髙橋氏文　原文及び現代語訳。２。日本書紀及び古事記に依る系譜

次に、日本書紀に據る景行天皇紀

日本書紀。卷七景行天皇紀ノ卷頭。曰ク。

　大足彥忍代別天皇　景行天皇

大‐足‐彥‐忍‐代‐別［オホタラシヒコオシロワケ］ノ天皇ハ。活目入彥五十狹茅ノ天皇［●（垂仁）］ノ第三子也。母ノ皇后ヲ曰（二）日葉洲媛ノ命ト（一）。丹波ノ道‐主［チウシ］ノ王［オホキミ］ノ之女也。活目入彥五十狹茅天皇ノ三十七年ニ。立テ爲リ玉フ（二）皇太子ト。［●時ニ年廿［※二十］一。］［頭。時年廿一、集解云時字熱本无廿一當作二十爲大書］九十九年春二月。活目入彥五十狹茅天皇崩。［頭。春二月、水本云垂仁紀作秋七月未知孰是應本作三月］

元年秋七月己巳朔己卯。太子卽（二）天皇位（一）。因テ以改元。是年也太歲辛未。［頭。廣云當作皇太子］

二年春三月丙寅朔戊辰。［頭。戌、類史水本兼本作寅］立テ（二）播磨ノ稻日大‐郎‐姬［オホイラツメ］ヲ［●一云。稻日稚郎姬。郎姬此云（二）異‐羅‐菟‐［※／比］‐咩［イラツ［※／ヒ］メ］ト（一）。］［頭。○日、應本作田○菟、一本此下有比字］爲ス（二）皇后ト（一）。后生（二）二男［ミコ］ヲ（一）。第一ヲ曰（二）大碓皇子ト（一）。第二ヲ曰（二）小碓尊チ（一）。［●一書云。皇后生（二）三男（一）。其弟［イロト］三曰（二）稚倭根子ノ皇子ト（一）。］其大碓皇子。小碓尊。一日ニ同‐胞［オナジエ］ニシテ而雙‐生［フタコニアレマセリ］。天皇異‐之［アヤシミテ］則誥［タケビタマヒキ］（二）於碓ニ（一）。故ニ因テ號ケテ（二）其二王ヲ（一）。曰フ（二）大碓小碓ト（一）也。是ノ小碓ノ尊ハ。亦名ハ日‐本［ヤマト］童‐男［ヲグナ］。［●童男、此ヲ云（二）烏‐具‐奈［ヲクナ］ト（一）］亦ハ曰（二）日‐本［ヤマト］武［タケル］尊。幼［ワカ］クシテ有（二）雄‐略［ヲゝ］シキ之氣（一）。及デ（レ）壯ニ容貌魁偉。身長一丈。力能扛（レ）鼎焉。

是と舊事本紀の文章が同一で在る故緣は、舊事本紀が

日本書紀と

古事記と

古語拾遺の折衷による偽作で在るが爲とされる。私は

それには必ずしも同意出來無い。叓の真偽は今

問題では無い。言表が同一であろうが何だろうが、テクストの総体として謂って在る叓は

結果として

大きく差異する故に、で在る。以下、同じで在る點では無くて、その

差異して居る點に注目しよう

三年春二月庚寅朔。卜［ウラフル］ニ（二）幸テ（下）于紀伊國ニ（上）。將ト（一レ）祭ヒ（二）祀ラント群神祇ヲ（一）。而不（レ）吉［※ヨカ］ラ。乃車‐駕［ミユキ］止［ヤ］ミヌ之。遣テ（二）屋‐主［ヤヌシ］忍‐男‐武‐雄‐心［ヲシオシヲタケヲコゝロ］ノ命ヲ（一）［●一云（二）武猪心］令ム（レ）祭［イハヒマツラ］。爰ニ屋主忍男武雄心命詣［イデマ］シテ之。居テ（二）于阿‐備［アビ］ノ柏‐原［カシハラ］ニ（一）而祭ヒ（二）祀ル神祇ヲ（一）。仍テ住［トマリス］ムヿ九年アリ。則娶テ（二）紀ノ直カ遠祖菟‐道［ウチ］彥ノ之女影媛ヲ（一）。生［ウ］マシム（二）武內宿禰ヲ（一）。

