小説。——櫻、三月の雪…散文。及び立原道造の詩の引用 /《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ 或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948 ■37



以下、一部箇所に暴力的な描写が在ります。

ご了承の上お読み進めください。

又、歴史的記録として過去の政治スローガンの引用乃至模倣が使用されますが、

特にそれらを特に顕彰しようとする意図も在ません。





櫻、三月の雪

…散文。及び立原道造の詩の引用


三部作

《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ

或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948——Ⅱ


Zaraθuštra, Zartošt, Ζωροάστρης

ゾロアスター 



「本気。…」

その、眼の前の存在に対して、何か言葉をかけてやらなければならない強制に、私は曝されて居た。

なにも、そんな言葉など聊かたりとも所有し無い儘に。私は彼を沈黙のうちに見つめてやるしかすべがない。

皇国ハ

櫻ノ花ノ

「なんで、また?」

唯一ニシテ

散華ニ

「…たんなる美学。」

無二ニシテ

命ノ

「気違いの?」

萬世一系ノ皇孫

精髄ヲ

「そうとも云う。」

是ヲ

見ヨ

早口に囁きかけて、すぐに、理不尽なまでの沈黙を曝すスマートホンの液晶画面が映した清雪には邪気も無く、想いつめた影さえも無い微笑みがあった。

彼は、必ずしも私を憎んでは居ないばかりか、寧ろ、愛しはしないまでも心安く、親しんでさえ居るに違いない事実に、私は、その瞬間に、改めて気附いた。

「…飛び降りちゃう?」

或は、何度目かに。

「電車飛び込む?」

彼が、あの、

「多摩川入水とか?」

百合の花を食い散らし、挙句

「頭吹っ飛ばすか?」

腹を下すしか能のない母親にさえも、憎しみも

「なにが好みなの?」

過剰な嫌悪さえも無く、親しんでさえ居たことは

「手首切るのはやめて…それ」

明白だった。仮に、

「おまえのお母さんで、もう」

彼が彼女を憎んでいたのなら、彼女に対して

「見飽きた」

何をしでかしたかもわからない。

「勘弁して欲しい…」と、矢継ぎ早に言葉を吐く、自分の言葉に戯れるばかりの私を、彼は素直に、ただ、赦していた。

実感されていた。

私には、すでに、もはや彼にこの存在の統べてを余す所無く赦されて仕舞っていたという事実が。…知ってた?

不意に、清雪が、想い出したように言葉を継いだので、「俺ね、昨日ね、潤さん、殺しちゃったの。」

…知ってる。「おとといだろ?」

彼のその何気も無い繊細な、壊れそうなたたずまいに寧ろ私はおびえながら、――知っていた。すでに

「知ってたんだ。…ね、」

泰隆から朝のうちに電話が合って、早朝

「誰から?」

いつものように潤に、朝食を与えるように呼びかけた

「誰情報?…って、絢子さん?」

絢子が、清雪の不在と彼の部屋の

「泰隆さん?…まさかね。実は」

開け放たれた儘の窓を訝り

「彼、せいせいしてると想う。実際の所は…」

めずらしく潤の部屋を確認して見た所に発見した

「ウザいの一緒に始末できた訳だから。」

血まみれの、全裸に剝かれてあお向けた潤の死体。部屋の中央で、朝の日差しをカーテン越しに浴びて、彼女は眼を見開いて、死んだ儘彼女にしか見えない風景を未だに見詰め続けていた。

絢子は必ずしも恐怖も、戦きも感じはし無かった。なぜなら、眼の前の、口の中に一杯に押し込まれた百合の花々を寧ろ前衛的な活け花ででも在るかのように、血の色彩の極彩色を散らした上で清らかに白いくこぼれさせたそれは、ただ清楚で純情に見獲た。

潤の表情など、本来其処に存在して居たとしても、絢子にも誰にも確認できなどし無かった。花々に押し広げられた口蓋は、彼女の曝していた表情そのものを破壊し盡していて、「絢子は取り乱して、もう、駄目かも知れない。」

その日の朝、めずらしくフェイスブックから通話を鳴らしてきた泰隆は、…よかった。…どうしたの?…とりあえず、電話つながってよかった。…なに?…「これから、病院、連れて行く。姉貴で、いっつもお世話になってる、…」…どうしたの?

