小説。——櫻、三月の雪…散文。及び立原道造の詩の引用 /《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ 或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948 ■7



以下、一部箇所に暴力的な描写が在ります。

ご了承の上お読み進めください。

又、歴史的記録として過去の政治スローガンの引用乃至模倣が使用されますが、

それらを特に顕彰しようとする意図は在りません。





櫻、三月の雪

…散文。及び立原道造の詩の引用


三部作

《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ

或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948——Ⅱ


Zaraθuštra, Zartošt, Ζωροάστρης

ゾロアスター 



…どうしてですか?

不意に、ハオが云ったので、「なに?」

「どうして、結婚しないの?」

その、唐突な、不意の所謂タメ口に、

どすぃてけこんすぃなぃ?

私は声を立てて笑った。その笑い声に、ハオは不意に自分に対する嘲笑を感じ取ったに違いなかった。総てを

「…だって、でも、」

性急に打ち消そうとして、ともあれ

「すごくハンサム。…仕事もいい。」

結局は自分がそもそもなにを

「ですから、…性格。」

打ち消そうとしたのか、それさえ曖昧な儘に

「やさしいです。…どうして?」

ただ、唇に吐かれる自分の言葉にだけ焦燥し、いずれにしても

「わからないよ。…どうして、」

ハオは、私を覗き込むように見つめ返して

「結婚しないね?」

ハオが笑っていた。私の眼差しの中で。その(―男。)声を、私は(血まみれの男。)自由に耳にふれさせながら、サイゴン、(無様な、あまりにも奇形化した)中心部のヴィンコム・センターの(捻じ曲がった頭部を)カフェの店内。(肛門から)英語と、中国語、(のた打ち回るように)フランス語、(引きずり出して)ポルトガル語。(その)ベトナム語と、あるいは、(巨大な膨張した眼球を)そして日本語を話して居るのは(脈動させる。それ)私たちと、遠い蓮向かいの、(…ハオ。ドー・ティ・ハオ。)スーツ姿の日本人二人しか居ない。

彼らと、すれ違い様に、耳にふれたのは、彼等の何気なく吐いた日本語。あからさまで、為すすべもなく鮮明な、取り返しのつかない日本語以外のものではないの日本語の音。

こんにちは

あまりにも特殊な音声発声。韓国語が

ベトナム

それに近いが、あそこまでべたつかない。取り付く島も無い、

今日の天気は

性急な、(――見ていた。)乾いた

晴れ。時々

小刻みな(私は)

ナパーム弾の雨

音響の(醒めた眼差しの中で)群れ。ハオには、その

焼死にお気をつけください

時、まだ、私が(…男。)彼の会社の経理の、ユエンという名の女と、結婚の(樹木に突き刺さった血まみれの、)約束をして仕舞ったことなど、言っては(その)居なかった。

男。

いま

もっと

血まみれの彼、(その男。)彼は

世界中で立てられた

残酷な風景を

そして(歎くような

何らかの

くれ

眼差しを曝していたのかもしれない。とは言え、)直射する

夢の中で立てられた

もっと過酷な

日差しの下に(もはや)

叫び声のその

風景を

無造作に(その痕跡など何処にも無い。総べては)その

総和は

俺に見せてくれ

血まみれの肉体を曝して(羽撃いた)

喩えば

いま此処に

聴いていた。(鳥たちの嘴が)私は

何デシベルなのだろう?

存在することを

鳴り響く(かすかにだけ、嘴の先を)

それは

詰りたくなるような

彼の周囲を埋め尽した(彼の血に染めながら)

喩えば

堪え難く

鳥たちの(もう)羽音の

地球が

咬んだ奥歯が

連なり。響き渡り(抉り取って

砕け散るときの轟音と比べて

へし折れて

仕舞ったから。それは)啼き騒ぐ

どれだけ

粉々に

それ等(ひとつの

微弱なのだろう…

砕け散っても

羽撃きの音響。もはや

と私は

まだ

窃盗だったのだろうか?いずれにせよ)轟音に他ならない

時に、うららかな

顎は歯茎を

それらは(鳥たちの周囲の空間に、)ただ、私の耳にふれていて、…こんにちは。

雨の日ざしの中で

咬み続けることを

と。

ユイ=雨が女だということは、彼に(――こんにちは。)告白されるまでもなかった。十九歳で、(…はじめまして。)歌舞伎町でそれなりに(こんにちは。)名の知られたホストだった私に、彼を(よろしくお願いします。)紹介したのは《冴木愛》と言う源氏名の、風俗嬢だった。私の(…こんにちは。)客だった。私が、いずれ(わたしは、)独立する気でいるのを誰かから聴きつけた彼女は、…ね。

あら

こんにちは、と。ユイ=雨が

「自分で、店。…開く、…んだ。」…と。それら、

こんにちは

不意に

無意味に息を継がれる言葉の群れを

ハンサムさん

《パリジェンヌ》の、私の座ったテーブルの前に来て

私は聴く。意味もなく眼を細め、眼の前に

ご機嫌いかが?

そう云ったときに、私は、初めて逢ったその

愛おしく親しい何かが、いま

わたしは元気です

彼が女性である事を、認識する前には

隠しようもなく

発情していますか?

