小説。——櫻、三月の雪…散文。及び立原道造の詩の引用 /《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ 或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948 ■17



以下、一部箇所に暴力的な描写が在ります。

ご了承の上お読み進めください。

又、歴史的記録として過去の政治スローガンの引用乃至模倣が使用されますが、

特にそれらを特に顕彰しようとする意図も在ません。





櫻、三月の雪

…散文。及び立原道造の詩の引用


三部作

《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ

或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948——Ⅱ


Zaraθuštra, Zartošt, Ζωροάστρης

ゾロアスター 



雪乃、と、その、私がとっくに忘れて仕舞っていたと想い込んでいた記憶の故に、清雪と、そんな名前が彼につけられて仕舞ったのだろうか。私の(——附けてやれよ。)不意の(お前が、…)想い付きによって。(…と。)…名前、如何するの?

そう聴いたのは私のほうだった。病院で産んだ自分の息子を、まるで、普通に生まれた普通のありふれた子供を抱くありふれた母親であるかのようにして、腕に抱いていた潤に、初めて見舞ってやった時に、…お前が、

大丈夫かな?

と。

まともな、…

附けてやれよ。

まともな子供、…

…と、そうささやきかけた私の

生まれてくるのかな?

背後に見舞いの花を誰に

…ね、なんか

…それは百合の花。

渡しもせずに腕に抱いていたユイ=雨のその

潤は云った。その

声が、私には見つめられては居なかった眼差しの先の

臨月近くなった腹をなぜて、彼女は

一人の中年の看護婦の眼差しに

好き放題に夕ぐれて行く

あからさまな違和感を与えていたのには気付いていた。

夏の、日没の

確かに

光線に真横から身を打たれながら、そこ

あまりにも女性的で、いかにも

潤の歌舞伎町の部屋にはそのとき

なまめいた姿を、いつもの

私と彼女しか居なかった。この

黒ずくめの質素な服装に、逆に

部屋の中で、ユイ=雨を抱いて、そして

際立たせていたユイ=雨の

彼女が、何かの打ち合わせにでかけて仕舞った

彼にとっては当たり前の男言葉はその時、

その後の、奇妙な虚脱感が

隠しようもなくいびつに聴こえていた。…雪。

残っていた。まともな

て、…んー…

家具もなく、ただ

しら雪

「ゆ、…そ、…」

がらん、と

こな雪

だ、…ね?

本当に、ただがらんとした空間の中に

はるの雪

「ん?」

さんざん声を立てて笑って

ひかる雪

そだね。…そ、

立ち去って言ったユイ=雨の

雪のよる

「きよゆき…」と、雪。

不在感があまりにも鮮明に

その、最初に思い浮かんだ漢字一文字を

眼差しに触れていた。空の

飾って名前らしくするための最初の

複雑な紅蓮の

もう一つの漢字一文字を探していた私は、

光線に一度まばたいて

見詰めた。潤の、まるで

不意に潤は

私に

振り向きてささやいた。茫然とした

叱られることにおびえながら、かすかに

眼差しと共にあえて

恥らっていたような、そんな

私には視線を投げもしないで…なんか

眼差しの表情に、或は、清い雪…

「…こわい。」

殺してあげるべき?

と。つぶやいた私の声に、ユイ=雨は

「クスリのせいで」

この子のために?

こともなげに笑った。

「…どうしよう」

わたしが

声を立てて。…清雪。

「めっちゃくちゃ」

自分で?

「清い…」

「もう、」

始末するの?

…ねぇ、なんか

「ぐっちゃぐちゃの」

処分してあげるの?

「雪、…ん、」

「なんか、」

生きられないなら?

まるで、お前、なんか

「生まれないほうが好かったみたいな、そんな」

生まれたときから

「てか、ね。」

「そんな子供」

壊れてたら

最初っから…

「そんなの、生まれてきたら」

殺してあげるべき?

「ヴァージン・スノウ、的な?」

「…ね?」

自分で?

さ。

茫然とするばかりの

…ね

「なんか、俺」

「こわいんだけど…」

どうしよう?

此処来る前からもう

潤の眼差しには

どうやって?

「俺なんかじゃ作れなかった、もっと」

「めっちゃくちゃ…」

頸…

考えてたみたいに云うじゃん?

