玉葉和歌集。撰者京極爲兼。卷第二春歌下。原文。



玉葉倭謌集。底本『廿一代集第七』是大正十四年十月十四日印刷。同十八日發行。發行所太洋社。已上奧書。又國謌大觀戰前版及江戸期印本『二十一代集』等一部參照ス。





玉葉和謌集卷第二

 春哥下

  五十首哥の中に

  院御製[伏見院]

やま櫻このよのまにや咲ぬらし朝けのかすみいろにたなひく〇

  初花を

  前關白太政大臣[基忠]

おほかたの花のさかりもほともあらし庭のひと木はさきそめにけり

  花哥の中に

  中務卿宗尊親王

みわたせはしらゆふかけてさきにけり神をか山のはつさくら花

  祝部成仲

山たかみ朝ゐる雲とみえつるはよのまにさける櫻なりけり

  内大臣

たえたえにかゝれるみねのしらくもやはやさきそむるさくらなるらん

  花漸盛と云叓を

  前大僧正道潤

さかりをは猶まつえたの殘れともあまたこすゑにはなそ成行[ぬるイ]

  見花といふ叓を

  後二條院御製造

花ならしかすみてにほふしら雲のはるはたちそふみよしのゝやま

  題しらす

  權中納言定賴

色ゝのにしきとみゆる花さくら春のかすみやたちかさぬらん

  しつかならんと思ひ侍比花見に人ゝまうてきたりけれは

  西行法師

花みにとむれつゝひとのくるのみそあたら櫻のとかには有ける

  修行し侍ける道にて花おもしろかりける所にてよみ侍ける

なかむるに花の名たての身ならすは木のもとにてや春をくらさん

  花哥とて讀侍ける

  權中納言師俊

さゝなみやなからのやまのはなさかりしかのうらかせふかすもあらなん

  正治二年百首哥に

  式子内親王

とふひともおらてをかへれ鶯の羽かせもつらき宿のさくらを〇

  春御哥の中に

  永福門院

をちこちの山はさくらの花さかり野へはかすみにうくひすのこゑ

  山花

  山階入道前左大臣[實雄]

春かすみあやななたちそ雲のゐる遠やま櫻よそにてもみん

  山家花を

  尚侍藤原頊子朝臣

みやこには雲とや見えん[らんイ]わか宿の軒はにちかき山のさくらを

  俊惠法師哥林苑の月次の哥に

  源仲綱

咲ましる花をわけてや[とやイ]しら雲の山をはなれて立のほるらん

  千五百番哥合に

  西園寺入道前太政大臣[公經]

さきたちてたれみよしの野やまさくらしらぬしをりの跡つけてけり

  暮山花を

  前中納言定家

たか春[風イ]の雲のなかめにくれぬらん宿かる花[峰イ]の峯[花]のこのもと

  題しらす

  權僧正憲淳

初瀨山をのへの花はかすみくれてふもとのひゝくいりあひのこゑ〇

  花のさかりに雨ふり侍ける日西園寺御幸有て花御覧せられける時よませ給うける

  龜山院御製

春雨のふる木のさくらけふしこそおりえて花のいろもみえけれ

  入道前太政大臣[實兼]

露をゝもみこすゑたれたる絲さくら柳かえたに咲かとそ見る

  題をさくりて人ゝ哥つかうまつりけるに春路といふ叓を

  院御製[伏見院]

道のへやこのしたことのやすらひにまつらん花の宿やくれなん

  齋院に侍ける時宇治前關白太政大臣所ゝの花見るよし聞て申つかはしける

  選子内親王

のこりなくたつぬなれともしめのうちの花は花にもあらぬ成へし

  返し關白にかはりてよみ侍ける

  堀川右大臣[賴宗]