紀伊國に行幸して神祇を祀らんとしたものの

卜——所謂太占と謂ものだろうか？…で見た所

不吉と出たので屋主忍男武雄心を遣した。阿備の柏原で

彼は祀りを納めその儘九年留まった。そこで紀の直の遠ッ祖

菟道彥の娘の影媛をして

生ましめたのが武內宿禰で在る、と云ふ。卽ち

武內宿禰の年齢自体が大きく異なる叓になる。舊紀の武內宿禰が

天皇と同歳ならば、之の武內宿禰は大碓命、小碓命の弟分程度の年齢で在る。最も

之は假に

播磨の稻日大郎姬との間に速やかに此の

雙生兒が生まれて居て

紀伊國渡りの初年に武内宿禰が

生まれていたならば、で在る

四年春二月甲寅朔甲子。天皇幸ス（二）美濃ニ（一）。左右奏シテ言サク之。

［※從者］茲國ニ有（二）佳人（一）。曰フ（二）弟媛ト（一）。容姿端正。八坂入彥皇子之女也。

天皇欲テ（二）得テ爲ムト（一レ）妃ニ。幸ス（二）弟媛之家ニ（一）。弟媛聞テ（二）乘輿車‐駕［ミユキス］ト（私）（一）。則隱ル（二）竹‐林［タカハラ］ニ（一）。於（レ）是天皇權［シバラク／ハカリテ］令メムト（二）弟媛ヲ至ラ（一）而居［マ］ス（二）于泳宮ニ［●泳宮此ヲ云フ區‐玖‐利‐能‐彌‐揶［ククリノミヤ］ト（一）］鯉‐魚［コヒ］ヲ浮［ハナ］チテ（レ）池ニ朝夕ニ臨‐視［ミソナハシテ］而戲‐遊［アソビタマフ］。時ニ弟媛欲（レ）見ムト（二）其鯉魚ノ遊ヲ（一）。而密ニ來テ臨ム（レ）池ニ。天皇則留テ而通［メ］シツ之。爰ニ弟媛以爲ク、夫‐婦［ヲトメ］之道ハ。古今ノ達則也。然レドモ於テ（レ）吾ニ而不‐便［モヤ〱モアラズ］。則請テ（二）天皇ニ（一）曰。

［※弟媛］妾性不（レ）欲（二）交接之道ヲ（一）。今不テ（レ）勝［タヘ］（二）皇‐命［オホムコト］ノ之威［カシコキ］ニ（一）。暫納［メサレマ井］レリ（二）帷‐幕［オホトノ］ゝ之中ニ（一）。然ニ意ニ所［ナ］リ（レ）不［ザ］ル（レ）快［ヨロコビ］。亦形‐姿［カホ］穢‐陋［カタナシ］。久之不（レ）堪ヘジ陪（二）於掖‐庭［ウチツミヤ］。［頭。久之、古本无］唯有リ（二）妾ガ姉（一）。名ヲ曰フ（二）八坂［※有］入媛ト（一）。［頭。○八坂、古本此下有之字］容姿麗‐美［ヨシ］。［頭。○麗美、舊紀作美麗］志亦貞潔。宜納［ツカ］ヒ玉ヘ（二）後‐宮［キサキノミヤ］ニ（一）。

