小説。——櫻、三月の雪…散文。及び立原道造の詩の引用 /《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ 或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948 ■18
以下、一部箇所に暴力的な描写が在ります。
ご了承の上お読み進めください。
又、歴史的記録として過去の政治スローガンの引用乃至模倣が使用されますが、
特にそれらを特に顕彰しようとする意図も在ません。
櫻、三月の雪
…散文。及び立原道造の詩の引用
三部作
《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ
或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948——Ⅱ
Zaraθuštra, Zartošt, Ζωροάστρης
ゾロアスター
様々な声。
音声にはならないすべてのものが発していた声が、轟音となって耳にふれた。さまざまなもの。そこに存在するありとあらゆる、そして、あるいは、私の体の上に覆いかぶさったユイ=雨の体臭をかぐ。重く、生き物じみた、はっきりと煽情的な、…声の群れ。
音響の群れ。細胞の群れ一つ一つが、それらを構成するさまざまな構成物の、それら総てが発した声に曝されて、唇が私のみぞおちにふれようとして、戸惑った。
ユイ=雨の、その、そして、私の十九歳の肌は、すでに潤によって、戯れに裸に剝かれていた。「…ね。」自分ではふれようともせずに、「見せてよ。」ささやき、にもかかわらず、声を立てて、何かを謀んだ笑いに息を乱した後は、曝された裸身を眼差しに納めようともしない。…妬いてるの。
潤が云った。…なんか、妬ける、と、「清明見てると、なんか妬ける。」
「好きなんだろ?」
わざと下卑た笑みを浮かべて云った私の声は、「…欲しくって仕方ないから」潤には無視されざるを獲ない。
「…妬けちゃうんでしょ。」
精神ノ輝キノ至純トハ無駄死ノ徒労ノ瞬間ニシカ
着衣のままの
見出サレ得ヌ
ユイ=雨の指先が、ベッドの上に横たわらせた私の胸の形態をなぜて、…これ、と。
ささやく。
…誰の?
美しい女。あきらかに、
…この体、
純粋に女に過ぎない
…ね?
潤よりも、ひとつの
…誰のなの?
生き生きとした造型として、
…お前の?
顕かに
…まじで?
見事なまでに女だった。美しい女。その、美しい女の、潤いをふくんだ、好き放題に意図も無い媚びを煽るまなざしで、彼が愛した私の肉体を見い出していた。別に、「…嫌いなんだよね。」…誰も憎んでない。と、
見おぼえのない
「俺、…中国人って。」
とほい
わたし、誰かを憎んでるわけじゃないよ。…潤が
見おぼえのない
「なんかさ、あいつら」
とほい晴夜の
振り向き様に言ったとき、すでに「穢い。」
見おぼえのない
ユイ=雨のたれ堕ちた髪の毛が私の首筋をくすぐっていた。
とほい
聴く。私は
星空の
「…知ってる?」…声。――ね?
とほい
耳元でささやかれる、「痰壺、…とか。」と、その
見おぼえのない
「…豚。」ユイ=雨のやさしい声。
晴夜の
ただ、
林檎の花のにほふ頃
「豚以下。…なんかもう、総てが」むしろ哀しいほどに繊細で、やさしい、若干だけ、
忘れられた
「下等なんだよ。」…お前、――と。
見おぼえのない
鼻にかかったアルト。
忘れられた
独り語散るように不意に、言葉を吐いて仕舞った私の、「日本人になりたいの?」声を聴いた。
とほい
ユイ=雨は、
まぼろしとなつて
「もっとやだ。」
見おぼえのない
…赦す、と、「もっと、下賤な家畜。」ただ、何の根拠もなく「…倭人なんてカス以下の蛆虫だよ」一方的に眼に映るもの総てを赦して仕舞ったような、そんな「…むしろ、くさい。」…お母さんだって。
うつし世の
そして、ユイ=雨は声を立てて笑った。その
まぼろしとなつて
恨んでない、…と。
かげは
その、ユイ=雨の鼻先にだけ彼女の笑った息が立つ。「滅びて欲しい。」…もう、
見おぼえのない
「殲滅されちゃってくれないかな?」
とほい
恨んでないんだよね。…そうささやいて、潤は、私を見ていたのだろうか?