すでに知っていた。その

存在しているかのように。

あなたは

眼差しの中に。彼は

私は声を立てて笑った。その

わたしに

事実二十代前半の女性だったから。そして

笑い声は上目遣いに私を

我慢できないくらいに

その表情に、顕かに

見あげていた《愛》を若干、ほんの

発情していますか?

彼には私と同じ男性の

若干だけ戸惑わせたに違いない。…ね。

おかげさまで

女性的では在り獲ない気配のようなもの

「協力してよ。」

わたくしはもう

例えば

「…お金?」

立っている事さえできないくらいで御座います

子供を腕に抱いて母乳を与えたりはしない

「パキスタンの国家予算三年分くらい、俺に融資しない?」

もし

そんな性別的種族の

「…なぜ、パキスタン?」

あなたの■器に

強烈な兆しがあって、…あ

…て、云うか。まじ

堪えられない暴発の兆候が発生なさいましたら

と。その

「それは無理だ」笑う。《愛》は

いつでも

私の唇が声を発しそうになった瞬間に

不意に

お気軽に

「…ユイ、」

声を立てて笑って、そして

ご相談くださいませ

ささやく。謂わば、あくまでも女装姿の、美しい女の彼は

ややあって、もう一度

当方、いつでも

「オウ、ユイ、シュエン。…」

私を見つめ直しながら

交尾に応じさせていただくご準備の方は

「…中国から来ました。」

「出来る限りのことはする。」云った。《愛》から紹介されたユイ=雨を初めて抱いたのも、その日だった。風鈴会館の一階の、《パリジェンヌ》という、私の行きつけだった喫茶店で出逢ったその日に、女物の清楚な黒ずくめの格好をした建築デザイナーの卵は、当たり障りのない話に時間を費やすうちに、すでに、お互いに自分たちが、謂わば結ばれなければならないことを、何の兆しもなく認識していた。感覚として、そうなる以外に帰結は在り獲なかった。…どうして、

死ネ

一億総玉砕

…と。

何ノ為ニデモナク、只

全自決

私は

只滅ビンガ為ニノミ

民族的固有ノ高貴ナル最高的品格ノ

ささやきかけて、その、

殲滅サレヨ

正午に近い午後の日差し。

…太古



嘗て、日輪こそは



造化の神でこそあった

でも…

「…なに?」

風鈴会館の一階は、傾斜のために

ん?

…ね

途中から半地下になり、やがては

不思議

「どうしたんですか?」

地下になる。登記上

なに?

なに?…

どうなって居るのかは知らない。いずれにしても、

だって、…

微笑む。ユイ=雨は

脚。

ね?

不意に曝した私の

区役所通り沿いの、

なんか、初めて逢った気、しない

唐突な沈黙と、意味がわからない

窓際に座った私たちの頭の少し上を人々は

ぜっ

不可解な沈黙に

時々…ほんの

ん、…っぜん

短い、その

ほんの時々だけ

ね、…どう?

間だけ、まるで眼の前の私を

歩いていく。昼間の歌舞伎町

これってさ

懐かしく想い出そうとしているかのような

風鈴会館の回りなど

運命的な?

眼差しのうちに見留めながら

だれも歩こうとはしない。まるで

ないって

ただ、微笑んで

明るい廃墟のような、ほぼ無人の

そ?

見詰め

都市。

かもよ

不意に

「どうしたの?」

…違う?

「…男の子?」云った私に、ユイ=雨はただ、やさしいだけの微笑をくれた。…そう。

夢を見る

雨あがりの

…んー…と。その

時に

しづかな

すこしだけ長く伸ばされた

浅い眠りにも

雨あがりの

ん、の、それ。その

深い眠りに

風が

音響に私は不意に、何故か

埋没するときにも

しづかな

悪戯じみた、敢えて、まるで

いずれにしても、その

雨あがりの

何かを謀んでいたかのような

男。荒野の

そよいでゐた

微笑み。私の唐突な

樹木にぶら下がった彼の

しづかな

意図も無い微笑を、彼は

その

雨あがりの

或は

でたらめな身体、それ

風が

彼女は、しずかに、何の

生物の尊厳さえ

しづかな

表情さえもなく見詰めて、

蹂躙するような、不愉快な

そよゐでいた

そして、ややあってただ、やさしいだけの

形態の

あのとき

繊細な、

残骸。…鳥たち。

雨あがりの

巧妙に親しみだけを兆した

肉をついばむ、彼らの

風が

微笑を、その

彼女たちの?

しづかな

頬にだけ浮かべた。女物の

或は、そして

あのとき

長袖のタートルネック、デニムの

いずれにしても、それら

そよいでゐた

パンツ、そして、長く

嘴のかすかなふるえを、僕は

風が

流された、胸元に落ちる髪の毛、それは

見ていたのだった

雨あがりの

見事なまでに黒い。…光沢。華奢な、か弱い女性を絵に描いたような、細くやわらかい身体の造型。取り付く島も無い、綺麗、と。ただその漢字を二字、パソコンのフォントで血も涙もなく打ったような、そんな、…と。毛筆でも、手書文字でもない冷静沈着にして精巧で、緻密で或る意味冷酷な。確かに、ユイ、シュエン、と、…シュエン、ユイ、オウ。オウ、ユイ、シュエン、…と、言う名の彼女は美しい。美しいとだけ、断言してやらなければならない女性の身体を、彼女は其処にひとりで曝していた。






Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

0コメント

  • 1000 / 1000