天皇聽之。仍喚テ（二）八坂入媛ヲ（一）爲（レ）妃ト。生（二）七ノ男六ノ女ヲ（一）。

第一ヲ曰（二）稚‐足‐彥［ワカタラシヒコ］彥天皇ト（一）。

第二ヲ曰（二）五‐百‐城‐［※之‐］入‐彥［イホキノイリヒコ］皇子ト（一）。［頭。五百城、古本城下有之字］

第三ヲ曰（二）忍‐之‐別［オシノワケ］皇子ト。［頭。○忍之別、古記作押別、舊紀作忍足別］

第四ヲ曰（二）稚倭根子皇子ト（一）。

第五ヲ曰（二）大酢［ス］別皇子ト（一）。

第六ヲ曰（二）渟‐熨‐斗［ヌノシ］ノ皇女ト（一）。［頭。熨斗、水本作熨一字］

第七ヲ曰（二）渟‐名‐城［ヌナキ］ノ皇女ト（一）。

第八ヲ曰（二）五百城入姬皇女ト（一）。

第九ヲ曰（二）麛‐依［カコヨリ］姬皇女ト（一）。

第十ヲ曰（二）五‐十‐狹‐城［イサキ］［※入］彥皇子ト（一）。［頭。狹城、兼本舊紀城下有入字］

第十一ヲ曰（二）吉‐備［キビ］兄［エ］彥皇子ト（一）。

第十二ヲ曰（二）高‐城［タカキ］入姬皇女ト（一）。

第十三ヲ曰（二）弟姬ノ皇女ト（一）。

又妃［ミメ］［※三］尾ノ氏ノ磐‐城［イハキ］別ノ之妹［イロト］。水‐齒［ミヅハ］ノ郎‐媛［イラツメ］。生（二）五‐百‐野［イホヌ］ノ皇女ヲ（一）。［頭。尾、舊紀兼本尾上有三字］

次ノ妃五‐十‐河［イカハ］媛。生（二）神‐櫛［カミクシ］ノ皇子。稻‐背［イナセ］入彥皇子ヲ（一）。其兄［イロ子］神櫛皇子ハ。是讚岐ノ國ノ造之始祖也。弟稻背入彥皇子ハ。是播磨ノ別之始祖也。

次妃阿倍氏木‐事［ココト］之女。高田媛。生（二）武‐國‐凝［タケクニコリ］別皇子（一）。是伊豫ノ國ノ御村ノ別之始祖也。［頭。御村、舊紀村作城］

次妃日向ノ髮‐長［カミナガ］大田根［※媛］。生（二）日向襲‐津［ソツ］彥ノ皇子ヲ（一）。是ハ阿［※河］牟君之始祖也。［頭。○田根、廣云據例根下常補媛字古本同○阿牟、應本一本阿作河］

次妃襲‐武［ソノタケ］媛。生（三）國‐乳［クニチ］別ノ皇子。與テ（二）國背別皇子［●一云。宮道別ノ皇子］豐‐戶［トヨト］別皇子（一）。其兄國乳別皇子ハ。是水‐沼［ミヌマ］別ノ之始祖也。弟豐戶別皇子ハ。是火ノ國ノ別ノ之始祖也。

夫天皇之男女。前後幷テ八十子マシマス。然ドモ除イテノ（二）日本武尊。稚足彥天皇。五百城入彥皇子ヲ（一）之外七十餘子ハ。皆封［コトヨサ］シテ（二）國郡ニ（一）。各如［ユ］カシム（二）其國ニ（一）。故當テ（二）今‐時［イマノヨ］ニ（一）。謂ハ（二）諸國之別ト（一）者。卽其別‐王［ワカレミコ］之苗裔ナリ焉。是月。天皇聞テ（三）美濃國ノ造名ハ神‐骨［カムボ子］ノ之女。兄［ア子］ノ名ハ兄‐遠‐子［ア子トホコ］。弟ノ名ハ弟遠子。並ニ有（二）國‐色（一）［カホヨシ］ト。則遣テ（二）大碓命ヲ（一）。使シメ玉フ（レ）察［ミ］セ（二）其婦女之容姿ヲ（一）。時ニ大碓命便‐密‐通［スデニシノビタハケテ］而不‐復‐命［カヘリコトマウサズ］。由テ（レ）是ニ恨ミ玉フ（二）大碓命ヲ（一）。冬十一月庚辰朔。乘輿自リ（二）美濃（一）還。則更ニ都シ玉フ（二）於纏‐向［マキムク］（一）。是ヲ謂（二）日‐代［ヒシロ］ノ宮ト（一）。［頭。集解云按是月以下五十八字錯簡疑應在于二十年已後之紀以二十七年小碓命十六年之是年先于大碓命誕生之年八年］

