小説。——櫻、三月の雪…散文。及び立原道造の詩の引用 /《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ 或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948 ■26
以下、一部箇所に暴力的な描写が在ります。
ご了承の上お読み進めください。
又、歴史的記録として過去の政治スローガンの引用乃至模倣が使用されますが、
特にそれらを特に顕彰しようとする意図も在ません。
櫻、三月の雪
…散文。及び立原道造の詩の引用
三部作
《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ
或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948——Ⅱ
Zaraθuštra, Zartošt, Ζωροάστρης
ゾロアスター
知らない。興味ない、と。清雪は云った。十九歳、母親を殺して東京に逃げ出す前の彼と、その二年ぶりのLineの通話、かの「…全く。」絢子の話を不意に想い出した時に、
「…全く、興味ない。」
…右翼活動みたいなの、してんの?お前。結構、
「でも、お前、右翼に…」
かぶれてるらしいじゃん?
私を静かに、何の感情の浪立ちさえも感じさせない清雪は、かならずしも、
陽光は、私の
あるいは、総ての
ものらに注いで、ふれなければならない
…と
「なんで、人間って、母親の胎内なんかからしか生まれてこないんだろ?」或は仮に、彼の母親殺しが、必ずしも憎悪に端を発したものではなかったとしても
「…自覚、ある?」そこには、或は「母親から生まれてきた自覚。」彼が追ったのかもしれない成長期の
「記憶、あるんだろ?」
心の傷が
「…あるよ。あるけど。」
…あの人が、
「俺の母親だって気はしない。清明さんは、ありますか?」…ね?――どう?…と。
不意に清雪は声に、むしろ嘲笑うような媚を撒き散らして、…ひょっとしてさ。
「なに?」
「イエス・キリスト…処女懐胎。」
…あれってさ。
「在り獲ないじゃん。」
「在り獲ないことがるから、宗教なんじゃない?」
「宗教じゃないよ。」
「…なに?」
「神。在り獲ないことがあり獲るからありえてるののは神様の存在自体じゃない?ありえて合理的だったそいつは神じゃない。ただの王様だよ。宗教って、本来裏切りだよね。信仰って、神には純粋に従ってない」
「なんで?」
「信じるって云うにはさ。信じないでもあり獲ることの可能性を全部認めた上で、それでも彼が神だと信じてるんでしょ。」
「なに?」
「完全に一致してるなら、信仰じゃない。万有引力を信じる?信じないよ。ただ、知ってるだけだよ。りんごは木から堕ちる。それだけ。」
「でも、宗教が存在してる現実ってのは、歴史的なものでしょ。ナチスも十字軍も弾圧も全部含んで、…ね。理論的物理学っていうか、理論哲学じゃけっきょくは宗教の存在してる現実は説明できない。むしろ、無力だよ。なにも云わなかったに等しく。…じゃない?どうせキルケゴールとか、嵌ってるんだろ?」
「なにそれ。…興味ない。ヴィトゲンシュタインの方が好み。イケメンじゃない?…彼。セーレンさんって頭のおかしい少女っぽいでしょ。顔が。てか、だから、処女懐胎ってさ。普通に考えてでまかせじゃん?」
「バチカンが怒鳴り込んでくるよ。」
「別にいいよ。俺は必ずしも神の存在を否定してない。」
「在り獲ないからあり獲てるのが神だから?」
「いいんだよ。別に。いても。居るかもよ。量子力学の世界のどっかの片隅では。そもそも無意識だって、本質的には存在してないのに、それが存在してるから意識作用は存在してて、つまりは、存在してるっわけでしょ。」
「システムとして解析して無理やり構造化すればそう言うしかないって事でしょ。考えれば小難しくても、ありふれてるんだよ。紙の上の二次元にとって立方体が難解なのと一緒。昔のイコン画なんて、空間がゆがんでるようにしか見えない。むしろ、多分、本当はね。」
「ともかく、想う」
「なに?」
「俺、あれ、誰の妄想だと想う?」
「処女懐胎?」
「信者の妄想?…母親のほう?…」
「おかあさんの自己正当化とか、宇宙人がゲノム編集したとか、不意に空間が特異点化してむしろあらゆる事が可能且つ不可能になったとか?」…生まれたほうだと想う。
と。
清雪は言った。「母親から生まれた実感が常につかめないその男の肉体が、そうつぶやいたんだよ。突然。俺の肉体がここに存在してある事実は、処女が懐胎したようなものだ、って。」そもそも、…と。
生まれたときから一切の変貌を遂げないで残存して居るものは、結局はなにも存在しない。産み落とされた瞬間には、その事実を否定するように、自分勝手に分裂して、増殖していく。脳細胞だって変質に変質をかさねる。…すげぇ、
「――違和感が在る。」…俺が、潤さんから生まれたって事に。
…だから?
と。
私はふと、そう云った。彼の言葉を
「だから、」必ずしも「…如何したの?」断ち斬ろうとした訳でも無く「月の無重力なんか、お前、実感できないでしょ?でも、お前の実感なんか糞喰らえ状態で月は無重力なんだよ。眼の前で地雷で下半身の半分吹っ飛ばされたガザ地区の餓鬼がガザ地区の廃墟の路上に失心したまま野太打ち廻りながら転がってたとしようよ。お前には実感なんかないだろ?地雷踏んだこともないお前には。そいつだって実感なんか無いだろう。実感した時にはもう意識吹っ飛ばしてたんだから。でも、そいつの肉体がいま苦痛に野太打ち回ってんのは事実なんだよ。」…わかる?
