小説。——櫻、三月の雪…散文。及び立原道造の詩の引用 /《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ 或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948 ■56



以下、一部箇所に暴力的な描写が在ります。

ご了承の上お読み進めください。

又、歴史的記録として過去の政治スローガンの引用乃至模倣が使用されますが、

特にそれらを特に顕彰しようとする意図も在ません。





櫻、三月の雪

…散文。及び立原道造の詩の引用


三部作

《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ

或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948——Ⅱ


Zaraθuštra, Zartošt, Ζωροάστρης

ゾロアスター



「なに?」

と、そしてややあって云った私には彼は終に声を立てて笑い、コアは彼自身に纏わる諸事情を未だに何も知らない私に、むしろけなげなほどにあざやかに、やさしい憐れみだけを感じさせる眼差しをくれた。

コアの身長は高い。見あげるほどではないにしても。

「エンジニア。…兵庫。」

と、

Enginer

私は、彼の

…ひ、よっ

云いたい事を了解した。私の

ぐぉ

生徒たちと同じように

ひ、

彼も

よごぅ

日本へ《出稼ぎ労働》に行こうとしているのだった。私の知らない所で。知らないうちに。ユエンは知っていたのだろうか?いずれにしても、それなりの金額が渡日費用として必要な筈だった。

夜の9時を過ぎて、ようやく会社から帰って来たユエンが云った。彼は、サイゴンの《送り出し会社》に登録しているのだ、と。

大量に必要な渡日費用は、此の土地を抵当に入れれば何ほどのものでもない。土地値は高騰していた。平均的な月収で5万円を下るような国で、いま、ダナン市の川際の土地など一億円程度の価格で外資系デベロッパーが購入していくのだった。

ユエンの土地が、一体どれだけの資産価値を持って居るのか、想像もつかない。

コアはもともと電気関係のエンジニアリングの勉強をした男だが、日本ではプラスティック製品の製造工場で働くのだと云っていた。数ヶ月前に、いきなり工場を閉鎖した韓国の半導体会社の仕事を失った後で、ホー・チ・ミン市の《送り出し会社》で、合宿生活を送っていた。

「質問があります。」

コアが笑いながら言い、…どうして、

と。

「ベトナム人は日本へ行きたいです。しかし、どうして、日本人はベトナムに来たいですか?」

彼の眼差しは、すくなくとも日本の多くの人間は、ベトナムに憧れているものだという、誰に耳打ちされたわけでもない確信を疑いさえもしない。

確かに、中国人と韓国人の観光客はダナン市に目立ち、サイゴンにはそこに居住し始めた変わり者の、乃至、日本に居場所のなかった日本人たちで溢れかえっていた。ならば、彼の眼差しが、日本人が移住したがる国としてのベトナム、という風景を、見い出して仕舞うことにはなんの違和感もなかった。

…ベトナムは、とても綺麗だからです。

私がややあってそう答えると、彼は声を立てて笑った。

一度も日本には言ったことの無いユエンが、戯れに私の尻をつねっていつ、と。お母さんに逢えるの?そう、声を立てて

瞬く

笑った。

日差し、ときに

邪気も無く。ただ

羽撃きが投げ附けた

じゃれ附いて、弟の

日差しの直射

眼を

もはや単なる空間に過ぎない、眼球の無い眼窩にも

気に留めることも無く

時に差し込まれる嘴が、身動きさえもし無い

ユエンは

死に絶えた私の異形の


変形に変形を重ねた肉体に(——塊?)鮮明な


無数の(肉の、)痛みを撒き散らして(…塊、

見たこと、在る

謂わば単なる)覚醒した痛みの群れが(肉塊。)、瞬く

僕、生まれる前の

私は、そして、あまりにも眩しい逆光の

命の風景

日差しが眼差しにふれるたびに、それら、姿を

赤裸々な…ほんとうに

顕さない鳥たちの無造作な羽撃きの音響が

あからさまなくらい

いつか

赤裸々な

私の耳の奥を、明確な轟音として

命の洪水。——光が

満たす。為すすべもなく、…いま。と

何処迄も溢れ返った文字通り無限の

いま、燃え上がって仕舞えばいいのに、と

光が

一切の火の気の無い、生い茂ったハイビスカスの花の

見ていた

樹木に突き刺さった男の

僕は

無残な

僕の命、そのもの

鳥葬の姿に…——鳥葬儀?