私に、その朝の不意に起った事件を、伝えた。

「絢子、もう元に戻らない気がする。そうとうショックだったみたい。…落ち着いたら、もう一回、電話していいですか?――特に、清明さんの手、煩わせる事はないんだけど、ただ、…ね、親族のことなんで、一応連絡だけ、…」

「清雪は?警察にはもう電話したの?」…まさか。

と。吐き棄てるように泰隆は云った。「在り獲ない。」

「なに?」

「それは絶対に無い。」

「ごめん、云ってる事が単純に判ら無い。」

なに?…そう再び云った私に、泰隆は改めて、「警察には通報し無い。」

焦燥と、既に憔悴さえ感じさせた、熱を帯びた泰隆の眼差しは私を直視したが、「…なんで?」

「殺ったのは清雪。それ以外に考えられない。」

「決め附けるの?」

「死体見れば判るよ。あんな風に死体遺棄するの、あいつ以外の感性じゃ無い。」…俺にはね、(――と、泰隆は

「見れば判る」

極端な早口で云った。)「あいつ固有の感性。…いずれにしても、潤の死は握りつぶす。…病院には適当に云っておくからいい。そもそも、所詮手一杯の精神病院だぜ。気にも留めないで居てくれることを願いますよ。姉貴、無戸籍だから。最初から戸籍の手続き自体存在し無いしね。警察に云ったって、そもそも法的には此の世界に不在の絵に描いたどっかの誰かの死体が降ってきたようなものに過ぎない。そして何より、俺は清雪を警察なんかに売る気は無い。姉貴の

…知ってる?

死体は、何とかして、俺が

十三歳の清雪は

自分で始末する。」

云った

「始末する?」

僕、生まれる前の事

「…どうすればいいんだろう?やっぱり、

覚えてるんですよ

バラバラにするとか?埋めるとか?酸かなんかで溶けたりするの?…判らないな。ちょっと、ネットで、…」

「犯罪だぜ。」

「法律なんかどうでもいいですよ。清雪を処罰できる法律なんて、此の国には存在し無い。倫理的に彼を裁ける法律なんてね。あんなものは所謂日本人が日本人の為に造った日本人の為の法律に過ぎない。清雪を裁けはし無いよ。どこの、…」

僕たちって

…ね。

ひとつ

泰隆の、かすかな瞬きが、彼の眼差しに

完全に

…判ります?

完璧に

かすかな翳りをつくって見せた。

僕たちは

…ね、

「此の国のどこの誰があいつがあの眼差しで捉えて来た風景を見た事が在るって云うんだ。同じ風景を見てる奴等のことだけ裁けばいい。他人なんか、放って置くか駆逐してくれよ。清雪が見ていた風景を、自分も見たかのように勘違いして処罰するなり赦すなり況してや同情するなり。そんな事だけは俺が赦さない。あいつらには一切裁けない。裁く資格すらない。出来るとしたら駆逐することだけだ。そんな事は、俺が、」

「お前も、…」

「赦さない。」

…お前も、でしょ。

そう私が何故か、自分でも唐突に感じながら、声をひそめて云ったときに、…清雪がそうなら、おまえ自身も正にそうだってことでしょ?

「お前等って、あの国で生きてる限り本質、無罪なんだ。」と、云った私は、噴き出しそうになっていたのを、堪えて居た。

「…俺のことなんか云ってないですよ。」

「潤も無罪なんだ。」

「俺はね、あくまで」

「ふたりとも無罪だから、だからお前あいつと、…」と、云い掛けて私は言葉を切り、私の、どこか嘲るような言い草に興奮していた泰隆には、その云い掛けた言葉は嗅ぎ取られはし無い。

抹殺セヨ

皇国革命計画其ノ一

…どうするの。清雪のこと。

売国奴ノ群レヲ

クーデター、国会占拠

…俺が、

悉ク

全議員ト殺

探し出しますよ。落ち着いたら。あいつが、自殺するとか。そんな所まで

抹殺セヨ

皇居包囲及ビ一時皇族隔離且ツ再皇孫教育

追い詰められる前に。

家畜賤民生得ノ奴隷共ヲ

戒厳令且ツ反乱分子

…当ては在るの?

旭日旗ハ

銃殺

…これから捜します。「協力、…」ちょっと、なんか、…「その点だけ

人類精神革命ノ御旗也

全通信遮断及ビ全国交破棄

協力してくれませんか?」

殲滅セヨ、彼等

鎖国ノ上全地球規模聖戦開戦

…いいよ、とも、駄目だとも云わずに、私は泰隆の、あきらかに焦燥し、時間を惜しむだけ惜しんで先走る眼差しを見ていた。銀行のほうはもう、今日休むって云って在るから、此れから、――と、そして、「昨日だよ。」

清雪は、云った。無量通話の、液晶画面の向うで、「昨日の早朝、…と、言うか、深夜。あくまで日付け越えてたからね。でも、確かにおとといとも言獲るね。おもいしろいね。なんか。」…ね?

「知ってる?」…秘密。

囁きかける。






Seno-Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Seno-Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキス、北一輝、など。 三島由紀夫もちょっと好き。そんな感じ。

0コメント

  • 1000 / 1000