春のふち波

  廉義公家歌合に

  前大納言公任

卯の花のちらぬかきりはやま里の木のしたやみもあらしとそ思ふ

  弘長元年百首哥に卯花

  前大納言爲家

榊とるころとはしるししろたへにゆふかけわたす森のうの花

  題しらす

  前右兵衞督爲敎

うのはなのつゆにひかりをさしそへてつきにみかける玉かはの里

  二品法親王覺助

時やいつ空にしられぬ月ゆきのいろをうつしてさける卯の花

  爲兼家にて月次の哥よみ侍し時夜卯花を

  前中納言經親

つき影のもるかと見えて夏木立しけれる庭にさける卯花

  時鳥を尋ねて

  源道濟

ほとゝきすなくへき里をさためねはけふも山路をたつねくらしつ

  延喜五年内より仰叓によりて奉りける屏風哥に

  躬恒

われきゝて人にはつけむほとゝきす思ふもしるくまつこゝになけ

  待郭公

  常盤井入道前太政大臣

ほとゝきす今やとおもふ山のはにつきをまつことなれをこそまて

  權中納言公雄

ひとこそあれ山ほとゝきすをのれさへなと我やとにをとつれもせぬ

  夏哥の中に郭公

  前大納言爲氏

月たにもこゝろつくさぬ山のはにまつよひすくるほとゝきす哉

  權中納言兼季のもとより此曉時鳥鳴つるは聞つやと申て侍ける

人をわくなさけなりけりほとゝきすわかね覺にはをとつれもせす

  待郭公

  前大僧正道潤

なきぬへき雲のけしきに待なして今やと賴むほとゝきすかな

  里郭公

  權大納言通重

この里におりはへきなけほとゝきすほかにはおしむ初音なりとも

  夕時鳥

  章義門院小兵衞督

いまたにもなかてはあらしほとゝきすむらさめすくる雲の夕くれ

  三首哥講せられ侍し時待郭公

  院御製

なきぬへき夕くれことのあらましにきかてなれぬるほとゝきすかな

  題しらす

  読人不知

ふち波のちらまくおしみほとゝきすいまきの岡に鳴てこゆなり

  人麿

かくはかり雨のふらくにほとゝきす卯の花山に猶か啼くらん

  月前時鳥と云叓を

  永福門院

ほとゝきすそらにこゑしてうのはなのかきねもしろくつきそいてぬる

  百首哥の中に

  參議雅經

待えてもたれかはきかむほとゝきすたゝひとこゑをさ夜更けてなく

  夏哥とて

  平齊時

なをさりに待人はみなねぬる夜のふけてのちなくほとゝきすかな

  重之女

まつ時は山ほとゝきす遠けれと寢覺のこゑはまくらにそきく

  中納言行平家哥合に

  よみ人しらす

ほとゝきす雲ゐのこゑをきく人はこゝろもそらになりそしにける

ふくる夜におきてきかすはほとゝきすはつかなるねをたれかしらまし

  夕郭公といふ叓を

  西行法師

里なるゝたそかれ時のほとゝきすきかすかほにて又なのらせん

  里に侍ける程は時鳥をえなむきかさりけるか内に參りて後鳴けるを聞て

  周防内侍

いつしかとなきわたるなりほとゝきすくもゐにてこそまつへかりけれ

  郭公を聞て人につかはし侍ける

  大貮三位

いく聲かきみはきゝつるほとゝきすいもねぬわれは數もしられす

  稲荷の社ちかき所にて夕郭公といふ叓を人ゝよみ侍ける時

  源賴實

いなり山こえてやきつるほとゝきすゆふかけてのみ聲のきこゆる

  人ゝあまたともなひて郭公たつねにまかりて侍けるに四條宮下野とゝまりたるかこよひきゝつると申けれは

  康資王母

今よりはやとにてまたむほとゝきすたつねぬ人そまつはききゝける

