小説。——櫻、三月の雪…散文。及び立原道造の詩の引用 /《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ 或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948 ■48



以下、一部箇所に暴力的な描写が在ります。

ご了承の上お読み進めください。

又、歴史的記録として過去の政治スローガンの引用乃至模倣が使用されますが、

特にそれらを特に顕彰しようとする意図も在ません。





櫻、三月の雪

…散文。及び立原道造の詩の引用


三部作

《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ

或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948——Ⅱ


Zaraθuštra, Zartošt, Ζωροάστρης

ゾロアスター



「嫌いだって想ってるでしょ?」

十四歳の清い雪。

「潤さんのこととか。」

多感な少年。自分の

「…あなたの、」

多感さを、かならずしも意図もしないままに

「清明さんのこととか、…」

素直に曝して仕舞うしかない、そんな

「ね?」

謂わば単に留保無くはた迷惑な存在。

「違います?」

「違うの?」…違いは、しない。——と、私の言葉が終らないうちに言葉を被せて仕舞う清い雪は、その、泰隆が手洗いに立って行った不在の一瞬、渋谷の喫茶店で横殴りの日差しにその儘、差された。

午後三時。

…おいしくないね。全く。清い雪が想い出したように云い、その「ここのコーヒー。」道玄坂の映画館の上の喫茶店の「なんか、残念だけど総てにおいて失敗してる。」窓から街路樹のてっぺんの繁茂した好き放題な色彩が





11.輝いている。お前の裡に、それにも益して



見える。

「コーヒーの味なんて判るの?」

「それ、心外ですね。子供のくせにって、そういう想い込みでしょ。結構、他の人より味覚、鋭いんですよ。僕。意外に。」

「拘ってんの?」

街路樹。

「それは、無い。特に。」

騒ぎ立つ緑の

「…好きなだけですよ。味とか、」

日差しに白濁を撒き散らした色彩。

「美術品、とか、音楽、とか、とかとか、…」

少年の向うに。

「ね。で、みんな気遣うんですけど。僕に。いろんな人が。…仕方ないけどね。」

「なに?」

「判るでしょ?」

「お前に?」

「だって、普通じゃないでしょ、僕。基本、――」

「例えば?」

清雪は、ややあって、声を立てて笑った、その、声が耳に触れる。私の耳に、そして、私は彼の腹部に耳をつけて、ユイ=雨の胎内の音響を聴いた。

…俺、さ。

皇国革命計画

声。…頭の上で響く、やさしいユイ=雨の声は、いつでも

補遺。其ノ一

彼の眼にするものの総てをすでに赦している。

外人等下等種ノ奴隷乃至家畜化ヲ禁ズ

…日本なんか、好きじゃない。

下等種ハ優性優位ノ原則ニ基キ

いいよ。

之ヲ凡テ殲滅セヨ

…まったく、俺の興味を引かない

下等種全滅ハ倫理ナラズ

いいんだよ、…と。もう

法則也

…だって、なにもかも、くっそ

純血ニシテ純潔ナル

無理してなかなくていいんだよ。もう

大日本民族ノミノ皇国樹立ガ

…小さいだけの家畜の集合体だよ。…ま

皇国革命ノ本義也

無理して笑わなくていいんだよ。もう

皇国革命ハ

…アジア人なんてそんなもん。中国人とか

総世界一大大掃除ニシテ

無理して生きなくてもいいんだよ。もう

大洗濯也

…まともな知能さえないよ。…笑う。

下等人種ハ妥協無ク是ヲ滅ボシ

死んじゃえば?

八紘ヲ一宇トシテ

…俺ね。なりたいの。

神皇是ヲ統治ス

そんな、…声。

皇国革命計画補遺其ノ二

…なに?

大日本民族内部大整掃

彼の。

大日本民族ノ身中ニ蔓延ル

…売国奴?

混血種及ビ劣等分子ハ是ヲ

「眼に映るもの、総てを裏切ってやりたい。」

「何で?」

それ、僕の口から言わせたいですか?と、悪びれもせずに、ややあって清雪は云った。…普通、

「もっと、気を遣うでしょ。」

…ね?

