小説。——櫻、三月の雪…散文。及び立原道造の詩の引用 /《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ 或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948 ■25
以下、一部箇所に暴力的な描写が在ります。
ご了承の上お読み進めください。
又、歴史的記録として過去の政治スローガンの引用乃至模倣が使用されますが、
特にそれらを特に顕彰しようとする意図も在ません。
櫻、三月の雪
…散文。及び立原道造の詩の引用
三部作
《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ
或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948——Ⅱ
Zaraθuštra, Zartošt, Ζωροάστρης
ゾロアスター
意志のかけらさえ「…正しいと想う。むしろ」残っては居ない血に汚れた顔に「たゞの犯罪者って、必ずしも何にも間違いなんて犯してねぇよ。たゞ、俺らに容認されなかっただけよ。実際、こいつ、いま、俺のに咬み附いたらこいつマジぶっ殺すからね、俺。普通に。」
…制裁処罰粛清状態だよ。
これ見よがしに唾を吐いて、「…違う?けど」掌に
「戦争ってさ。」
とった彼の小指を
「ぜんぜん正当性なくない?」信吾は…普通じゃ、…。
声を立てて、…普通じゃ無理って。笑った。「普通じゃ殺せないって。そこに」あまりにもやさしげな「居る、誰かわかんない奴。射殺…」仕草を持って「掃射?」その指先は「…するの。殺す理由無いじゃん。向う、放っといたら殺しにかかるから?」自分の下半身に「だ、…」覆い被さった綾子の頬を「だったら」なぜた。「行くなよ。そんなとこ。行かせられたから?やなら自国で革命だの暴動だのすればいいじゃん。なんにも、」むしろ「完璧に正当性無くない?」そこに在る物の「…だからさ。イスラムとか、」形態を、ただ「あーいうー…あー…」確認しなければならない「…なに?」心の繊細な、「原理主義者的な?」謂ば「要するに、…」息吹きに、想わず「さ、宗教系の頭、」突き動かされたように。その「おかしな人。相対性理論と念佛一緒にブラックホールの中で喰っても腹壊さない程度に頭、」隠しようもなく「ぶっ壊れた人。そういう」いつくしむような指先に「奴らの」和章の眼差しは「――あれ、殺人。普通に。たゞの…」あざやかな嫉妬を「殺人。」かるく含む。その「だから、」嫉妬が誰に向けられたのかは「正当性あるんじゃん?」判らない。「処罰できねぇよ。持ってる法律書が違うんだよ。容認できなきゃ排除して駆逐するしかねぇんだよ。ゴキブリに同列。しかたなくない?…でもさ。」
戦争は違うぜ、…と。信吾は囁いた。「でも、」和章の
「大義名分ってあるんじゃない?」声が信吾の指先を中断させた。或は
「…ないでしょ。」
それこそが和章の意図だったのかも知れないと、私は眼の前の事実をひとりで疑っていた。
まるで、
「国のトップの大義名分と、…」
私は「…さ。」私自身が、頭の先から「兵隊の大義名分って」爪先まで、「違うじゃん?」穢れきって仕舞ったようにさえ感じられ、「なに?」和章の、「…見てる風景が違うよ。」敢えて信吾を見詰めた眼差しからは眼をそらす。…じゃ。
と、不意に和章が発した、眼差しの対象を、顕かに見下した声を「お前、一人でやれよ」
私たちは聞いていた。
うつぶせた綾子を除いて、私たちの眼差しはそれぞれに和章を捉えていたが、恐らくは。
…と。和章がむしろ、密かに信吾が切れて、彼自身に殴りかかってくることを期待していたように感じられていた。
あるいは、すでに確信されていた。…ほら。
殴ってやれよ。と、…もはやケツ振ってるぜ。声を立てて笑いそうになった瞬間に、
「オトナになったらね。」
信吾は微笑んだまま、自分の髪を掻き上げた。その瞬間に
神国ハ何故
想い出す。
未ニ覚醒セザル哉
清雪、…と。
其の少年のフェイス・ブックの、どこかの古い日本兵のアイコンを指して、「清い、…雪。」
私はユエンに其の名の意味を、教えた。
Virgin snow ? or
なにものにも、ふれられてはいない
Pure snow ? or
雪。…何がいい?
と、ユエンが、「名前…」
何がいいですか?
Snow not ugly ? or
子供
Snow not dirty ? or
私たちの子供の
Untouched snow ? or
名前は?
と、その、結婚して3年近く経った、二人しかない広大な家屋の中の、居間のソファに横たわって、4月。
日本では、桜の季節の終りかけ、なのだろうか?
ユエンは、私が今更の日本に、国を追われた訳でもないのに帰ろうとしないおかげで、あの、北東の島国は一度も行った事が、未だに無かった。…右翼かぶれの、カタカナ交じりの漢文崩れのツイートの羅列。
…帰りたくないの?
清い雪。…彼が盛んに、暇さえあればアップする、その。
…日本に?
Tai sao không muốn về nước anh ?
「お母さんは?」
おかすぁんは
Bì là ...
「どうしていますか?」
なにをしまっか
Vì là ...
頸を振る私の、その仕草の意味をユエンは
Vĩ ra ...
