小説。——櫻、三月の雪…散文。及び立原道造の詩の引用 /《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ 或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948 ■41



以下、一部箇所に暴力的な描写が在ります。

ご了承の上お読み進めください。

又、歴史的記録として過去の政治スローガンの引用乃至模倣が使用されますが、

特にそれらを特に顕彰しようとする意図も在ません。





櫻、三月の雪

…散文。及び立原道造の詩の引用


三部作

《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ

或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948——Ⅱ


Zaraθuštra, Zartošt, Ζωροάστρης

ゾロアスター 



「天皇を神格化するなら、天皇の神格化を策謀している奴のほうが逆賊になる。忠義に個人意志なんてあってはならない。個人として神格化を意志してる時点で、すでに天皇というコマを個人的に利用し、自分の下に貶めてる以外のなにものでもない。忠義の志士なんて本質的に全部そう言うものだよ。幕末の志士だろうがいくつかの戦前皇軍事件の謀叛将校たちだろうが律儀に御為に玉砕した所謂英霊たちであろうが。」

「…じゃ、なんで。」…滅びたいんだよ。

清雪は云って、そして、ややあって、もう一度微笑みなおした。「…た、く。」

と。

「た、…い、…くは、…た、いとは、想わない。滅びたい?滅びをを求める?――まさか。もともとすでに滅びかけだよ。なにもかも。ニュートンの林檎状態で当たり前に必然的にね。だったら、あざやかに滅びて仕舞いたい。」

「お前の滅びを、一体、誰が見て喜ぶの?」

「単純に、俺。僕だけ。」

「自己満足じゃん。」

「その通り。それ以外じゃない。…ふと、想うわけ。精神疾患ってなに?十羽一からげに全部、その一言で括るのは本来、おかしい。単純に脳組織の機能破綻、…ま、システムエラーだよね。壊れちゃったの。ヴィルス入ったパソコンみたいに。それが一つ。もう一つは自己保全機構。記憶の無意識的な捏造、とかね。ほかにもいっぱいあるでしょ。…で、あと、重要なのはさ。論理的に筋が通ってるって言うことだけを以て正気なんだと言って仕舞えば、まさに単なる素直な正気。例えば潔癖症ってあるでしょ?彼等の完成時体は基本的には正しい。日常的に掴んで廻すドアノブに一体どれだけの悪性の細菌が生き生きうごめいてるから判らない。だから、彼等が眼の前のドアノブの危険性を恐怖する必然は正しい。そこに、或はエボラ・ヴィルスが細々と生き残ってて、それがドアノブから入って胎内で増殖して、ここぞとばかりに集団感染を捲き起こしてある集団を皆殺しにして仕舞う可能性を、本来理性は否定することなど出来ない。仮に0.01%以下の危険性に過ぎないにしても、それは絶対にゼロにはならない。つまり、逆に言うと0.01%以下という事実に安心している一般的な事実のほうが、狂気に他ならない。精神疾患を、狂気し、そもそものあるべき正気を失ってる現状の総称だとするなら、一般的に生きて居ること自体がすべからく執拗な狂気と妄想に感染している事になる。…進化ってのがあるでしょ。ひとつは環境順応。ひとつはさまざまな環境に対する優越化工作。…淘汰。優性なるもののみが生き残るって、でも、それ、当たり前でしょ。さまざまな可能性ののなかで、生き延びた存在だけがその時点での留保なき優性者だったにすぎない。…意識、と。意識と言うものが獲得されて、今、ある。結局のところそれは集団を成すということ自体が必然的に発生させる作用にすぎない。意識の無いところに集団は無く、例えば、人間種であったとして、生まれた儘をつきに置き去りにして仕舞えば、その圧倒的な孤独の中で意識が発生する可能性は無い。すくなくとも、人間的意識は発生できない。バクテリアに謂ゆる人間的な意識が存在しないのは、全く、それらにとって人間的な意識など必要も必然も無いからだ。逆に言えば、それらにはそれら固有の知性が目覚めて居るに違いない。でなければそれらは繁殖など出来ない。喰うべき喪を喰うことさえもできはし無い。知性って、そんなに特殊なものじゃない。むしろありふれてる乃至生命体の持たざるを獲ない限界の如きものに過ぎない。進化、と。そう云うとき、僕等って、霊長類の人間への到達の営みって、そんな、イメージを頭の中に想いうかべる。まるで、地球そのもの、生物進化の物語そのものに、大きなひとつの目的と意志があったかのように。はっきりと明示しなくとも、意識しなくとも、ね。自然の掟、と言ったときにも、自然と言うそのものにひとつの大きな意志があるとでも。法則が、乃至理性とでも呼ばざるを獲ないロゴス、の、ようなもの、が、…ね?そして、致命的なのは、明確に意識している居ないの曖昧なあわいで、そんな感性自体、根も歯もない思い込みか妄想にすぎないことをすでに気附いて居るということだよ。人間へのサルの進化が目的のある正当なものだとするなら、意志する何等かの神が必要になる。そんなもの、あるとは想っていない。にも拘わらず、…」

