新勅撰和歌集。撰者藤原定家。卷第十九雜歌四。原文。
新勅撰和歌集
新勅撰倭謌集。底本『廿一代集第八』是大正十四年五月十三日印刷。同十六日發行。發行所太洋社。已上奧書。又國謌大觀戰前版及江戸期印本『二十一代集』等一部參照ス。
新勅撰和謌集卷第十九
雑哥四
亭子院大内山におはしましける時勅使にて參て侍けるにふもとより雲の立のほりけるをみてよみ侍ける
中納言兼輔
しら雲のこゝのへにたつ峯なれはおほうち山といふにそありける
題しらす
よみひとしらす
やましろのくせのさき坂神代より春はもえつゝ秋はちりけり
久邇の宮このあれにけるをみてよみ侍ける
みかの原くにのみやこはあれにけりおほみやひとのうつりいぬれは
春日社に百首哥よみて奉りけるに橋哥
皇太后宮大夫俊成
みやこ出てふしみをこゆる明かたはまつうちわたすひつ河の橋
百首哥よみ侍けるに早秋うた
内大臣
ふきそむるをとたにかはれ山城のときはのもりの秋のはつ風
建保四年百首哥奉りける時
僧正行意
やましろのときはのもりの夕しくれそめぬみとりに秋そくれぬる
名所哥よみ侍けるに
寂身法師
した草もいかてか色のかはるらんそめぬときはのもりのしつくに
眞昭法師
あすか川かはせのきりもはれやらていたつらにふく秋のゆふ風
題しらす
よみひとしらす
世中はなとやまとなるみなれ河みなれそめすそあるへかりける
中納言家持
千とりなくさほの河せのきよきせを駒うちわたしいつかゝよはむ
入道前太政大臣
春は花ふゆは雪とてしら雲のたえすたなひくみよしのゝやま
正三位家隆
いにしへのいくよのはなにはるくれてならの都のうつろひぬらん
前關白家哥合に名所月
源家長朝臣
いつこにもふりさけ今やみかさ山もろこしかけていつる月かけ
百首哥侍けるに
後京極攝政前太政大臣
ひさかたの雲ゐにみえしいこま山はるはかすみのふもとなりけり
題しらす
讀人しらす
いとまあらはひろひにゆかんすみの江の岸によるてふこひわすれ貝
和泉式部
すみよしのありあけの月をなかむれはとをさかりにし影そこひしき
亭子院の御ともにつかうまつりて住吉の濱にてよみ侍ける
一條右大臣[恒]
すみよしのうらにふきあくるしら波そしほみつときのはなとさきける
同しみゆきに難波の浦にてよみ侍ける
大宰権帥公賴
なにはかたしほみつ濱のゆふくれはつまなきたつのこゑのみそする
謙德公につかはしける
よみひとしらす
思ふことむかしなからの橋はしらふりぬる身こそかなしかりけれ
名所哥奉りける時あしの屋
正三位家隆
みしか夜のまたふしなれぬ蘆のやのつまもあらはに明るしのゝめ
布引瀧をよめる
藤原行能朝臣
ぬのひきのたきのしらいとわくらはにとひくるひともいくよへぬらん
百首哥に紅葉をよみ侍ける
入道前太政大臣
した葉まてこゝろのまゝにそめてけりしくれにあける神なひのもり
伊勢國に御幸の時よみ侍ける)
安貴王
いせのうみのおきつしら波花にもかつゝみていもか家つとにせん
戀の哥よみ侍ける中に
正三位家隆
伊せの海のあまのまてかたまてしはしうらみに波のひまはなくとも
名所哥奉りけるにすゝか山
大藏卿有家
秋ふかくなりにけらしなすゝか山もみちはあめとふりまかひつゝ
春浦月といへる心をよみ侍ける
家長朝臣
あつさ弓いちしの浦のはるの月あまのたくなはよるもひくなり
しかすかのわたりにてよみ侍ける
中務
ゆけはありゆかねはくるししかすかのわたりにきてそ思たゆたふ
前關白家哥合に名所月をよみ侍ける
正三位家隆
ひかりそふ木のまの月におとろけは秋もなかはのさやのなか山
藤原光俊朝臣
すみわたるひかりもきよし白妙のはまなのはしの秋のよの月
題しらす
よみひとしらす
戀しくは濱まなの橋をいてゝみよしたゆく水にかけやとまると
平兼盛するかのかみに成て下侍ける時餞し侍とてよめる
大中臣能宣朝臣
ゆきかへりたむけするかのふしの山けふりもたちゐきみをまつらし
家五十首哥
仁和寺二品法親王守覺
ふしのねはとはても空にしられけり雲よりうへに見ゆるしらゆき
名所百首哥奉りける時よめる
從三位範宗
世とゝもにいつかはきえむふしの山けふりになれてつもるしら雪
題しらす
さかみ
いつとなく戀するかなるうと濱のうとくもひとのなりまさるかな
百首哥に
後京極攝政前太政大臣
あしからの關路こえゆくしのゝめにひとむらかすむうきしまか原
題しらす
小町
むさしのゝむかひの岡の草なれはねをたつねてもあはれとそ思ふ
