小説。——櫻、三月の雪…散文。及び立原道造の詩の引用 /《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ 或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948 ■2



以下、一部箇所に暴力的な描写が在ります。

ご了承の上お読み進めください。

又、歴史的記録として過去の政治スローガンの引用乃至模倣が使用されますが、

それらを特に顕彰しようとする意図は在りません。





櫻、三月の雪

…散文。及び立原道造の詩の引用


三部作

《‘In A Landscape’ ...John Cage,1948》Ⅱ

或る風景の中で。ジョン・ケージ、1948——Ⅱ


Zaraθuštra, Zartošt, Ζωροάστρης

ゾロアスター 


そっと

…聞いてた

日差し。

やさしく

君が

想い出す。窓越しの、正午の

羽撃かれた翼のその舞い上がった

泣き叫ぶ声。…聞いてた

日差しは

羽根に

僕は。そして君が

その時に顕かに

ふれる時

彼女の反面に直射して、残りの半分を音もなく翳らせていたのだった。泣き伏したくなるくらいにやさしく、ことも無げに。私は十九歳だった。90年代の初頭、とっくに滅びて仕舞った時間の中の、滅びた空間の、滅びた、そして私は其処に

ここに

僕の花びらを

居る。

ぼくは

咬み千切らないで下さい

潤。三歳年上の女。何処をどう見ても

いたよ

南国系のアジア人種に他ならない褐色の堀の深い顔を曝して、さらにはまるで欧米に移民したアジア人種の末裔たちのように、如何にもな南島風メイクをみずから顔に施して、痩せ身の癖に、意図的に作ったような豊満な曲線を無防備に曝したその素肌の体の局所のふくらみと陥没は彼女の身体の形態の本質的な不埒さを時に暴く。あざやかに。体は、譬え彼女がジャック・デリダに読みふけっていたとしても単なるあばずれにしか見えない視野をしか提供しない。顕かに。不遜な迄に。彼女の眼差しの向うに私は顕かに居て、そして

僕を殺してください。むしろ

笑う。私は

僕は処罰されなければならなかった

知っていた。私に焦がれて、仮に今此の瞬間その髪の毛を引っつかんで、潤の此の部屋の中の白いクロスが貼られた壁に、彼女の顔面を殴りつけてその鼻骨と前歯をへし折ってやったとしても、

もう、…

見て

彼女は

…なにも言わないで

今、空が

鼻血と、涙を垂れ流しながら私に

もう…

燃え上がる

愛をさゝやくしかない。私は

仮に、それが

…■なの?

美しい。

私に対する身も蓋もない

あんた、てか

すくなくとも、彼女にとっては。

罵倒の言葉であったとしても。いずれにしても

■でしょ?

