小説。——櫻、三月の雪…散文。及び立原道造の詩の引用 /《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ 或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948 ■21
以下、一部箇所に暴力的な描写が在ります。
ご了承の上お読み進めください。
又、歴史的記録として過去の政治スローガンの引用乃至模倣が使用されますが、
特にそれらを特に顕彰しようとする意図も在ません。
櫻、三月の雪
…散文。及び立原道造の詩の引用
三部作
《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ
或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948——Ⅱ
Zaraθuštra, Zartošt, Ζωροάστρης
ゾロアスター
覚えている。それまで、だれからタグ付けされる以外の何の記事をアップするでもなかった清雪のフェイス・ブックのアイコンに、どこかの古い日本兵の画像が貼り付けられ、いきなり背景画像としてはためく旭日のモノクローム加工された画像がアップされたその日、ベトナム時間の午前7時。
清雪は十八歳か、まだ十七歳だったのか。夏の生れなのだから、その七月にはそのどちらかで在った筈だった。いずれにしても日本時間の9時。
ユエンは、私の体の上に覆いかぶさった儘、終った後の貞淑な愛撫をくれていた。静かに、息遣いの音さえも立てずに。
いつでも■精の瞬間などなく、途中やめに終るしかない私の行為は、あるいは、女たちの体を満足させてやるためだけに存在しているのと同じだった。同時に妻として、私の子供を求め続けるユエンにとっては残酷な仕打ちを続けられて居るに他ならなかったにしても。声もなく、かすかにだけ喉の奥に乱れさせる呼吸と共に、彼女は自分が愛されて居る事実の確信の中行為とその確信とに同時に淫して、彼女だけが自分勝手に疲れ果てゝ行ったたときに私たちの行く方も知ら無い行為は、…精神。
精神、と、それを呼ぶならば、にも拘らず彼女の肉体を求める私は、生殖能力も無い儘に、ただ、精神的な営みとしてのみ彼女の肉体を求めていたのだろうか?時に焦燥感にさえ駆られながら。
ならば、それは…と。
その、惰性の、けなげで諦めの悪い途切れ途切れのお互いの愛撫のさなかに、ふと、手に取ったスマートホンの液晶画面に私は声を立てて笑いそうになった。
泰隆とその貞淑な妻の、反応を見て見たい気がした。いずれにしても彼は彼らが育て上げた、育ての一人息子に他ならず、間違いなく知的で、成績も優秀だったはずの、出生を忘れさせるほどに翳りの無い清雪の、違和感をしか感じさせない振る舞いは、とても正気とは想えなかった。
そもそも、ハーフの癖に、と。
第一、潤が果たして誰と交配した時の子供かさえ判らないのだから、DNA鑑定でもして見たら、実際には朝鮮半島とフィリピンの逢の子だったとするならば、清雪はどう責任を取ろうと云うのだろう?利発な子供、そして、敢えて隠し事を一切しない方針だった泰隆が、…俺。
全部教える。こいつの今迄のこと。で、…
魂、鍛えるから。清雪が「此の子、」自らの出生の、「弱い子には育てたくないからね。」人種的、乃至系譜上の不明確さくらいは認識していないはずは無かった。六歳の頃には、すでに出生に至ることの次第を、総べて泰隆に告白されていたのだから。告白どころか、嘘さえ附かれず、その儘の事実をその儘に伝えられ、当たり前のように父親代わりの泰隆を伯父さんと呼び、もはや廃人状態だった潤をお母さんと呼ぶ環境の中で育った清雪は、…どうしたの?
想わず、ほくそ笑んで仕舞いながら、《何事?》彼にコメントした私の振る舞いを、ユエンは敢えて咎めもせずに、疲れ果てては居ても、終には満足し切れできては居ない彼女の飽和しきった余韻をむさぼる。…空手はじめたんですよ。
Lineで、絢子と通話した時に、私はその液晶画面が映し出した彼女の容姿に、急速な劣化が事も無げに曝されて居ることに一瞬だけ、驚いた。清雪が、「…去年、かな?」唐突に意味不明な右翼青年になりおゝせた後で、「いつだろ?
