小説。——櫻、三月の雪…散文。及び立原道造の詩の引用 /《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ 或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948 ■23
以下、一部箇所に暴力的な描写が在ります。
ご了承の上お読み進めください。
又、歴史的記録として過去の政治スローガンの引用乃至模倣が使用されますが、
特にそれらを特に顕彰しようとする意図も在ません。
櫻、三月の雪
…散文。及び立原道造の詩の引用
三部作
《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ
或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948——Ⅱ
Zaraθuštra, Zartošt, Ζωροάστρης
ゾロアスター
ユイ=雨が不意に、声をたて笑った。白い素肌をそのまま、ためらいも無ければ、羞恥もないもないままに曝して、…確かに。
潤の部屋の中で、私たちの眼差ししかない以上、彼が好き放題肌を晒そうが、あるいは、いまその腹を引き裂いて自分の内臓を引きずり出して仕舞おうが、彼は自由であるに他ならなかった。
朝。
朝焼けの日差しは、すでに消滅していた。店をサボって、穴を開け続けた数週間の午前、…
神国覚醒スル時
…8時?
此宇宙ハ終ニ覚醒シ
床の上の壁際に、潤の
此人民ハ終ニ救済サル
狂った目覚まし時計は一時十四分を差していた。…これ。
と。
「何ていう名前なんだろうね?」
それが、彼が不意に腕にとって、胸に抱え込むようにて見せたガラスの花瓶に毀れた、彩色されたかのように極端に赤い花を差して云われた言葉である事くらいは、気付いていた。…なぜ?
あなたは花。だれかが
と、私は
夢に見た花
…なぜ君は
永遠に
想う。
咲き誇って
見ようともしないの?…と。
散ることをさえ知らずに
私は、…その。
たゞ苦痛だけを
腕に抱いた花を?…と。
耐え難く咬む
ユイ=雨が笑うたびに、彼の声は空間をかすかにだけふるわせた。正午の室内は明るかった。窓越しに侵入して、自分勝手に溢れ返った光の、そして花の匂いが執拗に、決して鼻を馴らすことなく匂い立ちつづけるのは何故なのだろう?…なんにも。
あなたは花、温度の無い
「なんにも、
雨の中にも
知らないんだよね。」
咲き誇り
ささやく。すこしだけ
色彩の無い
「俺たち、実は…」
水滴にその花弁を濡らしながら
頸を傾けて、私に
饒舌な
「この、世界のこと。」
静寂だけを周囲に
やさしい眼差しを送るのユイ=雨の、その
撒き散らして
「花の名前さえも。」
ひとりで
意図的に謀んだ、
佇んでいた
「…ね?」
咲き乱れた花
あまりにも女性的な仕草が私を失笑させた。どうしようもなく、堪えられずに泣き伏したくなって仕舞いたくなるほどに当たり障りの無い、すでに、流れ去って仕舞えば終に、想い出され獲る可能性など何も無い儘の、
革命とは、
色彩
忘却されていくしかない、
客を招いてごちそうすることでもなければ、
眼差しにふれる
そんなことがもはや、予め
文章をぬったり、絵をかいたり、
花の
誰にも周知のものになって仕舞っていた、
刺しゅうをしたりすることでもない。そんなにお上品で、
色彩
そんな、時間。
おっとりした、
形態
ほんの、十秒に満たない時間の後で、…塗れていた。
みやびやかな、そんなにおだやかで、
或は
沈黙。
おとなしく、
空間に、それでも果敢に
いつでも、
うやうやしく、
穿たれた
それら、
つつましく、
花々は気附いていたのだろうか
そんな、
ひかえ目のものではない。革命は
自分が
為すすべもない時間の群れに。
暴動であり、一つの階級が他の階級をうち倒す激烈な
今、咲き誇っていたことを?
