小説。——櫻、三月の雪…散文。及び立原道造の詩の引用 /《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ 或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948 ■11
以下、一部箇所に暴力的な描写が在ります。
ご了承の上お読み進めください。
又、歴史的記録として過去の政治スローガンの引用乃至模倣が使用されますが、
それらを特に顕彰しようとする意図は在りません。
櫻、三月の雪
…散文。及び立原道造の詩の引用
三部作
《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ
或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948——Ⅱ
Zaraθuštra, Zartošt, Ζωροάστρης
ゾロアスター
歌舞伎町のホスト街、ホスト店舗に雇われて、私は忘れた頃に荒稼ぎをして、あとは惰性のままに無断で店を欠勤する。電話もメールも何も出ず、数週間か、一ヶ月か、二ヶ月近くか。とは言え、結局は、店も女も私が彼ら、彼女らの処へ戻ってやれば受け入れて仕舞うしかない。一度だけ見せしめに、オーナーホストの純哉に拳で殴られた。店の中、営業中に、一ヶ月近い無断欠勤開けに、不意に顔を出したときに。溢れ返った客の前で。午前二時。気まぐれに出勤してきた私の頬を、近寄りざまの純哉の拳が殴りつけて、騒然とする女たちのと、男たちの怒号じみた嬌声の中で、まともに人を殴ったこともない純哉の拳に出来ることは、唇の内側に切り傷をつけることしかない。…味。
滲んだ血の味。…何やってたんだよ、と。「お前、何やってんだんだよ。」そう云う「んー…」純哉に、…お前嘗めてんの?あらかじめ「…なんだろ?」用意してでもいたかのように「…自分探し?」そう云ったとき、「…かな?」傍らに添うていた夏輝という名のホストは、微笑んだ私から眼差しをそらしもしない儘に笑った。
まるで此の世界がいま終って仕舞うような、そんなしかめっ面さえ曝して夏輝はいきなり私に、ただ、しがみつくように腕をからめて、…まじだ。
云って笑う。…もう、さ。
俺ってさ…
「壊れてるんだよ。」と、私がユイ=雨に云ったとき、
雨が降っていた。その日
潤の生理が止まっていたことは
…と、ユイ=雨が
朝から。しずかな、冬の前の雨が。そして
知っていた。私の子供なのかもしれなかったし、誰か
云った。無様な、潤の
潤はバスルームにこもりっきりで、もう
他の、店の中での事故によって
号泣と怒号の音声の向うに、それでも
二時間近くもすすり泣き、時に
生まれた子供なのかも知れなかった。そんなことは
かすかに聞え続ける、しめやかな、…
泣き叫び、さんざん滂沱の涙を
潤にはわからず、そして、そのとき、
と。そう、云ってやらざるを獲ない、そんな
流し、号泣し続け、怒号を
彼女は
雨。その音を
発し、…雨。ユイ=雨は
自分の妊娠を私に告げていたわけでもなかった。あるいは、
フローリングの真ん中に
私の電話を受けて部屋の中に這入って来た瞬間に
自分が妊娠していた事実さえ、
胡坐をかいた私の背中に持たれ、私に
…ひどいね
気付いては居なかったのかも知れなかった。必ずしも、
覆い被さるようにして、…ね。
彼が部屋に
覚醒剤のせいとは言獲ない。いくら
「生まれ変わっても、俺、」
這入って来る前から、廊下に
常用していたとしても、あんなにまで
「むしろ、このまんまがいい。もう、」
響いていた、潤の声に
壊れて仕舞うものだとは
「なんか、別に」
あるいは
想獲ない。
「男の体になる、とかさ。…」
もはや
あるいは、
「なんか、それ、違う気がする。俺、」
一瞬失笑さえ漏らして仕舞いながら
個人差が幾らでも或るべきその薬物の作用、もしくは
「…ね?」
…ね
副作用の、その
「このまんまがいい。自分のこと」
つぶやく
純粋な形成物だったのかもしれない。不意に、
「別に、好きなわけじゃないけど、」
…ひどいね
あー…と。
「この儘でいたい。」
大口を開けて、そして、両眼を見開いたまま失心して仕舞う潤は。双眸に何か異なる世界の息吹きが、空っぽのままで兆し、余りにも明確で、容赦なく明晰に、そして潤はそこには居なくなる。…店の中でも、と。
或は、自分の眼を抉り出そうとして仕舞う潤は、…時々やってるの。
或は、ルーフバルコニーの床のざらついたタイルに、必死になって自分の両手をたたきつけて、…そういうの、好きそうな、と。