あるいは、無数に散乱する

それは語る。愛を、私への

■んで。お願い

女たちの大半にとっては。つまりは

忠誠を語る言葉、愛の

■んで、まじで

私は美しい。たとえ

言葉にすぎない。なぜなら私は

くそまみれの■んこやろうのかすのご■のぶた

私にとってそれが真実とはみなされていなかったにしても、

美しい。私を愛したその

泉の

彼女の

の上にち

眼差しの中で、もはや

にちひさい浪

なんらの容赦さえもなく

泉の上にちひさい浪らは…外に

光が充ち溢れてゐるがふるへて

やまない…僕たちのそれにもま

してかがやいている手にと

らへ

られた光

めに

…穢いもの。

留保もなく

「…なに?」

悲しみはまるで

ゆがんだ、あまりにも生物的な妥当性を欠く

穢いものとしてのみ、それら

「なんなん?」

僕の指先に転がる

直線の出来損ないと曲線に

あまりにも個性的な、私たち

「どした?…」

きみの流した涙のように

成りかけた出来損ないの

人間たちの、その

「…ね。」

いつか

造形物。たんぱく質の

身体の形式は

「なに、…」と、

なにも

なにもかもが

潤は自分の戸惑いに戯れるように、様々な

なにも

なにもかもが

表情を

壊れはしない

決して

眼差しに同時に曝して、羅列することなく

なにも

穢れるすべさえも無いほどにすでに

混濁させる。私たちは

なにも

穢れて居るなら此処に造化されたこの世界は

戯れる。或は、

すでにもう壊れきっているのだから

あまりにも無垢だった

彼女は幸せなのだった。単なる気まぐれな瞬間に過ぎなかったにしても、私に相手をして貰う恩寵の時間が不意に自分の身にふれた恩寵の、そんな恩寵。

彼女は私に愛されているに違いない事実を確認できる。プライドを死守しながら既に、自尊心など欠片さえ残っては居ない。私はそして

…いま

縋りながら、身を引き剥がす。或は、身を引き剥がそうとするその

終には自分が声を立てて

君のために、空に

仕草の総てで、私に必死に

笑って仕舞った事には

火を放とう

縋りつく

気付いていた。潤は素肌を曝したままで、窓際に立ち尽くしていた。潤が借りていた部屋の中だった。歌舞伎町。区役所通りのすぐ近くの、やくざと外国人と、水商売の人間と、あるいは風俗の人間と、いずれにしてその町に居住するしかない人間たちしか住んでいない、大規模なマンション。隣の部屋にはパキスタン人の女が三人で棲み着いていた。何故だったのだろう?すれ違い様にいつもくれた余りにも人のよい家畜のような笑顔。その町の、まともに仕事をしないホストだった私には、いずれにしてもお似合いの住環境だった。

むしろ、自分の部屋以外のものではない錯覚さえその部屋に初めて入った瞬間に感じて仕舞って、その、最上階一個下の、あまりにも無駄であまりにも広大な植栽附きのルーフバルコニーを曝した部屋。広い三面の窓からどこもかしこも、

或る世界がそこに存立して居る以上その世界においては自らの

差し込む

存立をは

陽光に

否定することが出来ない

溢れかえっていた

大日本ハ神国也

殲滅ヲ。唾棄スベキ

其処。知って居る。

万世一系タル神皇ニ

憐レニシテ下等ナル

私は、

祝福サレリ

其レ等、世界中ノ

彼女が窓の向こうを見れば、潤の眼差しはいともた易くこの町のほぼ全景を見渡せて仕舞えるに違い無いのだった。フィリピン人種にして日本生まれの、日本しか知らない無国籍にして、無戸籍の風俗嬢。潤は、仮に、彼女がそんな風景など見い出したと想っては居なかったにしても眼差しは窓の向うにその風景を見い出す。背の低い雑居ビルが乱立し、眼にふれるもの総てが穢く廃墟じみて、夜には煌く。極彩色に。褐色の肌を曝す潤に、むしろ相応しく見えたほどに、午前の深い時間、日当たりは、とてもいい。

斜めに侵入する日差しを

死ネ

殲滅ヲ与ヘヨ。彼等

遮るものなど

辱ヲ晒ス前ニ、潔ク

憐レム可キ豚家畜ノ徒ノ群レ如キ

基本的に存在しないから、そして

滅ビヨ。斯クモ神聖ナル

同情サエ値セズ

灼く。

皇国ノ眞ノ日本人等ヨ

此の角部屋の三面の壁に容赦なく開かれた窓から、遁れようもなく入りこむ日差しの赤裸々な直射に、潤は身を護るすべもなく灼かれ続けなければならない。音もなく、灼かれる実感さえも無く、みずからは、なによりその肌の褐色の色彩自体を嫌悪していながらも。

異分子として、冷酷で無防備で防ぐべき何等のすべすらもなく且つ悪気の無い哄笑と同情と排除と時には融和に塗れる子供時代の記憶の顕かな根拠。肌のあざやかな、光の色彩に染まった褐色の、綺麗な色調は耳元につぶやき続ける。お前は、

神国ハ永遠ニ高貴ニシテ

ほら

…と。

其ノ神聖ハ固有也。家畜乃至卑賤ノ下等民等

微笑んで御覧

ここで生きる

是レヲ

見せて。きみの

価値さえもない。

辱メル不能

或は、潤はむしろ諦めて微笑みながら、自分との行為が終わったばかりのベッドに、同じように素肌を曝して横たわっていた私を見

きみは

輝き

つめて、…ね、

此の世界の

煌いて

と、白い

辱められる

肌。

私の、漂白されたように真っ白い、その、潤の眼差しが捉えていた筈の色彩。彼女が眼差しに、それを意識していたかどうかは兎も角として。そして不意に立てられた笑い声の狭間に「…ね。」声をわななかせながら想い附きの儘につぶやく声は、潤の耳にふれていた。






Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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