新勅撰和歌集。撰者藤原定家。卷第二十雜歌(雜體歌)。原文。
新勅撰和歌集
新勅撰倭謌集。底本『廿一代集第八』是大正十四年五月十三日印刷。同十六日發行。發行所太洋社。已上奧書。又國謌大觀戰前版及江戸期印本『二十一代集』等一部參照ス。
新勅撰和謌集卷第二十
雜哥[雜哥五イ][※雜體哥]
源政長朝臣の家にて人ゝなか哥よみ侍けるに初冬述懷といへる心をよめる
源俊賴朝臣
やまさとは 冬こそことに かなしけれ 峯ふきまよふ
木からしの 戶ほそをたゝく こゑきけは やすき夢たに
むすはれす しくれとゝもに かたをかの まさきのかつら
ちりにけり いまはわか身の なけきをは なにゝつけてか
なくさめん 雪たにふりて しもかれの くさ葉のうへに
つもらなむ それにつけてや あさゆふに わかまつ人の
我を待らん
反歌[かへしうたイ]
いくかへりおきふししてか冬のよの鳥のはつねをきゝそめつらん
久安百首哥奉りけるなかうた
皇太后宮大夫俊成
しきしまや やまとしまねの 風として ふきつたへたる
ことの葉は 神の御代より 河たけの 世ゝになかれて
たえせねは いまもはこやの やまかせの 枝もならさす
しつけさ[きイ]に むかしのあとを たつぬれは 峯のこすゑも
かけしけく よつのうみにも なみたゝす わかのうらひと
數そひて もしほのけふり たちまさり ゆくすゑまての
ためしとそ しまのほかにも きこゆなる これを思へは
君か代に あふくま河は うれしきを みわたにかゝる
むもれ木の しつめる叓は からひとの 見そ[よイ]まてあはぬ
なけきにも かきらさりける 身の程を おもへはかなし
かすかやま みねのつゝきの まつかえの いかにさしける
すゑなれや 北の藤なみ かけてたに いふにもたらぬ
しつえにて したゆく水の こされつゝ いつゝのしなに
としふかく とをとてみつに へにしより よもきの門[かと]に
さしこもり みちのしは草 おひはてゝ はるのひかりは
ことゝをく あきはわか身の うへとのみ つゆけきそてを
いかゝとも とふ人もなき まきのとに なをありあけの
月かけを まつことかほに なかめても 思ふこゝろは
おほそらの むなしき名をは をのつから のこさん叓も
あやなき[さイ]に なにはのことも 津の國の あしのしほれの
かりすてゝ すさひにのみそ なりにしを 岸うつ波の
たちかへり かゝるみことの かしこさに いり江のもくつ
かきつめて とまらんあとは みちのくの しのふもちすり
みたれつゝ しのふはかりの ふしやなからん
反歌
やまかはのせゝのうたかた消えさらはしられんすゑの名こそおしけれ
淸輔朝臣
あしねはふ うき身のほとや つれもなく おもひもしらす
すくしつゝ ありへけるこそ うれしけれ 世にもあらしの
やまかけに たくふこの葉の ゆくゑなく なりなましかは
まつかえに 千よにひとたひ さくはなの まれなることに
いかてかは けふはあふみに ありといふ くち木のそまに
くちゐたる 谷のむもれ木 なにことを おもひいてにて
くれたけの すゑの世まても しられまし うらみをのこす
ことはたゝ とわたるふねの とりかちの とりもあへぬも[ねはイ]
をくあみの しつみおもへる こともなく 木のしたかくれ
ゆくみつの あさきこゝろに まかせつゝ かきあつめたる
くち葉には よしもあらぬを 伊勢の海の あまのたくなは
なかき世に とゝめむことそ やさしかるへき
上西門院兵衞
春ははな 秋はもみちの いろいろに こゝろをそめて
すくせとも かせにとまらぬ はかなさを おもひよそへて
なにことも むなしきそらに すむ月を うき世にめくる
友として あはれあはれと みるほとに つもれは老と
なりはてゝ おほくのとしは よるなみの かゝるみくつの