「…ガキの糞つまらない妄想なんか、頭の中に蛆虫這わせた犬っころだって喰いつきゃしないんだよ。」と、そう云ったとき、私は必ずしも義憤、の、ような、もの。そんな倫理的な感情に突き動かされたわけではなく、ましてや潤の心情を、…もはや。
いずれにせよ、彼女が清雪の言葉を聞いたとしても、もはや何を思うとも思えない。
悲しみ?
…食い散らされる花々と等しく、すでに咀嚼され、食い散らされ、消火され、吸収されずに排泄されて仕舞ったはずだ。そうではなくて、ただの嗜虐。
…ぶっこ壊してやろうか?
眼の前の
…あまりにも繊細な眼差しを、好き放題に
若く美しい若い少年のやわらかい、あるいは
…容赦もなく曝す、まるで何かの
あまりにも傷付きやすい心を丸ごと
…犠牲者じみたお前を。
踏みにじって泥だらけにして再起不能にしてやりたい衝動。
穢れている。…むしろ。
清雪は、一瞬、自分が、…殺されて仕舞うべきだ。
私は。何を云われて居るのか、わからない、そんな表情をその眼差しに…想った。
私は、俺は自分こそが穢れ気が振れたものとして処罰され収容され屠殺されて仕舞うべきだと、…嫌悪。
容赦もない嫌悪が、ややあって、不意に清い雪の眼差しだけ浮かび上がった。頬と口元の、微笑んだやわらかなゆがみを一切、傷付けることなく。
「あんた今、」しずかな、「深刻なミス、二つしちゃったよ。」
あまりにもしずかで、おだやかな清雪の表情のやわらかさを、私は見惚れていたように想った。
その一瞬に。
「なに?」
「…知ってた?」
「なにを?」
微笑み。彼の
「先ず其の一。俺、…さ。」
微笑みは、たゞ、確かに美しい。
「さっさと云えよ。忙しいんだよ。俺。百年近く前の国家的洗脳乃至国家的暴力的強制の果てに抗いもせずに素直に馬鹿面晒して自滅した敗残者どもイコール英霊だとかに今更のめりこんでネット弄って暇潰してるオナニー猿乃至自慰猿乃至自傷猿の相手してやる時間なんてあと5秒しかない」
と、
「5」
清雪の
「4」
一瞬、わざと慌てふためいて、
「3」
あー…「待って。」
「2」
…ね?
「1」
「僕さ、自己告白してんだよ。」私は噴き出した。
笑い声。…聴く。
私たちは、私がいきなり立てた、嘲笑うような派手な笑い声を、ただ、…「…ね?」
二人揃って聴いていた。「わかる?」
…あんたに、判る?
清雪が、囁いた。
声。
やわらかい。
夢に見た、…
ビロードのような。
絹のてざわり。…例えば。
伝説の麗人が身に纏った?
天から舞い降りた、…
まぼろしの?
かすかにふるえる必ずしも正確と言えない音調が、それでも聴き間違えようもない日本語の正調の節回しを見事に余す所無く描き切って、とは言え、それは飽くまでも所謂正調に媚びた訳でも無く彼にしか実現できない固有の彼の日本語音声に過ぎない。或は、何処を…と。
日本中の何処を探し回ったとしても、彼と同じような音声で、かの島国に縁もゆかりも本来ない異国人含めて溢れ換ええた日本語を、そのように発話できる咽喉など存在しないに違いない。ならば…と。
それは、彼固有の本質的な異国語に過ぎないのだろうか?私の哄笑は止まらない。
眼の前の、或る外国産の日本人崩れの気違いの腹が産み落とした今や気違い寸前らしい糞餓鬼が、吐いた囁き声がもはや、私を更に笑い転げさせてやまない。…判るよ。
「…いまに、判るよ。」
清雪は云った。
「暇があったら判ってやるよ。」
その
「…判るよ。」
判る、という言葉の意味したものが
「努力程度にはしてやるよ。」
彼の母親殺しだったのか
「完璧、」
自分の自決のことだったのか、私には
「判る?…お前」
終に判らなかった。
「…判るよ」
「日本語判る?…自己告白ってなんだよそれ?例えば神話的にしてクラシカルにしていまや軽蔑するしかないクラスの生きる資格のない劣等生のオナニー道具として辛うじて生き延びて居るのかも知れない文学神フィヨードル・ドストエフスキーのミコトの創造し給うたスタブローキン御大が、いかに文学的に高貴で所詮未完成の草稿かつ編集者にボツにされたボツ原稿にすぎない雑文に於いてスタブローキンの自己告白をひけらかそうが、…じゃ、それが総てなの?…判る?…スタブローキンって、屁こかなかったの?屁こくスタブローキンってスタブローキンじゃないの?要するに早い話が貧乏で報われない糞餓鬼強姦して自殺させた事がスタブローキンの総てであり獲るの?そんなに甘くないよ。欺瞞なんだよ。自己告白?…なんだそれ。笑わせるな。留保もなく、そんなもんその瞬間の自分にだけ都合のいいとりあえずのフィクションに過ぎない」
「…フィクション?」
「気■いの戯言とも云うね。」
「…知ってる?」
「何を」
「信じ込まれ、確信されたフィクションこそが、結局は世界を構築して仕舞う事実を。」
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