新勅撰和歌集。撰者藤原定家。卷第八羈旅歌。原文。


新勅撰和歌集

新勅撰倭謌集。底本『廿一代集第八』是大正十四年五月十三日印刷。同十六日發行。發行所太洋社。已上奧書。又國謌大觀戰前版及江戸期印本『二十一代集』等一部參照ス。



新勅撰和歌集卷第八

 羈旅哥

  太宰帥に侍ける時府官らひきゐて香椎浦にあそひけるによめる

  大納言旅人

いさやこらかしゐのかたにしろたへの袖さへぬれてあさなつみてん

  越中守に侍ける時國のつかさ布勢のみつうみにあそひ侍ける時よめる

  中納言家持

ふせの海のおきつしら波ありかよひいやとしのはにみつゝ忍はん

  あすかかはらの御時あふみにみゆき侍けるに讀侍ける

  額田王

あきの野におはなかりふきやとれりし宇治のみやこのかりいほしそ思

  芳野宮にみゆき侍ける時

  持統天皇御製

みよしのゝやましたかせのさむけくにはたやこよひもわか獨ねん

  慶雲三年難波の宮にみゆきの日

  田原天皇御製

あし邊ゆくかものはかひに霜ふりてさむきゆふへのことをしそおもふ

  題しらす

  讀人しらす

いつくにかわかやとりせんたかしまのかちのゝ原にこの日くらしつ

くるしくもふりけ[くイ]る雨かみわか崎さのゝわたりに家もあらなくに

  辨基法師

まつち山ゆふこえゆきていほさきのすみたかはらにひとりかもねん

  亭子院宮瀧御覧しにおはしましける御ともにつかうまつりてひくらし野といふ所をよみ侍ける

  大納言昇

ひくらしのゆき過ぬともかひもあらしひもとくいもゝまたしと思へは

  うりふ山をこえ侍とて

  謙德公

ゆくひとをとゝめかねてそうりふ山みち[ねイ]立ならし鹿もなくらん

  おほしまのなるとゝいふ所にてよみ侍ける

  惠恵慶法師

みやこにといそくかひなくおほしまのなたのかけちは汐みちにけり

  藤原惟規か越後へくたり侍けるにつかはしける

  伊勢大輔

けふやさはおもひたつらん旅ころも身にはなれねとあはれとそきく

  題しらす

  和泉式部

こしかたをやへの白雲へたてつゝいとゝ山路のはるかなるかな

  みちのくにへまかりける人に

  藤原淸正

かりそめの別とおもへとたけくまのまつに程へんことそくやしき

  宇佐使餞に

  左京大夫顯輔

たちわかれはるかにいきのまつほとは千とせをすくす心地せんかも

  題しらす

  道因法師

しぬはかりけふたになけくわかれ路にあすはいくへき心ちこそせね

  羈中曉といへる心をよみ侍ける

  入道前太政大臣

たひ衣たつあかつきの鳥のねにつゆよりさきもそてはぬれけり

  別の心をよみ侍ける

  源家長朝臣

わかれ路をゝし明かたのま木の戶にまつさきたつは淚なりけり

  藤原親繼

わかれ行かけもとまらすいはし水あふさか山は名のみふりつゝ

  土佐の國に年へ侍ける時哥あまた讀侍けるに

  藤原兼髙

曉そなをうきものとしられにし都をいてしありあけの空

  權大納言忠信哥合し侍けるに旅の戀をよめる

  藤原信實朝臣

くれにもといはぬわかれのあかつきをつれなくいてしたひの空かな

  旅の哥とてよみ侍ける

  前中納言匡房

またしらぬ旅のみちにそいてにける野はらしのはら人にとひつゝ

  宇治關白有間の湯見にまかりける道にて秋の暮をおしむ哥よみ侍けるに

  權大納言長家

神なひの杜のあ[わイ]たりにやとはかれ暮行秋もさそとまるらん

  齊宮群行のすゝかの頓宮にて旅哥讀侍けるに

  權中納言通俊

いそくともけふはとまらん旅ねするあしのかり庵にもみち散けり

  關路曉雪といへる心をよみ侍ける

  權大納言公實

鳥のねにあけぬときけは旅衣さゆともこえん關のしら雪

  久安百首哥奉りける旅の哥

  皇太后宮大夫俊成

わかおもふ人に見せはやもろともにすみたかはらのゆふくれのそら

はるかなるあしやのおきのうきねにも夢路はちかきみやこなりけり

  後法性寺入道前關白家百首哥よみ侍けるに旅の心をよみてつかはしける

  後德大寺左大臣

くさまくらむすふ夢路はみやこにてさむれは旅のそらそかなしき

  百首哥奉ける時

  後京極攝政前太政大臣

うきまくら風のよるへもしらなみのうちぬるよひは夢をたに見す

  式子内親王

あら磯の玉ものとこにかりねしてわれから袖をぬらしつるかな

  源師光

照月のみちゆくしほにうきねしてたひのひ數そおもひしらるゝ

  題しらす

  鎌倉右大臣

世中はつねにもかもなゝきさこくあまの小舟のつなてかなしも

  入道二品親王家に五十首哥よみ侍けるに海旅

  法印幸淸

くれぬとてとまりにかゝるゆふなみにことうらしるきあまのいさり火

  旅泊の心をよみ侍ける

  權中納言頼資

夜をかさねうきねの數はつもれとも波路のすゑや猶のこるらん

  正三位知家

なみまくらゆめにも見えすいもかしまなにをかたみの浦といふらん

  參議雅經

たちかへり又もやこえむ峯の雲あともとゝめぬよものあらしに

  眞昭法師

月のいろもうつりにけりな旅衣すそのゝはきのはなのゆふ露

  都をはなれて所ゝにまうてめくり侍ける比よみ侍ける

  八條院髙倉

世をうしとなれし都はわかれにきいつこの山をとまりともなし

しら雲の八重たつ山をたつぬともまことのみちは猶やまとはん

  建曆三年内裏詩哥合羈中眺望といへる心を讀侍ける

  六條入道前太政大臣

こえわふる山もいくへになりぬらんわけ行あとをうつむしら雲

  建保二年内裏哥合秋哥

  前内大臣

くれは又わかやとりかはたひ人のかちのゝはらの萩のしたつゆ

  世をのかれて後修行のついてあさか山をこえ侍けるに昔のこと思ひいて侍てよみ侍ける

蓮生法師

いにしへの我とはしらしあさか山みえしやま井のかけにしあらねは

  旅の心をよみ侍ける

  前大僧正慈圓

かへりこはかさなる山のみねことにとまるこゝろをしほりにはせん

  陸奧の國にくたり侍ける人を送りてあはつにとまりてよみ侍ける

  禎子内親王家攝津

東路の野ちのくさ葉のつゆしけみゆくもとまるも袖そしほるゝ

  惟喬のみこのかりしけるともに日ころ侍て歸り侍けるを猶とゝめ侍けれは讀侍ける

  業平朝臣

枕とて草ひきむすふこともせし秋の夜とたにたのまれなくに

  難波にみゆき侍ける時よめる

  置始東人

大伴のたかしのはまの松かねをまくらにぬれと家しおもほゆ







Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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