風をいたみまつ山へをそたつねいる[つるイ]しめゆふ花はちらしとおもひて

  逐日看花といふ叓を

  前大納言師忠

さくら花あかぬにほひにさそはれて春はやま路にゆかぬ日そなき

  白川院花見の御幸の時よみ侍ける

  大宮前太政大臣

あすもこんけふも日くらしみつれともあかぬは花の匂ひなりけり

  見花日暮といふ叓を

  橘爲仲朝臣

櫻花ひくらしみつゝけふも又月まつほとになりにけるかな

  平忠度朝臣山里の花見侍けるに家つとおらすやと申つかはして侍けれは家つともまたおりしらす山櫻ちらて歸りし春しなけれはと申て侍ける返事に

  小侍從

我ためにおれやひと枝やまさくら家つとにとはおもはすもあれ

  法金剛院の花のさかりに上西門院藏人ともいさなひて花見侍けるにしはしみてすき侍けるをいかに花を見すてゝはかへるそと申侍けれは

  法橋顯昭

わりなしやほかにも花のなくはこそひと木かもとに日をもくらさめ

  花をよみ侍ける

  權中納言長方

花のいろはあかしとそ思ふよろつ代をさなから春になしてみるとも

  花木ともをあまたうへさせ給て風吹ける日よませ給うける

  花山院御製

こたちをはつくろはすして櫻はなかさかくれにそうふへかりける

  題しらす

  二條太皇太后宮大貮

いかにまたまたせまたせてさくら花みるほともなくちらんとすらん

  中務卿具平親王

見るほとは世のうきことも忘れけりまたも花をそうふへかりける

  花哥の中に

  淸輔朝臣

老らくはこゝろのいろやまさるらん年にそへてはあかぬ花かな

  三月はかりに人ゝあまたともなひて花見て歸り侍けるに

  祭主輔親

ゆきめくりみれともあかす山さくらわれのみならはかへらましやは

  題しらす

  贈皇后宮[懷子]

ふるさとをたちなかくしそ春かすみ花のさかりはゆきてみるへく

  人の家にしはし侍けるに彌生のついたち比花の盛に又ほかへまかるとてよみ侍ける

  前大納言公任

あたなりと思ひなすてそまたちらぬ花よりさきにうつろひぬとて

  花哥とて

  院中將内侍

年をへてかはらす匂ふ花なれと[はイ]見る春ことにめつらしきかな

  春哥の中に

  前大納言爲兼

思ひそめき四つのときには花の春はるのうちにも[はイ]明ほのゝ空

  權中納言兼季

あたし色に猶うとまれぬさくら花まつもおしむも物をこそおもへ

  花未飽と云叓を

  從三位爲實

ひとゝせにまれなる春のうちも猶あひみる花の比そすくなき

  花十首御哥の中に

  新院御製造

花の中にいかに契りてさくらしも春にことなる名をのこしけん

  内裡にて題をさくりて人ゝ哥つかうまつりける時花を

  關白前太政大臣

をそくときあまたこすゑをみる時そ花のさかりのほとは久しき

  折花といふ心を

  永福門院

おりかさす道ゆき人のけしきにて世はみな花のさかりをそしる

  光明峯寺入道前攝政内大臣に侍ける時よませ侍ける百首哥に尋花といふ叓を

  前中納言定家

鳥のこゑ霞の色をしるへにておもかけにほふ春のやまふみ

  三條右大臣にともなひて花見侍けるにいそく叓有てかへるとてよみ侍ける

  中納言兼輔

櫻花にほふを見つゝ歸るにはしつこゝろなき物にそ有ける

  返し

  三條右大臣[定方]

たちかへり花をそわれはうらみつるひとのこゝろをとめぬと思へは

  題しらす

  躬恒

さくら花おりてかさゝんくろかみのかはれるいろに見えまかふへく

  小式部内侍

雪かとそよそにみつれとさくら花おりてはにたる色なかりけり

  春比西山なる所にしはし侍けるに花おもしろく咲わたれるに人めも見えさりけれは

  菅原孝標朝臣女

里とをみあまり奧なる山路には花みにとてもひとこさりけり

  故鄕花といふことを

  前中納言匡房

さくらさくならのみやこをみわたせはいつくもおなしやへのしらくも

  題しらす

  前大僧正範憲

八重にほふはなをむかしのしるへにて見ぬよをしたふならのふる鄕

  花御歌の中に

  順德院

みよしのゝ山のあなたの櫻はなひとにしられぬひとや見るらん〇

  花十首哥よみ侍けるに山花

  深心院關白前左大臣

なかめやるよもの山邊も咲花のにほひにかすむきさらきの空

  花哥とて

  後一條入道前關白左大臣

いまはよに思ひますへきかたもなしこゝろのとかに花をたにみん

  前參議雅有

老らくは我身のほかのはるなれは花みてたにもなみたおちけり

  藤原爲守

ことかたも[にイ]又ゆかしさに山さくらおなしひと木をしつかにもみす

  守覺法親王家に五十首哥よませ侍ける時讀てつかはしける春哥

  三條入道左大臣[實房]

春の夜のあけゆくそらはさくらさく山のはよりそしらみそめける

  千五百番哥合に

  西園寺入道前太政大臣[公經]