よみ人しらす
かつしかのまゝの浦まをこく舟のふな人さはく波たつらしも
前大僧正慈圓
かつしかやむかしのまゝのつき橋をわすれすわたる春かすみ哉
ひたちにまかりてよみ侍ける
能因法師
よそにのみ思ひをこせしつくはねの峯のしら雲けふみつるかな
天祿元年大嘗會悠紀屏風哥
淸原元輔
からさきのはまのまさこのつくるまて春のなこりはひさしからなん
山にのほり[侍イ入]ける道にて月をみてよみ侍ける
前大僧正慈圓
おほたけのみねふく風に霧はれてかゝみのやまに月そくもらん[ぬイ]
題しらす
鎌倉右大臣
春きては花とかみらんをのつからくち木の杣にふれるしらゆき
參議雅經
花さかていくよの春にあふみなるくち木のそまの谷のむ[う]もれ木
伊勢勅使にて甲賀のむまやにつき侍ける日
後京極攝政前太政大臣
はるかなるみかみのたけをめにかけていくせ渡りぬやすのかは波
題しらす
よみひとしらす
いまさらにさらしな河のなかれてもうきかけ見せんものならなくに
寂蓮法師
とくさかるきそのあさ衣そてぬれてみかゝぬ露もたまと置けり[ちりけりイ]
しなのゝ國にまかりける人にたき物をくり侍ける
源有敎朝臣
わするなよあさまの嶽のけふりにもとしへてきえぬ思ひありとは
題しらす
讀人不知
みちのくにありといふなるたま河のたまさかにたにあひみてし哉
陸奥守に侍ける時忠義公のもとに申送り侍ける
源信明朝臣
あけくれはまかきの嶋をなかめつゝみやこ戀しきねをのみそなく
題しらす
よみひとしらす
つらきをもいはての山の谷におふる草のたもとそつゆけかりける
名所哥あまたよみ侍けるに
淸輔朝臣
ふる鄕のひとにみせはやしら波のきくよりこゆるすゑのまつ山
題しらす
祝部成茂
心あるあまのもしほ木たきすてゝ月にそあかす松かうら嶋
寄露戀をよめる
寂延法師
しのふ山この葉しくるゝした草にあらはれにけるつゆのいろかな
題しらす
平政村
みやき野の木のしたふかきゆふつゆもなみたにまさる秋やなからん
天曆御時御屏風哥
源信明朝臣
むかしより名にふりつめるしら山の雲ゐのゆきはきゆると[よイ]もなし
百首哥奉りける雪哥
大納言師頼
かきくらし玉ゆらやますふる雪のいくよ[へイ]つもりぬこしのしらやま
題不知
よみ人しらす
朝ことにいはみの河のみおたえす戀しき人にあひみてしかな
前關白家哥合に名所月といへる心を
内大臣
ゆふなきにあかしのとよりみわたせはやまとしまねをいつる月かけ
題しらす
大納言旅人
ともの浦のいそのむろの木みることにあひ見しいもはわすられんやは
後京極攝政前太政大臣
波たかきむしあけのせとにゆく舟のよるへしらせよ沖つしほ風
入道前太政大臣
はるあきのくもゐの雁もとゝまらすたか玉つさのもしの關もり
よみ人しらす
いもかため玉をひろふと紀のくにのゆらのみさきにこの日くらしつ
もかり舩おきこきくらしいもか嶋かたみの浦にたつかけりみゆ
正三位家隆
時しあれは櫻とそおもふはるかせのふきあけのはまにたてるしら雲
名所哥よみ侍けるに
前參議敎長
波よするふきあけのはまの濱かせに時しもわかぬ雪そつもれる
堀河院に百首哥奉りける時山の哥
權中納言國信
あさみとり霞わたれるたえまより見れともあかぬいもせ山哉
百首哥に眺望の心をよみ侍ける
入道前太政大臣
和田の原波とひとつにみくまのゝ浦の南は山のはもなし
題しらす
七條院大納言
みくまのゝ浦はの松のたむけ草いくよかけきぬ波の白ゆふ
後京極攝政家百首哥に草哥十首讀侍けるに
寂蓮法師
風ふけははま松かえのたむけ草いくよまてにか年のへぬらん[イ下句つゆはかりこそぬさとちるらめ]
家に十五首哥よみ侍けるに晩霞隔浦といへる心を讀侍ける
中院入道右大臣
あはち嶋とわたる舟やたとるらんやへたちこむる夕かすみ哉
和哥所哥合に海邊霞をよみ侍ける
前内大臣
淡路嶋しるしのけふりみせわひて霞をいとふ春の舩人
題不知
よみ人しらす
しかのあまのけふりやきたて燒鹽のからき戀をもわれはする哉
志賀の蜑のめかり鹽やきいとまなみくしけのをくし取もみなくに
前大僧正慈圓
霞しく松浦のおきにこきいてゝもろこし迄の春を見る哉
秋山鹿といへる心をよみ侍ける
正三位知家
あさち山色かはりゆく秋かせにかれなて鹿のつまをこふらん
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