小説。——櫻、三月の雪…散文。及び立原道造の詩の引用 /《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ 或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948 ■39
以下、一部箇所に暴力的な描写が在ります。
ご了承の上お読み進めください。
又、歴史的記録として過去の政治スローガンの引用乃至模倣が使用されますが、
特にそれらを特に顕彰しようとする意図も在ません。
櫻、三月の雪
…散文。及び立原道造の詩の引用
三部作
《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ
或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948——Ⅱ
Zaraθuštra, Zartošt, Ζωροάστρης
ゾロアスター
「…まじで、」
…と。
潤の尻を蹴り上げ続けながら、私の耳にその声で触れていたユイ=雨が、「もう、勘弁して欲しい。」
…だってさ。
「もう、…」
振り向きざまに、涙に濡れた
「こいつ、ぼろぼろじゃん?」
頬を曝したまま、
「死ねマジ」
聴く。
羽撃く
私は、耳に聴こえ続けるもの。
鳥たち
押し付けた腹部に、その、
姿を見せない
耳に。
その
…に、耳。――に、若干の混濁とともに聴こえ続けている胎内の音響。ユエンの、その腹部に耳を押し付けて、ひとつの、戯れとして、…ね?と。…知ってる?お前の、…ね。
皇国革命計画其ノ三
ここにある
体の中ってさ
全地球人類種殲滅
夢
こんなに
調教再教育等ノ恩赦ノ要一切無シ
それらは
うるさいんだよ。もう
家畜的外人即チ下等民完全削除
ひとつの
めえちゃくちゃ
且ツ
愛
忙しそうな
神聖大日本国民総自決
すべて
いっそがし、
魂ノ精髄ニ命ノ穢レハ相応シカラズ
それらは
そうな、
魂ハ肉体ノ美ニ宿リ
そんな
音響。こんなに
其ノ至高ノ健全ニシテ健康ナル
ひとつの夢
もう、
美ハ其ノ窮ミニ
すべて
笑っちゃう、こんな
終ニハ
それらは夢みた
こんなに
自壊ヲ求ム。所詮肉体ノ付属タル
ひとつの
まじ、もう
魂ハ永遠ナラズ
ここにある
知ってた?…と
総ベテ壊滅ノ内ニ其ノ本来的ノ美ヲ十全ニ
愛
閉じられたままの、それ。まぶたの向うに、ユエンが見い出しているに違い無い、彼女にしか見ない風景に私は何故か嫉妬する。…記憶。
私は
結婚するときにも、その
むしろ気配も、前触れさえも無く
手続きの為にダナンの公的機関を廻ったときにも、ユエンは
発情する
母親の話などし無かった。
美しい
母親は死んで仕舞ったものだったとばかり想っていた私に、
ユエンの傍らで
ママ。
…Mẹ
お母さん、…と、不意に想い出した様に言って、笑ったユエンの眼差しに翳りはすこしもなかった。
テト、要するに旧正月の休暇に、ダナン市に帰って来た弟、コアが、初めて顔を合わせた私にはにかんで、所在なげに、慌てて
以上皇国革命ヲ持ッテ全人類ハ其ノ精髄ヲ果ス
どこかの
皇国革命ハ政治革命ナラズ
友人だか
精神革命ナラズ
親戚だかの家に、ユエンの
全宇宙存在論的且ツ美学的革命也
バイクで
美学タリ得ザルハ
出かけようとしていた、その
決シテ存在論タリ得ズ
バイクを庭に転がして出す後姿から眼差しをそらした瞬間の私に、悪戯めかして、行く。
謀み
… đi
会いに行く。
なぜ
… đi nhà
お母さんに。
あなたはいつも
… hãy nhà mẹ
…と、
そんな
… gặp mẹ em
念を押して、わざとベトナム語でゆっくりと囁きかけるユエンは、背後のテーブルに頬杖を着いて、真正面から私をだけ見つめていた。その眼差しの、黒眼の黒い色彩に白く、翳りを与えた私の、其処に映った残像は、もっと正確に解析さえ出来れば或は、それを見詰めていた私の眼差しをさえ無限に映し出していたには違いないものの、見い出される風景。
想っていた。
正面入り口の前のコンクリートにたたきつけられた潤の、肉体の、…残骸。
ベランダから覗き込んだ足のはるかな下方で。
歌舞伎町の路面に、頭から綺麗に落ちた潤は頭部の先端だけ綺麗に吹っ飛ばしていた。
見事なまでに、…風景。
堕ちていく彼女が見い出していたのは如何なる風景だったのか。
さかさまに私を見上げたさまざまな、あまりにも善良な吐息と犠牲者じみた戦きと悲痛さの悉くを丁寧に演じきった、赤裸々な悲鳴を混濁させる、それら無数の眼差しに、逆光の青空の青、時として暗滅に眩む、そのおびただしい色彩を見詰めさせながら、彼女が見た疾走する風景。
堕ちる、という方向性など何も無く、ただ、流れ去っていく風景に、…あ、と。
覚醒した一瞬の彼女は、何に覚醒したのだろう?或は、速度を廻るアインシュタインの理論の正当性に?