かひなきは はかなくむすふ 水のおもの うたかたさへも
數ならぬかな
權中納言通俊かつらの家にて旋頭哥よみ侍けるに戀の心をよめる
俊賴朝臣
つれなさをおもひあかしのうらみつゝあまのいさりにたくものけふりおもかけにたつ
家に人ゝまうてきて旋頭哥よみ侍けるに旅の心をよめる
藤原顕顯綱朝臣
草まくらゆふつゆはらふたひ衣そてもしほゝにをきあかす夜の數そかさなる
百首哥奉りける旅の哥
淸輔朝臣
松かねの霜うちはらひめもあはておもひやる心やいもか夢にみゆらん
物名
りうたむをよみ侍ける
伊勢
風さむみなくかりかねの聲によりうたむ衣をまつやかさまし
しほ[をイ]に
うけとむる袖をしほにてつらぬかは淚のたまの數はみてまし
たなはた
躬恒
年にあひにまれにきませる君をゝきてまたなはたてし戀はしぬとも
ひともときく
あたなりとひともときくか物からに花のあたりは過かてにする
くつわ[はイ]むし
二條太皇太后宮大貮
數ならぬかゝるみくつはむしろたの露のよはひもなにかいのらん
すたれかけ
風にゆく雲をあたにも我はみすたれかけふりをのかれはつへき
わかくり
權中納言定賴
たちかはりたれならすらん年をへてわかくりかへしゆきかへる道
はきの花
俊賴朝臣
ときはきのはなれてひとりみえつるはたくひなしとや身をはしるらん
この嶋のみやしろ
あなしにはこのしまのみやしろ妙の雪にまかへる波はたつらん
久安百首哥にたき物
大炊御門右大臣
大井河くたすいかたのひまそなき落ちくるたきものとけからねは
ときのふた
左京大夫顯輔
つらけれときのふたのめしことの葉にけふまていける身とはしらすや
からにしき
淸輔朝臣
むつこともつきてあけぬと聞からにしきのはねかきうらめしき哉
かゝけのはこ
花園左大臣家小大進
霜ふれはなへてかれぬるふゆ草の[もイ]岩ほかゝけのはこそしほれね[ぬイ]
から錦をよみ侍ける
從三位賴政
むは玉のよるはすからにしき忍ふ淚のほとをしる人もなし
みつなかしはをよめる
基俊
ちる紅葉なをしからみにかけとめよた谷のしたみつなかしはてしと
物名哥よみ侍けるにやまとことかくら
後德大寺左大臣
みなとやまとことはに吹鹽風にゑしまの松は波やかくらん
きむのこと
殷富門院大輔
かり衣しかまのかちに染てきむのことの露にかつ[へイ]らまくおし
錦のふすまをよめる
源有仲
むかしみしと山のさとはあれにけり淺茅か庭にしきのふすまて
しきり羽の矢といふことを人のよませ侍けるに
鴨光兼
へたてこし霧は野やまにはれねともゆくかたしるくをしかなくなり
春つれつれに侍けれは權大納言公實許につかはしける
俊賴朝臣
はかなしなをのゝをやまたつくりかねてをたにもきみはてはふれすや
返しはせてやかてまうてきていさゝははな尋んなとなむさそひ侍ける
堀河院御時藏人頭にて殿上にさふらひける朝出させ給てこいたしきときのふたをくつかうふりによめとおほせこと侍けれはつかうまつりける
權中納言俊忠
こしたもといとゝひかたき旅のよのしら露はらふ木ゝのこのした
橘廣房
この里といはねとしるき谷みつのしつくもにほふ菊のした枝
淸見かたふしの山をよみ侍ける
藤原行能朝臣
君しのふよなよな分けし道しはのかはらぬ露やたえぬしら玉
庚申の夜あやめ草を折句によみ侍ける
二條太皇太后宮大貮
あな戀し八重の雲路にめもあはすくるゝよなよなさはくこゝろか
おなし文字なき哥とてよみ侍ける
あふ叓よいまはかきりの旅なれやゆくすゑしらて胸そもえける
春の初に定家にあひて侍けるついてに僧正聖寶はをはしめるをはてになかめをかけて春のうたよみて侍よしをかたり侍けれはその心よまんと申てよみ侍ける
大僧正親嚴
はつねの日つめるわかなかめつらしと野への小松にならへと[てイ]そみる
寫妋乃尾雅
0コメント