おびえも、おののきも、なにも

絞めちゃえばいい?

「…新しい、さ。」

「こわい。」

落っことす?

ね?…お前、前から

感じられはしなかった。むしろ

ビルから?…それ

「新しい世界を…」

あるがままに、と

それいい。それ…多分

考えてた?ひょっとして。――マジでさ、

総てを敢えてすでに

この子

「作って欲しい、とか?」

受け入れて

鳥になれるの

お前…と、ユイ=雨の笑うのに、頑なに微笑を絶やさない看護婦は黙って優しげな相槌を、無意味に打っていた。彼への鮮明な不信感を眼差しにあざやかに、とは言え、あくまで隠し通して仕舞いながら。潤のその

私は

不意に伏せられた眼差しは、視界に

見ていた。振り向きざま、

這入らない先の

私の眼差しが捉えた一瞬の、もはや

私の存在を、あくまでも

そこには居ない潤の頬と

執拗に捉え続けていて、…雪。

眼差しが、あざやかに

その一言に、

かたちづくっていた微笑みが、残像のように

雪、…と

記憶された儘見い出された、その

想い附かれた言葉のみじかい響きに

すでに潤が飛び降りて仕舞った、だれも不在の

頭の中に一切の映像を伴わない

ルーフバルコニーの空虚な

清冽なイメージが

空の青さを。不意に

駆け巡って、…雪乃。

私が振り向き見たのは、潤が

此の世界の中で、

いきなり笑い声を立てながら、私の名前を

最も穢れた存在に違いないと、かつて

呼んだからだった。自殺?

私がそう確信していた

そうではなかったはずだった。その

女。…彼女、

眼差しに、如何なる

私を生み落とした女。想い出す。清雪が

自死の決意も

いつか言った、生まれる前の記憶と言うものが

兆されては居なかったのだから。ただ

事実だったとするならば、あの

これみよがしなほどに明るく

雪乃も、あるいは

寧ろすがすがしい、褐色の

私も、同じ光の束なりとして、全く

よく笑う女の、邪気も無い

同じく

ありふれた笑顔。たとえ

存在していたのだろうか?全くの

それがクスリの、あるいは

差異をもたずに。ただ

精神疾患の影響だったにしても

同じものとして。想い出す。雪乃の吐いた

潤はよく笑った。いつでも、そして

息。

階下から悲鳴の群れが

口臭、その

…人々

それ。

不意に十二階の高みから

匂い。十歳の私を、誰かをののしりながら、

路面にたたきつけられた女らしき人間の

父親。それは父親だったに違いない。

肉体らしき物体の、その

抱き締める、まるで

残骸を遠巻きに囲んで、騒ぎたって居るはずの

その腕にある者の破壊をこそ

その

望んで居るかのような渾身の

それらの声が聞こえてはこないことを訝った。かならずしも

力で。…意図もなく

それを

吐きかけられ、まぶたにじかに

確認しようとしたのではなかった。ただ

ふれる、その

外気に触れたかっただけだった。十九歳の

匂いを伴った、彼女の

私は、そして、耳は

…痛い、と。

望んでも居なかった地上の

泣き叫べば彼女は私を

喧騒のざわめきを遠く

その暑苦しい、体温を発散させた

風に舞い上げられるままに

腕から、私を

聴いていた。

解き放ったのだろうか?想い出す。その時、光がまぶたに触れた。

一瞬だけ、嬲るように。

不意に、のけぞった私の眼差しがベッドの上から、窓際に立って、ルーフバルコニーの先の何かを、…あるいは空を?見ていたのかもしれない彼女の後姿を、…声。

沈黙する、と、言うわけでもなく潤は、ただ、言葉を何も発さないままに、聴こえていた。私には、様々な





5.捉えられた光のために深いあの言葉、いまそれは



声。

音声にはならないすべてのものが発していた声が、轟音となって耳にふれた。さまざまなもの。そこに存在するありとあらゆる、そして、あるいは、私の体の上に覆いかぶさったユイ=雨の体臭をかぐ。重く、生き物じみた、はっきりと煽情的な、…声の群れ。

音響の群れ。細胞の群れ一つ一つが、それらを構成するさまざまな構成物の、それら総てが発した声に曝されて、唇が私のみぞおちにふれようとして、戸惑った。






Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

0コメント

  • 1000 / 1000