小説。——櫻、三月の雪…散文。及び立原道造の詩の引用 /《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ 或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948 ■55



以下、一部箇所に暴力的な描写が在ります。

ご了承の上お読み進めください。

又、歴史的記録として過去の政治スローガンの引用乃至模倣が使用されますが、

特にそれらを特に顕彰しようとする意図も在ません。





櫻、三月の雪

…散文。及び立原道造の詩の引用


三部作

《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ

或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948——Ⅱ


Zaraθuštra, Zartošt, Ζωροάστρης

ゾロアスター



清い雪は、その腹に短刀を突き刺したときに、痛み、と、それがそう呼ばれるべきものをある事は知っていた。顕かに、私は、とはいえ、其処に感じられて居るものが、鮮烈に過ぎるあざやかで短い音響の無際限な連なりすぎないことからもはや、目をそらすことも出来ずに、俺は、と。

想う。俺は、いまもあくまで冷静なままだ、と、逃げ惑うユエンを、敢えて抱きかかえた。その、庭に繁った樹木の一本の木陰の下で。

ター

あなたは

木漏れ日。

パパ

地面にかすかにわなないたそれらの、無数の

チャン・ヴァン・ター

知ってる?

翳りは、一瞬だけ私の

Trần Văn Tá

Bố

眼差しに触れたに過ぎなかった。ユエンの衣服を、私と同じように

32歳。日に灼けた自動車工学のエンジニア

Dad

剥ぎ取って仕舞おうとすると、眼差し。

図太い筋肉を、必ずしも実用性の無い儘に

おとうさ…

私の眼差しが木漏れ日に直射されて、みじかく

見掛け倒しに鍛えて誇り

Anh

まばたいたのをユエンは

堀の深いおとなしい顔立ちが端整に

Bố ởi

知らない。Tシャツで、

飾る。彼が不意に私に掛けてきた電話で

おとさん

ユエンの頭と腕を、彼女が

ユエンの妊娠を私に

Anh có biết ...

私にしたのと同じように

喜びながら告げたとき彼は

ちぃちぃ

拘束してやって、そして、

おめでとうごやいまっ

Anh bố

ひざまづいた私はその腹部に、唇をふれてやるが、たわむれてもがいたユエンの笑い声と、汗ばんだ体臭が匂われて、舌が彼女の汗の味覚を感じた儘に、光は充ち溢れて

…憩ふ

おまへの

あはれに

ふたりして

裡に

目立たなかつた

泉の

外に

あの言葉

ふるえてやまない

光が

いま

光のために

育つたのだ

それは

僕たちの

かがやいてゐる

大きくなつた!

僕たちは

おまえへの裡に

外に

憩ふ

僕のなかに

光が充ち

ふたりして

育つたのだ

いま

ちひさい

…外に光が充ち溢れてゐるが

それは

ふるえてやまない

それにもまして

溢れてゐるが

僕たちの

かがやいてゐる

それにもまして

光は

いま

この深い耳に

大きくなつた!

僕たちは憩ふ

風は

いま

ふたりして持つ

光のために

それらは

この深い耳に

ささやいて

目立たなかつた

意味ふかく

おまへの裡に

それは

風はささやいて過ぎる

僕の中に

いま

泉の上に

ささやいて

憩ふ

ちひさい波らは

いま

この深い耳に

ふるへてやまない…

泉の上に

意味深く

僕たちの

ふるへてやまない

風は

手にとらへられた

風は

ふるえてやまない

光のために

波らは

ささやいて清雪は、不意に私に振り向いて云った。

十六歳の彼は、その昼食を取りに、渋谷の駅裏でタクシーを止めようとした時に、「…俺はね。」

あなたも、泰隆さんも、潤さんも、…

と。「かならずしも誰も嫌いじゃないんだよ。」

愛しては居なかったにしても、と。

言った清雪の言葉は、すこしはなれて所用の電話をかけていた泰隆には聴き取られなかった。

清雪もむしろ、それを望んで、私だけに云った筈だった。

…わ

年に一度。…なぜ

わた…す

泰隆が清雪を私に

逢わせなければならないのか、私に

わすぃわに

かろうじて想い附く理由は

ふぉんえぃ

泰隆の私への軽蔑と憎悪、そんな

っきま

暗い感情しか

…っ

「わたしは、日本へ行きます。」と、いきなりコアが云ったので、私は思わず

わたすぃわにふぉんえ

…え?

っきまっ

「なに?」…と、彼が日本語が話せることを知ったのは、それが初めてだった。

久しぶりに帰って来た彼の実家で、帰って来てどこかへ出て行ったきり、二日後の朝に帰宅してながい昼寝に時間を潰したその夕方に、部屋から出て来たコアが、ふたつめの居間でスマートフォンを弄っていた私の脇を通り過ぎようとした瞬間、

わたすぃわ

最初耳にふれた音響が、

んにぃふぉんえっ

それは、

きまっ

言葉である事を強制的に了解させて、私はその時、コアが微笑みながら私に話しかけて居る事実に気附いた。私の耳は確かに認識していた。私を正面から見つめて、邪気も無いコアの口から漏れたそれらの音声が日本語である事を。

「なに?」

と、そしてややあって云った私には彼は終に声を立てて笑い、コアは彼自身に纏わる諸事情を未だに何も知らない私に、むしろけなげなほどにあざやかに、やさしい憐れみだけを感じさせる眼差しをくれた。





Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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