以下、古事記に據る系譜

古事記。於傳廿六。

大‐帶‐日‐子［オホタラシヒコ］淤‐斯‐呂‐和‐氣［オシロワケ］ノ天皇［※景光］。坐（二）纒‐向［マキムク］ノ之日‐代［ヒロシ］ノ宮（一）。治（二）天下（一）也。此天皇娶（二）吉‐備［キビ］ノ臣等之祖若‐建［ワカタケ］吉‐備［キビ］ツ津日‐子［ヒコ］之女［ミムスメ］。名ハ針‐間［ハリマ］ノ之伊‐那‐毘［イナビ］ノ能大郎女（一）。生（二）御子櫛‐角‐別［クヌツノワケ］ノ王［ミコ］（一）。

次ニ大‐碓［オホウス］ノ命［ミコト］。

次ニ小‐碓［ヲウス］ノ命。亦ノ名ハ倭［ヤマト］男‐具‐那［ヲグナ］ノ命。［●具那二字以（レ）音］

次ニ倭‐根‐子［ヤマト子コ］ノ命。

次ニ神‐櫛［カムクシ］ノ王。［●五柱。］

又娶（二）八‐尺［ヤサカ］入日子命［●崇神皇子］［※崇神ハ第10代］之女。八‐坂［ヤサカ］ノ之入‐日‐賣［イリヒメ］ノ命（一）。生（二）御子若［ワカ］帶‐日‐子［ヲシヒコ］ノ命（一）。

次ニ五‐百‐木［イホキ］ノ之入‐日‐子［イリビコ］ノ命。

次ニ押‐別［オシノワケ］ノ命。

次ニ五‐百‐木［イホキ］ノ之入‐日‐賣［イリビメ］ノ命。

又ノ妾［ミメ］ノ之子［ミコ］。豐［トヨ］戶‐別［トワケ］ノ王。

次ニ沼‐代［ヌノシロ／ヌナシロ（眞淵訓）］ノ郎女。

又ノ妾ノ之子。沼‐名‐木［ヌナキ］ノ郎女。

次ニ香‐余‐理‐比‐賣［カゴヨリヒメ］ノ命。

次ニ若‐木［ワカギ］ノ之入‐日‐子［イリヒコ］ノ王。

次ニ吉‐備［キビ］ノ之兄‐日‐子［エヒコ］ノ王。

次ニ高‐木‐比‐賣［タカキヒメ］ノ命。

次ニ弟‐比‐賣［オトヒメ］ノ命。

又タ娶（二）日‐向［ヒムカ］ノ之美‐波‐迦‐斯‐毘‐賣［ミハカシビメ］（一）。生（二）御子豐［トヨ］國‐別［クニワケ］ノ王（一）。

又タ娶（二）伊‐那‐毘［イナビ］ノ能大郎女ノ之弟伊‐那‐毘［イナビ］ノ能若［ワカ］郎女（一）［●自（レ）伊下四字以（レ）音］生（二）御子眞‐若［マワカ］ノ王（一）。

次ニ日‐子‐人［ヒコヒト］ノ之大‐兄［オホエ］ノ王。

又タ娶（二）倭‐建［ヤマトタケル］ノ命之曾孫。名ハ須‐賣‐伊‐呂［スメイロ］大‐中‐日‐子［オホナカツヒコ］ノ王［●自（レ）須至（レ）呂四字以（レ）音］ノ之女。訶‐具‐漏‐比‐賣［カグロヒメ］。生（二）御子大‐枝［オホエ］ノ王。

凡テ此ノ大帶日子天皇之御子等。所（レ）錄廿一王。不（レ）入（レ）記五十九王。幷テ八十王之中ニ。若［ワカ］帶‐日‐子［タラシヒコ］ノ命與（二）倭建ノ命（一）。亦五百木ノ之入日子ノ命。此ノ三王ゾ。負［オ］ハシテ（二）太‐子‐之‐名［ヒツギノミコトマヲスミナ］（一）。自（レ）其餘七十七王者。悉別ケタマヒキ（二）‐賜國國之國造。亦タ和氣。及タ稻置。縣主（一）也。

故レ若帶日子命［●成務］［※第13代］ハ者治（二）天下（一）也。小碓命ハ者。平（二）東西ノ之荒ブル神。及不‐伏‐人‐等［マツロハヌヒトビト］（一）也。次ニ櫛角別ノ王ハ者。［●茨‐田［マムタ］ノ下連等之祖］次ニ大碓命ハ者。［●守［モリ］ノ君［キミ］。大‐田［オホタ］ノ君。嶋‐田［シマダ］ノ君ノ之祖。］次ニ神櫛王ハ者。［●木［キ］ノ國ノ之酒‐部［サカベ］ノ阿‐比‐古［アビコ］。宇‐陀［ウダ］ノ酒部ノ之祖。］次ニ豐國別王ハ者。［●日向ノ國造ノ之祖。］