ほのほのと花のよこ雲あけそめて櫻にしらむみよし野の山

  後京極攝政左大將に侍ける時家に六百番哥合し侍けるに春曙

  前中納言定家

かすみかは花うくひすにとちられて春にこもれる宿の明ほの

  曙花を

  永福門院

山もとのとりのこゑよりあけそめて花もむらむらいろそみえ行

  從三位爲子

哀しはしこの時すきてなかめはや花の軒はのにほふあけほの

  從三位親子

はるはたゝくもれる空のあけほのに花はとをくて見るへかりける

  春朝の心をよみ侍ける

  永福門院内侍

をちかたのはなのかほりもやゝみえてあくるかすみのいろそのとけき

  夕花といふ叓を

  近衞關白前右大臣

けさまては殘るかたみも咲そひてゆふへに花のさかりをそみる

  題しらす

  大江宗秀

なかめくらすいろもにほひも猶そひてゆふかけまさるはなのしたかな

  山花を

  右兵衞督雅孝

さかりなる峯のさくらのひとつ色にかすみもしろきはなのゆふはえ

  花御哥の中に

  龜山院御製

やまのはにいり日うつろふくれなゐのうす花さくらいろそことなる

  入道前太政大臣

咲みてる花のかほりの夕つく日かすみてしつむ春のとほやま

  春哥の中に

  式乾門院御匣

あくかるゝこゝろのまゝに花をみははるはやまちやすみかならまし

  家の花さかりに内女房さそひて見せ侍けるに大納言三位にせうそこして侍けるをさはる叓あるよし申てまからす侍けれはよみてつかはしける

  關白前太政大臣

吹風のさそはぬさきとまたるゝをとはすは花の名をややつさん

  返し

  從三位爲子

たつねてもいろをそふへきみならねはとふにつけてやはなもやつれん

  暮山花といへる心を

  平貞時朝臣

たちこむる霞のほかもやまさくら花にゝほへる夕くれのそら

  題しらす

  藤原爲顯

雲にうつる日かけのいろもうすく成ぬ花のひかりのゆふはえのそら〇

  五十番哥合に夕花

  九條左大臣女

目にちかき庭のさくらのひと木のみかすみのこれる夕くれのいろ〇

  建保五年四月庚申に春夜

  前中納言定家

山のはの月まつそらのにほふより花にそむくる春のともし火

  爲兼家に哥合し侍し時おなし心を

  前參議爲相

はなかほりつきかすむよの手まくらにみしかきゆめそ猶わかれゆく〇

  題しらす

  永福門院

いりあひのこゑするやまの陰暮て花の木のまに月いてにけり

  春月

  後德大寺前太政大臣

おほろなる陰とはなにか思ひけん花はなにうつろふはるの夜のつき

  尋花日暮といふ心を

  關白前太政大臣

くれぬとも宿をはとはし山さくらつきにも花はみえぬものかは

  源氏信かあとに二もとの櫻あり名髙き花なるによりて人ゝさそひて見侍けるに程なくくれて月出にける後をのをの哥よみ侍ける時

  平貞時朝臣

ふたもとのはなのひかりをそへんとやかすまていつるはるのよのつき

  花見侍けるに齋院よりいみしくなかき柳の枝をおりていとのもとにはといはせて侍けれは

  堀川右大臣[賴宗]

ちりぬへき花をのみこそ見にきつれ思ひもよらぬ靑柳の絲

  冷泉院春宮におはしましける時百首哥めしける中に春哥

  重之

うくひすのきゐる羽かせに散花をのとけくみんとおもひける哉

  山路落花

  西行法師

ちりそむるはなのはつゆきふりぬれはふみわけまうき志賀の山こえ

  右大臣に侍ける時家に百首哥よみ侍ける中に

  後法性寺入道前關白太政大臣[兼實]

櫻さく髙ねに風やわたるらん雲たちさわくを初瀨の山

  春哥の中に

  前大納言爲家

やまふかきたにふきのほるはるかせにうきてあまきるはなのしらゆき〇

  落花

  常盤井入道前太政大臣[實氏]