  千五百番[千五百イ]哥合に

  宜秋門院丹後

ほとゝきすすきつるかたのくもまより猶なかめよといつるつきかけ

  卅首哥めされし時聞郭公といふ叓を

  九條左大臣

ほとゝきすこゑさやかにて過る跡におりしもはるゝむら雲の月〇

正治二年百首哥に

  式子内親王

ほとゝきす鳴つる雲をかたみにてやかてなかむる有明の空

  郭公を

  平宣直

わかためのはつねとのみやほとゝきすおなしね覺の人はきくらん

  時鳥十首哥よみ侍けるに

  院新宰相

いく聲も猶きかましをほとゝきすねさめのさきも鳴やしつらん

  題しらす

  道因法師

ひとこゑはなをしもつらしほとゝきすきかぬよりはとおもひなせとも

  伏見にて近聞郭公といふ叓をよみ侍ける

  皇太后宮大夫俊成

あはれにもともにふしみのさとにきてかたらひあかすほとゝきすかな

  寶治百首哥奉りけるに聞郭公

  常盤井入道前太政大臣

ともにきく人こそかはれほとゝきす今年もこそのこゑに鳴なり

  同し心を

  式乾門院御匣

きくたひにあはれとそおもふほとゝきす我にかたらふ聲ならねとも〇

  平熈時

ほとゝきす雲のいつくそむらさめのはれ行跡の夜半のひと聲

  夏曉といふことを

  前大納言爲兼

月のこるねさめの空のほとゝきすさらにおき出てなこりをそきく

  題しらす

  藤原景綱

さつきまつはなのかほりにそてしめてくもはれぬひのゆふくれのあめ

  五月四日家に菖蒲ふくをみてよめる

  平經正朝臣

あつまやの軒端にねさせあやめ草うへぬしのふもおひすやはあらぬ

  菖蒲を讀侍ける

  權中納言公雄

けふといへはあやめはかりそふきそふる軒はふりぬる蓬生の宿

  後三條院みこの宮と申ける時菖蒲のねめしける奉るとて

  辨乳母

谷ふかき岩ねのあやめ君かためなかきためしを引いてつるかな

  百首哥の中に

  後鳥羽院御製

あやめふくかやか軒はに風すきてしとろにおつる村雨の露

  後鳥羽院に五十首哥奉りけるに

  宮内卿

しつかふくあやめのすゑをたよりにてすみかならふる軒のさゝかに

  正治百首哥奉りける時

  二條院讚岐

あやめふく軒はすゝしきゆふ風に山ほとゝきすちかくなくなり

  後堀川院御時五月五日といふ叓をうへのおのこともによませ給うけるにつかうまつりける

  前大納言爲家

みかきなす玉江の波のますかゝみけふよりかけやうつしそめけん

  後鳥羽院に奉りける五十首哥中に

  嘉陽門院越前

くれぬとてちまちのさなへとりとりにいそくもしるき田子のもろこゑ

  早苗を讀侍ける

  從二位家隆

さひしとはたれかいひけんやま里を見せはや田子のさなへとる比

  前右近大將家敎

小山田に見ゆるみとりのひとむらやまたとりわけぬ早苗なるらん

  夏哥とて

  源具顯朝臣

時きぬとおりたつ田子の手もたゆくとるや早苗も今いそくなり

  初五月雨といふ叓を

  藤原隆祐朝臣

ふりそむるそかの河原のさみたれにまた水あさしますけからなん

  百首哥の中に

  中務卿宗尊親王

さみたれは晴ぬとみゆる雲まより山のいろこきゆふくれの空

  五月雨を

  大納言實家

さみたれはいさゝ[らイ]小川をたよりにてそともの小田をみをになしぬる

  前大納言爲家

さなへとるしつかをやまたふもとまて雲もおりたつさみたれの比

  今上御製[花園院]