「話しが長いって。」

「俺たちはみんな、本質的に」ただ単に「発狂してる。」素直に笑って居る私に清雪はむしろ「正気且つ一般的且つ普通の」同意するような眼差しと共に「精神状態というのは、意識が」自分がなんども噴き出しそうになるのを堪えた。「獲得した、意識が現実にじかにふれて《発狂しないで》なんとか成立し持ち堪え獲る状態を維持するための発狂状態のことを言う。健全に発狂してあることこそが、健全なる意識の維持装置で、維持方法に他ならない。謂わば方法論としての発狂の構築こそが、正常なる意識の存立要件だ、…と。」

「…いやなら、人間辞めろよ。単純じゃない。植物にでもなれば?」

「俺は人間だよ。ひっくり返すようだけど、人間が好きなんだよ。僕、人間だから。…なんか、ファニーじゃない?かわいいよね。人間って、滅びるべきだと想う。人間って、本来失敗作なんじゃない?事故だとしか想えない。人間は人間の眼差ししか獲得し無いからね、終に。人間の眼差しで見れば良くも悪くも地球は人間を盟主として戴いてるけどね、たとえば地球さんや蜂さんや蝶々さんにとっては、人間種ってむしろ地球上に生息する生態系の末端じゃない?むしろ樹木を中心にシステムは動いてる。酸素って植物の廃棄物でしょ。要するにうんこ、みたいな。うんこにバクテリアがたかって始末してくれるでしょ。人間のみならず、酸素呼吸型生命体って、正にそれだよね。樹木にとっては人間種なんて自分の糞を始末する硬いバクテリア。乃至、仮に人間を地球から消し去ってみなよ。もっと、なにもかも理路整然としてる。肉食獣はお互いに常に闘争状態で、殺しあって生きてる。それが当然のものして、なにもそれへの違和感などかんじないで。とはいえ、彼等は地上の何をも支配しては居ない。地上を支配しているのは結局植物だよ。想わない?植物、草でも樹木でも何でもいい。それらが其れ等固有のながいながい間延びした時間軸で地上最強の生体として支配してるその隙間に、鼠も猫も虎もも人間もなにも、自分達の生存領域を確保して、自分たちの眼差しが捕らえた刹那的な風景を見て居るだけに過ぎない。…ね。」

と、…清雪の眼差しに、かすかな翳りが曝されたのを、私は不意に、留保ない違和感とともに見詰めた。

「…俺、虐められたりしたと思う?」

「したの?」

「…まったく。」

「よかったじゃん。」

「みんな、知ってる。あんたっていう父親…かもしれないヤツに棄てられて、産みの(――「勘違いしないで。」

不意に、清雪は云った。

…別に「ほんとにね」

俺、清明さんを恨んでたり、そう言うのは、まったく…

「知ってる。」

打ち消すように云った私に清雪は、あざやかに、すこしだけ驚いた色彩を眼差しに曝し、…どうして?)母親の弟に育てられてる可哀相な子。その父親が実父なのかどうかもわからない。外国人風俗で宜しくやってたあばずれの餓鬼だからね。そのお母さんもクスリの影響だか自分の成長過程の問題だかなんだかで、あたまおかしくなってます。…まあ、すごい異分子だよね。」

