小説。——櫻、三月の雪…散文。及び立原道造の詩の引用 /《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ 或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948 ■52
以下、一部箇所に暴力的な描写が在ります。
ご了承の上お読み進めください。
又、歴史的記録として過去の政治スローガンの引用乃至模倣が使用されますが、
特にそれらを特に顕彰しようとする意図も在ません。
櫻、三月の雪
…散文。及び立原道造の詩の引用
三部作
《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ
或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948——Ⅱ
Zaraθuštra, Zartošt, Ζωροάστρης
ゾロアスター
意識の、意識の消滅した白濁した狂乱から、まるで眼を醒ましたように目を開いた、ユエンの、眼差し。血管に医者たちが打ち込んだ麻酔薬が、彼女の身体の痙攣を無理やり沈静化して、強制された眠り、あるいは意識の強制消滅から、むしろもはや目覚めないことを、彼女に付き添ったフンPhươngは願いさえしていた。
昏睡からふたゝび目醒めた後のユエンが、もう前と同じような人間で在り獲て居るとは彼女には想え無かった。壊れて居るに違いない、いまだに壊れた自分を曝け出しては居無い眠れるやすらかな存在。その儘眠り続ければ、誰にとっても安らかだったに違いない。
警察にチャンは隔離されていた。そのまま永遠に隔離されてることを、フンは願った。その母親ハンも、誰も。あまりにも残酷な屠殺現場。目を醒まして仕舞えば、眼の前で、その母親と同じように発狂したユエンが、そのギザ附いた口を開いて噛み付くに違いない。
母親と同じように生き物の肉を活きたまま嚙み千切りながら。ユエンの寝顔は余りにも素直で、安らかだった。…どうして、と。
Tai sao
俺が欲しいの?
em muốn anh ?
云った私にユエンが長い笑い声をくれて、あるいは、わざと
Thầy sao
身をもがく私の
em muộn ánh ?
下半身を彼女はひとつの拘束として抱き締めたが、開かれた眼差し。
Thầy xao
ユエンの、それにフンはもはやおのゝきはしなかった。
êm muốn anh
フンはユエンを見詰めた。フンは何も云わずに、待った。ユエンの口がいきなり大声で絶叫し始めるのを。そして、或は救急車にの中に、手当たり次第の引き裂かれた布地でがんじがらめにして拘束された儘に、連れ去られていくチャンが立てていたそれ。
後れて、ユイDuyのバイクの後ろに乗って駆けつけたフンがすれ違いざまに耳にした、あの、チャンの押し広げられた口蓋が立てていた獣じみた、むしろ男声の絶叫。
抵抗していたのか、或は混信の力で戯れて居たのか。その明確な対象を持っていない、拘束へのでたらめな抗いは。それはただ、四肢を自由にばたつかせるだけの意味をしか持たなかった。滑稽なほどに。乃至、残酷な迄に。
チャンの現状は、救急隊員たちの誰もが予測して居無かった状況だった。彼等は、手をふれた瞬間に暴れ始めたチャンを挙句の果てには殴りつけ、同時に、その家屋に在った今は亡き者たちの遺した衣類を手当たり次第に引き裂いて、即席の拘束体で眼の前の、狂った生き物を確保し遂せるしかなかった。
他人の血と、新たに流された自分の新鮮な血に染まっていたチャンの眼差しが見い出して居るものは、終には彼女以外には知り獲ない。まるで、その体の中に何人もの人間がぶち込まれて、想い想いの行為を手当たり次第になして居るような、まるで理解不能で自由なその、のた打ち回る褐色の四肢を、あざやかな他人事の絶望と共に眺めた。
…そっくりだね。
と。
私はユエンに囁いた。ひとつの慰めとして、彼女がチャンに対面させたときに、事実して、瓜二つなその美しい母子に。清楚で、儚げでさえ在った母子。ユエンの、笑った顔は美しい。
Đẹp
あなたは美しい、と。
You are
確信を持ったささやきを
Đẹp
正面から発したような、そんな、根拠も無い明晰さが、その笑い崩れた眼差しには宿った。…あなたは。――
Đẹp
美しい、と。
あなたは
その
Đẹp
笑顔を閉じられた眼差しの中に想い浮かべながら、身じろぎする私を、ユエンは許さない。…生きてるの?