さみたれははれんとやするやまのはにかゝれるくものうすく成行

  百首御哥の中に

  後鳥羽院御製

なには江やあまのたくなはほしわひてけふりて[にイ]しめる五月雨のころ

  夏哥とて

  前大僧正慈圓

やま里の雪にはあともいとはれきとへかし人のさみたれのころ

  前中納言定家

にはのおもゝくもにへたゝる柴かきのしはしひまあれ五月雨の空

  權中納言公雄

さみたれにうき木なかれておほゐ河くたす筏の數そゝひぬる

  後鳥羽院宮内卿

杣ひとのとらぬまきさへ流るなりにふの河原のさみたれのころ

  題しらす

  中臣祐茂

駒とめて影みる水やにこるらんひのくま川の五月雨のころ

  平經正朝臣

さみたれにみつしまされはをとは川せきいれぬ宿もおつる瀧つせ

  山家五月雨といふ叓を

  皇太后宮大夫俊成

みやこひとこともやとふとまつのかと雲とちはつるさみたれの空

  百首哥の中に夏

  前中納言定家

いたつらに雲ゐるやまのまつの葉の時そともなきさみたれのそら

  夜五月雨

  平宗宣朝臣

晴やらぬ雲より風はもらねとも月よはしるし五月雨の空

  五月郭公と云叓を

  右兵衞督雅孝

さみたれのはれぬるよはのほとゝきすつきとゝもにや山をいてけん

  正治百首哥奉ける時

  前大僧正慈鎭

さみたれのくもまの軒のほとゝきす雨にかはりて聲の落くる〇

  夏哥の中に

  躬恒

五月雨の月のほのかにみゆるよはほとゝきすたにさやかにをなけ

  聞郭公といふ叓を

  二品法親王守覺

過ぬとも聲の匂ひは猶とめよほとゝきすなくやとのたちはな

  治承の比よみ侍ける百首哥の中に郭公

  後京極攝政前太政大臣[良經]

たちはなの花ちる里の庭のあめに山ほとゝきすむかしをそとふ

  おなし心を

  入道前太政大臣

たちはなのやとりをとはゝほとゝきす我にむかしのことかたらなん

  簷盧橘

  藤原爲道朝臣

さみたれのくもふきすさふゆふかせにつゆさへかほるのきのたちはな

  盧橘をよませ給うける

  龜山院御製

忘れすよ右のつかさの袖ふれし花たちはなや今かほるらん

  權中納言師時哥合し侍ける花橘遠く匂ふといふことを

  郁芳門院安藝

とをちより吹くる風のにほひこそはな橘のしるへなりけれ

  延喜六年内の御屏風十二帖の哥仰叓によりて奉ける中に鵜河

  貫之

かゝりひの影しうつれはぬは玉の夜かはのそこは水ももえけり

  おなし心を

  龜山院御製

おほゐ河う舟のかゝりほの見えてくたすやなみのよるそしらるゝ

  入道前太政大臣

かつら人つきのひかりのさゝぬ夜ものほるう舟にさほはとるらし

  右大臣

くれのあめにかはせのみつやまさるらんはやくそくたるかゝり火のかけ

  夏河

  大江宗秀

夕やみの鵜川のかゝりくたし過てあらぬ螢そ又もえてゆく

  藤原俊言朝臣

鵜飼舟棹さしつゝきのほるらしあまたみえゆくかゝり火のかけ

  夏御哥の中に

  法皇御製[後宇多院]

夕つく日よそにくれぬる木のまよりさしくる月の影そ凉しき

  前右衞門督基顯

天の原くもゐは夏のよそなれやみれはすゝしき月のかけかな

  入道前太政大臣

出て後またほともへぬなかそらに影しらみぬるみしか夜の月

  夏月透竹といふ叓を

  前關白太政大臣[基忠]