私は
…いきなり」数ヵ月後の、その月。十一月。
…そっと
「空手やりますって。」
ユエンの腹部に口附けて
「いいじゃん。俺もやってたよ。」
その
「意外。」
匂いを嗅いだ。そして
「親父の趣味だよ。」いまや、
彼女が頭の上に
「じゃ、」
立てた
どこでなにをして居るのか、その生死さえも知らない、父親。
ちいさく
もはや、
みじかい
「強いんだ。」
笑い声を
眼を閉じても顔など想い出せない。絢子が
聴いて
不意に立てた笑い声を私は聴いた。…で、と。
声、その
声。
笑い声になる寸前の
「…どうなの?」
愛し合い
私の声。
お互いを
「誰?」
赦し合いたゞ
「…ユキ。変ったことない?」あー…と、云ったその絢子の、一瞬の翳りを曝させた眼差しには、劣化。どうしようもない老化。それはほんの数ヶ月前の通話では感じられなかったものだった。
まだ、…と。
三十を越えたばかりのはずなのに?
「ネトウヨ、…みたいな?ああいうの、流行ってるの?」
「知らないよ。もう。今の日本。あなたの方が詳しいでしょ。日本に居て、其処の空気吸ってるんだから。厭でも。」
「韓国のせいかな。なんか、うるさいじゃん。ずっと。」
「逆に、保守反動化焚きつけちゃったみたいな?」
「それ」
「そんなに馬鹿な子じゃないんじゃない?」…けど、…
さ、…
と、絢子は「…俺的にはすごく利発な子って印象が、」とは言え、あからさまに清楚な気配を称えたままに絢子は、ならば
「きっと…」――と。
清楚なままに朽ち果てて行くのだろうか?
「韓国人のせいじゃない?メディアとか。だってあの子、そんな子じゃなもん」云った絢子はごく自然に、眉を寄せて居た。
たゞ、不愉快げに。
「さしあたり金正恩あったりに損害賠償でもしちゃう?」…相変らず、と。親ばかだね、そう云った私の笑い声には
「まさか。でも、特に、何にも」
絢子は素直に無視を決め込んで、…でも、わたし
「変なこと…暴力とか、そう言うのは」
ちょっと心配かも。…たゞ、
「何も無い」
彼女は独り語散た。
「だったらいいじゃん。多様性をこそ受け入れよってね。だったらナチスも金正恩もムッソリーニもゲシュタポもホロコーストもジェノサイトもテロリストも右翼のおっさんもなにも、受け入れてやんなきゃ嘘だろ?」
「でもね、…」
なに?…
「Twitterとか結構やばい。」…声を立てて。
笑いそうだった。私は、その、眼差しが捉らえていた絢子のでたらめで、もはや、冒涜的で在った形態を、
「あの子の云うことに一理在ったとするじゃん」
顔面。
「それはそれでいいよ。」
そこに在るべきはずのものの変りに、恐らくは
「けどさ、もし、なんか」
極端に肥満した、居部的な
「闇討ちとかされたら如何するの?」
極度の膨張を曝したねじくれた腸が、それを
「あぶない韓国人なんか、いっぱい…」
吐き出した何等かの肛穴のようなものからその
「いっぱい居そうじゃない?…てか」
下に開いていて、或は
「確実にあぶないでしょ。彼ら。それに」
脈打っているのかもしれない(――ねぇ「誰だよ、その」)揺れ乱れる(「彼等って。」笑う私に、)
「あの子の将来、…」
ざわめきを見せて、(「何処の誰だよ。」彼女は、)垂れ流される紫色に変色した(「どっかの。…」ていうか、…)
「やっぱ、心配。もっと」
血。(誰でもいい。とにかく、)笑いそうになる。あるいは、
「普通になってほしい。」
液晶画面が反射させた(…「あぶない奴等よ。」)白い、色彩をなくした私の頭部の残像の顕した、内側にへこんで総ての顔の孔と言う穴からそまざまな臓器を噴き出させて居る、はじけて仕舞いそうな顔面の膨張。…普通じゃないの?
「なに?」
最近あいつ、なんか、変なの?