そういうの、好きそうな変なやつ来たときだけ。
或は、話している最中に、突然の低い、男声の叫びをあげる潤は、…すっごいよ。
…なんか、
「…ね?」
わかんないけど。…と、彼女はささやく。
悪戯じみた、邪気もない顔を曝して、或は、自分の舌を、鏡を見詰めながら、口蓋に押し込んだ両手の雑多で理不尽な指に無理やり掴みとって、唾を吐きながら(――まるで)引っこ抜こうとする(唾液自体が)潤は、(汚染された物質で)顕かに、…「壊れてる。」
…もう、
「…終わりだね」と。不意に(今すぐ吐き出さなければ生きてはいけないのだと、そんな真実に追い詰められたかのように。)言葉を失って仕舞った私の、云うべきだったその短い…終わりだよ。一言を、ユイ=雨が私に気づかう、はかないやさしさの眼差しをくれながら投げた瞬間に、我に…終わり。還った、私は眼の前のユイ=雨を…終ってるんだよ。憎悪した。
彼を破壊し、辱め、ぼろぼろにして、崩壊させ、彼の肉体も、あるいはそれ以上に魂を、…もしくは
土砂降りの穢れた酸性の泥の雨の中で
精神をこそ、
お前の
汚物とキャビアの区別も附かないくらいに
■ツの穴でも洗え
壊滅させて、
泣き叫ぶ声に引き裂かれた咽喉を血に
血。
染めながら
私はただ、ユイ=雨の、やさしい眼差しに無言で謝しながら答える、哀しげな眼差しを彼に送って微笑んだ。
…血、…おびただしい、…それ。
血
私の真っ黒な
「…哀しい?」
溢れかえる血を、ユイ=雨の不意に
舌が、すでにユイ=雨の
…と。
開かれた口が垂れ流して、その
むき出しの内臓を引き裂いて
ユイ=雨がそう言ったとき
でたらめなたんぱく質の合成物。押し開かれた
その内部に侵入して、もう
私は
唇が裂けて、肛■にまで到達すると
すでに
いまはじめて眼の前に彼がいた、と。
内臓と、鮮血が私の目の前で
完全に溶けあってひとつになった
そんな錯覚に戸惑う。私は、
眼差しの中にあざやかな色彩の
肉体の残骸。息づかい
…ん?
散乱を
脈打つ
「哀しい?」
捧げる
生き生きとしたその
…んー…
あくまでも、
「…かも、ね。」そう言うしか、すべを知らない。ふと、意図も無いままに振り向き見れば、その
あ…
夢
潤の部屋の
と、想わず声を立てて仕舞いそうな
見い出される彼
ルーフバルコニーに開かれた窓の
そんな気配が私の眼差しの
鳥たちについばまれるその
向うに、夕暮れの罹った紅蓮の、
その先には
声が聞こえた
と
在った。彼女、褐色の
いまだに死に絶えない
そう云うしかないあざやかな、むしろ
肌を曝した女、早朝、私たちの
むしろ
極彩色の色彩が
寝室に、シャワーを浴びた後で這入って来たときに
この期に及んで目覚め続け
知って居る。私の
私たちのベッドの上、その
息づかうままの
背後で、
垂らされた
細胞の群れが
身を預けたユイ=雨ばかりでなく
蚊帳の淡く、軽い白い色彩の向うに
食いちぎられながら発した
私自身すらも、その
身を横たえて眠る彼女、つまりは
声
色彩、あまりに
素肌を曝した妻の、身をくねらせて
ささやかな、ちいさな
複雑な空の大きな色彩に
背を向けた
かすかな
染め上げられているに違いない。私の
その
声の群れが、耳を澄ませば
美しく翳りを含んだ、と
華奢でやわらかい曲線に、不意に
重なり合って、あるいは
時にだれかがそう言った眼差しも、
私は何度も自分が抱き
好き放題に
薄く裂かれた口、あるいは唇も
望まれ
轟音となって居るのかもしれない
流れた顎も、なにもかも
求められるままに
私が、ただ
生暖かい温度を孕んだ日差しがふれていた
愛してやった形態に
耳を済ませさえすれば
総ては。
錯覚。
私には
瞬く。
私は、彼女、ユエン。と、…いうその女、レ、ティ、ミー、ユエン、…Lê Thị Mỹ Duyênベトナム人の彼女のその姿を、今、生まれて初めて見い出す、そんな錯覚に捉われて、不意に、唇に例えば…あ。
と、…そうした短い音声を口走ってしまいそうになって、確かに。なんども彼女を見て来たには違いなくとも、いま、ここで、此の瞬間に彼女を見い出すのは確かに、初めてではあるに違いない。私は自分が、私の母親と同じような、あるいは全く違う、いずれにしても狂気と、そう…分裂症。分類されるべき…統合失調症。症状に犯されはじめて仕舞った…軽度の鬱併発?兆しをさえ感じ、ひとり…ころころと名前の変るその診断名。おののきながらも、自分のその在り獲ないおののきを嘲笑っていた。
私の精神は、健康だった。
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