さえたもる影そほとなき呉たけの夜わたるつきのあけやすき比

  夏月を讀侍ける

  從一位敎良女

よにかくるすたれにかせはふきいれてにはしろくなるつきそすゝしき〇

  藤原信實朝臣

庭のうへのみつ音ちかきうたゝねにまくらすゝしき月をみるかな〇

  源俊平

かたふかて月のあけゆくみしか夜はいるかたおしむ山のはもなし〇

  關白前太政大臣

風にもるこのまの月もすゝしきは松原たかき山かけのやと

  建仁三年哥合に水路夏月

  皇太后宮大夫俊成女

つきかけもなつのよわたるいつみ河かはかせすゝしみつのしら波

  夏哥の中に

  從三位親子

夏の夜はしつまる宿の稀にしてさゝぬ戶口に月そくまなき

  從三位有忠

また宵も思へはしらむよこ雲にやかてまきるゝみしか夜の月

  院新宰相

くるゝよりなかむるたにもほとなきに夕やみおしきみしか夜のつき

  蚊遣火を讀侍ける

  前關太政大臣[基忠]

つきかけのかすむもつらしよそまてはけふりなたてそよはのかやり火

  入道前太政大臣

こゝのみとけふりをわけて過ゆけはまたすゑくらきしつか蚊遣火

  夏哥の中に

  藤原爲守女

やみよりもすくなきよはのほたるかなをのかひかりを月にけたれて〇

  永仁二年五月内裏五首哥に野亭夏朝

  前參議雅有

くさふかき窓のほたるは影きえてあくる色ある野へのしらつゆ

  守覺法親王家に五十首哥人ゝによませ侍けるに

  覺延法師

かきくらすさつきのさよのあま雲にかくれぬほしは螢なりけり〇

  題しらす

  喜撰法師

このまよりみゆるは谷のほたるかもいさりにあまの海へゆくかも

  禖子内親王[家イ入]哥合に

  宣旨

草むらに螢みたるゝゆふくれは露のひかりそわかれさりける

  千五百番哥合に

  惟明親王

夕ま暮かせにつれなきしら露はしのふにすかる螢なりけり

  後鳥羽院宮内卿

軒しろき月のひかりにやまかけのやみをしたひてゆく螢かな〇

  藂間螢と云叓を

  三條入道左大臣[實房]

吹風になひく澤へのくさのはにこほれぬ露やほたるなるらん

  卅首哥奉りし時水邊螢

  藤原爲理朝臣

やまかけやくらき岩まのわすれみつたえたえ見えてとふほたるかな

  野夏草を

  從一位敎良

あつさ弓やたのひろ野の草しけみわけいるひとや道まとふらん

  夏哥の中に

  前中納言定家

ゆきなやむうしのあゆみにたつちりの風さへあつき夏の小車[をくるま]

  前參議家親

をちの空にくもたちのほりけふしこそ夕たちすへきけしき也けれ

  順德院御製

ゆふたちのなこりはかりのにはたつみ日比もきかぬかはつ鳴なり

  法院圓伊

ゆふたちの名殘のしはふ水こえてしはしなかるゝ庭のうたかた〇

  寶治二年百首哥の中に夕立を

  入道二品親王道助

日をさふるならのひろはに鳴蟬の聲より晴る夕たちの空

  常盤井入道前太政大臣

山髙みこすゑにあらき風たちて谷よりのほる夕たちの雲

  卅首哥人ゝにめされし時夕立

  院御製[伏見院]

