小説。——櫻、三月の雪…散文。及び立原道造の詩の引用 /《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ 或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948 ■42
以下、一部箇所に暴力的な描写が在ります。
ご了承の上お読み進めください。
又、歴史的記録として過去の政治スローガンの引用乃至模倣が使用されますが、
特にそれらを特に顕彰しようとする意図も在ません。
櫻、三月の雪
…散文。及び立原道造の詩の引用
三部作
《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ
或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948——Ⅱ
Zaraθuštra, Zartošt, Ζωροάστρης
ゾロアスター
ささやく。「呪われちゃうよ。」…触ったら。
その、当たり障りの無い、周囲を慮ったような冗談は、彼の周りに点在していた数人の眼差しにだけそれぞれの、かたちにならない表情らしきものを与えた。…まさか。
それぞれの唇に、それぞれの哄笑のかたちを曝させて。
「私、あの人と無関係だもん」
…信吾さんとか、ヤバイね。云った博也に、私は
神ハ
微笑みかけた。「あの人たちのせいじゃん?」
神也
「遺書、あるかな?」
只
それら、無防備な
想ウ所ノミヲ為シ
片言の囁き声は、むしろ
衆生ヲ屠殺シテ初メテ
私を慮りながら、私のことは考慮には
神聖ハ輝ク
入れていなかった。私は彼等のそばにいた。私は、いかに自殺した彼女とかかわっていたとしても、無罪であるはずだった。不在の信吾が無罪であり獲るはずも無かった。
…なんでさ。
原田美和子が傍らの女性とに耳打ちした。
「救急車来たんだろ。…霊柩車のほうなんじゃない?だって、…」
どっからどうみても、もう、死んでるじゃない?
罪の意識、と、そう呼べるものは自分のどこを探しても
故ニ神皇ハ決シテ衆生ノ下僕ナル不可
存在しなかった。警官に詰め寄られるかも知れなかった。少なくとも訊問の一つや二つされなければおかしかった。私は顕かに
神皇ハ寧ロ
関係者だった。他、彼女を抱いた数人の生徒たちも。噂として、いかにも悪そうな顔を作っていた彼等の名前と顔くらいは知って居たものの、どこまで噂が
衆生ヲ独善ノ内ニ屠殺シテ
本当なのかどうか、私は知りもしなかった。
警官には担任と、彼が、仲が良かったと証言したに違いない数人の女子生徒が呼ばれただけで、私は待機を命じられて、いわば、
是ヲ以テ初メテ
監視人の無い軟禁状態に置かれた教室の名から、呼ばれた彼女たちがいかにも不満げな顔を曝して、教室から出て行くのを見ていた。…私、…と。
神也
「別にともだちじゃなくない?」
不意に、泣きじゃくりはじめた女子生徒が、その友人に抱きかかえられるようにしながら、とりあえずは保健室につれていかれた。正に、
神ハ家畜ヲ妥協無ク屠殺セヨ
私たちは皆、不当で理不尽な仕打ちに逢った被害者として、そこで、姿を顕してはいない警官や、大人たちに処罰されていた。
その、はっきりと認識されていた事の
是即チ神性ノ本義也
不当さが、其処に居る生徒たち、私をも含めて、彼等の中に暗く、低く、おぼろげに、それぞれの焦燥をそれぞれに与えていた。
どう、答えるだろう?…と。
私は想った。もしも、次に、参考訊問の呼び出しに来る担任の教師の口から、私の名前が呼ばれたなら。ありのままを云う、と。とはいえ、そのありのままを云うという行為の、感情的な、ではなく、あくまでも単に技術的な困難さが、私の口の中に
舌を差し込んだ
とぐろを巻いて
ユエンの唾液が
停滞した。
私の口蓋に混ざる
なにを、言獲ばいいのか。
潤の部屋に云って、和章に奉仕してやった直後の潤が顔を上げた瞬間の、…ね?
鳥たち
微笑んで、ユエンは
「咽喉、
その
私の
かわかない?」
羽撃きの
乳首にふれてみたが
その、はにかんだ微笑か。
鳥たち
——あたたかな日差し
振り向いた彼女の眼差しが捉えた、和章が
その
為すすべも無いほどに
肩に担いできたギターで
羽撃きの
無残なまでに、癒しをしか与えない、その
コード引きの練習をしていた私に気づかった眼の、頬の、口元の、その表情を斜めに照らした日曜日の午前の、それ。
日差しの温度についてか。
或は、僕が悪いんです、と、どうしても私が捜しきれないで居る綾子への罪を、彼等の眼の前で、彼らを納得させてやるためだけに構築してやることか。
罪と呼べるものが、そこにそれとして存在していたのならば、むしろ、誰も傷付かずに済んで仕舞った気がした。
私の名前は呼ばれなかった。誰もが、私の有罪性を言わずもがな 認識していたが故に、私は、呼び出されて証言する人々の、かすかで、否定できない私への配慮として、秘密にされて仕舞ったに違いなかった。
窓の下のほうで、誰かが車で乗り込んで、走りこんできた音がした。同時に、女が怒鳴り散らしながら泣き叫ぶ声も。綾子の母親に違いなかった。
綾子の母親が、地元の風俗店ではたらいていたことは知っていた。その声の、興奮のせいばかりとは言獲ない奇妙な日本語発音に、彼女の母親が外国人だったことを知った、夫は居なかった。離婚したのか、蒸発されたのか、あるいは、自分の方が蒸発して行方をくらまし、どこかから逃げてきたのか。
小学校の途中からいきなり転校してきたのだと、小学校の同級生たちは云っていた。母親は、聴き取りづらい日本語で、学校の入り口の前に居た教師に詰め寄って、娘に合わせることを強制した。娘の無事を案じているようだった。何階から転落したのか、その回答を求めてわめいた。綾子の死体はすでに、救急車が運び去って仕舞って、もう何分も経っていた。…やっぱ。
「難しいよね。外国人って。」上原聡子が言った。
窓際で、背後の誰かに振り向き様に。
…知ってた?