「…ふつう。あくまでも。あぶないTwitter以外は普通。…全部カタカナ書きでさ。如何にも昔の右翼っぽい――…真面目に、ちゃんと大学も通ってるよ。時々さぼるけど。大学生だからね。彼女、まだだけどね。」と、…在留資格がでました。
やいるぅしくぁくが
ヤンGiangという名の(Võ Thị Thúy Giang、極端に)女子生徒が云った。午後の
でまいた
送り出し会社の(白い肌をした、小柄な)階段ですれ違ったとき。その時、私は(ヴォー・ティ・トゥイ)教育の一環として、必ず(ヤン。…南部から来た。)すれ違った時には、先生こんにちは、と、そう
すぇんすぇこぬにちぃわ
立ち止まって大声を張り上げなければならない規則に従った、様々な発音のその音声のなかに、不意
しえんすぇこんいちぃわ
に聞こえた彼女の声に立ち止まり、「なに?」
すぁんすぇこぬぃちぃわ
と。
すぇんしぇこぬいちぃわ
在留資格。
じぇんせっ、こぬにちぃわ
…と、その言葉が想起されるまでに、彼女だけに固有な日本語発音のせいで、二秒以上の時間を
じゃいるぅすぃかっくぅ…
消費する。
真面目な生徒だった。そして、ベトナム中部の各地から集まる生とたちのための寮に住んでいた。所謂たこ部屋。ほんの8坪程度の個室の中に、彼女は6人で住んでいるはずだった。
ベトナムではそれは、一般的には必ずしも
神聖ナル
劣悪な居住環境とは言獲ない。むしろ、同じ
皇国ノ魂ノ
広々とした空間の中に一人暮らしを強制するほうが、彼らにとっては苦痛を意味したに違いない。曰く、
神聖ナル皇国ノ魂ノ至純ヨ
寂しい、
今コソ
と。
目覚め覚醒セヨ
「ありがとうございます。」と、丸っこい彼女は微笑みかけて、私はただ、…よかったね。
やさしく声をかけてやるしかない。ダック・ラックという、南部の高山地帯に実家のある
皇国ハ
生徒だった。…もう、と。
八紘ヲ
「ご両親に、連絡、しましたか?」
立ち止まって、声をかけた私の言葉を、しかめっ面で耳を澄まし、…先生。
「もう一度、ゆっくり
皇国ハ八紘ヲ一宇ト為シ其ノ
お願いします。」
光輝ヲ永久ト為ス
もう…ちち、はは、…連絡する。電話。教える。云う。…OK?…と。
それらの数秒間の繰り返しの後で、そして周囲の生徒たちの、あくまでも上位の異国人に気を遣う、家畜のような眼差し。
まばらな、あるいは、…はい。
彼女は声を立てる。
「はい。もう、連絡しました。」連絡、と。
教室の壁に張り出された報告・連絡・相談の注意事項が、連絡と言うかならずしも初歩的ではない語彙のほうを寧ろ、よく知ったありふれた言葉に代える。
早朝の、最初の授業の前には朝礼までも在る。起立、整列、社訓及び注意事項唱和、礼、あまりにも誇張された、日本流の礼儀作法が、馬鹿で愚かな島国の人間たちのカリカチュアを形成して、軽蔑を通り越してもはや笑うしかなく、それにもすぐに馴れて仕舞う。しないこと十か条。三、逃げない。四、盗まない。五、嘘をつかない。時に会社訪問する日本人たちはそして、あまりにも恥ずべき日本のカリカチュアに過ぎない。直行の飛行機で6時間のところから来た、外国人に対応すべきすべを持たない島国の閉鎖的なSir。何処にいても彼等は自分の周囲の一メートル四方をだけ日本に換えて仕舞う。順応性も許容力も欠如したSir、そして、自分たちが世界中から尊敬されている礼儀作法と高度な精神文化の国の人間だと、確信しつづけなければ気がすまない。彼らを許容できないとするならば、許容できないもののほうが、彼らを理解出来ないまでに下等な人間集団に過ぎないのだから、むしろそのものたちは憐れまれるか、排除されるか、啓蒙でもされなければならない。アジアに於いては。想うに、白人たちの国に行けばその彼等固有の感性は一変する。いずれにせよ彼等の唯一のとりえは、必ずしも韓国人のようにこれ見よがしの差別的眼差しを曝さないと言うだけに過ぎない。だれもかれもが見分けのつかない似たような顔をした、やたらと図体のでかい小さな半島の南に棲息する人種たち。
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