かせはやみくものひとむら峯こえてやまみえそむる夕立の跡

  九條左大臣女

ゆふたちのとをちを過る雲のしたにふりこぬあめそよそに見えゆく

  行路夕立

  右兵衞督基氏

とまるへきかけしなけれははるはるとぬれてをゆかん夕立の雨

  題しらす

  前中納言定家

ゆふたちのくもまのひかけはれそめてやまのこなたをわたるしらさき〇

たちのほりみなみのはてにくもはあれとてるひくまなきころのおほそら

  光明峯寺入道攝政家百首哥の中に夏

  源兼氏朝臣

かくてはや暮ぬとみつる夕立の日かけたかくも晴る空かな

  夏哥の中に

  前大納言爲兼

枝にもる朝日のかけのすくなさ[きイ]にすゝしさふかき竹のおくかな

  民部卿爲世

いり日さす峯のこすゑになく蟬のこゑをのこしてくるゝやまもと

  藤原定成朝臣

くれかゝるとをちの空のゆふたちに山のはみせててらす稻妻

  百首御哥の中に蓮を

  院御製

こほれおつるいけのはちすのしらつゆはうき葉の玉と又なりにけり〇

  守覺法親王家五十首哥に

  三條入道左大臣

夕されは波こす池のはちすはに玉ゆりすふる風のすゝしさ

  樹陰納凉といふ叓を

  源仲正

かはかせにうはけふかせてゐる鷺のすゝしくみゆるやなきはらかな

  夏哥に

  大僧正行尊

水な月のてる日といへとわかやとのならのは風はすゝしかりけり

  納凉の心を

  後京極攝政前太政大臣[良經]

かけふかきそとものならの夕すゝみひと木かもとに秋かせそふく

  題しらす

  入道前太政大臣

秋ちかき谷のまつ風をとたてゝゆふやますゝし岩のしたみつ

  夏風

  權中納言兼季

夏やまのみとりの木ゝをふきかへし夕たつ風の袖にすゝしき

  昭慶門院一條

やま風のふくとしもなき夕くれもこのしたかけは猶そ凉しき

  夏山里にまかりて侍けるに

  後光明峯寺前攝政左大臣

この比そとふへかりける山さとの水せきとむる松のしたかけ

  夏哥の中に

  前右近大將公顯

松かけやこのしたふかき岩まよりすゝしくつたふやま川のみつ

  納凉の心を

  大江宗秀

岩ねつたふ水のひゝきはそこに有てすゝしさたかきまつ風のやま

  五十首哥の中に同し心を

  前大僧正仁澄

なつやまのいはかねきよくみつおちてあたりのくさのいろもすゝしき

  夏哥とて

  平維貞

茂りあふ木のしたつゝくみ山ちはわけゆく袖も凉しかりけり

  前大納言家雅

谷かはのすゝしきをとを聞なへに山した風も松にふくなり

  前大納言有房

ふく風の竹になるよは秋きぬとおとろくはかり袖にすゝしき

  高階成朝ゝ臣

ひくらしの聲きくもりのした草にあきまつ露のむすひそめぬる

  法院覺守

まつ風もすゝしきほとにふきかへてさ夜ふけにけりたに川のをと

  法印圓伊

陰うつす庭のまし水むすふ手の雫も月も袖に凉しき

  從三位爲子

かせのをとにすゝしきこゑをあはすなり夕やま陰の谷のした水

  三首哥講せられ侍し時納凉を

  院御製

ほかにのみ夏をはしるや瀧つせのあたりは秋のむらさめのこゑ

  題しらす

  式子内親王

さ夜更て岩もる水の音きけはすゝしくなりぬうたゝねのとこ

  正治二年百首哥に

つきのいろもあきちかしとやさよふけてまかきの荻のおとろかすらん

  五十首御哥の中に

  後鳥羽院

秋ちかきしつか垣ねのくさむらになにともしらぬ虫の聲ゝ

  建仁三年哥合に草野秋近といふ叓を

  前中納言定家

露わけん秋のあさけはとをからてみやこやいくかまのゝかや原

  六月晦日題をさくりて人ゝ哥つかうまつりけるついてに池邊納凉といふ心を

  院御製

あしの葉にひと夜の秋をふきこしてけふよりすゝし池のゆふ風

  六帖題にて人ゝ哥つかうまつりけるになこしのはらへ

  從二位兼行

風わたる河せの波の夏はらへゆふくれかけて袖そすゝしき

  おなし心を

  如願法師

ゆふされはあさの葉なかるみよしのゝ瀧つかはうちにみそきすらしも









Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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