雲となり雪とふりしくやまさくらいつれをはなのいろとかもみん〇

  前兵衞督爲敎

さそひゆく花のこすゑの春かせにくもらぬゆきそ空にあまきる〇

  藤原俊言朝臣

にはのおもはふりしくゆきとみるなへにこすゑははなそまれになりゆく

  春哥の中に

  入道前太政大臣

しら雲のたなひくいろもかつきえぬ花ちる山の峯の春かせ

  權大納言房實

ちるはうく馨はなつかしき花のえにいとひいとはぬ春のやま風

  題しらす

  躬恒

里はみなちりはてにしをあしひきの山の櫻はまたさかりなり

  よみ人しらす

あしひきのやまへをてらすさくらはなこのはるさめにちりぬらんかも〇

  春哥とて

  相摸

花ならぬなくさめもなきやま里に櫻はしはしちらすもあらなん

  長治二年閏二月中宮花合のついてに申侍ける

  中御門右大臣

こゝのへにうつさゝりせはやまさくらひとりやこけのうへにちらまし〇

  題不知

  前參議敎長

枝しあらは又もさきなん風よりもおる人つらき花さくらかな

  花を

  西行法師

うきよにはとゝめをかしとはる風のちらすは花をおしむなりけり〇

  月前落花といふ叓をよませ給うける

  後冷泉院御製

春の夜のかすめる空のつきかけに散しくはなのいろはまかひぬ〇

  題しらす

  源光行

散つもる庭にひかりをうつすより月こそ花のかゝみなりけれ

  春月を

  常盤井入道前太政大臣

みよし野の峯のはなその風ふけはふもとにくもる春のよの月

  式部卿親王

秋も猶しのはれぬへきひかりかな花しくにはのおほろよのつき

  花の哥に

  祐盛法師

はるかせにこゝろをしはしやとしをきてはなのおしさをしらせてしかな

  前大僧正道玄

春ことにさそふあらしのなくもかな千よもと花を見る人のため

  百首哥の中に

  式子内親王

はなならて又なくさむるかたもかなつれなくちるをつれなくてみん

  閑中花

  前中納言定家

我身世にふるともなしのなかめしていく春かせに花のちるらん〇

  題しらす

  平齊時

こすゑよりあらし吹おろす杣かはのいかたをこゆる花のしら浪

  津守國助

庭の面はうつみさたむるかたもなし嵐にかろき花のしら雪〇

  西山に住侍ける比花の盛に前大納言爲家人ゝさそひて尋ねまうてきて哥よみかはして侍けるうへのおのこも中より尋侍けれは送りつかはすとて書そへ侍ける

  蓮生法師

思ひきや空にしられぬ雪も猶雲のうへまてちらん物とは

  花哥の中に

  前大納言爲兼

おもひやるなへての花のはるの風このひともとのうらみのみかは

  前中納言雅賴

みよしのゝやまのあなたにちるはなをふきこすかせのたよりにそしる

  家の櫻の風に散けるを見てよめる

  花園左大臣

おしと思ふ花のあるしをゝきなからわか物かほにさそふ風かな

  延喜御時御屏風に

  躬恒

みつのおもにうきてなかるゝさくらはないつれをあはとひとはみるらん〇

  雨中落花

  前關白太政大臣[基忠]

降くらす雨しつかなる庭の面にちりてかたよる花のしら波

  春御哥の中に

  永福門院

すきうつるときとかせとそうらめしきはなのこゝろはちらんともせし

  花をよませ給ける

  法皇御製[後宇多院]