あざやかすぎる光

男の奇形の、血みどろの肉体を見つめた私さえもが

なにもかも

彼への弔いの意志など

全部、なにもかも

何も在りはし無いのに?

…知ってる?

鳥たちは、好き放題にただ

ダイヤモンドと青空に

満たされることを知らない永遠の飢餓のうちに

或は海水とライオンの肉体と

その肉体をついばみ続けているだけなのに?

疾走する鼠の歯と鳥の羽撃く翼

果たして誰も弔わず、誰にも

更には、樹木の葉の色彩と

弔われはし無い葬儀など可能だったのかと

大気の透明さ、鉄の強度

疑いながらも、私はただ

それらの総ては

満たされるのだった。その

同じものに過ぎない。…知ってた?

匂い立つハイビスカスの

命に限りは存在し無い。なぜなら

色彩と

限界は、常に

芳香に、

眼差しが見い出したひとつの

時に我を忘れながら

…どう、と。

「清雪のこと、どう想ってたの?」と、私が云ったとき、その、海を隔てた音声通話の、いやに鮮明な泰隆の声。あまりも赤裸々で、もはや、恥じらいさえも感じられない、…どうって?

声。

「どうって、なんですか?」

彼の声を聴いた。

「お前、そういう趣味あったの?」

清雪の自死を、如何にも暗い眼差しに必死に明るさを装った風を曝して、泰隆が報告するその電話をくれる前から、すでに私は清雪の自死の事実を知っていた。清雪が予告したフェイスブックのライブスティームで、一部始終を見て仕舞っていたから。…なに?

「それ誰から聴いたの?」不意に自分の話を、一方的に打ち切って問いかけた私の質問は、顕かに泰隆を戸惑わせていた。

ただ、一瞬だけ。

「清雪、…」と。

私は彼に嘘を言った。清雪は一度も、そんな告白などしなかった。「悪かったと想ってる。もう、」その日、泰隆は、不意にLineの無量通話をならして、

「…償えないけどね。」

云った。清雪が、

「こんなことになっちゃうと。」

死にました。…と。

「自覚、在ったよ。もちろん。むかしから。自分のことだから。自己認識くらい…自分の性癖にたいする、ね。清雪って、」泰隆は云った、彼、自傷癖あったみたいで。それで、…と。「他人じゃない。俺にとっては、あいつは、」…遺書は?

「…あるいは、あなたにとってどうであろうと、あいつは」

そう云った私に、…なかった。

「俺の家族だと想ってた、…てる、から。…ね。」

まさか、あいつが

「血の繋がり?」

こんなことになるなんて、と、海の向こうでさゝやく泰隆の声には

「夫婦ってやっぱり、基本他人同士でしょ。…だから、」顕かな喪失感が色濃く浮ぶ。

「夫婦とか、親友とかにも在り獲ない、なんか…」

あるいは、それが意識もないうちに自然に装われたものだったにしても「…言い訳なんだけど。俺、あいつに甘えちゃったんだろうね。あいつ、俺の近親者だから。血を分けた、…ね。俺と同じ匂いがする。出生に関しても、俺ならあいつが見た風景を理解できる。逆に言えば、いや、だからこそ。…だからこそ、あいつを追い詰めたのは俺かもしれない。けど、まさか、そんな素振りは見せなかった。」

「何回、したの?」

そう言ったとき、泰隆は数秒の間を置いて、…云わなきゃいけない?

いけなくは無い。聴きたいだけ。「…確認って訳じゃないけど」…理由は俺にも判らない。

その、私の返答にかすかにだけ、泰隆は笑ったような鼻息を立てた。

「一回だけ。嘘じゃない。あいつに、あんなことしたのは一回だけ。…彼に、やっちゃいけないこと、やっちゃったあとでさ、俺、どうしようもなく胸が苦しくて。哀しくて。涙さえ流れ出さない。むしろ、茫然としてたよ。その時、気附いた。自分の本当の姿。自分自身にさえ、嘘附いて隠し持ってた本当の姿。」

「なに?」

「ごめんな、って、終った後で、あいつにそう云ったら、そしたら、あいつ、云ってた。判るよって。伯父さんの気持ち、なんか、わかる。…もう、心配しないで。…って、そのとき、俺。なんだろう?彼も、そういうタイプだったんだなって気付いた。」

「そうじゃないと想う。」

「…なんで?」

波紋。

「あいつは、そうじゃないよ。」

泰隆の、謂わば心の中に、匂いも無い波紋が静かに、一瞬、拡がったのが見えた気がした。






Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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