「僕の何処が普通じゃなくて、僕がなにに悩み苦しみ悲しみコンプレックス感じて落ち込んでるか。腫れ物に手をふれる的な、でも、普通、それが倫理ですよね。だって、それ以外部外者に出来ることないもん。」

「…云いたそうだから。」清い雪は、その、彼に話しかける私の声を、半ば頸をかしげるようにして聴いていたが、「…だって。」

お前、いかにも自分の口から云い出したそうだったからさ。(―と、私が云ったとき、清雪は、「聴いて聞いて。ねぇ聴いて聞いてよぉ…」と、「…って?」声を立てて笑ったが、)

「無理しなくていいんだよ、…」と、私は清雪に云いかけて仕舞って、対象も根拠も無い恥じらいをだけ感じたうちに、不意に、…言いたいんなら。

私は沈黙した。

云っちゃえよ。

「まず、私生児。そもそも戸籍無かった。母親が無戸籍だったから。戸籍上の母親は泰隆さんの養母さんになってるけど。俺が生まれたとき、そもそも五十代半ばだからね。結構すごいと想わない?もちろん、高齢出産は応援しますけどね。でも、神話や説法の中の神様や仏様だって言う自覚は僕には無い。残念ながら。…笑っちゃうよ。泰隆さんも、自分の子供にしちゃえばよかったのに。そうしないところに、すっごい、隠された憎しみみたいなの、感じるだよね。…でしょ?知ってます?絢子なんか、子供、基本、産めないんですよ。子宮か何かの…病名?症候名?…忘れちゃったけど。でも、欲しがってるのは事実なんですけどね。彼女、そんな人、敢えて選んで結婚した所にも、彼、ちょっと怪しい。…美談なんですけどね。みんな、ひそひそ褒めてる。おおっぴらには云獲ないじゃないですか。絢子の前じゃね。泰隆さんの前でもね。みんな、云ってますよ。事情を知ってる人は。泰隆さんのこと。男の中の男、君子の中の君子、みたいな。現代の聖人状態。…事実、そうなんですよ。彼って、正しい人だし、僕の養育だって、お姉さんの介護だって、絢子さんの件に関しても、絢子さんの総てを知った上で、…でも、兎に角、彼、そもそもが変。彼の場合は。敢えてシンプルな解を下さなかったところ。僕の処遇に関して。いずれにしても、泰隆さんは、僕の産みの母親の弟で、必ずしも僕と上手く関係結べてるわけじゃない。ま。此れは基本、だれも知らないことなんですが。…異物だからね。彼にとっては。仕方ない。泰隆さんにとって、俺ってね、やっぱり、異物ですからね。気を遣いますよ。結構。で、更に…母親はもう、あんな感じで、人間として終了してるよね。残念ながらね。あれ、クスリのせいなのかな?遺伝的な?だったら、俺もやばいけどね。…で、だから、僕って基本、そもそも何人なのかもわからない。どんなに差別されてる少数民族だったとしても出自に縋れるのってでかいと想う。自分勝手で自分等以外の誰にとっても有効性の無い神話でも、構築しちゃえばいいんだから。乃至、構築しちゃうんだろうね。放っといても。どんな優性民族的な人らだってそうでしょ。基本的には」

「優性?」

「フランス人って、普通に自分等、優性分子だって想ってるじゃん?…違う。彼等が本当にそうかどうかなんてどうでもいい。美しいよ。フランス人って。そう言う事にしておこうよ。彼等、そう想ってるんだから。見れば判る。エレガントだけどね。優性分子面下げるのが上手い。馴れてる。アメリカ人、下手。で、とりあえずはそれでも此処にすごく可哀相な出生を抱えた、不幸な星の下に生まれた僕って、存在しちゃってるわけだけど、」

…知ってた?

不意に、私の背後に眼差しを投げた清い雪の頬に淡い翳りわなないて、「泰隆さんの秘密。…あの人、ほぼ毎晩潤さんと肉体関係持ってる。」

…慰み者だよ、と。

その瞬間に、何故か茫然としたような表情を曝した清雪の、最後の吐き捨てられた独白が、一体だれに向けて言った言葉だったのか、私はその正確な意味を探ろうとした。「…あたま、おかしくなった?」

と、私がそう耳打ちして、その耳たぶをかるく咬んでやるとユイ=雨はちいさな悲鳴をわざと立てて、あくまでも、その音響は心地よい。






Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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