かげは
「原爆?」
まぼろしとなつて
そのとき、窓越しの日差しの
忘れられた
「もっといっぱい、堕ちちゃえばいいのに。頭の上から。身も蓋もなく…ほら」
見おぼえのない
淡い逆光の中で、指先。
とほい
「この無様でさ」と、彼女はささやきながら、私の
立ちもとほつたかげは
「品がなくって」
その空に
唇にふれた。もう、
夏と春の
「くっそ見苦しい、さ」
交代が
何も云わなくていいよ、と、何か云い掛けたわけでも無い私をまるで
慌しくはなかつたか
「美しい日本の国土っての。それの上に」やさしく「ひそひそ声で棲息して」諭そうとでもして見せたかのように、…最初はね。
見おぼえのない
「頭の中に蛆虫飼ってる」
とほい
最初は、なんか
まぼろしとなつて
「…あわれなジャップども、老若男女みんな巻き添えにしてさ」
忘れられた
ぶっ殺してやりたかった。だって、…ささやく。
その空に
「一気に民族総完全殲滅。」潤のささやきは、…あんな、と。
夏と春の交代は慌しくなかつたか
わたしの人生、全部ぶっ壊した張本人じゃん?
嘗て
「…それ、いいね。」…けど。
あなたのほ
と。潤の声はもはや、かすかなふるえさえ曝さずに、ただ
なたのほ
「ねぇ、いつか」
たのほほゑ
もう、赦してる。…声。ただ、ひたすらに
ほゑみは僕の
「人間たちの世界、ぶっ壊してやろうよ。」
ためではなかつたあなたの
澄んだ潤の声は、…赦してる?私の耳にも
しづかな
「俺たち、俺たちの、」
夢の
ユイ=雨の耳にも、…んー…、と。声。すでに
あなたの
「全部の失敗の全部を、全部、俺たち全部に味わわせてやろうよ?」ふれていた。…違う。と、それ、ち、ちが、う。
う、ちが、がう、うち、が、それ、潤の声。あるいは、唇をなぜるゆびさきをは見詰めもせずに、私は
「…償わせる?」私をだけ見つめるユイ=雨の「…違うね。」眼差しを…違う。
「償われるものなんていないから。兎に角」
見詰めていた。潤は、赦すとか、そういうんじゃなくて、もう、ちゃんと理解しちゃった。彼女の悲しみとか、苦しみとか、そういうの。だから、…と。
「俺たちに俺たちの顔の上で、」
云った。彼女は、赦したの。…だから、…
「自分たちが馬鹿だということを知った俺たちだけに可能な馬鹿げた絶望を」
と、彼女は、
「心底味わわせてやろう。」…クスリ喰った?
私の笑ったささやきを耳元に、…勘弁して。
微笑んだままのユイ=雨は咎めもしない。「ジャンキー、一人だけで充分だよ」私に覆い被さったユイ=雨の美しい顔が隠して仕舞った向うの日差しの中に、いつも「…大丈夫。」戯れのリストカットに興じて、「まだ、コカインしかやったこと無い。」自分の腕を血に染めた潤が、茫然とした眼差しの中で、私たちに視線を投げ棄てて居ることは
あなたに
大日本ハ皇国ナリ
知っていた。
微笑を
万世一系ノ天皇上ニ在シマシ
日本語学校で働いてる、と、…は
心からの
肇国ノ皇謨ヲ紹継シテ
云え、それはたんなる
あなたに
無窮ニ君臨シ給フ
日本語教育機関では無い。送り出し会社と呼ばれる、外国から
心から
皇恩万民ニ遍ク
安価で
微笑を
聖徳八紘ニ光被ス
忠実な外国人労働者を日本
それでも
臣民亦忠孝勇武祖孫相承ケ
本土に送りこむために、丁寧に
心から
皇国ノ道義ヲ宣揚シテ
日本語教育と、若干の日本的礼儀作法と、なにより日本人にとって忠実な使いやすい人材であるための訓育をほどこすのが目的の、いわば、外国人調教施設の日本語教師であるにすぎない。…ベトナム。
本国の、英語もしゃべれず、人材不足の工場を廻して生計を立てているしかない、明日アメリカか中国で大規模な不況でも起れば、頸を吊るしかすべのないSirたちの要求は、単に、自分たちが不愉快ではない家畜に仕立て上げてくれることだけに過ぎない。業務上の創造性など必要ない。ねじを廻す腕だけがあればいい。創造性など、Sirたちに固有の高貴な特権にすぎない。そして、ベトナムではそれはもはやひとつの巨大な産業だった。
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