「普通、虐められるよね。排斥される、…」

「ないない。」

「なんで?」

「いじめの対象って謂うのはさ、たぶん、身の回りに居る自分の仲間だと認めてる奴等なんだよ。云って仕舞えば、容認と友愛に満ちた、幸福な集団。その中でしか発生しない。ほんのささいなノイズが、集団的で過剰で結果為すすべもなく破壊的な加害を生む。ある意味において、その加害だって、自分たちを守るための加害である事のほうが多い。日本人がいちいち日本に連れて来た朝鮮人をいまさら排除しようとしたことも。ドイツ人が水晶の夜にいまさらユダヤ人の民家ぶっ壊して廻ったことも、いまさら旧植民地のいたるところで反日運動がおこることも。尤も、論理的に理解できるものもある。マレーシアの日本兵慰留碑建立、とかね。だったら死んだマレーシア人の慰留碑を建てろって。ま、正しいよ。日本人にとっては戦死者って不当な政府に強制されて死んだ戦争の犠牲者だ、と。マレーシア人にとっては植民地主義の宗主国の人間の、自分勝手な占領と抑圧と自分勝手な敗戦の巻き添えを強いた留保なき加害者だよ…中国人や朝鮮人やユダヤ人や、乃至、今時の《移民》排除運動とかね。そんな、眼の前に居る人間に対する話しでしょ。けど、反日ったって、いまどこにも嘗て其処を制圧し、勝手にそこで他人と他人の戦争を始めて、国土を焦土に貸させられて、民間人大量に巻き添えにされた、その張本人たる帝国軍人も帝国政府も存在しないのに、だよ。それらを狂気とは言えない。なぜなら、やさしい狂気が不意に裂けて、留保ない正気のまなざしが捉えた、0.01%の可能性に目覚めるのさ。日本人が中国人が明日せめて来るかも知れ獲ないと認識して仕舞うのと同じように、かれらも武装した自衛隊が責めてくる可能性に思い当たるのさ。」

「…ごめん。」

「なに?」

「興味ない。」

声を立てて笑う清い雪のまなざしには屈託が無く、…じゃ。

「…なに聴きたい?何だったら、」

興味在るの?…云った、清雪の言葉には答えもせずに、私は時間を気にしていた。ひとりで放置されて居る時間を持て余し、恐れさえしながら、話し始めて仕舞えば、私は十分以内に、その話し相手と会話し会う時間の共有に飽きて仕舞うのが常だった。

私にとって、誰かと話し合うことは、文字通りその数分の後では、何とかして話を切り上げようとする努力をしか意味しなかった。

長すぎる通話に、ユエンは私の眼の前に立って、そして、誘惑する気配を慎重に打ち消したままで、その素肌を曝していた。

日差しが彼女の肌のおうとつにやわらかく、淡い翳りを生じさせ、呼吸するたびにそれらは息遣い、確かに、と。

私は、あなたに命じられるまでも無くすでに、あなたに発情している、と、…肉体。

必ずしも、その肉体に埋もれたい訳でも、貪りたい訳でもないくせに。だったら、それはむしろ冒涜なのだろうか。

発情しているくせに、発情した暗い、乃至隠しようもなく輝いた情熱を否定し、とは言え、結局は肉体を触れ合うことに辿り着かざるを獲無い。これ見よがしなほどの冒涜、と、「…本当のことを、なにも云ってない気がするな。」

私は云った。

清雪に、そしてあくまでも、私の眼差しがユエンの褐色肌に、見惚れた眼差しを送り続けていることは知っていた。

「なに?…」

清雪は、「嘘なんか附いてない。」

「自分が死のうとする事の説明を、必死になってしようとしてる。けど、なにも説明できてないんだ。」…そう、――と。

ややあって清雪はさゝやくような声を立てて、そして、不意に彼は声を立てて笑った。

やさしい、ひたすら耳障りのいい声だった。

母親のそれに似ていた。

「…ね。」

「なに?」

「聴いていい?」

「何だよ。」…お母さんのこと、好きだった?