なへて世のはるのこゝろはのとけきにうつろひやすく花のちるらん

  永仁三年三月内裏三首哥講せられ侍し時山路落花

  左近大將實泰

きのふこえしをのへのさくらちりにけりけふかへるさのみちまと[かイ]ふまて〇

  嘉元百首哥奉りけるに花

  前攝政左大臣

櫻はな梢さひしくちり過てのこれる枝に春そすくなき

  春哥の中に

  前參議爲相

たちならふみねのこすゑをふく風にまつよりもちる山さくらかな

  前參議家親

吹よはる嵐の庭の木のもとにひとむらしろく花そ殘れる〇

  大江貞廣

もろくちる花をはかろく吹なして柳にをもき春のゆふ風

  春夜の心を

  九條左大臣女

風にさそちるらん花のおも影の見ぬ色おしき春の夜のやみ〇

  守覺法親王家五十首哥中に

  法橋顯昭

むかしまて思ふもつらしはる風に花ちらせとは誰をしへけむ

  花哥の中に

  大納言經信

はる風のやまのたかねをふきこせはこすゑも見えぬ花そ散ける〇

  夕落花をよみ侍ける

  前參議淸雅

のとかなるいりあひのかねはひゝきくれて音せぬ風に花そちりくる〇

  重保すゝめ侍ける賀茂社哥合花を讀侍ける

  平經正朝臣

ちるそうき思へは風もつらからす花をわきてもふかはこそあらめ

  同し心を

  二品法親王覺助

なかめつゝなれにし春をかそへてもふりぬる身こそ花につらけれ

  中務里に出て侍けるかけふまいるとのみ申ほとにおまへの櫻ちりはてぬへくなりにけれはいひつかはしける

  選子内親王家中將

いかにせん見にもやくると山さくらまたるゝ花もちり果ぬへき

  返し

  同家中務

待つけて散はてぬとも山さくらしはしは庭をはらはさらなん

  北山に花見にまかりて侍けるにみなちりつもりて侍けれは

  赤染衞門

はなをこそちらぬさきにとたつねつれゆきをわけてもかへりぬるかな

  題しらす

  よみ人しらす

みよし野の岩もとさらす鳴かはつむへもなきけりこの川のせに

  雨中春庭といふ叓を

  從三位爲子

さきいつるやへやまふきのいろぬれてさくらなみよるはるさめのには

  春哥の中に

  民部卿爲世

雪とのみさくらはちれるこのしたに色かへてさく山吹のはな

  基俊女

はるさめにぬれぬれおらんけふすきは井手の山吹ちりもこそすれ

  冷泉院春宮と申ける時御まへなる八重山吹を見て

  壬生忠見

やへにのみありとみえつるやまふきのこゝのへちかくさきにけるかな

  賀茂社へよみて奉りける百首哥に山吹を

  皇太后宮大夫俊成

櫻ちり春のくれゆく物思ひもわすられぬへき山吹のはな

  暮山の心を

  前大僧正仁澄

花はちり鳥はまれなる比にしもさく山ふきはこゝろありけり

  前大僧正道玄

花もちり鳥もかへりぬあはれてふことをあまたにくるゝ春かな

  平宗宣朝臣

とゝまらぬわかれのみかは花鳥の名殘につけておしき春哉

  西園寺入道前太政大臣

いまはとて櫻なかるゝよしのかは水のはるさへせくかたもなし

  暮春霞

  權中納言公雄

花とりのいろねもたえてくるゝ空のかすみはかりにのこる春かな

  彌生の末つかた梢あをみわたりて雨ふりけるを御覧して

  院御製[伏見院]

春とてや山ほとゝきすなかさらんあを葉の木ゝのむらさめの宿

  暮春雨と云叓を

  前大納言基良

ぬれておる藤のしたかけつゆ散てはるやいくかの夕くれの雨〇

  延長八年三月藤壺にて藤宴せさせ給けるに

  源公忠朝臣

いろふかくにほへるふちのはなゆへにのこりすくなきはるをこそおもへ

  題しらす

  赤人

ふちなみのはなさくみれはほとゝきすなくへき時はちかつきにけり

  大中臣賴基朝臣

花たにも散のこらなんをのつからおしむにとまる春かともみん

  暮春哥とて

  藤原定成朝臣

はなはたゝかせのつらさになしはてぬはるをはなにのさそひてかゆく

  玄輝門院右京大夫

なれきつる花の名殘もあはれなり身はなゝそちの春の暮かた

  古寺殘花といふ叓を

  入道前太政大臣

春をしたふなこりの花も色くれぬとよらの寺のいりあひの空

  暮春鶯といふ心をよませ給うける

  章義門院

春をしたふこゝろのともそあはれなる彌生の暮のうくひすの聲

  千五百番哥合に

  二條院讚岐

枝にちる花こそあらめ鶯のねさへかれゆく春の暮哉

  暮春哥とて

  式子内親王

くれてゆく春の殘りをなかむれは霞のそこに有明の月〇

  二條院御時春殘二日といふ叓をうへのおのこ共つかうまつりけるに

  從三位賴政

おしめともこよひもあけはゆく春をあすはかりとやあすは思はん

  暮春朝といふ叓を人ゝによませ給うけるに

  從三位爲子

なかめやるとやまのあさけこのまゝにかすめやあすもはるをのこして

  雨中三月盡といふ叓をよませ給うける

  院御製

飛とりのをくりのつはさしほるらし雲路雨なる春のわかれに

  春日社へ奉りける百首哥中に三月盡の心を

  皇太后宮大夫俊成

としをへてはるのおしさはまされともおひはつきひのはやくもあるかな

  同し心を

  大僧正行廣[慶イ]

よもすからおしみおしみてあかつきの鐘とともにや春はつくらん

  彌生のつこもりの夜よみ侍し

  前大納言爲兼

めくりゆかは春にはまたも逢ふとても

   けふのこよひは

      後にしもあらし









Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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