於（レ）是。天皇。聞（二）‐看‐定三‐野［ミヌ］ノ國ノ造ノ之祖。神［カム］大‐根［オホ子］ノ王ノ之女。名ハ兄‐比‐賣［エヒメ］。弟‐比‐賣［オトヒメ］ノ二孃子。其ガ容姿麗美（一）而。遣（二）其ノ御子ノ大碓命（一）以喚‐上［メサゲタマフ］。故レ其ノ所（レ）遣大碓命勿［ズ］シテ（二）召‐上［メアゲ］（一）而。卽己自婚（二）其二孃子（一）。更ニ求シテ（二）他‐女‐人［ミナヲマデ］（一）。詐（二）名其孃女（一）而貢上。於（レ）是天皇知（二）其他女（一）。恒ニ令メ（レ）經［ヘ］（二）長‐眼［ナガ］メテ（一）。亦勿（レ）婚而惚也。故レ其ノ大碓命娶（二）兄比賣（一）。生（二）子押‐黑［オシクロ］ノ之兄‐日‐子［エヒコ］ノ王。［●此者三‐野［ミヌ］ノ之宇‐泥‐須［ウ子ス］ノ和‐氣［ワケ］ノ之祖。］

亦タ娶（二）弟比賣（一）。生（二）子押‐黑［オシクロ］ノ弟‐日‐子［オトヒコ］ノ王。［●此者牟‐宜‐都［ムヤツ］ノ君等ガ之祖ナリ。］

此ノ之御世ニ定［サダ］メタマヒ（二）田‐部［タベ］ヲ（一）。

又タ定（二）東［アヅマ］ノ之淡［アハ］ノ［●（安房）］水‐門［ミナト］ヲ（一）。

又タ定（二）膳［カシハデ］ノ之大‐伴‐部［オホトモベ］ヲ（一）。

又タ定（二）倭［ヤマト］ノ屯‐家［ミヤケ］ヲ（一）。

又タ作リテ（二）坂‐手［サカテ］ノ池ヲ（一）。［●（城下郡坂手村）］卽竹植［ウエ］シメタマヒキ（二）其ノ堤ニ（一）也。

次に、日本武尊の事蹟を追は無ければ成ら無い。何故なら

日本武尊の死の悲しみの反響の中に

所謂髙橋氏文は始まるからだ

景行天皇は御世廿七年に熊襲を討たしめる

討ったのは女装の皇太子——所謂倭武尊である

その歳は十六歳。之は

舊叓本紀ではほゞ無視される。反して

書紀に於いては條の最初のクライマックスを爲す

日本書紀景行天皇廿七年云。

二十七年春二月辛丑朔壬子。武內宿禰自（二）東［アヅマ］ノ國（一）還之奏‐言［マウサク］。

二十七年春二月辛丑朔壬子に

武內の宿禰は東の國より歸還して斯く奏上した。卽ち

武内宿禰は二十四歳。乃至は、最も若くて十五歳くらい。紀伊逗留が

九年の長きに及んだ、と云ふ記述に基づけば、である

［※武內宿禰］東ノ夷［ヒナ］ノ之中有（二）日‐高‐見［ヒダカミ］ノ國（一）。其國人。男女並ニ椎‐結［カミヲアゲテ］文（レ）身［ミヲトロケテ］。爲（レ）人ト勇悍。是ヲ總テ曰フ（二）蝦‐夷［エミシ］ト（一）。亦土地沃‐壤［コエ］テ而曠之。擊テ可シ（レ）取ル也。

——東の鄙びた僻地に日高見の國というのが御座います。其處の者どもは

男女ともに髪を椎結いに束ねて身を飾り人となりは勇敢で御座います。其處を

蝦夷と申します。土地も肥沃にして廣く拓けた處。如何でしょうか。是を

討って征服爲され賜うては？