疾走することを廻る論理の、その真の風景を、光には遠く及ばない重力の速度で。いま、或は、宇宙そのものが、そこ、…に、たちずさんで居る私の体の周囲で疾走している、と。
二限目の授業中に、不意に立ち上がった潤が断りもなく出て行くのを、教師も誰も気付かない振りをした。どうせ、トイレに立ったに違いない彼女に、なにか声をかけるなど、教師にとっても誰にとっても逆に場の読めない行動だったに違い。
なかなか還ってこない潤が、そもそも教室の中に不在で在る事などすでに誰もが忘れて仕舞っていた。グラウンドで、男子生徒の混濁した歓声が起った。それが、危機的で、危機の到来を手当たり次第に手当たり次第の誰かに呼びかける、あまりにも不穏な歓声である事に気付くためには数分の間がかかっていたはずだった。予測もされて居ない事に、瞬時に反応する事などできはし無い。
窓際の、むしろ、劣等性に属していた山根秀太が、不意に窓から顔を覗かせて、見あげたその逆光に、手すりを片手に掴んで下方を覗き込んだ潤の、…笑ってたよ。
と、秀太は…むしろ、ね。云った。「はにかんでるかんじ。」
窓の外に遠く鳴り響く音響の意味を、私たちは、それぞれに固有な時間差の中で悟っていく。窓から差し出された顔が見上げる逆光の向うに、無数のまぶしげな眼差しに羞じらったのかも知れない潤は一度屋上スラグの影に姿を隠したが、不意に。
潤の眼差しのなかで、直射を浴びた無数にならぶ顔は、あまりにもぶしつけで赤裸々に、彼女だけを見詰めすぎていたに違い無かった。
唐突に彼女が再び体を曝したとき、眼差しの群れがそこに潤の姿が存在していることを認識する間さえも無く、彼女の脚はすでに屋上の床を踏んでは居なかった。飛び込みでもしたかのように頭から、胸に手を組んだ潤は私たちの眼差しの少し先、…すぐ近くを堕ち、
花の色彩
振り向いたそこ、コンクリートと肉体のコンクリート上の結婚。
飛び散る
あざやかな春の日差し。
色彩
…痛い、と。
華やかな
あの時、櫻の樹木の下で、彼女は腹痛を訴えたのだと想った。
…血痕の真紅
その時に、私は彼女は確かに腹痛を、…と。想い出す。その時に、死んでいく肉体。
眼の前で死んでいく肉体を、見たのはそれが初めてだったことに気付いて、泣き叫んで、取り乱した女生徒がこれ見よがしに四肢を痙攣させながら窓から離れた。
一瞬だけ後れて、怒号のような
10.ふるえて已まない僕たちの日々の風はいま
轟音。
慌てふためき、興奮を素直に曝した私たちの押し広げられた赤裸々な唇が立てた、それら、声。
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