小説。——櫻、三月の雪…散文。及び立原道造の詩の引用 /《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ 或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948 ■5
以下、一部箇所に暴力的な描写が在ります。
ご了承の上お読み進めください。
又、歴史的記録として過去の政治スローガンの引用乃至模倣が使用されますが、
それらを特に顕彰しようとする意図は在りません。
櫻、三月の雪
…散文。及び立原道造の詩の引用
三部作
《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ
或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948——Ⅱ
Zaraθuštra, Zartošt, Ζωροάστρης
ゾロアスター
自分で私を呼び出しておきながら、散々無造作で意図のない時間を散乱させた後で、そして、綾子は散乱した時間そのものにみずから飽き果てた瞬間に云った、…彼女、いるの?
その自分の一言が不意に彼女の眼差しを色づかせるのを私は見た。
見詰めるだろう
…なんで?
いつまでも
「いないよね。…ね。」
わたしは、あなたを
…なんで、そんなの聴くの?
たとえ夢の
「…じゃない?」
浅い、あまりにも
欲しいの?…ね。
浅い
「どうしてるの?」
夢の中でさえも
あんたも、…さ。
わたしはずっと
「自分で、■てるの?」
見詰め続けるに違いない
…欲しいの?…ね、
なぜなら、目は
「…て、云うか。」
そのためだけに生まれたことを
発情してる?…俺に。
わたしがすでに
「していいよ。」と、そう
知っていたから
ひざまづいて僕に僕の家畜にしてくださいとお願いしさえすれば君は
云った綾子は、…わたし、さ。
赦すだろう
君のまさに望んだ喜びを留保なく
不意に
あなたは
獲ることができる。俺に
その眼を伏せて、まるで
見詰められ続ける
愛されては居ないことの事実の苦痛と
みずから捧げられた何かの犠牲者のように
かすかなおびえの中で
屈辱に苛まれながら、…と
…ね?
わたしに
春の日に見あげた陽光、その
綾子は
ただ見詰められて
原始的な太陽は耳打ちする
「そういうところ、見たくないからさ。」云って、自分勝手な羞じらいを彼女の眼差しに一瞬だけ見せた。綾子が私の同意を獲るまでもなく、彼女自身の決意を自分自身で確信しながら、私を見つめる眼差しが不意に
きみも、と
ゆさぶれ
接近して、彼女の顔の
経験したのだろうか、もう
青い
正確な
あるいは、そんな
梢を
形態を、接近しすぎたあまりに近い
女たちからの強姦、あるいは
もぎとれ
距離の中に
わたしたちの家畜にすぎない隷属にむしろ
青い
認識不能にして仕舞った瞬間に、それ
喜んで
木の実を
押し付けられた唇。その
身を投じた、彼女たちの
何もみな、うっとりと
湿気と温度と
赤裸々な暴力、その
今は
直接的な生暖かい水分に感じた私の
なにかに、きみも
何もみな
彼女への軽蔑。ふれた。その
…と。
ゆさぶれ
彼女の指先は
私が清雪に一瞬感じた感覚を、その時
青い
曝された私の裸の胸の肌にふれたその
清雪はいかにしても
何もみな
一瞬に(——生々しいもの。)
共有など
うっとりと
彼女は(ひたすらに、)自分の体臭さえ発散した気がした。
しなかったに違いない、なぜなら
何もみな
あまりにも赤裸々な(生々しいもの。)
私は清雪などでは無いから。彼もまた
今は
交尾に向う(…生き物たちの肌。それは)人間たちの惨めで
ふれ合いようもない、その
身も蓋も無い発熱。私がただ、仰向けに横たわって何の協力も曝さないせいで、梃子摺るだけ梃子摺った素肌をもう一度視界に納めて、そして綾子は体の上に馬乗りになったままに、あわてて自分の衣服を脱ぎ捨てるのだが、それ。投げ棄てられたTシャツは床の、フローリングの上に音もなく撥ねる。いや、と。その瞬間に私は
いろいろなものが
私は
想っていた、そうではなくて、と、
やさしく私に見入るので
憤ることが
…聴き取れない。
唇を噛んで
出来ないようだ
ただ、ヒトの劣悪な耳がその轟音を聴き取れないだけに過ぎない。…それ。
私は
いろいろなものが
私は見つめた。それ。
憤る事が
やさしく
その
出来ないようだ
見入るので、唇を
鳥たちの
いろいろなものが
噛んで
羽撃き。その
やさしく
音響を聴く。群がる無際限な痛みの塊が
空間に残る
ついばまれる嘴の
鳥たち、その羽撃きの
その先から
残像
絶叫となって木魂して居るのを空間は認識しようともしはしないのだ。
迸れ
それは眞夜中であつた。庭の
…と、
魂よ。わたしの
坂塀に沿うて立つてゐる菩提樹のかげから
そして
自由な
ちやうど月が
私は
魂よ
のぼり果樹の尖を透して家の
裏庭を
いつか僕は
てらした。
見上げる。その
貴方に捧げるだろう。この
太陽の日差し、詰りは
世界の心臓を抉り取って
此処が熱帯に他ならないのだと
色彩を獲たその
そう私に
薔薇の花々の
容赦なく告げるそれ、或は
散った後のその
…灼熱の?
名残りをだけ
サイゴンの太陽の、
貴方に
光。私は、と。額を
誰よりも凄惨な風景を見詰める者は、であるならば彼は常に
いつか濡らしていた汗を
——無慈悲なまでに?
拭いもせずに不意に
美しくなければならない。何ものよりも
振り返って其処に
花々よりも
既に
星々よりも
最早見い出されていた此の
ひかりそのものよりも。なぜなら
熱帯の町、
神国ハ只
ホー・チ・ミン市、かつて
美シク滅ビル為ニノミ
サイゴンと
生マレタリ
呼ばれた都市、あまりにも雑然として、収拾の附かない廃墟のような、のさばった人間たちが好き放題にバイクを駆る轟音の風景を見回す。雑音だらけの喧騒の廃墟、…閑散とした、生き物の気配さえ失せた空虚な風景なのではなくて、生き生きと、自分勝手で本質的に独善的な、いたわりに満ちた生き物たちの無数のおびただしい集合が息遣い、騒音を立てる、そんな。なにか、自分が人間であることの屈辱にさえ塗れさせて、むごたらしくただ見つめさせる風景。私がこのベトナムの都市に辿り居たのは四年前だった。
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