「だから別に、ともだちじゃななかったから。」
…可哀相、と、不意に山崎由香里が囁き、…あの子、「なんか、可哀相じゃない?」何に気を遣ったわけでもないくせいに、当たり前のように声を潜め続ける彼女たちの眼の中で、私は、自分が卑怯者として捉えられないければならないことに漸く、気付いた。
まともな人間だった、立ち上がって、自分たちのしでかしたことをみずから糾弾するために、警官たちの処に行くのがむしろ、筋だった。それをし無い限り、私は卑怯者以外の何ものでも在り獲ない。だれも、必ずしも私の、噂話の囁きあいに加わり続けていた当たり障りのない卑怯くさゝには、気付きもし無かった。
あるいは、気付かなかったことに、すでに、彼等に、されていた。なぜなら、謂わば、彼等に愛されるか、愛すべきものとして私が認識されていたからだった。柏木中将が自殺に近い懊死を遂げた所で、光源氏は誰にとっても無罪に過ぎない。仮に末摘花がわれを儚んで自死をとげたとしても、おなじ事だった。稀な人間など稀にしか存在しなくとも、稀だと認識されてある人間など、集団の中には必ず発生する。その人間が、必ずしも稀である必然性など何も無く、稀であるならこの世界の総てはどれも是もが稀なるそれぞれの特異性においてしか存在できて居ない。
私にとって、彼等は無害な家畜以外の何者でもなかった。故に、私はただ、拘束が解かれるまでの退屈な時間を、噂話に消費してやるしかなく、笑った。
後ろ向きのユエンの
声を立てて。
臀部の、冷たい
多分。…
ふくらみに
其の時、雨の日曜日。
私はそっと
午前十時。
唇をふれて
いつものように、自室で眠っているその母親は、娘の、自分の部屋で繰り返される行為に気付かない。
あるいは、気附きはしても、それを知りはし無い。認識が無ければ、それは、なにもなされていないに等しい。
綾子の口が、眼差しの先、ベッドの上で何を言った。
それまで、自分に覆い被さっていた、終ったばかりの真鍋博隆を押しのけて、そして(――その、太りかけた)暑苦しさに倦んだ(小柄な十四歳の)表情を(博隆。…みんな)わざと(ひろさんと呼んでいた。単に彼が¥)曝して見せながら、(老けて見えたから。)
「なに?」
云った私に、音声の無い口の、饒舌な開閉を曝して笑ってみせる。私には、それらの音声など聴こえない。「…好きなんだ?」
私が耳を塞いだヘッドフォンを外した瞬間に、その、《Under the bridge》という曲の、リズム系の音響が小さく、低く、空間に響いたのが聴こえた。
「…マジだ。」潤がの眼差しは、邪気も無く私に笑いかけていて、
「なに?」
少し離れた壁際に囁かれたその
「そんなに、そういうの好きなの?」…と、
「なに?」私の声を聴いた。「…意外。」
私は、和章のギターで、耳でそのギターのラインをコピーしようとしていた。「なんか、…」…ね。「そういうの、真面目にやってる清明って、なんか変。」
「なんで?」
「普通になんでもできそうじゃん。」
「普通にむりだよ。」…しかも。
しかも、…ね。
「笑っていい?」…もう
「笑ってんじゃん。お前、もう」…結構、
清明ってさ、…
「下手っぴなの」私は綾子がそこに立てた笑い声を、聴いていた。…遺書。
机に乗っていたノートの開いたページ、そこに黒いボールペンで書かれていたことは知っていた。…もう、
なぜ
と。
あなたのお尻は冷たいの?
《もう無理。
私は
この美しさのなかで、いま、死にたい。
後ろ向きのユエンに
自分の死体、穢いと思うけど、ごめん。
そう
死にます。いままで
問いかけて仕舞いそうだった
幸せでした。》
彼女の其処に舌を
それ以外に文書はなく、いずれにしてもそれが彼女が最後に書いた文字である事には違いない。彼女には、今だったら重大な鬱症状でも認定されたに違いない。…気が狂ったんだね、と。それを見つけた美和子はその文章を口にしながら、言った。
…若干、
と。…気持ち悪いね。
やばい。…おびえた眼差しを、素直に曝して、鳥たち。
鳥たちに告げよ。汝等
…わななけ。もはや
羽撃きの無数の
何者を弔う哉
好き放題に
翳りと交差する
…と
飛び交え
漏れた日のきらめきが
鳥たちに
姿さえ顕さない
直射する。
眼差しを、そして、鳴り渡る羽の無際限までの連なり合う響きに、「尊属殺人って、言うの?」
そう云った清雪の液晶画面に映し出された顔を、白濁。
一瞬の閃光に、眼が眩んだ。
あざやかすぎる、その、とは言え、その一瞬だけの。
不意に斜めから入り込んだ光が一気に白濁させていた。…ユエン。
どうして
土曜日。
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