沈黙とさえ呼ぶ気にならない、単なる、
行動である。――03.1927. 毛沢東
知性さえ曝さない沈黙のうちに
言葉の不在。あるいは、感情の不在。あるいは、そして、ユイ=雨がバスルームに籠って、便器に嘔吐し続けていた潤の髪の毛を掴んで引きずり出したとき、笑う。
私は。私の唇が想わず漏らした失笑に、見い出されていた腹部。潤の、微細な内部の痙攣を拡大させた、あまりにも大袈裟な腹部の皮膚のわななき。
悲痛な色彩を
邪気も無い微笑みを曝して、たんなる
あまりにも無残に曝しながらも
自分の想いつきに戯れるユイ=雨が、
知性の無い花には如何なる
加害者などで在ろうはずはなかった。そんなことは、
悲劇さえ存在しない
潤だって気付いていた。
妊娠5ヶ月目の女。腹部のふくらみはもはや、…と。
隠せない。…想う。
こんな女の腹部に生存している生命体が、まとも形態を以て生まれてくるはずも無い、と。
想い、曝さない。言葉をは、その唇には、浮かべられた失笑。空気をふるわせるような、まるで、——と。
私は誰かの眼差しの中には、まるで暴力行為を容認する無様な卑怯者以外には見えもしないに違い。ん、
神国万歳
と、その、一瞬ユイ=雨の(——乃至、)
唯一無二ナル皇孫、之ヲ永久ニ
鼻に立てた息遣いを、私たちは(ユイ=雨の)
統治ス
聞いたのだった。やさしく(残酷さに満ちたその)
皇国
美しく、気品の在る(戯れは、誰かの)
万歳
上質な、…それ。(眼差しの中では、もはや赦し難く容認されてはならない絶対的な悪にして加害にして虐待して)
ユイ=雨が(――愛。)もたらした一瞬。(私たちが、それでも潤を素直に、愛していたのは事実だった。事実として、空間の
家畜的劣等民族ノ悉クヲ殲滅セヨ先
なかで、どうしようもなく
ノ大戦ニ於ケル敗北ハ只家畜等ヘノ同
潤のえづく咽喉の
情在リシ事ガ結果セル事也八
音響と
紘一宇ハ亜細亜民ガ為ノ理想ニ在ラズ只、大日
吹き飛んだ一瞬の
本民族即チ唯一的皇孫民族ノ血統ニノミ約
鼻水と、それらさえもがむしろ暖かな)
束サルベキ理想也
ユイ=雨の豊かな
大日本ニ於イテ皇孫神皇ノ御名ノ
許ニ多神教即一神教乃至一神教即
多神教ノ様相ヲ呈ス我等大日本ト
ハ一神ニ依ル多神共同体也大日本
ニ於イテ一神教ト多神教トハ融和
ヲ見セ決シテ対立ヲ晒サズ是ノ故
黒い髪の毛が、その胸元に
既存売国々家破壊及ビ
(…赦しに
既存憲法及ビ
溢れて
全律法停止且ツ
ささやきあうような
国会売国奴完全処刑且ツ
やさしさにだけ
国内在留外国人ノ一律奴隷化及ビ
私たちは)
隔離
垂れ堕ちた。確かに彼は
神格タル皇孫ノ血統之ヲ統治シ
家畜共ヲ殲滅セヨ
迷ヒモ無ク永世神聖神道ヲ茲ニ構築ス
劣等成分ヲ隔離シ
大日本ハ国家ニ非ズ
ト殺セヨ
大ナル道ニ附ラレタ高貴ナル名也
美しい。ユイ=雨が花瓶から引き抜いたその、真紅の花の全体が、かすかに。
そっと
儚く
…揺れるのを、私は
口附けてください
咲き誇って
見ていた。
ユイ=雨は花瓶をひっくり返す。潤の、わななく頭部の上で、迷うことなく、そして。
流れだす、その、あまりにも当然のこととしてこぼれた水、あるいは、それが吸い込んで仕舞った花々の茎の臭気に似た芳香さえも。
あふれ出して、潤はその僅かに濡らされた頭部には、気付きもしなかったに違いない。
神ヲ
儚く
ユイ=雨を見あげて、こぼれるような
知ラヌ人種ニ倫理ヲ語ルスベハナク故ニ
咲き誇って
笑みを
御天祖
散っていく
投げていた。
末裔タル大日本ノ天孫慈愛ノ直系
櫻の花の
「…戦争、
民族ノミ倫理ヲ
大量に撒き散らされた色彩は
起こんないかな?」と、信吾が言ったとき、綾子は彼が晒したそれを口に(―—綾子自身が)咥えて、奴隷じみた(手づから、微笑みとともに)行為を、わざと殊更に(引き摺り下ろしてやった)奴隷じみた(デニムのパンツが)行為めかして、彼に(信吾の太ももに、未だに)奉仕してやっていた。…それ、と
「やばくない?」相槌交じりに云った和章は、すでに、自分が吐いた言葉など忘れて仕舞っている。綾子の家の、彼女の部屋の中。
日曜日の午前、日差しは冬の、清冽で、清純な大気。…光。
ふれたものすべてに、いまや光は触れていた。部屋の中に、和章の笑い声が立った。綾子の口蓋と、舌と、咽喉が立てる、べたつく濁音の故意の唾液の音響が、耳に触れ続けていることには気付いていた。…ね?
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