やまない音楽のなかなのに
目をひらいて天井を見遣った儘に、何の反応も見せないユエンに、やがて、フンは
ささやく
そんなやさしい囁き声をかけてやるしかなかった。
私は
二十秒、時間をゆっくりと数えた。そして、ユエンの両眼から
やまない音楽のなかなのに
音も無く、
ささやく
嗚咽の仕草も、息遣いさえも無く、涙を
何もかも
流し始めたユエンに、フンはもはや、眼の前の存在が
何もかも
為すすべもなく壊れて仕舞っている事実をフンは、
美しい!
ひとりだけで其処に確信した。眼差しは
ささやく
見い出す。
私は
いつでも、それが見い出していると認識したものの、
やまない
総てを。
音楽のなかなのに
唇を、
小鳥も
ユエンが私のそれに
果実も
かるい冗談めいた接触としてだけ、ふれたことには
ささやく
気付いた。…ほら。
私は
目覚めなさいよ。そんなに、そこに
何もかも美しい!
のびていないで。
高い空で
鼻に笑った彼女の息がかかり、ユエンの
はかなさよ
眼差しが捉えて居るに違いないもの。
うつろふものよ
いま、其処で
高い空で眠りに就き
彼女だけが見い出していた風景。
私はささやく
彼女の頭をせめてなぜてやろうとして、私は
おまへにまた一度
拘束された二の腕をもがいて見せるが、ハンの
何もかも
見い出していた風景。
美しい。何もかも
その、血まみれの。
美しい!
チャンの眼差しには一切の邪気もなく。不意の、
私を囲んで
食事の瞬間を見られてはにかんだ、如何にもやさしげな
温かく
羞恥が浮ぶ。
香よくにほふひと
血まみれの風景。…リストカットされた、
何もかも
手首。潤の。そして
美しい!
彼女が想い出して居ることには知っていた。その
ちひさなフーガが
茫然とした眼差しの向うで、あの、余りにも鮮烈な
花のあひだを
風景。
ちひさなフーガが
自分には
何もかも
理解できない異国語を罵る母親の声。自分の
何もかも
髪の毛を引っつかんで、10歳に満たない少女のやわらかい身体を
ちひさなフーガが
なぎ倒そうとするかのような、
美しい!
それ。
何もかも
私は見る。ルチア、…と、確かそう言った名の潤の母親が、至近距離に
美しい!
その顔を近づけて、降りかかるのは
美しさとともに滅びゆけ!
息。
私の
潤は、生き物の匂いをかぐ。気付いた。その、
私の身体の外に
想起された記憶の、あざやかな視覚のただなかに、瞬時にして、
何もかも
自分が少なくとも母親のタガログ語は総て習得していた事実を。
美しさとともに
そんな言葉など、…と。
滅びゆけ!
想う。私は。
何もかも
一切、話せなかった事実が存在していたと言うのに。私は
美しい!
その言語を、総て話せていた。…声。
私はささやく
聴き取られ続ける、声が、そして
私は
或は轟音。
何もかも
あまりにもささやかで、瀟洒で、寧ろ
私は
典雅でさえあるその、
ささやく
笑い声。
まだ、誰も
ごく微弱音の、笑い声を閉ざされた眼差しの向う、わずかな下の方に
まだ誰も
ユエンがかすかな笑い声を一瞬だけ響かせた気がした時に、彼女は一気に
まだ誰も見たことの無い風景を見ようよ
私のTシャツをはだけて、光。
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