清雪はそう云った。私は清雪から目線を離す訳でもなく、ただ、彼を見ていた。…無理しなくていいよ。

「嘘は云わ無くていい。云いたくないなら云わ無くていい。云え無くても云わ無くていい。」

「なんで、そんな事聴きたいの?」…ないてたじゃん。

「お母さんと会ったとき、なんか。…あれ」

…泣いてたよね。

吃驚した。「まじ?って。この人」…ね。

「この人、潤さんのこと好きだったの?…って。だってさ。」ま、彼女のせいとは云えないながらも「何人なのかもよくわかんない、」なんか、いろんな病気持ってそうなさ。「…いかがわしい外国人のたいして綺麗でもない女じゃん?元風俗なんでしょ。…現役時代?出逢ったときって。なんでわざわざこんなのに?ってさ。普通、そう想うからね。」

「…自分の母親だろ?」

まさか、あなたが潤さんのこと、本気で好きだったとは想ってなかった。だから、泣いてる清明さんを見て、「むしろ、…ね。」俺、…

「好きだったよ。」

…そ。

と。

私の、彼の言葉を打ち切って発したその言葉に、清い雪が投げかけたのはただ、

「そ、…」

…か。

「ま、…」

その数音だけだった。

…仕方ないね。清雪は云った。眼差しを伏せることも無く、まっすぐに、私をいつくしむ眼差しに捉えながら。私は始めて清雪に赦された気がした。そして、それが自分の、単に感傷的な想い込みにすぎないことには気付いていた。そもそも、眼の前の少年が、私を憎んだことがあったかすら、私には確信が無かった。

断罪してもいない人間に、私は赦されることなど出来ない。「…好きになったら、ま、」

…ソレデ終わり。「それだけ。」

仕方ないか。…と。

自分勝手に、独り語散るように唇の先に囁いて、そして、不意に伏せた眼差しを挙げると、清雪は微笑みなおして、云った。

「来週の明日、ライブ動画流すから。」

「来週?」

「あくまで来週。」

「動画?」

「ライブスチーム。判るでしょ。フェイスブックの。見てよ。」…いいよ。

と。

日曜日。「…8時、…ね。」

「日本の?」

…そ。

「明日でもいいけど、若干、場所探さないと。――そもそも、多忙だからさ。意外に。…僕。少々、準備が、…ね。」

「いいよ。」…そうもう一度繰り返して私は、手を振る清い雪のちいさな通話画像をオフにする。

私はユエンの足元にひざまづく。

そして、彼女に笑いかけながらその腹部に顔を寄せ、へそに唇をふれた。あくまでもユエンは、自分が私を誘惑しようとして居る事など明かそうとし無い。

頑ななまでに。乃至、事実として其処に誘惑など何もない。何故なら、私たちはすでに愛し合って居るから。

神ハ

誰もが知ってる。私たちが番いである事は。

神ニシテ

比翼の翼。

神也

連理の枝。

神ハ

眼も翼もひとつづつしかない謂わば奇形の生命体。救急車と警官が集まってくる、そのサイレンの音を聴いた。不意に、よろめいたような気配を見せて、綾子の机にもたれかかり、手を突いた陽菜子という名の同級生に、…触るなよ。

神ハ只

「なんにも、触るな。水谷の

神ニシテ

持ち物に。」

神デ在リ

彼女の背後で云った、その教師の声は余りにも

神坐シ坐ス故ニ

唐突に聴こえた。…お前、

神也

と。

如何ナル衆生倫理ニモ惑ワサレズ只

八木澤庸一という名の同級生が

御神ノ欲望ヲ其ノ儘ニ

ささやく。「呪われちゃうよ。」…触ったら。

その、当たり障りの無い、周囲を慮ったような冗談は、彼の周りに点在していた数人の眼差しにだけそれぞれの、かたちにならない表情らしきものを与えた。…まさか。

それぞれの唇に、それぞれの哄笑のかたちを曝させて。





Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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