覚らないままに、敢えてそれ以上
...Con có lỳ dò
説明を強制しはしなかった。
Không có ly do
ユエンにはまだ
Con cô lý do
何も話してはいなかった。母親が、基本的には
彼女は、いつでも
精神医療施設に入院させられていること、…甥の
目を細めて私を
宏和が云っていた。…ひどいよ。
見詰める。やさしい
「子供は、何人、」
ユエンは、必死に
拘束着?…なんか、
私のベトナム語を聴き取ろうとして
「欲しいですか?」
初めて
収容所にぶち込まれてるみたい。
彼女が耳にした
「名前は、何が」
聴き馴れない
あれじゃ、…
言語に、不意に
「いいですか?」
ふれて仕舞ったように
…仕方ないじゃん。答えた私に、その、二十代の終りかけの、年末。雪はまだ降らない。「だって、お前等が面倒見切れないんでしょ。」
…他人事だよね。と。…自分の、(―母親、と、その後に続くべき)年末に帰るのか、そんな(言葉を宏和は敢えて)連絡を(飲み込んだ。)久しぶりにくれた宏和は
「…雪。」
電話の向うで、…まさに。
「Snow」
私にとっては、まさに、
「Snow là gì ?」
母親など他人に過ぎない。
Snow ra gì
Tuyết
…と。トゥイエット。
Snow la ghì
Tuyệt
「雪。…」
Tủy-ết
ゆき
「…雪。」不意に思いついて、私がスマートホンの画面に開いて見せた清雪のフェイス・ブックに、…だれ?
じゅき
Là ai ?
ずゅき
戯れてしなだれかかり、自分勝手な媚を振りかけて見せるユエンは、いま、自分の眼差しが捕らえているモノクロームの旧日本兵が誰なのかなど、私と同じように、違う意味で理解できず、そして、彼女はひとりだけ、そのフェイス・ブックの人間がいったいどういう人間なのか、知りもしなければ、予測さえできない儘に邪気もなく、微笑みを曝した。彼の
凡ノ
名前は、
英霊ハ
…ね。
今
His name is
慟哭
「…Snow」
血涙
と。
シ玉ヰテ
私は言いよどむしかない。なんと、訳せばいいのだろう。清い、という、その短い三文字の単語を。きよい。
清い。
そして潔い。
あるいは浄い。
言うなれば禊い。
いずれにしても、清い、そんな雪。Virgin?と、…例えば、その単に男を知らないという意味以上の意味の無い筈の言葉に、キリスト教の概念を、或は、ふれ獲ないもののその存在そのものを指さゝせて仕舞うならば、それはそれで、かろうじてそうなのかも知れない。
とは言え、そうするためには、私とユエンは今更ながらに生まれ附きのキリスト教徒にでも成り代わらなければならない。そんなことは不可能なのだから、結局は、Virginという言葉には一切の該当性などありはしない。
仮に、私とユエンがキリスト教徒に成りおゝせたとしても、その、教会にまします明確な宗教としての聖なる存在と、それ、喩ええば《きよらな》、…と、その言葉には係わり合いなど一切在るはずもなかった。そもそもが、私自身、たとえば母親の口にした他人の言葉として覚えこんだにすぎないそれら、日本語の言語そのものが、私にとって本質的理解不能な他人のものに他ならず、ならば、結局は発話された如何なる言葉も、私にはかかわりあうことの出来ない、他者の手による宗教的な秘儀のようなものに過ぎない気がした。ミトラス教の教徒たちが眼の前で仔牛を屠殺したところで、私の眼差しには一切の係わりはない。
私の唇の中に棲まわされた、不意のミトラス教徒たちがいかにやさしく、万感の想いこめてただ、きよらなる雪の純白、と、そうつぶやいてみたところで、私はそんな言葉など一切、知りはしない。
経験的な乃至字書的な意味くらいは了解していたとしても。微笑む。
ユエンは、それでも、在る意味においてひとつの当たり障り居の無い暇つぶしとして、《清い》と、アプリケーションを
清冽ニシテ貴也
検索して見せた私に、
Quý tộc
貴族
言葉もなく微笑んで、そして
Quý phái
稀人
日差し。やさしい、総てを
Trong sáng
朝のうちに
むしろ
Trong sạch
綺麗な
あきらめてしまわなければならないような、そんな、あまりにもやさしい日差しが、彼女の上半身の右半分にだけ、
Tinh khiết
純粋な
ふれていた。彼女は、敢えて
Trong trắng
白で
その日差しには
Trinh trắng
バージンホワイト
気附きもしないで、そっと
Trong troẻ
全部で
私の首筋に顔をうずめて、
Trong lành
新鮮な
囁く。…
đẹp
綺麗、と。その、不意の、独白じみたさゝやき声のつぶやかれなければならなかった必然性など、私は
Tuyết
知らない。興味ない、と。清雪は云った。十九歳、母親を殺して東京に逃げ出す前の彼と、その二年ぶりのLineの通話、かの「…全く。」絢子の話を不意に想い出した時に、
「…全く、興味ない。」
…右翼活動みたいなの、してんの?お前。結構、
「でも、お前、右翼に…」
かぶれてるらしいじゃん?
私を静かに、何の感情の浪立ちさえも感じさせない清雪は、かならずしも、
陽光は、私の
あるいは、総ての
ものらに注いで、ふれなければならない
…と
「なんで、人間って、母親の胎内なんかからしか生まれてこないんだろ?」或は仮に、彼の母親殺しが、必ずしも憎悪に端を発したものではなかったとしても
「…自覚、ある?」そこには、或は「母親から生まれてきた自覚。」彼が追ったのかもしれない成長期の
「記憶、あるんだろ?」
心の傷が
「…あるよ。あるけど。」
…あの人が、
「俺の母親だって気はしない。清明さんは、ありますか?」…ね?――どう?…と。
不意に清雪は声に、むしろ嘲笑うような媚を撒き散らして、…ひょっとしてさ。
「なに?」
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