小説。——櫻、三月の雪…散文。及び立原道造の詩の引用 /《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ 或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948 ■31
以下、一部箇所に暴力的な描写が在ります。
ご了承の上お読み進めください。
又、歴史的記録として過去の政治スローガンの引用乃至模倣が使用されますが、
特にそれらを特に顕彰しようとする意図も在ません。
櫻、三月の雪
…散文。及び立原道造の詩の引用
三部作
《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ
或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948——Ⅱ
Zaraθuštra, Zartošt, Ζωροάστρης
ゾロアスター
彼女はユエンを遠ざけていたのかも知れない。はっきりとは明示しない儘に。排斥?
或は。尤も、血まみれの記憶に塗れた自分の母親を匿って、ひとりで世話にしているアオを無かったものとして遠ざけたのは、むしろユエンのほうでこそあったのかも(――見せた。)知れない。(ユエンは)
粗末な家屋だった。雨水に因る黒ずみの(結婚式の前日に)染み付いた、一眼で(一度だけ)不衛生さを眼差しに告白する(古い、色の褪せた)白い、くすんだ(プリント写真。)壁が、そして、夫の(棚の奥に、一枚だけ)母親たちが営んで居る(保管された、そて)ミー・クアンという(…気の狂った母親。)地元料理の店は、(…チャン、と言う名の)近隣の(女。)住民たちだけをわずかに集めて、まばらな人々の
整理
声を
整頓
騒がせていた。
害虫駆逐
家族のうちの誰かの子供に違いない。6歳に満たないように見える子供が、床の上に
整理
へばりつくようにして、彼にしか
整頓
理解できないひとり遊びに
皇国万歳
戯れていた。
店の前にバイクを止めた私たちに気付いたアオが、一瞬不機嫌そうな眼差しを挙げた跡で、むしろ、彼女がまぶしげに、やわらかい逆光の中に生じた私たちの翳りを見留めるのを、…見た。
神霊上ニ在リテ
皺にまみれた。彼女。臓器を、…と。
照覧シ給フ
こじ開けられた鼻の穴から垂れ流した、口の名から両足らしき細長い骨格を無数に吐き出してうごめいていたそれ。久しぶりね、の
第二。孝道
挨拶さえも無い。
忠孝一本ハ我ガ国道義ノ精彩ニシテ
おしゃべりな
忠誠ノ士ハ又必ズ純情ノ孝子ナリ
ベトナム人達にはめずらしく、眼差しの中の微妙な、暗く、そのくせ屈託の無い曖昧な表情が交換されながら、そして、いくつかの短い
第三。敬礼挙措
会話。
敬礼ハ至純ナル服従心ノ発露ニシテ又
アオの蓮向かいの、小汚い
又上下一致ノ表現ナリ
赤いプラスティックのテーブルで、ミー・クアンを喰い散らしていた一人の男が、…三十代?
日に焼けた肌。目を上げた。
Người Nhật ...と、アオにさゝやきかけたユエンのその言葉の切れ端の一言に、こんな店に外国人が来た事を、ものめずらしがったに違いない。
…こっち。
と、アオを見詰めたまま云ったユエンが
Come here
そっと、後れて私を振り向き見た。…美しい、と。
Anh
私はその、振り向き様の一瞬に、久しぶりに実感した。顕かな、異人種の顔立ち。
Đi nào
私とは、一切の遺伝的共通性を持たない、のかもしれない。その大半の発現情報は同一だったに過ぎなくとも、彼女に添い、彼女にふれあい、況してや彼女に解け込み獲る共通性など、私たちの肉体には何も無い。
私は、彼女を
こんにちは
こにつぃわ
今迄知りもしなかった、――と
いとしいひと
いぃとすぃいっと
そんな錯覚が、私を短く微笑ませた。ユエンに、自分を
Chào
tráo
気遣った気弱げな眼差しとして消費されてしまう、その。
Em yêu
Em yều
微笑み。
アオが漸く私に反らされていた眼を向けて、漸くそこに一人の男の存在の事実に気付いた、そんな気配を装って、…微笑み。
双眸は日差しに白濁した。
空間に、いずれにしても私たちのそれぞれの微笑みが、ふれあう寸前のままに当たり障り無く点在する。
寄せ合う。
ふれあいはしない儘、必ずしも共感など一切無い儘。
私たちは、同国人たるユエンとアオ、乃至、夫婦たるユエンと私をもふくめて、敢えて何等の共通言語も持たない儘に身を寄せ合う。
まるで他人のように、事実他人に過ぎない私たちは。
養豚場だとか養鶏場だとか。そんな風に連想しようとすれば充分可能な店舗スペースを通り抜け、勝手口を出ると、不意に開けた空間の日差しの直射に、一瞬、瞬く。
明るい庭の
内庭。
反射した光線のなかで
繁った樹木と、木漏れ日の散乱。或は、樹木の葉が形成したざまざまなこまかな翳りの横溢、…と。
私たちは
美しい
どちらとして、その風景を見い出すべきだったのだろう?
いま、
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